どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

刑事マルティン・ベック「笑う警官」…シリーズ最高傑作の呼び声高い第4作目

警察小説の金字塔と呼ばれるマルティン・ベックシリーズの中でエドガー賞を受賞しており、最高傑作の呼び声が高い第4作目。

新訳シリーズとして刊行された角川文庫は1作目「ロセアンナ」からではなく、この4作目から出版していることからしても、1番人気の作品であることが伺えますが、個人的には1から順番に読んでいってよかったと思う次第。

群像劇要素の強いこのシリーズ、個々のキャラクターを掴んでこその面白さがあって、特に本作は〝1〟で登場した警察官がキーパーソンなっていることもあり、順番に読まないと感じられない人間ドラマがあると思いました。

(そういう自分も〝7〟の映画化作品からこのシリーズに入ったので、真っ当な順路で進んではいないのですが…)

 

◇◇◇

ベトナム戦争反対の世論が強まるスウェーデン。反米デモの夜、ストックホルムの夜バスで8人が銃殺された。

大量殺人事件に世間は凍りつくが、8人の乗客の中にはベックの後輩である刑事が乗り合わせていた。

狂った無差別犯による凶行だという見方が強い中、死んだ刑事の行動を追ったベックは、彼の知られざる一面を発見してしまう…

 

冒頭では〝3〟(バルコニーの男)で偶然犯人逮捕の手柄をあげたクリスチャンソンとクヴァントのコンビが再登場。

またもや神引きでドデカい事件の第一発見者となりますが、現場を保存しなかったせいで初っ端から捜査が難航モードに。

私生活第一、ビタ一文余計な仕事はしたくない…徹底した省エネモードが清々しいこの2人。

間抜けでもっさりしたコンビですが、こういう仕事のスタンスもあるあるだと思って、どこか親しみも湧くユーモラスなキャラクターです。

 

なぜかバスに乗り合わせていて銃弾の犠牲になったのはベックの後輩・ステンストルム。

1作目「ロセアンナ」で尾行の名人として登場、休暇中も上司のベックに律儀に絵葉書を送る姿が微笑ましかった若い警察官。

偶然乗り合わせていただけなのか、私生活に暗いものがあって彼を殺すための事件だったのか…仲間のプライベートを探っていく捜査に妙な緊張感が走ります。

職場のデスクからはガールフレンドのエロ写真が大量に発見。いい奴そうにみえて実はとんでもなくヤバい奴だったのか!?

職場で長い時間一緒にいたのに同僚のことなんて何も知らないかもしれない…というベックの心中にリアリティを感じました。

 

(ここから真相ネタバレ)

実は過去の未解決事件をたった1人で追いかけていたステンストルム。

真面目ゆえに名をあげたい野心も人一倍強く、警察のお偉いさんが「過去の未解決事件」の課題を割り振った時、1番有名な事件を解決したるぞ!!と息巻いてしまったようです。

個性が強かったり何か特技があったり…マルティンチームの中にいて実は劣等感があったのかも、と推察したベックの予想が大当たり。

「銃を持っていないとセックスできなかった」という性生活のエピソード然り、ごく普通に見える男が内に抱えるコンプレックス、男らしさを求められる過酷な仕事でのストレス…正義側のはずの警察官が危うい人物として描かれているのが非常にスリリング。

前シリーズを読んでいるとコルベリがステンストルムに当たりが強かったことが思い出されますが、「叩けば伸びると思った」って結構なパワハラ思考。

警察という激務ゆえ和気あいあいな職場ではいられないのだろうけど、言葉足らずで体育会系な部分もリアルに映りました。

 

被害者の数が多いため、複数人で聞き込み調査にのぞむも、皆バラバラの推理をしながら捜査が進んでいくのが本作の1番面白いところ。

それぞれ追っているものが線になることもあれば、全く繋がらない点のまま終わってしまうことも…

やった仕事のうち報われるのはごく僅か。この徒労感、孤独感こそがシリーズの1番の持ち味のように思われます。

 

キャラクターの中で今回株が爆上がりだったのはルン。

ベックとコルベリからの評価はなぜか低いですが、1人生き残った重体の被害者からダイイングメッセージを聞き出すことに成功。

抜かりなくしっかり仕事してて、揉め事起こさずにどんな同僚とも組めるルン、組織の中ではかなり重宝しそうな存在。

 

3作目では問題児だったラーソンは、粗暴だけど仕事には真摯。

記者会見で「これより悲惨な光景をみたことがあるか」と問われて脳裏に思い浮かべる軍人時代の記憶が壮絶。

「ほとんどステンストルムがやったことだ」…1番いい台詞あんたが言うのかよ!!

破天荒かと思いきや時折みせる常識人ムーブにギャップ萌えさせられます。

 

その他、田舎町から助っ人として招集されたモルディンとノーランは慣れない土地で奮闘。

ベックたちが小馬鹿にして感じが悪いのにびっくり。

聞き込み調査で接する人たちもどこか独特のオーラを放っていて、移民労働者が詰め込まれた狭いアパートのむさ苦しい空気、休憩中の看護婦が勢いよく食事を平らげるところなど、些細な描写が迫真でありました。

 

結局バス乱射事件は未解決事件の犯人が過去の犯罪を暴かれることを恐れて引き起こしたものだと判明。

相手を尾行していたステンストルムが返り討ちにあってしまった…というのが真相。

標的を殺すためにいとも簡単に他の乗客を巻き添えにする犯人が恐ろしすぎる…

蓋を開けてみれば狂った無差別犯とは真逆の、高く社会適応した人間が持っている物を失うことを恐れて計画的に行なった犯行。

身勝手極まる犯人の自殺はせめて食い止められてよかった…ラストは胸を撫で下ろすような気持ちになりました。

元の事件の被害者女性は”お堅い生娘タイプ”から一気に堕落して”性欲暴走マシーン”と化したようで…1作目の「ロセアンナ」もそうでしたが、キリスト教社会の抑圧的部分と、時代が進んできての開放的なムードと…2つに引き裂かれたような闇深なキャラクター像でありました。

 

後半に突然過去の未解決事件の話が出てくるなど、スマートに伏線を回収するタイプのミステリではないと思いますが、捜査陣営を含めて見せられる多種多様な人間ドラマが面白く、真相まで一気に読ませました。

「笑う警官」というタイトルは、デカいヤマの真相を引き当てていよいよ自分の能力を示せるぞ…と心の内で笑っていたステンストルムの無我夢中な姿。

仕事のことばかり考えていて私生活では子供といるときでさえ笑顔がない人間になってしまったものの、自分のしでかした下らないポカに対して苦笑いしてしまうラストの主人公の姿。

いざ読むと思っていた以上に渋いタイトルでありました。

シーズン的には秋冬が舞台ですが、「クリスマスなんて資本主義の豚どもの祭りなど愚劣の極み!」という作者の強い思想が伝わってきて、その辛辣さに笑ってしまいました。

 

角川文庫の新訳、読みやすくて自分は不満はないのですが、冒頭ページに現場バスの見取り図なるものが掲載されており、被害者の中にステンストルムの名前がバッチリ載っていました。

登場人物が多いので分かりやすい配慮ではありますが、ネタバレを食らったような気持ちになって複雑。

同僚の死の知らせを受けたベックが「コルベリがやられたのでは…」と動揺するところも序盤の見せ場だと思ったので、間のページに挟んでくれると有難かったかも。

また後書きのスウェーデン人作家がコメントを寄せているコーナーでは、全10作に関するネタバレ的内容がしれっと載せられていました。

この4作目だけのネタバレならともかく、シリーズ10作分の内容に言及するものだったので、ちょっとショック。

こちらには注意書きを付けておいて欲しかったです。

 

4作読んで各キャラクターに思い入れが出てくる頃。個人的にはベック&コルベリコンビより、ラーソン&ルンコンビの方が好きかも(笑)。

また次作も楽しみに読みたいと思います。

 

「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」を午前十時の映画祭でみてきました

午前十時の映画祭、今シーズンのトップバッターはインディ・ジョーンズ3作が1週間ごとに1作ずつ上映。

ゴールデンウィークは「ティファニーで朝食を」が2週上映になっていて、インディの方を連休に長めにやってくれや…この忙しい時期にドル3部作とも上映期間が重なってなかなか厳しい…と思ったけれど、なんとか1番好きな「魔宮の伝説」だけ観に行ってきました。

自分にとって「魔宮の伝説」は子供の頃テレビ放映で観て夢中になった作品。

日本語吹替で脳内再生されてしまうので、今回字幕でみるのが大変新鮮でありました。

ショート役のキー・ホイ・クァン、こんなに子供らしい高い声だったのか…とびっくり。

田中真弓さんのショーティはもっと口が悪くて生意気な印象(笑)。オリジナルは健気さと可愛らしさが増していました。

ウィリーも日本語吹替の藤田淑子さんの〝綺麗なやかまし声〟の印象が強かったけど、ケイト・キャプショーの声は普通にうるさかった(笑)。

2人ともインディに一歩も引けをとらず、3人の関係が対等なのがいいなと思いました。

 

映画評論家の双葉先生も絶賛しておられた古き良きミュージカルなオープニング。

冒険映画が始まると思いきや突如広がる「雨に唄えば」的世界…冒頭の掴みが本当に素晴らしく、スクリーンでみると一層豪華で胸が高まりました。

考古学者とは思えないまるでジェームズ・ボンドなインディ博士ですが、開幕から矢継ぎ早にくるアクションシーンはまさにジェットコースターに乗っているよう。

子供の頃「インディ2作目が1番好き」というと親から「2が1番中身空っぽで趣味が悪い」とよく言われたけど(笑)、B級ホラー味が強いのは確か。

禍々しい邪教集団の敵、心臓鷲掴みのグロシーン…

敵の死に方も、天井のファンに首吊られて死ぬ…ロールに身体を粉砕されて死ぬ…など痛覚に訴えかけてくるような死に様がグレート。

そして子供の頃びっくり仰天したゲテモノ料理のシーン。

テレビでみた翌日、怖かった、気持ち悪かったと友達と話すのも楽しかった思い出。

嘘っぱちで今だと色々怒られそうですが、「世界は広くて自分の知らないものがたくさんある…!!」みたいなロマンが、この頃の映画やテレビにはあったなあと思います。

 

劇場で観ても最高だったのはやはりトロッコのシーン。

あのスピード感と迫力、大画面で観ると本当にアトラクションに乗ったような心地でテンションだだ上がりでした。

ミニチュアで撮って合成されたらしいですが、よく出来ていて圧巻!!

靴に火がついて水、水…の展開は大がかりなコントみたいで何度みても大爆笑。

断崖絶壁→めっちゃボロい橋→下には人喰いワニ…どんだけ盛るねんというスピルバーグのドSっぷりが凄まじいです。

最後の村復興するの早すぎやろ…あの石残り4個はどないなったんやろ…劇場であらたまってみるとツッコミどころもチラホラありつつ、子供たちが笑顔で帰ってくるラストにニッコリ。

中年になっても最高に美味しいお子様ランチでした。

 

3作続けてみるのがベストなのは間違いないと思いますが、エポックメイキングな「レイダース」は何気に観てる回数が1番少なくてまた久々に観てみたいなあ。

「最後の聖戦」もよくテレビ放映していてリヴァー・フェニックスと全然顔似てないよなあと思いつつ、3のオープニングも大好きでした。

終わり方も美しくて、自分の中ではやっぱりインディは3で完結。(4にガックリきて去年公開された5は結局観てないまま…)

 

劇場での鑑賞は初でしたが、懐かしさで胸がいっぱい。この年代のハリウッド映画はなんてパワフルなんだ…!!

大きなスクリーンで観れたので音も映像も大迫力、遊園地に行って帰ってきたような夢見心地の2時間でした。

 

「群盗荒野を裂く」…革命と友情、異色マカロニ・ウエスタンの傑作

ジャン・マリア・ボロンテ主演、社会派監督として名高いダミアーノ・ダミアーニ監督による66年のマカロニ・ウエスタン。

ボロンテが「夕陽のガンマン」とまったく異なるイメージの役を演じているらしく、未見だったのを初鑑賞。

格好いいガンファイトなどはなくあまりマカロニらしくない作品だったけど、すごく面白かった…!!

メキシコ革命を舞台にした作品で、奥深い。

スピーディにアクションが展開する娯楽作でありつつ、ストーリーは二転三転してサスペンスフル。

ワイルドバンチ」が好きな人には絶対に刺さりそう。

男の友情(を超えた何か)に胸をギューと掴まれつつ、ラストの素晴らしさにノックアウトされました。

 

◇◇◇

1910年代…革命軍と政府軍の争いが激化するメキシコ。

野盗団のボス・チュンチョ(ボロンテ)は政府軍から武器弾薬を奪い、革命軍の将軍・エリアスに売りつけていました。

ある日政府の輸送列車を襲撃した際、アメリカ人青年・ビルと出会います。

野盗団に協力したビルを仲間に引き入れた一味は軍施設への襲撃を繰り返しますが…

 

冒頭の列車襲撃シーンから先が読めず面白い。

線路上に磔にされた将校。

襲撃から逃れるためには上官を轢き殺さなければならないが、その決断ができない兵士のジレンマ。(上官も俺の屍を超えていけ…とは言わない)

組織に属する人間は大変ですね…

 

結局自らも死ぬことで列車を押し進めた中尉でしたが、謎の青年ビルが運転士を殺害しなぜか野盗団に協力。

護送中の賞金首を装ったビルは「行く当てがないから」と野盗団の一味に加えてもらいます。

一体ビルの目的は何なのか…ベビーフェイスのルー・カステルがミステリアス。

自分と違って学があり、意外に度胸もあるビルをチュンチョは高く買って気に入った様子。

 

その後も矢継ぎ早に襲撃を繰り返す一行でしたが、他のメンバーも皆個性的で破天荒な者ばかり。

チュンチョの弟だというサントは神父なのに人を殺しまくるとんでもない奴ですが、一味が金儲けではなく無償で将軍に協力していると信じているピュアな人間でもあります。

三位一体を唱えながら手榴弾投げつけるクラウス・キンスキーがアナーキーすぎる(笑)。

 

気の強そうな美人・アデリータはチームの紅一点。

盗人猛々しく強奪したドレスを艶やかに着こなすも、「地主に14歳のとき暴行された」と語る悲惨な過去の持ち主で、権力者には容赦ない…!!

 

あるとき一行は政府軍から解放されたサンミゲルの村に身を寄せ、そこで機関銃を手に入れることに成功します。

革命の同志たちに共鳴し村に残ろうとするチュンチョと、「さっさと武器を売りに行こう」と金銭第一なメンバーとで意見が対立してしまいます。

権力者を倒すまではいいものの、次のリーダーを選んで自分たちでやっていくことの難しさ、自衛できる兵の育成の課題など、その先が大変なんだという村の描写が何ともリアル。

村ではチュンチョをリーダーにと推す声が上がるも、自分は読み書きできない、地元の人間じゃない…と辞退するチュンチョ。

名誉欲に溺れるかと思いきやなかなか筋の通った奴…!!

何の躊躇いもなく兵士を殺したり、ときには仲間を撃ったり…ろくでもない悪党に違いないチュンチョですが、刹那的にそのとき自分の思った通りに行動する、嘘偽りない生き様はどこか眩しく映り、不思議と魅力を感じる主人公であります。

 

仲間と別れて村に残ることにしたものの、機関銃を盗られたことを知ったチュンチョは、一味の後を追いかけて結局合流。

しかし途中出会した政府軍との戦いで一味はほぼ壊滅してしまいます。

2人残ったチュンチョとビルは武器を届けに将軍の下へと向かうことにしますが…

 

(ここからどんでん返しありネタバレ)

武器を届けると、「村が政府軍に襲われて壊滅した」という衝撃の知らせが。

「お前が金儲け優先で村の武器をここに持ってきたからだろ」と遠回しに非難され、死刑宣告されてしまうチュンチョ。

言い訳するかと思いきやチュンチョは進んで刑を受け入れます。

大局的に物が見れないアホゆえ翻弄されるけれど、筋だけは通っているから何とも見上げた奴。

ところが、そんな中ビルが将軍を狙撃し暗殺…!!

何とビルは政府軍から雇われたヒットマンで、将軍を殺るために一味に潜伏していたのでした…

 

何となくビルの目的は中盤から読めるものの、終盤さらに話が二転三転。

ギャラの10万ドルの半分をチュンチョに差し出し、2人でアメリカに行こうと誘うビル。

金貨に魅せられ、貴族的装いに身を包み人生を再出発させようとするチュンチョでしたが、駅で並んでいるメキシコ人たちを押し除けて横入りするビルの姿をみて、一瞬で我に帰ります…

金のことしか考えてないふんぞり返ったクソ野郎はくたばりやがれ…!!

突然友をピストルで射殺するチュンチョ。

最後の最後に自分を偽ることを拒否したボロンテの姿がこれまた刹那的でありつつも美しかったです。

 

いかにもこの年代の左翼映画というムードではあるのですが、説教臭くなく、視点がフラットなのが奥深いと思いました。

途中に登場した地主夫婦は、権力者サイドの人間で、農民を搾取していた悪い奴なんだろうと察せられますが、野盗団に妻が毅然と立ち向かい、夫婦愛し合っている姿をみせるところには善性を感じさせます。

一方チュンチョたち一味は表向きは正義の革命を謳いつつも、実はそれに便乗して金儲けしたいだけの欺瞞に満ちた人間だったりして、各人物の立ち位置が複雑。

どんな人間にも善と悪の一面が…のキャラクター像が魅力的です。

 

抜け目ない計画的犯行で見事ターゲットを仕留めたビルは、自分の利益をどこまでも追求する冷徹なアメリカ人ビジネスマンとして描かれていました。

「好きなものは金」と割り切った答えが清々しい(笑)。

でもチュンチョや途中アデリータにも「一緒にアメリカへ…」と声をかけていたあたり、こいつもやっぱりどっかで寂しかったんじゃないでしょうか…

ただの裏切り者キャラにはなっていなくてどこか憎めず、銭ゲバ野郎が利害を度外視して誘ったアメリカへの旅…自分と正反対のチュンチョに強く惹きつけられていたのでは…とBL脳が炸裂せずにはいられないクライマックスに悶えました。

 

年代的には反ベトナム戦争のムードと一致しそうな本作。

お互い惹かれるものがあっても、違う国に属すものどうし相容れないものもある…差別している特権階級は自分が差別しているとも思っていないけど相手の逆鱗に触れることもある…別離の結末にリアルを感じました。

祖国を見下し自分さえ良ければいい主義な友の醜悪さを目の当たりにしてふと我に帰る、ラストの何でもない展開が胸熱。

何より「自分はこういう人間だ!」と開き直ったかのような主人公の笑顔が爽快で、ありのままの自分でいることを選んだ姿に誠実さと救いを感じました。

 

原題:Quién sabe?(知ったことか)…人には理屈どうこうではなく説明できない感情で動く瞬間がある…タイトルもカッコいいですね。

(自分は邦題はそんなに悪くないと思いますが、英題:A Bullet for the Generalは完全なネタバレでよくない)

底抜けに朗らかでありつつどこかノスタルジックなメキシカンな音楽もピッタリ。

マカロニ・ウエスタン本当にいろんな作品があるなあ…と感心の傑作でありました。

 

ドル3部作「続・夕陽のガンマン」4K復元版を観てきました

♫アアアアアー

自分の人生のベストの1本、「続・夕陽のガンマン」4K復元版を劇場で観てきました。

大音量で響く黄金のエクスタシー、三角決闘の圧巻の景色…何もかも最高でありました!!

 

自分が「続夕陽」を初めてみたのは大学生の頃。

TSUTAYAで借りてきたのを小さなテレビで再生。バイトが終わったあと夜中1時頃から観始めて「眠くなったらそのまま寝よう」なんてぞんざいな態度で観始めたのにところがどっこい、とんでもない面白さで…

トゥーコが墓を走り回って探すところからはアーチ・スタントンの墓ホンマにあるんかー!!?と大興奮で座ってみていられませんでした。

映画をみていて「何だこれは!?」と打ちのめされる作品との出会いが度々あって、自分にとっては「ゾンビ」や「サスペリアPart2」、近年観たのだとフリードキンの「恐怖の報酬」などがそれに当たりますが、「続夕陽」も今までこれを観ずに映画好きって言っててごめんなさいー!!と叫びたくなるような面白さでありました。

 

自分がこのとき初めて観たのが162分の国際版というやつで、その後「夕陽コレクターズBOX」が出た時に観たのが178分の完全版。

完全版は長く感じて短い奴の方が好き…と思っていたのですが、今回3時間、劇場で観るとあっという間でした。

次から次へと見せ場が来て飽きさせない…!!

人物のやり取りがコミカルでとにかく楽しい…!!

 

やはり今作の主役はトゥーコ。

汚ねえ奴というか、あの読み上げられている罪状からしてめっちゃ悪い奴なんですが、なんか憎めなくて愛らしい。

劇場でもトゥーコの面白シーンで度々笑いが起きていて、墓の名前を知ったブロンディを手のひらクルーで必死に介抱するところ、南軍と北軍を見間違えて将軍バンザイ言っちゃうところ…何度観ても笑ってしまいます。

完全版はトゥーコの孤独な心の内を描いた場面がより増していた印象ですが、お互い思うところがあっても決して消えない兄弟愛、よそ様の前では家族を悪く言わない気高いところ…

獣のような男が持つ人間らしい一面のギャップ。

強がりで寂しそうにも映るけどどこか健気で、逞しく荒野を1人で生き抜こうとする姿には愛おしさが込み上げてきます。

ブロンディを罵る言葉が自分が言われてきて嫌だったことなのかもと思うと切ないですね…

めちゃくちゃ根に持つタイプでもありますが、ブロンディを追跡するシーン、捨てた煙草の火加減で距離の縮まりをみせるの、カッチョよかったです。

射撃の腕は一級。銃器店で良いものを嗅ぎ分けてカスタマイズ銃を組み上げていくところなど改めて観てもカッコよく、実に魅力溢れる主人公でした。

 

そして〝いい奴〟とは思えない、結構冷血漢なイーストウッド

なんだかんだトゥーコに分前を残すところや、兵士を静かに看取るところなど、3人の中では善玉だと自分は思うのですが…

the goodのテロップが出るタイミングはなぜか仲間を置き去りにする場面(笑)。こういう乾いたユーモアにニヤッとさせられます。

灼熱の砂漠を歩かされるシーンは大画面でみると余計に痛々しく、トイレを心配して水分を控えて劇場鑑賞に臨んだだめ、喉の渇きを一緒に体感しているような心地になりました(笑)。

終盤ではポンチョを拾っておなじみの姿に…

夕陽BOXのブックレットでも「ドル3部作」は実は時系列が逆…という説が語られていましたが、「続夕陽」から「荒野」に向かって観直すとまた面白そうですね。

 

リー・ヴァン師匠は3人の中でダントツで出番が少ないけど、冒頭の豆煮食らうシーンがやはり鮮烈。

前作と全く異なる悪のオーラを放っているのが凄い…!!相変わらず素晴らしい存在感でした。

 

途中で戦争の悲惨さが描かれ、無頼漢たちにも迫ってくる非情な現実。戦場という狂った場所では逸脱した人間の方がまともに見えてしまう皮肉。

作品のトーンが変わるのでこの辺り好みが分かれるところかもしれませんが、ストーリーの軸はずっと主人公たちのまま、重苦しくはなっておらず、エンタメと荘厳な大作感が見事に混在。

橋爆破シーンでは静かなカタルシスに沈み込みました。

 

そして「黄金のエクスタシー」が流れるなか映し出される墓場の圧巻の景色…!!

「世の中には2種類の人間が…」も何かにつけて真似したくなる名台詞。

三角決闘のシーンは大画面で観るとやはり大迫力…!!

ああいう三すくみのシーン、他のアクション映画で山ほど観ているはずなのに、あんなに長いタメで見せられると新鮮で、どうなるんだろう!?と初見はドキドキが止まりませんでした。

人物のアップが魅力的というか、観てるだけで吸い込まれるような役者の顔が凄い…!!

大音量でかかるモリコーネのThe Trio、もう堪りませんでした。

 

バディものというには素っ気ないトゥーコとブロンディの関係ですが、悪玉を倒すのに相容れない2人がほんのいっとき協力関係に…このドライさがかえって胸熱。

ブロンディがどこまでも荒野を駆けていくラストを見守りながら、映画が終わってしまうことが名残惜しく思われる位、最高の時間でした。

 

新聞広告ポストカード、今回もいただけて無事3作コンプリートできました。

前売り3作品購入でいただけた復刻プレスシート、「続夕陽のガンマン」分。

物語の終わり部分、「2人はまたコンビを組んだのだった」…って書いてあるけどホンマでっか(笑)。


もう1度観に行きたいけど、上映スケジュール的に自分は複数回鑑賞は厳しそう…1週ごと1作品の鑑賞になりましたが、無事完走できて感無量です。

ホラー映画ファンは一定数いそうだけど、マカロニ観る人って本当に少なそう…と思っていましたが、劇場かなり賑わっていて嬉しかったです。

また定期的に再上映してくれないかなあ…と密かに期待。

最高の映画を劇場体験できて感謝感激です。

 

「新・夕陽のガンマン/復讐の旅」…リー・ヴァン師匠が格好いい王道復讐物なマカロニ・ウエスタン

なんてややこしいタイトル。

英題はDeath Rides a Horse。

夕陽のガンマン」とは全く関係ない作品ですが、リー・ヴァン・クリーフ主演ということで便乗してこんなタイトルに!?  

いい加減な邦題に思えますが、リー・ヴァン・クリーフが謎の凄腕ガンマンを演じているところ、音楽がエンニオ・モリコーネ、脚本家も「夕陽のガンマン」を共同で手がけたルチアーノ・ヴィンチェンツォーニ…とあながち間違ったタイトルではないのかも。

タランティーノがお気に入りマカロニ・ウエスタン第8位に選び「キル・ビル」でオマージュを捧げていた作品としても知られています。

レオーネ作品のような風格はないし、他のマカロニよりケレン味がなくさらっとした印象ですが、復讐物の王道ストーリー、バディものの面白さはあって、十分楽しんで観れる1本になっていました。

 

◇◇◇

雨の日の夜…突然4人のならず者が一家を襲撃。少年ビルは目の前で家族を皆殺しにされてしまいます。 

タトゥー、顔の傷、イヤリング…物陰に隠れながら襲撃者の特徴をしっかり記憶に刻んでいく少年。

冒頭は「キル・ビル」のオーレン石井が両親を殺される場面によく似ていて、しきりに目のアップが強調されるところもユマ・サーマンが復讐相手を思い出すフラッシュバックシーンと似ています。

一味のうち最後に現れた1人は、髑髏のネックレスをしており、燃える家から少年をそっと連れ出し、ビルは一命を取り留めました。

 

15年後…成長した青年は復讐を誓い凄腕ガンマンに。

ビル役を演じるのは「バーバレラ」のジョン・フィリップ・ロー。端正な顔立ちのイケメンですが、アクの濃い顔の並ぶマカロニの中にいると薄味で物足りないかも…

「憎しみだけで生きてきた」という割には演技があっさりしているような気もします。

ただ個性的な容姿の師匠とは好対照で、百発百中当てていく冒頭のトレーニングシーンはカッコいい…!!

 

一方、とある刑務所では15年刑期を務めた初老のガンマン・ライアンが出所してきました。

仲間に裏切られ、1人臭い飯を食っていたライアンもまた復讐を誓い、かつての同胞たちの下を訪れます。

同じ敵を追う者同士、巡り合うライアンとビル。

老ガンマンの方がなにかと上手で「怒りの荒野」のガンマン十戒ほどではないけれど、教えを授けていくリー・ヴァン師匠。

学んだ弟子が師匠にやり返すシーンがあったりして脚本がスマートにまとまっています。

「復讐は冷めてからが上手い料理」もキル・ビルの冒頭で出てきた言葉。

怒りに燃えて周りが見えない青年を諭す師匠からは、自分の人生への悔恨の念があるようにもみえてきます。

「お前のような息子が欲しかった」と語るもビルからはグランパ呼びされてしまう渋すぎる師匠(笑)。

フィルモグラフィー的には「続夕陽」のあとなのか、本作のリー・ヴァン・クリーフ、ちょっとお腹が出ていてふっくらしている気もします。

それでも表情といい、身のこなしといい絵になっていて圧倒的存在感…!!完全に若者を食ってしまっています。

 

敵役もそれぞれ印象に残る顔ぶれですが、「夕陽のガンマン」でインディオの手下を演じていた2人が登場。

レオーネ作品の常連、迫力ある巨体のマリオ・ブレガと、「夕陽〜」でも抜け目ない男を演じていたルイジ・ピスティッリ。

1番の悪玉はピスティッリ演じるウォルコットの方ですが、町の有力者になったズル賢いヒール役が憎たらしくてハマり役。

リー・ヴァン・クリーフがアジトを訪れた際に床下に突然穴が空いて落っこちるシーンはスパイ映画のような設備で笑ってしまいます。

クライマックスはメキシコ人たちを交えて砂嵐舞う中での大バトル…!!

オチはもうオープニングから何となく予想がついてしまうのですが、リー・ヴァン師匠が襲撃者の一味だったことを知るも自分を助けてくれた髑髏のネックレスの男だったことを思い出すビル。

因縁の対決かと思いきや爽やかなラストへ…

バディを組んだ2人が別れゆくラストも「夕陽〜」と似ていなくもないかもしれません。

 

映画を大いに盛り上げるのはモリコーネの曲。ギターとオリエンタルな笛の音が響くどこか不穏な出だしから猛々しいコーラスが重なり、聴いているこちらの気分も高揚してきます。

素晴らしい名曲で「キル・ビル」の青葉屋突撃のシーンでも使われていました。

 

リー・ヴァン師匠が好きで昔購入した「リー・ヴァン・クリーフBOX」の中に「復讐のガンマン」「怒りのガンマン」とともに3本立てて入っていた本作。

「復讐のガンマン」がダントツで面白かったですが、こちらも手堅くまとまっていて中々いい作品だったと思います。

師匠的ポジの凄腕ガンマンがハマり役…!!

リー・ヴァン・クリーフの格好良さが堪能できて満足の作品でした。 

 

ドル3部作「夕陽のガンマン」4K復元版を観てきました

スクリーンでみるモーティマー大佐、カッコよすぎた…!

先週の「荒野の用心棒」に引き続き、「夕陽のガンマン」4K復元版を観てきました。

自分が高校生の頃、レンタルで初めて観たマカロニウエスタンが「夕陽のガンマン」。

クリント・イーストウッドよりカッコいいこの人は一体何者だ!?リー・ヴァン・クリーフのモーティマー大佐が衝撃的でありました。

聖書をのけると映し出される迫力満点のお顔。黒ずくめのコート、汽車を平然と止める只者ならぬ気配…サドルバックから取り出した長い銃身で賞金首を仕留める冒頭が何度観ても最高です。

シンプルな筋書きだった「荒野〜」に比べ、今回は主要キャラ3人の視点が入れ替わりますが、どんな人間かがすぐに分かる冒頭からの掴みが素晴らしく、場面転換が鮮やか。

共闘、潜入、裏切りが錯綜するストーリーにドキドキさせられます。

 

ボーイ/オールドマンって呼び合ってるけど、当時イーストウッドは35歳でリー・ヴァン・クリーフは40歳!?師匠の貫禄が凄すぎて絶句。

ザ・友情って感じではないけれど、お互いリスペクトしてのパートナーシップが胸熱です。 

初めてみたときにも悶絶した帽子撃ちのシーンの圧倒的恰好よさ。

リー・ヴァン・クリーフが怪我をしていたため静的なシーンになったそうですが、相手の射程距離から出た途端キッチリ撃ち返す大佐の余裕ある物腰…両者「デキる奴」だと分かる静かなバトルは少年漫画的ロマンがあって、何度観てもシビれます。

 

そして今回もまた悪玉のジャン・マリア・ボロンテ。「荒野〜」よりも破滅的オーラを漂わせていてデンジャラス…!!

頭はキレるかもしれないけどクスリやっててメンタル不安定。部下を平気で切り捨てるしこんな上司は絶対に嫌だ(笑)。

インディオ一味の個性的で迫力あるお顔も大スクリーンで観ると一層楽しく、中でもひときわ目を引くのはやっぱりクラウス・キンスキー。顔面ヒクヒク、真似しようと思ってもできないから凄い(笑)。

「4年どころか4週間で出れたハハハ!」とイーストウッドの手土産になって脱獄できたサンチョ、リンチシーンに1人だけ加わってないの義理堅い…よくみると皆キャラが立ってて面白かったです。

 

出番が少ないけどなぜだか印象にのこる大佐の妹さん。インディオではなく自分を撃ってあとを追うなんて、清らかで愛の深い女性だったんですね…

ここまでして拒絶されたインディオの病みっぷりにも納得!?語らいの少ないドラマがいいなーと改めて思いました。

 

大佐が復讐の人だったことが明かされるクライマックス。

重なるオルゴール音に三角決闘的構図…ここも何度観てもシビれます。

モリコーネの音楽は前作から倍増で素晴らしく、冒頭の口笛のメインテーマからノリノリになってしまいましたが、決闘シーンでかかる音楽もよりオペラ的で、大盛り上がりでした。

 

最後に賞金を全て譲って去っていく大佐のカッコ良さ。あんたが夕陽のガンマンだったのか…とやはりこれはモーティマー大佐が主人公の映画。

個性的な顔だけどめちゃくちゃ男前、長身で絵になりすぎな立ち姿、圧倒的存在感。

リー・ヴァン・クリーフ、長生きしていればきっとタランティーノの映画にも出たりして、もっと再評価されただろうなあ…とついつい考えてしまいました。

 


今回もいただけた先着入場特典の「新聞広告ポストカード」。

立川シネマシティは特典をランダム封入にせず、各回各作品を配っているようで、この対応は嬉しいです。

前売り3枚セット購入でいただけた復刻プレスシート、夕陽のガンマン分。

「その音色は大佐の胸にしみた。それはインディオに殺された大佐の子供たちのものだった。」…全然違うこと書いてあって笑いました。


家に帰ってから「夕陽コレクターズBlu-rayBOX」を少し再生してみましたが、4K映像はフィルムのちらつきやグレインもなく段違いでめちゃくちゃ綺麗でした。

何より音の迫力は劇場でみると圧倒的ですね。

来週はいよいよ1番大好きな「続夕陽のガンマン」…!!このまま無事に完走できることを祈ります。

ドル3部作、映画館で観ることができて本当に感謝感謝です。

 

今更…黒澤明の「用心棒」を観てみました

「荒野の用心棒」の元ネタ。

実質リメイクなのに許諾を得られないままつくられてしまい著作権侵害で訴えられて…の有名エピソードは知りつつも、未見だった黒澤明の「用心棒」を今更観てみました。

思った以上に激似でびっくり(笑)。

ヘル・オブ・ザ・リビングデッド」を観た後に「ゾンビ」を観るような不思議な感覚を味わいつつ!?敷居の高いイメージがあった黒澤作品ですが、シンプルに面白くて、まったく古臭くなかったです。

巨匠の凄さを知るとともに、ここから世界観を再構築したレオーネの凄さも改めて知れて、両方続けて観ると楽しさ倍増でありました。

 

◇◇◇

棒を放り投げて行き先を決める主人公の当て所の無さ、犬が手首持って走ってくる町のヤバさ…アホでも分かる明快なつくり、冒頭から一気に引き込まれます。

古い日本映画あるあるで台詞は所々聞き取りにくかったけど、個性的な音楽が画と抜群にマッチしていて何と小気味のよいことか。

造酒屋を後ろ盾にした丑寅一家と、絹物屋を後ろ盾にした清兵衛一家と…

「荒野〜」の保安官・バクスター一家にあたるのが清兵衛一家ですが、女郎屋のBBAの迫力が凄すぎる(笑)。

一度袖にした主人公を手のひらクルーでヨイショする面の皮の厚さ。「1人切ろうが100人切ろうが縛り首になるのは一遍だけだよ」と宣う肝の据わりよう…

「荒野〜」の女性もなかなか力強かったけど、この女優さんの顔の迫力には足元にも及びません。

 

「荒野〜」の悪玉であるラモン(ジャン・マリア・ボロンテ)に当たるのは卯之助(仲代達矢)。

男前で漫画ちっくなキャラクターですが、ラモンより味付けはかなり薄めに感じました。

他人の女房を横取りして愛人として囲っているところはまったく同じなものの、こちらは女性の登場が唐突で存在感が薄く、ボロンテのような「狂気の執念」は描かれていませんでした。

小さな子供が母親に駆け寄るシーンの悲壮感、アントニオを失ったバクスター家の母親の非業な死に様…

「荒野〜」の方はイタリアのお国柄なのかどこかママっ子味を感じさせる仕様で、イーストウッドの名無しには母親を殺された過去があるのかも…と色々想像させられました。

「用心棒」の三船敏郎のキャラクターはもっとあっさりしていて、私情は一切なく人情みや道義心から行動に出た豪傑な感じ。

思ったことをハッキリ口に出す分かりやすいタイプの三船用心棒に対し、イーストウッド用心棒はより無口でニヒルな性格…同じ孤高の流れ者でも受ける印象は結構違っていて面白かったです。

 

より登場人物が多い「用心棒」ですが、圧倒的な印象を残すのは丑寅一家の亥之吉。

極太眉毛がインパクト大。頭が足りず簡単に人に乗せられてしまう性格だけど、アホな子ほど可愛いみたいな憎めなさが(笑)。

主人公逃亡シーンでは棺桶屋の親父はそそくさと逃げ出し、亥之吉が騙されて片棒を担がされるかたちに…完全にコントですが、ベタな掛け合いに笑いました。

この他出番が少なかったけど、全面対決を前に一両で雇われた先生が満面の笑みで逃亡する姿にも爆笑。

へいこらが目に余る番田の半助など、みみっちい、ちっこい人間が生き生きとしていて、人物の描写がひたすら魅力的でした。

 

町役人を殺った下手人2人と、兵隊の死体2体と…違いはあるけど、切れ者の主人公が2大勢力を手玉にとって争いを焚き付けていくプロットは全く同じ。

主人公の拷問シーンは「荒野〜」の方がやられるシーンをしっかり見せていて痛々しかったけど、負傷具合までそっくり。

風が吹きすさぶ中、酒場の親父を助けに現れるクライマックスの絵面も激似でびっくり。

ただ決闘シーンはレオーネのオリジナルが光っていて、個人的には「荒野〜」の方がラストの盛り上がりは「用心棒」を上回っていたのではないかと思いました。

卯之助の銃をどうやって倒すんだと思ってワクワクしてみていたけど、ナイフ投げて返り討ちにするの、あっさりな展開でちょっと拍子抜け。(事前に練習してるシーンがあったのはよかったですが)

「荒野〜」の方がしっかり伏線を張ったどんでん返しのカタルシスが半端なく、ボロンテのよろめく視界の演出など「悪役の死に様」もキマっていたように思いました。

「用心棒」では最後に争いの背後にいた主たちがやり合う皮肉めいた場面があって、自分はちょっとクドく思ってしまったけど、これぞザ・巨匠の作品、という感じもしました。

あっさりと去っていく主人公の格好良さは完全に一致で、実に胸のスカッとするラストでした。

 

やっぱり名作と呼ばれるものはそれだけの値打ちがあるから食わず嫌いせず見るべし!!改めて反省しつつ、シンプルイズベストな面白い映画でした。

めちゃくちゃ似てるけど、味付けの全く違う料理を2度いただいたような不思議な感覚で、リメイクだろうがパチモンだろうが、オリジナリティが爆発するイタリアの感性は凄い!

2作続けてみれて楽しかったです。