どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「地獄の門」…ビヨンドの10歩前、フルチのグロ炸裂ホラー

なんて罰当たりな話なんだ。(いいぞ、もっとやれ)

イタリアンホラーの巨匠、ルチオ・フルチが「サンゲリア」と「ビヨンド」の間に撮っている1本。

地獄の門 HDリマスター版 [Blu-ray]

地獄の門 HDリマスター版 [Blu-ray]

  • 発売日: 2014/07/02
  • メディア: Blu-ray
 

ジャンル的にはゾンビものですが、ロメロや「ウォーキングデッド」系ゾンビではなく、世界がまるごと死者の世界に変異するような、よりオカルト色の強い作品となっています。

話は安定の支離滅裂、しかし気前よくグロが炸裂した雰囲気満点のホラー。

 

アメリカのとある町、ダンウィッチにてトマス神父という人が自殺。なんとこの神父、聖職者の自殺という冒涜行為により地獄の門とやらを開こうとしていました。

キリスト教圏の人からすればこれだけでガクブルなお話なんでしょうか。

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土台がないけどどうやって飛び降りたんだよ、とどうでもいいことばっかり気になってしまいます。

一方ニューヨークで降霊会に参加していた女霊媒師・メアリーはその様子を遠隔地から霊視、あまりの恐怖にショック死してしまいます。

墓に埋葬されますが、棺の中でなぜか蘇生。真っ暗な中ドンドンと棺を叩きます。

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閉所恐怖症には堪らない恐ろしさ、「キルビル」にもこんなシーンがあったな。

偶然通りかかったジャーナリスト・ピーターがメアリーの叫び声を聞き、棺をぶった斬って助けてくれますが、メアリーまで一刀両断しそうでヒヤヒヤ。

メアリーを送り届けたピーターは、彼女のボスっぽい霊媒師から「今からダンウィッチの町に行って地獄の門を閉じないとこの世が終わる。4000年前の本にそう書いてある」と意味不明なことを言われます。

4000年前の本ってアンタ読めるんかい!って思うけどエノク書旧約聖書の1部とされる)のことを言ってるみたい。

なぜかピーターとメアリーの2人が組まされ、地図にも載ってないというダンウィッチの町をひたすら勘に任せて車で探し回ります。

 

一方当のダンウィッチの町でも鏡が突然割れるなど怪奇現象が勃発してました。

なんとこの町は元々魔女と異教徒の住む場所だったといいます。

悲しいことに若者が犠牲となってしまいますが、まずは車デートしてたローズとトミーのカップル。(トミー役は若い頃のミケーレ・ソアヴィ監督)

イチャついてる最中、急に視線を感じて外を見ると自殺した神父が突然現れる…!!その目を見つめるとローズの目から突然血の涙が流れ出し、口から内臓をゴボゴボと吐き出します。

ホルモン、レバー、ミノ、ハラミ…勢いよく次々にゲロゲーロ。

食事中には絶対観たくないグロさ。そして男の方は頭蓋骨を絞られあっさり死亡してしまいます。

さらにもう1人、エミリーという若い女性も神父の霊に襲われ殺されますが、町の人々は証拠もなしにボブという変わり者の青年を犯人だと決めつけてしまいます。

そして町の親父が電気ドリルでボブの頭を貫いて惨殺!!

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霊的世界と全く関係のない恐ろしい人間の仕業。

恐怖に駆られた人間は何するか分からないという深い人間ドラマ?が展開されます。

 

そんな中メアリーとピーターはダンウィッチにたどり着き、町の精神科医ジェリーと合流します。

ジェリーが神父の怪死事件について語ろうとしたその時、突然窓が開き、大量のウジ虫が吹雪となって降り注ぎます。

50キロの本物のウジ虫を巨大掃除機で飛ばしたという狂ってるとしかいいようのないシーン。

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俳優さんは皆真一文字に口を閉じています。

何としても虫を口に入れてたまるかという演技じゃなくてマジのやつ。

しかしCGも使わずこんな狂気の沙汰をやらかしたおかげでこの世がヤバい世界になってるという危機感は存分に伝わりました。

町の明かりが次々に消え、薄暗い中逃げ惑う姿もホラーな雰囲気バツグン。

神父の墓をようやく見つけたメアリーたちは、地下墓地に降りて行きますがそこには沢山の蘇ったゾンビたちが…

ジェリーが十字架の釘で現れた神父の霊を刺すとあら不思議、神父も周りのゾンビも全て燃えて灰になりました。

しかしハッピーエンドかと思いきやラスト、地下墓地から戻ってきたメアリーたちに町の子供が駆け寄ってくるといきなり画面に黒い亀裂が現れ叫び声が…少年がゾンビになった演出?らしいですが意味不明です(笑)。

明るいエンドにしたくなかった気持ちは分かりますが、あまりに投げっぱなし!

 

ラストも含めお話的には支離滅裂なのですが、本作で登場するゾンビは瞬間移動したかのようにとつぜん現れるというのが面白いです。

急にふと出たかと思えば瞬きすると消えている…人の恐怖心に反応して実体化するとかの設定に昇華できそうな気もしますが、そんな理詰めの映画にしたらフルチらしくなくてつまんなくなってしまうでしょうね。

この世が死者の世界に呑まれるという世界観は次作「ビヨンド」と共通していますが、あちらは三途の川を垣間見たかのような気分にさせられ、その画の美しさも寂寞感も圧巻でした。

地獄の門」も墓地の雰囲気や風吹きすさぶ荒涼とした町の景色は雰囲気満点ですが、生死の哲学すら感じさせた「ビヨンド」はまさに奇跡の1作、それに及ばずあと10歩といったところ。

今回眼球破壊シーンはないものの、目のアップはやたら多かった(笑)。

CGなしのハンドメイドなグロ描写は見応えたっぷりで「好きなことやってる」感が伝わってきて何だか元気の出るホラーです。

 

「ゴッドファーザー1・2」の印象的な脇キャラクターをあげてみる

先日最終章を鑑賞したものの、やっぱり1&2が最高すぎたゴッドファーザー

マイケル、フレド、ソニー、トムといった主役/準主役の魅力もさることながら脇役キャラの濃さもピカイチ。

各々の思惑、いつから裏切ってたかなど考えさせられ、サスペンスとしての面白さも1.2は抜群でした。

原作のエピソードも交えつつ改めてみて印象に残ったキャラクターを10人あげてみたいと思います。


◆テッシオ(登場:1、2)

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テッシオがいつから裏切ってたのか、はっきりしませんが、前半はずっと味方で、ドンの座がマイケルに譲られてから明らかに落胆した様子。「独り立ちしたいし強いもんにつくぞ」とそこからバルジーニ側に呑まれたように思えます。

Part2の若き日の回想シーン、ファヌッチにみかじめ料をせびられ「払えばいいだろ」と言うクレメンザに対し、割りに合わないとビトーと同じ考えのテッシオ。

その後ビトーが話をつけてくると言ったときもテッシオは落ち着いてビトーに事を託していて、ドンの偉大さをみる先見があったんだなー、賢かったんだなーとクレメンザとの違いが立ってて面白かったです。

Part2ラスト、ビトーの誕生日回想シーンではケーキを持って登場。
クレメンザ役の人は出演しなかったのに、この役者さんはこんなちょっとの出番だったのに出てくれたんですね。

「仕方がなかった。I always liked him.」

堅気の道行ってたマイケルが好きで認めてたのはホントだったんだろうなあ。

ベテラン管理職のあの人がなぜ転職!?みたいな人で裏切り者だけど大人になるとじーんと沁みるキャラでした。

 

◆カルロ(登場:1)

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妻を紹介してくれた義兄ソニーを平気で売り飛ばし、妊婦にも手を挙げるDV野郎と、度し難いクズなのでラストに粛清されるシーンにはスッキリしてしまいます。

カルロはいつから裏切ってたのか??

原作を読むと結婚前からスパイだったわけではなく、権力者一族に入ったものの重職に就かせてもらえずドンを逆恨み、コニーを殴ることで自分はコルレオーネより上だと優越感に浸る。

しかしソニーにDVがバレてさらなる報復を恐れた&抗争激化で自分の担当の賭博場もなくなり不満が蓄積したので裏切り…そんな流れっぽいです。

シシリア人と北イタリア人のハーフらしく、コルレオーネファミリーを初めから見下してそうな感じ。

胸糞キャラとして光ってました。

 

◆パン屋のエンツォ(登場:1、3)

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強制送還されるところをドン・ビトーに救われたパン屋の義理の息子。「ゴッドファーザーのためならなんでも」と病院に花束持って駆けつけアツい義理人情をみせてくれます。

ピンチ切り抜けたあとブルブル震えた手で煙草持つエンツォに対し、全く震えてないマイケルの胆力、2人の対比が素晴らしいです。

先日みた最終章ではパーティーで豪華なケーキ運んでました。ずっとファミリーと付き合いあったんだなあとほっこりです。

 

◆ルカ・ブラージ(登場:1)

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冒頭結婚式のシーンで何度もお祝いの練習してるのが微笑ましい強面の殺し屋。

まさか登場後あっけなく死んでしまうなんて…衝撃の展開に一気に引き込まれます。

結婚式でのビトーの態度がそっけなく見えますが、原作読むと自分の赤子に手をかけるというかなりヤバい人物だということが判明。

汚れ仕事専門とビトーが距離を置いているのに納得させられました。

 

◆アルベルト・ネリ(登場:1,2,3)

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フレドを射殺した用心棒。1作目後半から既に登場していて、警官姿でバルジーニを射殺、ラストシーンにてケイと隔てる扉を閉めてたのもこのアル。

原作読むとマイケルにとってのルカ・ブラージがこの人だと言われています。優秀な警察官だったけど行きすぎた行動で処分を食らってたのをコルレオーネファミリーが救出してスカウト。

最終章でも裏切り者の大司教殺りにバチカンに潜入って優秀すぎる…!

冷徹な気質がマイケルとぴったり合ったのか3作全部に登場という通してみると作中1の忠臣でした。

 

ロッコ・ランポーネ(登場:1,2)

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出番が非常に少なく顔も覚えにくいですが興味深い言動で気になるキャラクターです。

1作目ではクレメンザと組んでポーリーを車の背後から絞め殺す、女とベッドに入ってたフィリップ・タッタリアを射殺と、汚れ仕事をテキパキこなしていました。

最大の見せ場はPart2終盤、ハイマン・ロスを空港で射殺するシーン。

殺ったが最後、自分も帰って来れないのは必然だろうにそれでも行ったのはやはりかつてのボス・クレメンザの仇をとるためだったのでしょうか。

同じく2の冒頭、ロスの部下・ジョニーがマイケルに謁見する際には意味深にオレンジを手渡し人払いされてもなかなかその場を離れませんでした。

「クレメンザは心臓麻痺じゃなくてコイツらに殺された」とボスのマイケルに怒りを訴えていたように見えます。地味にみえて徹底した仕事してる渋キャラの印象。

 

◆パット・ギアリー上院議員(登場:2)

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こんな政治家いそうやな、と思わせる素晴らしいクズキャラでした。

「君たちのような人種は好かん」と堂々差別してたのにコルレオーネに弱み握られてからの公聴会、「イタリア系はアメリカの大地の塩」とか人権擁護の演説を堂々と宣うのが滑稽すぎて笑えます。

とんだ保身野郎ですが敵のままにしとけばネチネチ責めてきそうなので味方にしといてきっと大正解。

SMプレイしてたら女性が血まみれに…身寄りのない売春婦は消されてもなにも残らない…。実際にこういうトラップがありそうだと思わせる恐いシーンでした。ここみるとマフィアあかんわーと一気に正気に戻ります。

コッポラのオーディオコメンタリーによると「ポマード頭などの台詞は役者さんのアドリブだった」と言ってて、この人もかなり上手な俳優さんだったのではないかと思いました。

 

◆ハイマン・ロス(登場:2)

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マネーロンダリングの構造を発明したといわれる実在の知性派ギャング、メイヤー・ランスキーをモデルにしたキャラクター。

フランクをわざと生かしてFBIの証人にさせるという巧妙な策略が恐ろしい。

キューバの利権分割を象徴したケーキカットのシーンも印象的ですが、本人は「小さいピースでいい」と一言。

マイケルには巨額出資(賄賂)を用意させておきながら実はロスも革命を読んでいて自分は大損しないように手を打ってたりして…

マイケルがゲリラ兵士のことを「金のために戦ってない」と言ってましたが、一見2人の覇権争いにみえつつモー・グリーンを失った復讐劇も抱えている…お互いどこまで読んでいたのか複雑で観るたび考えさせられます。

殺し屋が向かった際、タイミングよくゲリラ軍が勝利したため政府の軍がそれを知らせにロスの下へ…間一髪で死を逃れる〝運の強さ〟も強敵感に満ちていました。

演じるリー・ストラスバーグアメリカきっての有名俳優養成所の先生。パチーノやデ・ニーロの師匠がボス役やってるというのも胸熱で圧倒的な迫力でした。

 

◆フランキー/フランク・ペンタンジェリ(登場:2)

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クレメンザ役の役者さんが脚本の内容に口出しして出演しなかったため代わりに登場したキャラクター。

クレメンザ不在は残念ですが、この役者さん、かなり上手で不足を充分補っていたのではないかと思います。

冒頭のパーティーからアメリカ人に帰化してたまるか!のイタリア頑固親父っぷりを見せてくれ、合法アメリカ人を目指すマイケルと対照的。崩れ去るPart1の男の世界を体現してくれてるようでした。

公聴会のシーンは兄が人質にされたからブルって発言撤回したのだと思ってましたが、あの兄の登場でロスの策略だったと全て悟ったような節がありそれだけ信用できる兄貴だったということでしょうか。

兄を殺すマイケルが兄弟の絆を利用するのも何だか皮肉に思えます。

金網越しにトムとローマ帝国の話をする場面。自殺を強要している恐ろしい場面ですが、遠まわしな会話ですべてを理解し家族は守られると納得するフランクが切ない…

マイケルにとってはさぞ扱いにくい部下だったでしょうが、抗争に翻弄される姿がどこか哀れでした。


◆アポロニア(登場:1)

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彼女の死は2、3にまで続くマイケルの悲劇だったなーと通してみると1番悲壮な死だったように思います。

親父さんに許可もらってのデート、道歩いてて躓いちゃう不器用さが可愛い〜と思ってたら、原作読むとマイケルに近づくためにわざとやってたことが分かりその強かさにびっくりです(笑)。

生きていれば逞しい母となりコルレオーネ家を支えただろうなー、皆に可愛がられただろうなーと想像してしまう。マイケルもフレド殺さなかったんじゃないだろうかとその死がいつまでも悔やまれます。

最終章、なぜ彼女のダンスシーンをカットしてしまったし。

 

久々に原作本も読み返してみましたが、1作目全部と2のビトー回想シーンを網羅、映画では出番の少ない歌手・ジョニーのエピソードが掘り下げられていて面白いです。

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1つのキャラクターとっても多角的に話を解釈できるのがゴッドファーザーのすごいところだと思います。また定期的にみかえしたい。

 

「ゴッドファーザー 最終章 マイケル・コルレオーネの最期」/強いコッポラの思い入れ、外伝ならアリか

最終章とタイトルが変えられてのPartⅢがこの度初リリース。U-NEXTも期間限定で配信していたのでそちらで先に鑑賞しました。

制作当時からコッポラはこのタイトルを希望してたものの会社から了承が得られず泣く泣く変更したそうです。

1、2でめちゃくちゃ綺麗に話が終わってて、Part3と言われると釈然としないけど外伝的な立ち位置だと言われるとありかも。

トム役のロバート・デュヴァルが出演を断り、マイケルの娘役だったウィノナ・ライダーが土壇場で降板、ソフィア・コッポラにチェンジとトラブルも多かったみたいですね。

個人的にはキリスト教の教養がないのと、あとコッポラのマイケルへの思い入れが強すぎてちょっと美化して描きすぎじゃないかなーと、やっぱり前2作と比べると格段に落ちる印象でした。

老いて自分の人生を振り返るという内容的にもより歳を重ねたときに良さが分かる作品なのかもしれません。

 

バチカンは真っ黒

前作から約20年、1979年ニューヨーク。
マイケルはやっぱり偉かったみたいで非合法ビジネスから脱却しつつも大金持ちになってました。

財団をつくりバチカンから叙勲もされましたが、半沢直樹に出てきそうなクズ、バチカン大司教から「7.7億ドル損失しちゃった。お金振り込んでくれない?」と財政危機救済を懇願されます。

代わりにバチカンと繋がりの深い世界有数の企業の経営権を譲るということでしたが、金振り込んだあとに経営陣から激しい妨害に遭い、話はパア。

なんとバチカン司教と経営陣は最初からグルでマイケルから金をむしりとっただけとトンデモない悪党です。

今作に登場する敵役は実際にあった事件や政治家をモデルにしてるそうですが、ラスボスが教会っていうのは面白いです。

 

ソニーの息子、ビンセント現る

一方マイケルの息子アンソニーはフレドの死をひきずりマフィア家業を忌み嫌っていました。なんとオペラ歌手になることを希望。

跡継ぎどうするよ!?コニーの薦めでソニー婚外子(Part1の結婚式でやってた女性の子供)ビンセントを側に置いて見習いさせます。

ソニーに似て短気、どうみてもドンの器じゃなさそうで他に人材いなかったのか!?と思ってしまいます。

そしてそんなビンセントとマイケルの娘メアリーがいとこ同士で恋に落ちてしまうのですが…

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ニョッキ捏ねてたらフォーリンラブ!!って斬新だわ。

ソフィア・コッポラは当時叩かれたそうですが、無垢なお嬢様って感じで今みると別に悪くない。

それより2人の恋の設定があまりに古典的すぎて全くノれませんでした。
最後にメアリー死ぬにしても恋愛エピソードなしで充分悲しみ伝わったんじゃないかな。(アポロニアと対比したかったんだろうけど)

むしろ親の呪縛から離れて好きな職業に就く息子とのドラマの方がもっと観たかった気がします。

他メンバーではトムの息子が聖職者になっていました。ドイツ系アイルランド人のトムは元々カトリック系?イタリア人になりたくてもなれなかった父親の想いを継いでこの道を選んだのかな…出番がないのにトムの悲しみを感じるようでした。

 

◆フレドの死の真相は皆知っている?

息子アンソニーとケイは完全にマイケルがフレドを殺したと確信していて、娘のメアリーも「お父さんが殺したの?」と尋ねていました。

ファミリーの内輪で勘づくくらいフレドの死は不審なものだったんでしょう。

ところがコニーは、
「時々湖で溺れ死んだフレドの事を思い出すの。神に召されたのよ。悲しい事故だったけど。過去のことよ。」などと話していました。

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この後コニー自ら名付け親を手にかけることを考えても、「そういうことにしときましょう」と兄を慰めてるのかと思いました。お兄ちゃん、あの殺人は仕方なかったよ、と。

1のカルロ殺害に激怒してた頃から考えると物凄い成長のコニー、逞しいです。

反対にマイケルの方が弱って普通の人になってしまいました。

 

◆許されたいマイケル

マイケルはバチカン内で信頼できる人物だというランベルト枢機卿を訪問することに。

ここでフレドを殺した罪を告白しますが…
「恐ろしい罪だ。神は救ってくださるが。」

救ってくれるんかい。キリスト教の「悔い改める」っていう行いが理解できてないのでこの辺りも感動が薄いのが残念です。

ランベルト枢機卿ヨハネ・パウロ1世がモデルだといわれていて、クリーンな人物だったために就任後わずか1ヶ月で毒殺されたという暗殺説が残っている人物。バチカンどうなってるんだ。

 

しかし宗教のことはさておき、「歳をとったらいい人生だと思って死を迎えたい」っていうのは皆老いるとそういう気持ちになるものなのかなと思います。

ケイと再会してかつてアポロニアと住んでいた町を巡るシーン。
「別れた妻が自分をずっと思ってくれている」と、女から見ると都合よくみえますが、年取ると丸くなり、昔のことを多少は水に流せるようになって、古い絆が恋しくなるものなのかもしれません。

名監督が晩年に撮る作品には自分の人生の贖罪みたいなのがあるのかなーと思いますが、コッポラにとってはこの作品がそれなのかなと思いました。


◆古き良きマフィアの死

今回旧知のマフィアとの抗争も描かれますが、1番いいキャラしてるのはイーライ・ウォラック演じるドン・アルトベッロ。

「わし、もう欲はないんじゃ。」と朗らかに語る優しそうなおじいちゃんが裏切り者。イタリア政財界の大物と組んでマイケルを亡き者にしようとしてました。

反対にマイケルに力添えしてくれるのはドン・トマシーノという1にも2にも出てきた地元の信望厚いおじいちゃん。

マリオ・プーゾの原作によると、シシリアンマフィアの起源については「教会や貴族からの搾取で苦しんだ人たちが救いを求めた保護者的存在がマフィアだった」とあります。

スコセッシは「ゴッドファーザーはマフィアを良く描きすぎ」と言ってたらしいですし、実際そんないいもんだったのか疑問ですが…

しかしPart2のビトの回想シーンを観ても、弱者への救済が薄いアメリカ社会で厳しい生活を強いられたイタリア系移民が、自助的なコミュニティを求めたものがマフィアとなっていった…そんな背景なのかな、と思います。

そして社会基盤が整ううちにどんどんアウトサイダーとなっていった。

古き良きマフィアの代表格、ドン・トマシーノをやられたマイケルが教会相手に再度復讐に立ち上がるのは、コルレオーネサイドをいいもんにしすぎな気もしますが、そんな背景もあって因縁の対決!?なのかもしれません。

 

◆オリジナル版と今回の違い

クライマックスはオペラシーンと同時進行で粛清が進みます。

前作までは身内の裏切り者あぶり出して復讐するのがカタルシスでしたが、今作は敵と分かりきった人たちが死んでいくだけで、あんまり盛り上がれない。

殺し屋のキャラも魅力不足に思えました。

最後のメアリーの死はマイケルがとことん可哀想です。Part2のラストで孤独な人生をだったことはもう確定していて、親の因果が子に行くエンドはもうビトー→マイケルで充分だったのに、虚しいラストでした。

オリジナル版では老齢になったマイケルがガタッと椅子から転げて死ぬところでエンドロールだったと思いますが、最終版はその直前、マイケルがサングラスかけるとこでフェードアウトして転がるところはカットされてました。

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前回の方がビトーとの対比が極まってて「どんな大物でも死は平等に訪れる」と印象的な終わり方だったのになぜ変えたのか…”死”よりも”天に召された”という救いを強調したかったように見えました。

それに加え、メアリーが撃たれたあとからの”回想シーン”も違っていて、前回はメアリー→アポロニア→ケイとマイケルの愛した女性たちが走馬灯のように踊るのが美しかったのに、メアリーとのダンスシーンだけになってました。

ここも映像と音楽のつなぎがちぐはぐになってて前の方がよかったです。

その他大きく違っているのは、オープニングのマイケルの叙勲式がカット、バチカンとの遣り取りのシーンを最初に持ってきているという構成の変更で、僅かな違いですが、全体的にもったりしてたのを引き締めたかったのかと思いました。

 

コッポラ的にはシリーズへの愛着が並々ならず死ぬ前にもう1度…と今回の再編集に至ったのでしょうか。

映画を改めてみてもコッポラ個人の回想録、ファミリームービーの毛色が強く、普遍的な家族ドラマとして成立してた前作ほど響くものがありませんでしたが、おまけの外伝として観るには充分。

3作目だけ記憶が薄かったので、この機会に改めてきちんとみれてスッキリでした。

 

「ゴッドファーザー」の残念なお兄ちゃん、フレド・コルレオーネをふり返る

今月、コッポラが新たに編集しなおしたという「ゴッドファーザーIII」がBlu-rayになって発売されるとのこと。

※U-NESTで今月末まで先行配信もしてます

1と2は何回も観てるのに、3はぼんやりした記憶しかない…。この機会に見直してみるかー、でもその前に1と2復習しておきたいなーと思って分割になりつつ観たところ、
やっぱゴッドファーザー面白!!と夢中になってしまいました。

観るたびに前に気付かなかったところに気付いて好きなキャラクターが変わったりしますが、昔は「どーしよーもない奴やなー」と思ってたフレド。

フレドの辛さも分かるなー、生まれる家選べずあんな兄弟にサンドされてたらたまらんやろなー…でもやっぱりどーしよーもない奴やなーと無限ループに陥ります(笑)。

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3を観るに当たってもマイケルがフレド殺ったという罪が大きなポイントだろうと思うので、1&2のフレド登場シーンを振り返り、この兄弟の悲劇についてあれこれ考えてみたいと思います。

 

◆Part1のフレド

・結婚式のシーン
1では出番の少ないフレド、ファミリーの全体像がみえる重要な結婚式のシーンでもほとんど登場せず。

マイケルの彼女のケイに挨拶してる場面でちょこっと出てくるだけで、「優しそうなお兄ちゃん」くらいの印象しか残しません。

 

・襲撃されるドン
ドンの襲撃時に運転手を務めてたフレド。

動揺して拳銃を落っことしアタフタしまくるという情けない姿を披露。撃たれたドンの生死も確かめず、その場で泣き崩れるというどうしようもないヘタレっぷりです。

本当はポーリが用心棒として付くはずだったのに風邪でお休み、「病気には勝てないよ」言って付き添いを買って出た優しいフレド。

マイケルだったら勘がよくてこの地点で異変に気付きそうなんだけどなー。

後のシーンではクレメンザが「フレドに代わりをつけるかと言ったがいらないと言った」と話していてこれもホントなんでしょう。

危機感がなくマフィアにはとことん向かないおっとり屋さんのフレド。目の前でパパを撃たれて何も出来ず相当罪悪感を背負ったのではないかと思います。

 

・フレドのベガス行き決定
抗争中戦闘力になるわけでもなく、しかし放っておけば命を狙われるフレドの処遇にファミリーは困っていたものだと思われます。

そこで兼ねてから新ビジネスを企てていたラスベガスにフレドを送ることに。

ベガスは5大ファミリーの抗争圏外で、コルレオーネと親しいモリナリファミリーが安全を保証してくれるとのこと。

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でもフレド的には、このときから追いやられたと感じていたのかもしれません。

 

・ドンの部屋に向かうフレド
ドン不在で家族がギスギスしてる食事シーン。
カルロが料理を取り分けていますが、フレドが最後にお皿を渡されているようで家族の中でとことん軽く見られてそうです。

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そのあとフレドはそっと1人ドンの休んでいる部屋へ。

パパが心配な優しいお兄ちゃんにみえますが、やっぱりドンがいないと家はダメだと言わんばかりで、誰よりも父親への依存度が高いパパっ子にも見えます。

 

・モー・グリーンの肩を持つフレド
マイケルがドンの代わりを務めるようになり、ベガスでのビジネスに本格的に乗り出そうとモー・グリーンからカジノやホテルを買い取ろうと企てます。

先にベガスに行ってたフレドが案内役として現れるもめっちゃチャラい見た目になってます。

「困ったときにフレドを預けといて」
「それで兄貴を殴ったのか」

コルレオーネファミリーが出資してるカジノを赤字にしておきながら強気なモー・グリーン。「コルレオーネは先代ドンがいなくなってオワコン」とナメくさってるからでしょう。完全にバルジーニに鞍替えしたようです。

しかしフレドにはファミリーの誇りが全くなくモーに媚びようとします。

Part2は元々作られる予定はなく、1のヒットを受けて急遽つくることになったそうですが、まるで続編への伏線のように思えるシーン。

しかしモーの言う「客をほったらかしてウエイトレスとイチャついてた」ってのは本当のことなんでしょうね。

原作ではフレドがベガスで5人の女を妊娠させてたという話があります。
カトリックのドンがフレドを遠ざけるようになるのは、息子が優秀ではないからではなく性へのだらしなさからなのですが、フレドはそんなこと知らない…

フレドのベガス出張、悪手だったとしか思えないですね。


◆Part2のフレド

前作から7年経過したPart2。フレドとマイケルの兄弟関係がドラマの主軸となっていきます。

・フレドの嫁がアカン
冒頭パーティーでフレドの妻が登場。ふしだらで頭空っぽ!!って感じでフレド本人もますますダラシない雰囲気になっています。

スケスケ衣装で踊ってすっ転ぶ妻を注意するも、皆のいる前で馬鹿にされるフレド。

自業自得以外の何物でもありませんが、こうやって常日頃からプライドがズタズタになっていたのでしょう。


・情報を流してたのはフレド!?
マイケルの寝室が銃撃に遭い大パニック。賢いマイケルはごく近しい者しか知りえない情報を流したのは身内だろうと早い段階で疑っていました。

その後のシーン、フレドの下にロスの手下・ジョニーから電話が掛かってきます。

「フランクがロサトに手打ちを申し込んできたから奴が1人で来るかどうか教えてくれ」
「だましやがって。もう電話してくるな。」

お前が裏切とったんかい!!オチを最後に持ってくるのではなく、前半からフレドがやらかしたと見せてくるところが最高に面白いです。

ただこの場面観てる限りではアホ兄貴がうっかりと1回こっきり騙されただけに見えるのですが…

 

ハバナにやって来たフレド
新ビジネスへの当資金(キューバ大統領への賄賂)を持って来たフレド、ファミリーの計画について蚊帳の外なのが面白くなさそうです。

「俺の知ってる奴はここにいるかな」とフレドが言うと「ロスにジョニー」とマイケルがカマをかけますが「知らんよ」とシラを切るフレド。

その後2人でレストランに行くと、
「お前の結婚がうらやましい。ケイ。子供のいる家庭。」「一生に一度くらい俺もパパみたいに」とフレドが愚痴りだします。

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皆陰で色々ありつつ幸せな結婚生活送るのに努力してんだよ!!そしてお前が助太刀した銃撃事件のせいでマイケルの家庭ボロボロだよ!!とツッコミたくなりますが、自分しか見えてません。

「ママによく騙された。私の息子じゃないって。本気にしたよ。」
そんな辛い話すんなやー、マッマそれは言ったらアカンやつやろ…

家父長制に誰よりも苦しめられながら、父親は神様、兄は弟より偉いという信仰から抜け出せないのがフレドの悲劇。一方的にマイケルへの不満を募らせていきます。

 

・やっぱりフレドが裏切ってた
アメリカ政府のお偉いさんを接待するためハバナの案内役になったフレド。

その中にロスの手下ジョニーがいるも「初めまして」とか言って取り繕ってくれてたのに、酔いの回ったフレドが自ら「この場所はジョニーに教えてもらった」などと大声で話し始めます。(ほんまにアホ)

こういう店で接待されながら飲んだくれて情報をホイホイ喋ったんだろうなーとその絵面が容易に思い浮かびます。

フレドを抱きしめてキスするマイケル、「やっぱりな。残念だ。」(You broke my heart)

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ここ切なすぎる…分かっててもお兄ちゃん信じてたかったのに…

そして革命軍への政権交代で大荒れになるキューバ、街中でフレドを見かけたマイケルは「フレド来いよ。まだ兄弟だ。」と声をかけますがフレドは怯えた小動物のように逃げ去っていきます。

でもマイケルが怖いというより弟の助けになるか!ってプライド持ってるから逃げたのかなと思います。


・まだ本気で怒ってないマイケル
ネバダに戻って来たマイケルがフレドは無事にキューバから脱出出来ただろうかとトムに尋ねると「ロスは自分の船で逃げた」と返事。

トムならではの皮肉で「フレドはロスと一緒に戻った」と言いたかったのでしょうか。

「彼は恐れてる。もういいんだと言うんだ。」「悪いのはロスだ。襲撃は知らなかった。」

Part2は誰が何をどこまで知って何考えてるか分かりにくいですね…

マイケルは本当にアホ兄貴を許す気だったのか、それともトムすら欺いてこの地点から殺すこと考えてたのか…
自分的にはこのときはマイケルはフレドは騙されただけだと思ってて殺すことまで考えてなかったんじゃないかなーと思います。

 

・マイケル、ガチで切れる
公聴会が開かれ絶体絶命のマイケル。ロス側と繋がりのあったフレドを尋ねると「襲撃のことは知らなかった」と言います。

これは本当でフレドはマイケルやケイが死ぬようなことは全く意図していなかったのだと思います。

しかし「俺のためになると言ったんだ」「尊敬されたいんだ」とか言い出すフレド。

自分がファミリーで優位に立ちたいからという身勝手な理由で家族を危険に晒したことがマイケルの逆鱗に触れたのだと思います。

さらには「委員会のクエスタッドはロスの仲間だ。」

重要な情報を知っていて黙っているなんてとんでもないし、敵とかなり繋がっていたようです。

しかもこれが全く悪気なく我が身可愛さとファミリーの危機を全く察知できない愚かさから来てるっていうのがタチ悪いです。

マイケルは絶縁を宣告、同時にこんな危険な存在は生かしておけないとこのときに殺害を決めたのではないでしょうか。

 

・許されたと勘違いするフレド
お母さんが亡くなってお葬式。コニーが「兄さんを許してやって」と嘆願、マイケルはフレドを許したかのように抱きしめます…けど汚れ仕事役のアルに目配せ。

「相手の懐に入って油断させる」と言う戦術を兄弟にまだ使ってしまうマイケルが哀しいです。

 

・ボート、祈るフレドの死
アルとボートに乗ったフレド、おまじないでお祈りを捧げている間に射殺されてしまいます。

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まるで自分がこれから死ぬことを知っているようにも見える哀しい姿ですが、何も分からないまま殺されたんじゃないかな、と思います。

とことん自分に甘く都合のいいことしか信じられない、用心棒役と2人きりの状況にも何も思わない勘の悪さ、それがフレドなんじゃないでしょうか。

哀しみを誘うのはフレドを慕っていたマイケルの長男、アンソニーの存在です。

繊細そうな性格でケイが去る際にママにキスしなかったりと父親思いのパパっ子、フレドとすごく気が合ったんでしょうね。

3でこの息子がドンにならずマイケルが跡継ぎ探しに困るというのは因果だなーと思ってしまいます。

 

・マイケルはドンになりたくなかった
最後に流れる回想シーン。

海軍に志願したマイケルを皆が驚き非難しますが、フレドだけが「偉いよ、おめでとう」と手を差し出します。 

マイケルも昔は優男三男坊として周りから軽く見られがちでしたが、家の縛りに囚われず、自ら生きる道を模索している弟をフレドは1番認めていたのかもしれません。

しかし結局1番家業に興味なかったマイケルが最もドンの資質を受け継いでいて、何の資質もないフレドが1番父親の世界に憧れ続けていて…というのが何とも皮肉です。

フレド的にはファミリーのはぐれ者仲間だと思ってた弟に置いてけぼりにされてものすごい嫉妬だったんでしょうね。

家族の中で1人だけ居場所がないってどんなに辛いことなのか…しかし本人も益々周りに依存するばかりなので本当にどうしようもない気持ちになります。

 

マイケルはフレドの命まで取る必要はなかっただろうと外野からみると考えてしまいますが、弱肉強食の世界の中でファミリーを守るための行動で、マイケル的には「裏切り者は殺す」という父の代からの鉄則を守ったのでしょう。

裏の世界から表の世界へ…上に行くほど敵は狡猾で時代も変わり義理人情の世界ではもう生き残れない。

アメリカ人として器用にやって行こうとしたマイケルですが、結局代々受け継いでいる気質を捨てられず、堕胎を許せずケイを失う、裏切り者を許せず掟守って兄を失う…と血の呪縛から逃れられなかったマイケルの悲劇。

改めてみると陰鬱な家族ドラマだなーと思います。(でもそこが良い)


1と2であまりにも完成されてて3いるのか??多分3の宗教的なテーマが観ても分からんやろなーと思いつつ3も続けて観たいと思います。

 

「ゴーストワールド」/押し寄せるブシェミ萌え、オタクに沁みる青春映画

サブカルおしゃれ映画っぽいポスターとは裏腹にグサグサくる作品でした。

ゴーストワールド [DVD]

ゴーストワールド [DVD]

  • 発売日: 2009/06/19
  • メディア: DVD
 

高校のはぐれ者コンビ、イーニドとレベッカ
卒業後も2人仲良く過ごすはずが、自立への道を歩み始めるレベッカに対し、無気力な毎日を繰り返してしまうイーニド。
2人の間には次第に距離が出来てしまう…

2人のダサかわファッションが1周まわってオシャレ。

「ワタシ皆とちょっと違うのよ」っていうサブカル女子。自分は皆より大人だと勘違いして心閉ざしたり若い時はこんなもんだよなー、かつての自分をみているようでグサグサ突き刺さります(笑)。

しかし気の合う親友だったレベッカが「何もしないままでは居られない」とカフェでバイトをするようになります。

嫌な客は来るし我慢しなきゃいけないこともあるけど、生活していくってのはそれだけ大変なこと。選べない人間関係の中で揉まれて狭い世界から抜け出していくレベッカ

一方イーニドは周りを見下しつつ普通になることを拒んで次第に孤立していきます。

自分は特別な人間なのだと開き直っていればいっそ楽でしょうが、彼女はもっと賢くて自分の不器用さ、甘さを内心認めているからこそ余計に傷ついていきます。

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イーニドが美術の補修を受けているシーン。

クラスメイトが訳のわからんオブジェ提出して「これは女性の権利を描いてます」って言って先生に褒められてるの、うっざ!!ってみてるの、めっちゃ分かる(笑)。

学校に1人か2人はいそうな自己陶酔型の嫌な教師が痛すぎて何だか笑ってしまいますが、好きな分野でも決して自分のありのままが受け入れられるわけではない。

誰かに認められたいという思いと、自分を偽るのは嫌だっていう思いと…イーニドの純粋さも分かるなあと観てると切ない気持ちになります。

 

そんなイーニドが意気投合したのがオタクのおっさん、シーモアスティーヴ・ブシェミ)。

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薦めたレコードを褒められて嬉しさを隠しきれないところとか、ブシェミの国境を越えるオタクオーラがハンパない(笑)。

初めはからかってたイーニドですが、なぜかどんどんこのブシェミに惹かれていきます。

不器用で生き辛さを抱えつつも「自分の世界」を持っている人。

仕事があって、趣味があって、おまけにそれを分かち合える知人までいて、それで充分幸せなんじゃないかと思いました。

「大きな夢や目標を持って好きなことをして生きる」…世の中それが実現できるすごい人ばかりではなくて、好きなことに支えられながら日々生きる人もいる。

イーニドが「あなたは私のヒーローよ」と言ったのは、自分と似た内面を抱えつつも自分らしさを失わずにこの世界で生きているシーモアへの尊敬の気持ちではないかと思いました。

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決してイケメンではないブシェミ、静かに好きなものを愛する姿が何とも言えない不思議な魅力です。

イーニドとシーモア付き合っちゃうの??めっちゃ歳離れてるけどどーなんの!?って観てたらイーニドがさんざん利用した挙句去るっていうめちゃくちゃ可哀想なブシェミ。

イーニドのシーモアのことを好きな気持ちも嘘ではなかったんだろうけどいかんせん不安定な10代、マジになったシーモアの気持ちとは差がありすぎました。

彼と付き合っても依存的になるだけだと最後に離れたのは正解だと思います。

 

途中イーニドの計らいで同年代の女性といい感じにもなってたシーモアですが、これもまたビミョーな関係でお洒落なジーンズプレゼントされて「有難いよね」って言ってるとことか何とも言えない気持ちになります。

趣味も性格も合わない人と無理して付き合うのが果たして幸せなのか…誰かと一緒になるってある程度の妥協、歩み寄りは必要だから割り切るべきところなのか…どっちが幸せなんだーとみてて溜息がでます。

そもそもあの女性、彼氏と別れたばっかりで、前から切り取ってた広告に電話してくるってどうなんだろ。

シーモアの趣味を破壊しそうな相手にみえて「その女もやめとけー!!」と思ってしまいました。

 
◆曖昧なラスト、意外な暗さ

ラストはハッキリしなくて、イーニドが来ないはずの謎のバスに乗って街を出て行くという曖昧で幻想的なエンディングでした。

この世に居場所を見つけられずにあの世に旅立った…と考えるのは悲観的すぎる気がするし、新しい場所で幸せになりました…と思うには楽観的すぎるような気がするし…
彼女のフラフラした不安定さを描いただけのように思いますが、あのまま宛所なくずっとバスに乗ってそうな気もして暗さを感じるエンディングでした。

最後にイーニドと会ったレベッカが「電話してね」って親友気遣ってたのが優しかったです。


有名なコミックらしい原作は未読なのですが、〝モブ〟の人たちのパンチ力も素晴らしく、シリアスに寄りすぎてないバランスが絶妙でした。

音楽も妙に耳に残って、ゆるっとしてるようで高い完成度の作品でした。

 

「レモ/第1の挑戦」…シナンジュって何!?80年代癒し系アクション

世の中には続編をつくる気満々で製作したもののさしてヒットせず自然にフェードアウトしたような作品があるものかと思います。

この「レモ」も第1の挑戦というタイトルからしてシリーズ化を狙う気満々だったようですが第2の挑戦には至らなかったようで…(原題はRemo Williams: The Adventure Begins)

確かにお話はめちゃくちゃなのですが、光るところも多々あってあまり陽が当たらないのがとても惜しく思われる作品です。

ニューヨーク市警のサムはある日街のゴロツキを成敗したあと、謎の車に襲われ海に沈められます。

病院で目が覚めるとなぜか自分の顔が別人に…

そこへ謎のエージェントがやって来てサムをある組織にスカウトしに来たのだと話します。

大統領直属の命を受け、法の目をかい潜っている悪を成敗する非公式の組織…今風に例えると「キングスマン」的な世界観でしょうか。

それにしても本人の同意も得ず世間的には死んだことにするって非人道的すぎます。

おまけに勝手に整形までされてしまうも、地味顔から地味顔にチェンジという何とも夢のない変身。

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サムからレモと名前まで変えられた主人公、早速本部へ赴くとそこには巨大コンピュータがたくさん。

「全米の情報が集まるコンピュータで悪党共の動きを探ってるんだ。」…そんなすごい機械があるというのにメンバーは、所長、スカウトマン、レモの3人だけという不安すぎる組織。

その上レモに暗殺を命じておきながら「我々の組織では銃を使ってはならない」と厳しい命令を下し、レモはチュンという年老いた韓国人に弟子入りすることになります。

すべての武術の始祖だというシナンジュの達人・チュン師匠、なんと弾丸を避ける…!!

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普通に動いてるだけにしか見えないのはきっと気のせい(笑)。相手が撃つときの筋肉の動きから弾道を予測して避けるらしいです。

マトリックス」以前にこんな厨二患者の夢を叶える存在がいたのかーと驚きですが、このチュン師匠のキャラが本作で1番魅力的な存在。

”アジア人を演じるのが特殊メイクした白人俳優”と昨今のポリコレ的には完全にアウトな存在ですが、口うるさくも主人公をそっと見守り助けてくれるという少年漫画に出てきそうな師匠キャラがたまりません。

「お前らの国のただ1つの芸術だ」と昼メロに夢中なのが可愛らしく、「ファーストフードを食べてるとあの世に早く(fast)行ける」など切れっ切れなジョークも炸裂。

演じるジョエル・グレイはブロードウェイ出身の俳優さんだそうで、ダンスのような動きが綺麗です。


そんな師匠との修行シーンがとても丁寧に描かれているのがまた素晴らしく、観覧車にぶら下がって鍛えるなど画的にも面白い場面が続きます。

レモが徐々に力を付けていくのが胸熱、最終的には水の上を走れるように。コツはなるべく速く走ることって小学生が考えそうなことばっかり真剣にやってくれます。

格闘や銃撃戦がないものの、代わりに見応えがあるのはレモのパルクール的!?アクション。

何かによじ登る、捕まる、土台の悪いところを移動するというアクションが通してみると1番多く、特に補装中の自由の女神でのアクションシーンは大迫力…!!

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どうやって撮ったんだろうとヒヤヒヤ、女神の腕をスルーっと滑り台みたいに落ちていくのも童心をくすぐります。

レモの謀殺のターゲットは宇宙産業に投資してる軍需産業の社長。てっきり地球滅亡とか壮大な陰謀があるのかと思いきや、宇宙計画を隠蓑に私腹を肥やしてただけってスケールの大きいような、小さいような…ラスボスの魅力とスパイものの緊張感がまるでないのは残念です。

しかしダイヤを歯に埋め込んだ刺客のお兄さんや味方になるツンデレっぽい女性少佐はキャラが立っていい感じ。

ヒロインとはロマンスに発展するかと思いきや何も無し…けど、このモサい主人公にはそれがピッタリかも。

ラストにレモが弾丸避けまくる姿はカタルシスです!!


2000年代に公開された「チャーリーズ・エンジェル」では銃社会への反論なのか「敵は銃を使うがエンジェルたちには銃を使わせないようにした」とプロデューサーのドリュー・バリモアが語っていました。

「レモ」にはそんな深いメッセージがあるとは到底思えませんが、筋肉と火力がモノを言っていた80年代のアメリカンアクションで銃なしで戦う主人公って珍しかったんじゃないでしょうか。

特攻野郎Aチーム」をオリエンタルにした感じ??のノリの良い音楽も聴いてると元気がモリモリ湧いて来ます。

なぜか見終わったあとには「守りたいこの笑顔」と思わせる中年男レモに癒される優しい作品です。続編、あってもよかったのにね。

 

「サスペリア・テルザ」…俺たちはファミリー!!ガッカリでもニッコリな最終作

少し遅れて知ったのですが、11月26日に女優のダリア・ニコロディが亡くなられたとのこと。

サスペリア2」のジャンナ役が1番有名かと思いますが、アルジェント作品ではよく見かけるお顔。

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ダリオ・アルジェントとは籍は入れてなかったみたいですが結婚してたようなもんで、娘アーシア・アルジェントを出産。別れたあとも元夫の作品に出演したりと親交は続いていたようです。

今年は映画界も訃報の多い1年でしたが、70歳とまだそんなにお年でもないのに悲しいニュース。

追悼ということで今回は魔女3部作の最終作「サスペリア・テルザ 最後の魔女」を振り返ってみたいと思います。

サスペリア・テルザ 最後の魔女 [Blu-ray]
 

昔々、ある3人の邪悪な魔女がおりました。

フライブルグに住んでたマーテル・サスペリオルム(嘆きの母)はバレリーナにやられて死亡。ニューヨークに住んでたマーテル・テネブラルム(暗闇の母)は正体を悟られ館を燃やしてどっかに消失。

最後の1人マーテル・ラクリマルム(涙の母)が登場するのが本作です。

主人公はアーシア・アルジェント演じる美術の修復作業を学ぶ研究生サラ。(お父さん似)

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ある日謎の遺品入れが館長宛に届くも「先に開けちゃおうよ」と勝手に調べ出す副館長。

短剣やローブ、見ざる聞かざる言わざるみたいな変な像が入ってるのを確認するも、どこからともなく実物の猿と化物のような人間が突然あらわれ、襲われる副館長。

はらわたを引きずり出され自分の腸で首を締められるというグロすぎる死を遂げます。

サスペリア」や「インフェルノ」も残酷だったけど、不快さは少ない、フェティシズムを感じる殺し方で、「痛さが伝わってくる」のが素晴らしかったと思うのですが、こっちはグロいだけの何だか汚い死に様。アルジェントのセンスの低下を感じざるを得ません。

副館長死亡を目撃したサラは警察で事情聴取を受け、館長で恋人のマイケルのもとに身を寄せるもオカルト科学の話をされてポカーン。

しかし!!実は先の品々は魔女の遺物で、それによって力を取り戻したマーテル・ラクリマルムによって、ローマの街は混沌と化していくのでした。

そしてサラは魔女の仲間だと思われる一味になぜかつけ狙われるようになるのですが…

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ハロウィンで騒ぐヤンキーみたいで、全く怖くない魔女一味。

その正体をひた隠し、静かに使う魔力で物事を支配していた「サスペリア」の魔女たちには本物感があって恐ろしかったのに、なぜこんな知性のかけらもなさそうな一味にしてしまったのか…しかも警察が来たら普通に逃げる(笑)。

サラも事件の犯人だと疑われて警察に追われますが、脳内にオビ・ワン・ケノービのように語りかけてくる女性の声をききます。

声に導かれ意識を高めると透明人間になれるというサイキックを発揮…!

さらには電車まで尾けてきた魔女一味の1人をトイレのドアをガンガンぶつけて頭部破壊、返り討ちに!!ここはアルジェントっぽい&フルチっぽい感じがするいい殺し方。

 

例の遺品が発見された村を訪れたサラは、母の友人だったという霊能力者マルタと出会い、自分の出生の秘密を知ることになります。

サラの母エリザはかつて最強の白魔女で、マーテル・サスペリオルムを死ぬ寸前にまで追いやり、その戦いの代償として亡くなった。
そしてサラにもその能力が引き継がれているため魔女軍団が彼女の命を狙っているのだと言います。

なんかハリー・ポッターみたいな話になってきたな。

でも「サスペリア」の魔女(マルコス)が息も絶え絶えのバーサンだったのは、大バトルのあとだったからなのかーと後付けの設定にちょっとワクワク。

 

マルタのもとに身を寄せたサラは母の霊を視認できるようになりますが、この霊体母エリザを演じるのがアーシアの実母ダリア・ニコロディ。

亡くなったのは若い頃だろうに、なぜか実年齢分の年取ってるエリザ。アルジェントの霊世界謎すぎんよ。

けど娘のピンチに現れてこの世の人間までとっ捕まえちゃう母ちゃんカッコいいです。

 

しかし恩人マルタのもとにはマーテル本人があらわれ、槍を股に突き刺されて頭まで裂けるという悲惨な死を遂げます。

ところどころCGを使ってるようですが、なんか安っぽい。昔の作品にあったような殺されるまでの不穏さ、殺しまでのタメがないのもガッカリですね。

しかしローマはますます混沌とし、走るゾンビみたいな人間が街を占拠。「私が魔女を殺るしかない!」と立ち上がったサラ、どっからともなく現れた刑事とともにマーテルの本拠地に突入。

アジトがローマの地下墓地なのは雰囲気があっていいです。

魔女一味に捕らえられた2人はピンチに陥りますが、サラがサッと魔女のローブを剥ぎ取ると、アラ不思議。

いきなり地面が揺れ、魔女は絶叫し倒れてきたオベリスクに刺されて死亡。邪悪なものはすべて打ち砕かれてハッピーエンドを迎えます。

 

今回のラスボス〝涙の母〟は過去にも一度「インフェルノ」でその姿を見せていましたが、そのときは猫を抱く謎めいた美女でした。

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一言も話さない、ただその姿と窓から入れる風で全てを思いのままにしてしまう…ほんの僅かな出演シーンでとんでもない強敵感を醸していたものでした。

それに引き換え本作では、洗濯失敗して縮んだみたいなシャツ着て騒ぐだけと、どうみても小物だったのは本当に残念です。

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年を取ってからも全盛期のように傑作を撮り続けられる監督はごく僅かだと思うのですが、過去2作と比べると相当のパワーダウン。クラウディオ・シモネッティの音楽ともどもかつてのような切れ味は全くなくてガッカリ映画になってしまっているのだけど…

でもなぜか見終えたあとにホッコリしたあったかい気持ちが訪れる不思議な作品になっていたと思います。

最後にアジトから脱出し、いきなり笑い出すサラと刑事。

1作目「サスペリア」と全く同じ終わり方ですが、今度は雨も止んでいて1人じゃなくて2人。
よかったね、とこのシーンを観ただけでなぜだか嬉しくニッコリとなってしまいます。

 

もともと魔女3部作の1作目「サスペリア」はダリア・ニコロディが出した案によって作られてたと言われていて、それまでジャーロものを撮っていたアルジェントにとっては大きな路線変更でした。

自身が「サスペリア」のスージー役を演じるつもりだったらしいニコロディ。恋人だったアルジェントとはきっと色々あったのでしょうが、その後の作品にも出演し続けていました。

ときに目玉を弾丸で撃ち抜かれ、顔をズタズタに裂かれ…別れても最大の理解者だったのでしょうか。

これがヨーロッパの成熟した夫婦ってやつなのか分かりませんが、ダリア・ニコロディの役は主役じゃなくても印象に残るものばかりでした。

この魔女3部作の最終作でニコロディが霊体とはいえ「実はサスペリアの魔女と相打ちしてた最強の女」の座を得ているのはアルジェントの過去への贖罪もあるのかもしれません。(何も考えてなさそうな気もしますが…)

そして何といっても、父母娘と3人で最終作を力合わせて撮ってるってところに見終わったあと「俺たちはファミリー!」と叫びたくなるような、家族映画感が漂っていて、明るくどこか憎めない作品となっていました。

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本当に死後の世界があってあんな霊体がいてくれたらいいのにな。

素晴らしい演技を沢山魅せてくれてありがとうございました。