どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「ガス燈」…モラハラ男と対峙するイングリッド・バーグマンが美しい

1944年の古い白黒映画ですが、今みても充分通用するサスペンスで面白かったです。

イングリッド・バーグマンがとにかく綺麗で、脱いだりしてるわけじゃないのに色香が漂いまくってました。

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バーグマン演じる主人公・ポーラは両親を幼い頃に亡くしオペラ歌手の叔母に育てられていました。

しかしある日叔母は何者かに殺され、傷心の彼女はイタリアへ声楽を学びに留学。
そこで出会ったグレゴリーという男と恋に落ちるのですが…

出会って2週間でプロポーズ、男の方がかなり年上…とこの地点で「やめときなはれ!」としか言いようがありません。

サスペンスとしては頭から悪役があからさまで謎解き要素はゼロ、シャルル・ボワイエ演じる相手の男がみるからに怪しい。

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↑フランスの名優でハンサム…だけどカルロス・ゴーンにみえてきた(ごめんなさい)

結婚をせかした挙句、なぜかポーラにとってトラウマである叔母が亡くなったロンドンの家に引っ越したいと訴えて、新婚夫婦は新居へ…

ここから夫グレゴリーは何かにつけてポーラに「君は忘れっぽいから」と吹き込んでいきます。

彼に渡されたはずのブローチを失くす、家にあるものが消えていく、夫とまるで話が噛み合わない…

全て夫が仕組んだ地味な攻撃なのですが、ちりも積もって精神ダメージを食らっていく。もしかして私が本当に病気なのかしら…と徐々に追い詰められていくのがとても怖いです。

こんなんで引っかかるかなーと思わなくもないけど、主演2人の演技の上手さで説得性倍増。

バーグマンは冒頭から世間知らずの優しいお嬢様といった様子で、自己肯定感が低くちょっと依存的な感じ。

夫にネチネチ責められたかと思えば優しく介抱され…が繰り返されるのがいかにもモラハラ、DVっぽい。

孤立した夫婦関係に上下関係が生じるとこんなことに…でもこう言ってはなんだけど慄くバーグマンがとても美しく、どこか艶かしくみえてきます。

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途中ゴシップ好きの近所のおばちゃんが家を訪ねるも、「妻が病気だから」を理由に自宅に誰も入れさせない夫。「おかしな女」と本人に思い込ませることで外出する自信すら喪失させるところも嫌らしいです。

おばちゃんは図々しい人ではあるんだけど、ご近所付き合いもバカにできんなー。

家には使用人も2人いますが、料理番のおばちゃんは耳が遠く頼りにならず、新人メイドはふてぶてしい世渡り上手で奥様を大事にしない…とこのキャラクターも立っててオモロかったです。

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しかしポーラ夫妻を遠くから見つめる1人の男が…

ポーラの叔母のファンだったというブライアン(ジョセフ・コットン)がグレゴリーの不審な動きを追跡。

夜な夜な外出しては隣の家の屋上から自宅に侵入、アンタ何やってますのん??

なんとグレゴリーはかつて叔母に付き添ってたピアニストで、叔母が貴族から贈られたという大きなダイアモンドが家のどこかにあるはずと必死で探していたのでした。

おまけに何とプラハに正妻がいるらしく、既婚者だった…!!

何か壮大な目的があるのかと思いきや、ただのコソ泥、美しいバーグマンにも興味ゼロで宝石に取りつかれた小っちゃい男だったというのが意外で面白かったです。

 

最後に大人しい妻を丸め込もうとして「私おかしいみたいだからちょっと分かんないわ」とやり返すポーラにスカッとジャパン!!

ポーラは昨今の映画と比べたら受け身すぎるヒロインで事件解決も第三者の男に丸投げなのですが、人生で何一つ自分で考えることをしてこなかったような弱々しい女性が静かに怒りを露わにする姿にグッときました。

怒りで目が覚めた表情、なぜこんな男にいいようにされて…というやるせなさ、バーグマンの演技に魅入られます。

エンディングはジョセフ・コットンとくっつきそうな雰囲気になってたけど、しょうもない男に引っかかった失恋を肥やしに!?声楽の道で花を咲かせてほしいと思いました。

タイトルのガス燈は夫グレゴリーが屋根裏を調べているときに階下の部屋の明かりが瞬いてバーグマンがそれを不気味に思って慄くのですが、白黒映画ならではの美しさを堪能できる作品でした。

 

漫画「チ。」/地動説に挑むアツき男たち

週刊スピリッツにて連載中、現在単行本が2巻まで発売中の漫画「チ。」。

帯には「寄生獣」の岩明均先生の絶賛コメントが付けられていて、気になって読んだところめちゃくちゃ面白かったです。

↑首吊られながら天体観測してる表紙の絵、カッコいい

舞台は15世紀ヨーロッパ。教会は教えに背く異端の研究を固く禁じ、改心しないものには容赦なく拷問、処刑を行なっていました。しかしそれでも地動説を信じる者たちが密やかに研究を続けていて…

教養のない自分は「表紙の男の子はガリレオなのかな??」と思って読み進めたのですが……歴史上の誰かという設定にはなっておらず、あくまで漫画独自のキャラクターという位置付けでした。

そもそも実際の科学史においては、教会は地動説を批判していたわけではなく宗教と科学は既に分離されていたと言われているようです。

ガリレオの「それでも地球は動く」もかなり脚色されたもので、ガリレオ自身がかなり曲者だったことから特殊なケースだった…など諸説あるみたいです。

なのでこの漫画の世界観はフィクションだと割り切って読むものだと思うのですが、「弾圧されつつも真実を追い求める者のドラマ」がとことんアツく、グイグイ読ませました。

歴史ものにみせかけて、スポーツ漫画、バトル漫画のようなアツさが魅力だと思います。

 

1巻の主人公の男の子は、貧しい家の生まれながらも奨学金で神学部に進み、安泰な人生を望む〝抜け目なく賢い人間〟。

そんな人間が知の欲求に突き動かされて、好きなことを追い求めていく姿に胸が熱くなります。 

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「ち。」第1集より

登場人物の誰も「自分の名を後世に残したい」などという名誉欲は一分も持っておらず、ただ知りたい、好きなものを追い求めたいという個人の欲求に突き動かされていく姿にある種の清々しさを感じます。

続く2巻では天国を頑なに信じるが故に現世に生きる意味を見出せないという男がその価値観を揺さぶられていくのですが…

あるかどうかも分からない死後の世界をどうこう考えるより、自分の今生の人生を楽しんだ方がいい…っていうのは自分もそう考えていたいな、と思う姿勢です。

科学的な部分をさておいても、「どう生きるか?」という普遍的な人間ドラマに心を掴まれました。

 

地動説への足掛かりがバトンリレーのように引き継がれていくところも面白く、学問は誰か1人の偉人によって成し遂げられるとは限らず、それまで先人の積み重ねてきたものが新たな道を切り開いていく…というドラマの片鱗が既に垣間見えるところにも胸が高鳴ります。

漫画に迫力があるため「史実もこうだったの⁉」とイメージを混同してしまわないか心配ですが(自分みたいなアホは危険)、この漫画をとっかかりに興味の幅が広がったというところもあって、Wikiを読んだり関連本に手を伸ばしたりしてみました。

↓読みやすくて面白かった本。

天動説vs地動説という単純な構図ではなく双方の考えが積み上げてきたものが道を切り開いてきたこと、地動説を立証する上で皆何に躓いてきたのか?分かりやすく解説されていて、人物の伝記としても楽しめる1冊でした。

人間が自然の法則に美しさを求めてしまうというエピソードはまさに「チ。」が描いているところであって、その感情が糧になることもあれば壁として立ち塞がることもある…そのドラマも併せて読むとより感慨深く思われました。

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「ち。」第1集より

信仰がないから科学を探求したのではなく、あるからこそ真実を求めたってところが面白いです。

作者の方は相当調べた上であえて史実に寄せずフィクションとして作っているのでしょうが、話をどういう風に決着させるのか気になるところです。

今月末には3巻が出るようなので、すごく楽しみ。

 

「スパルタンX」…3人揃って楽し♫神バトルなユキーデ戦

ジャッキー・チェン、ユン・ピョウ、サモ・ハン・キンポーの3人が結集。

ジャッキー単身の魅力、アクション的な見所でいうとベスト映画にはきっと他の作品が選ばれるのでしょうが、3人揃っての魅力、掛け合いがとにかく楽しく元気しか出ません。

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85年公開の本作はジャッキーが世界進出をかけた1作だったということで舞台はスペインのバルセロナ

キッチンカーを営むジャッキーとユン・ピョウのいとこ同士はパン屋の2階に住んでいますが…
2階から日差しをトランポリン代わりに勢いよく出勤するシーンを見ているだけでワクワクしてきます。

そして景色が美しい広場にて、スケボーを乗りこなしつつ颯爽とオーダーをとっていくジャッキー、カッコいい!!

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エンディングみるとメチャクチャ苦労してるみたいですが…

タイトルにもなっているスパルタン号は、三菱の車を改造したもので、謎のハイテク技術でボタンを押すとキッチンカーに大変身。

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広場をたむろする不良軍団との戦いもベタベタながら気分爽快になります。

 

そして2人はある日謎めいた美女・シルビアに出会い一目惚れ。

清純な美貌に反し、夜は娼婦、しかし客を相手にスリを行なっていて…と峰不二子のような女泥棒がヒロイン。

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「身体目当ての男なんて碌でもないから盗んでオッケー」の言い分が清々しいです(笑)。

ジャッキーもユン・ピョウも彼女にメロメロになりますが、どこか冷静なジャッキーに対し、騙されても一途なユン・ピョウが可愛いです。

 

しかしシルビアを付け狙う謎の怪しい男たちが…

探偵事務所に勤務する間抜けな助手、サモ・ハンが合流して真相が明かされていきますが、なんとシルビアはとある伯爵の隠し子で遺産相続を狙う伯父に狙われていた!!

サスペンス要素をはらみつつも、正直ストーリーはあっちこっちに話が飛んでめちゃくちゃ、緊張感もありませんが、アクションとコメディが途切れず進んでいくのがとにかく楽しいです。

サモ・ハンがデブ男を探しててなぜか周りの男も皆デブ、しかし皆から好かれていてお酒をひたすら振る舞われるシーンはコントのようで爆笑してしまいます。

精神病院とホームレスの居住地区に逃げ込むシーンは今の時代だとアウトになりそうな予感…精神病棟の患者の「不安定なこととバカなことは全く違う」という台詞は意外に深いような??掛け合いもいちいち面白いです。

 

クライマックスは敵陣にて3人がそれぞれ強敵とバトル!!

ジャッキーの相手は当時の格闘技世界チャンピオン、ベニー・ユキーデ。

背はジャッキーより低いけど筋肉の塊って感じの分厚いボデー。

スーツを一瞬で脱ぎ捨てるところ、サスペンダーをバチってやるところ、強敵感がこれでもかと漂っててカッコいい。

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↑テーブルきききーっ からの回し蹴りで蝋燭全部消える!!のところはブルッとくる。

速い、みてるだけで伝わる重い蹴り…と2人のバトルにドキドキが止まりません。

銃は全く出てこず殺し合いのない平和な映画で、バトルだけを純粋に堪能させてくれます。

サモ・ハン・キンポーはフェンシングで敵と戦いますが、さすが動けるデブ、めちゃくちゃ機敏な動きにこちらにも見惚れてしまいます。

しかし伯爵役の俳優の代わりにユン・ピョウがスタントを務めたらしく、よくみると体型がいきなり変わってるし、顔も映ってる(笑)。

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そんなところもまた可笑しいです。

 

サグラダ・ファミリアはポスターだとメインのロケ地みたいに見えるけど、実際はあんまり見せ場なし。

日本ではジャッキー1人推ししての宣伝だったのかな。

ジャッキー映画は日本語吹替の方がしっくりきますが、最も評価の高いフジテレビ版吹替は特別版Blu-rayにしか入ってないようで…広東語版はスペイン人も皆広東語を話しててこれはこれでオモロイかも。

朗らかで楽しく元気いっぱい、地上波でまたオンエアすればいいのにな、と思ってしまう1作です。

 

「教祖誕生」…ビートたけしの〝ここがヘンだよ新興宗教〟

北野武監督作品ではないのですが、ビートたけしの原作をたけし主演で映画化。

ソナチネ」「HANABI」といったザ・北野作品よりもとっつきやく面白かった1本でした。組織内のゴダゴタドラマという点では「アウトレイジ」の新興宗教版といえるかも。

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93年公開ということでオウム事件が話題になる前だったからこそここまで自由につくれたのかな、と思うかなりの毒気をはらんだ作品です。

 

冒頭からもう笑ってしまうのですが、ビートたけし率いる真羅崇神朱雀教は信者1000人獲得を目指し、地方を巡業、路上パフォーマンスに近い勧誘を行なっていました。

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「教祖様は水の上を渡り、万病を治せます。」とたけしがスピーチしていると…「じゃあウチのおばあちゃんを治してください!」と祖母を車椅子に乗せた女性が登場。

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教祖さまがお経を唱え、えいっ、えいっ!!と手をかざすと……なんとおばあちゃんが立った!!

ところが教団一行が電車で町を立ち去る際、先程のおばあちゃんが再度姿を現します。

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↑めっちゃ走っとるがな!!

やはりこの人は教団が事前に仕込んだサクラだったということで…そうだと思ったよというオチなのですが、世の中にはこんな手口に引っかかる人もいるのよね…


偶然この茶番をみていた萩原聖人演じる和夫は、教団に興味を持ち手伝いをさせてくれと一味に加わります。

そして暴かれる教団の裏側。

実質組織を切り盛りしているのは、ビートたけし演じる司馬と岸部一徳演じる呉。

教祖様は実は元アル中のホームレスで、司馬に拾われた操り人形。裏では「バカヤロー、コノヤロー」と罵られてばかりいました。

しかし一方では純粋に教祖様を慕い教えを尊ぶ信者もいて、玉置浩二演じる駒村は拝金主義の司馬たちを内心蔑んでいました。

 

可笑しいのは「万病をなおす」という手かざしが意外にプラシーボ効果を発揮して本当に良くなったりしてしまうこと(笑)。

人間ちょっとした心の支えでエネルギーがもらえるなら悪いことじゃないのかも…教祖様の人生相談も悩み聞いてもらうカウンセリングと同じで、たまたまその人にとってこの宗教が心の拠り所だったというならそれはそれでいいのかも…と思わせます。

しかし一方でどうにも救えない信者もいて、余命数日のおじいちゃんをどうにかしてほしいという依頼には教団の面々とともにギョッとなってしまいました。

人間追いつめられたときに何かを頼りにしたくなるという気持ちは分かる気がするものの、土台無理なものを誰かが良くしてくれると思うのはどこかで自己を特別視しているからでは…現実を直視できない人が結局怪しい宗教や根拠のない治療方法に搾取されてしまうのでは…と色々考えさせられます。

 

さらに可笑しなことに、ニセモノのはずの教祖様が本当に自分には力があると信じて暴走していきます。

人に囲まれてチヤホヤされてると人間勘違いしてしまうものなんですかね。むしろそういうナルシストでないと教祖様なんて務まらないのかも。

しかし司馬によって調子づいた教祖は追放され、新しい教祖に和夫が抜擢されます。

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↑大幅イメチェン。こんなんで信者ついてくるんか??

しかし和夫は和夫で大真面目に教祖をやろうと断食や滝行に勤しみだし、玉置浩二組と拝金主義のたけし&一徳コンビとで対立していきます。

真面目組は他人を救いたい一心で行動している善意の塊で、どう考えてもたけし一派の方が悪いのですが、こういう宗教を一歩引いた目でみてしまう自分としては、たけしの「2週間断食しただけで神様になれるわけねーだろ!」の台詞に納得してしまいます。

信者から分不相応な金をとっている点では悪ですが、サラリーマン的視点でみれば地道な金集めと運営をやっているたけし一派がいないと組織はなりたたないしなーなどと思わせるのがこの作品の毒だと思います。

 

しかしラストにもう一展開。もっとも善良にみえた玉置浩二演じる駒村が結局暴力に走り、彼を返り討ちにして殺してしまった司馬が一言「バチが当たったかな」…

バチが当たったって言葉、自分は嫌いなのですが、あれほど神仏を見下していた司馬でも自分が苦境に立たされるととたん何かに縋りたくなる…最後に露呈した人の弱さに誰しもこういう宗教にハマる素養はあるのかも…と唸らされました。

 

映画全体としては、信者側のドラマが少なく集団の狂気みたいなものが描かれていないところ、教団の悪行が全体的にマイルドなところは少し物足りなく思われます。

が、あくまで教祖が誕生するまでのお話なのでこんなところかな、オチも含め上手くまとめられてると思いました。

 

俳優陣の中では玉置浩二が1番印象に残ります。純粋な信仰者のようで「神様に1番近づけると思った」という動機も「特別な人間になりたい」って言ってるようで、一見穏やかそうにみえてすごく怖かった…

信仰心のカケラもない岸部一徳が朗々とお経を誦むところ、玉置浩二が宗教ソングをやたら美声で口ずさむところは爆笑でした。笑いどころもたくさん、皆さん光っています。

個人的には代表的な北野作品より印象に残った1本でした。

 

「フェイドTOブラック」…映画オタク青年の孤独、映画に罪はあるか

映画マニアの青年が心を病み、映画のキャラクターに成りきって殺人を繰り返す…

1980年公開のスラッシャームービーですが、主人公の闇深さが映画好きにはヒヤッとするものがあり、後続の作品にも影響を与えているのではないかと思われる秀作です。

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エリック(デニス・クリストファー)は1日3本の映画を観るマニア。部屋には映写機も完備、ポスターや雑誌の切り抜き、グッズが溢れています。

自分とはみてる映画の年代が異なるものの、ビデオテープが普及して引きこもりがち、自分の世界で現実逃避という姿は90年代のオタク像と重なるものがあるように思われます。

そしてとにかくこのエリックがイタさ全開。

誰彼構わず映画クイズをふっかけ、相手が答えられないと「そんなことも知らないのかよ!」とマウントを取ってくる。

ミッキー・ローク演じる同僚に「カサブランカ」のリックのラストネームは?とクイズ勝負

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作中で実はあまり触れられてない、答えられそうで答えられないイヤらしい問題を投げつけてドヤ顔。

でもこのイタさなんか分かる気がします。クラスでメジャーな大作映画が話題になってたときに「こんなのでハシャいじゃってさー」と内心斜に構えつつも実は寂しいみたいな気持ち、自分も青春時代にあったなーと思います(笑)。

オタクなら多少誰もが持ち得る感情じゃないでしょうか。

 

こじらせエリックくんも内心はモテたくてたまらず、街でマリリン・モンローに似た女の子を見掛けると一目惚れ。

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しかし彼女はデートの約束に現れず、代わりに近くにいた娼婦に声をかけますが相手にされず逆ギレ…とかなりのクズです。

映画のフィルムを管理する会社で働いているものの、勤務態度は最悪ととことん自分に甘い性分のよう。

 

しかし彼の家庭環境が鬱の掃き溜めでまたどうしようも無い気持ちにさせられます。

車椅子生活をしている伯母と2人暮らし、介護を手伝ってはいるけど生活は伯母に頼りきりというズブズブの共依存関係。

「あんたのせいで足を失った」と子供の頃の事故を責められ、「姉妹でスターになるはずだったのにあんたが生まれたせいで夢が壊れた」などネチネチ責められます。

これだけでもお腹いっぱいなのに終盤驚愕の事実が明かされその闇深さにはウッとなりました。

こういう生活背景をみてしまうと「強力な現実逃避が必要で趣味に依存するかたちになったのかもしれない」と思わせるのですが…ある日エリックは怒りに任せて伯母を殺害。そこから精神が完全に崩壊してしまいます。

 

決して血が飛び出るわけではないのに殺人シーンがとても不気味な本作。

エリックは映画に登場するキャラクターに扮して次々に自分を馬鹿にしていた者たちを手を掛けていきます。

「白熱」のジェームズ・キャグニーボリス・カーロフのミイラ男…

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クリストファー・リーの「ドラキュラ」に成ろうとメイクを半分しての姿。

現実の人格と、怒りを引き受けさせたヴィランの人格が分裂しているかのような、精神の病みを感じる迫真のシーンです。

 

題材的にこの作品、映画ファンによっては不愉快に思える内容かもしれません。

映画と現実の区別がつかなくなることなんてないよ!!ホラーや暴力描写をスケープゴートにしないでよ!!…というのは自分も常日頃よく思うことです。

以前ホラー映画監督のスチュアート・ゴードン「ホラー好きな人は礼儀正しい人が多い。負の感情をホラーで発散しているんだ。」などと語っていた憶えがあるのですが、でもそういうストレス発散が自分も映画を楽しむ目的の1つかなと思います。

それに世の中綺麗な良いことばっかりじゃないし時には怖いもの、悲しいことを知ることで人の痛みを想像できるいい面もあったりするよね、とも思います。(←スプラッタを笑いながらみる奴が言うことじゃねえだろ、って感じですが)

 

「ロックを聴いて自殺する奴はロックを聴かなくても自殺する」フランク・ザッパの言葉だったでしょうか。

結局エリックも根底にあった孤独が問題であって、映画オタクでなければないで、何が引き金になったかは分からないだろう、映画のせいにしないでくれと自分も思うのですが…

劇中エリックが嫌なことがあったときに映画のシーンを思い出しては「こうだったらな」と妄想する場面では白黒映画の映像が〝現実〟にインサートされるのが印象的でした。

現実と区別がつかない人って感じでとても怖いのですが、自分も映画や漫画の世界に浸って現実逃避をしていることがたくさんあったなあ…というか今でもあるなあと思います。

虚構で感情を浄化するというか、趣味から勇気や元気をもらえている分にはいいけど、そこにしか居場所を見つけられくなると人間こんな風に壊れてしまうものなのか…とゾッとさせられるものがありました。

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「フェイドTOブラック」は80年につくられた作品ですが、アメリカンニューシネマも終わり映画は商業主義へ…エリックがクラシカル作品を好みマリリン・モンローに恋焦がれてるところも失われたものへの憧憬、次の世代の危惧なのかな、とも思わせます。

(自分は暴力描写たっぷりの映画に浸っためちゃくちゃ次の世代ですが)

ラスト、チャイニーズシアターでエリックの様子を恐る恐る&興味津々に見守る群衆の姿はまさに観客(=自分自身)そのもので、暴力を楽しむ人間性を突きつけられたような、「ファニーゲーム」的恐怖も感じました。

 

昔「スクリーム」というホラー映画のパンフレットを読んだ際に鷲巣義明さんが本作からの影響があるのでは…と指摘されていて気になってみた1本だったのですが、確かに映画クイズしてくるところなんてすごく重なりますね。

主人公の境遇は「ジョーカー」(←未見)に似てたりするのかな。

エリックは「トゥルーロマンス」のクリスチャン・スレーターにもどこか通じるものがある気もしました。

埋もれているには中々惜しい秀作。

「ドーン・オブ・ザ・デッド」…意外に悪くないリメイクだった

ロメロ版のゾンビを先に観ていたので、リメイクはきっと観るに値しないだろうなーと公開当時期待ゼロで映画館に足を運びました。

匠の一皿なんて期待したらとんでもなく不味いものが出てくるに違いない…身構えていたら出てきたのはハンバーガー。あれ、なんか違う?思ったより旨いやん、そんな感じの映画でした。

2000年代の走るゾンビとしては「28日後」の方が先だったんですね。

ロメロゾンビと全く違う早い動きのゾンビに慣れる間もなく破壊されていく町から逃げるオープニング…冒頭から疾走感がすごかったです。

しかしあっさり他の人たちと合流し、あっさりショッピングモールを発見。

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↑返り血のついた手を噴水で洗うヒロイン。「彼岸島」レベルで感染が心配になるけど何も起こらなかった。

頭を撃てばOKというルールは適応されるようでちょっと一安心。

そして今回は仲間がどんどん増える。女性7人、男性8人。

人数が多い分、人間ドラマはテレビドラマのダイジェストみたいになっちゃってました。

妊娠した妻を庇っていたけど赤ちゃんもゾンビだった…のドラマももっと描写があれば感情移入できそうだけど、すごいサクサク進められちゃうのでグロさだけが際立って悲壮感が全く伝わってこない。

オリジナルにあったような虚無感はゼロ。でも皆んなでDIYしてるところは何だか楽しそうでした。

良キャラの1人は離れた武器屋で籠城するアンディ。

あんな世界で1人ぼっちは嫌だなあ、プラカードだけでも会話できてよかったなあとこの人は顔が映らずともキャラクターの気持ちが伝わってきました。

犬に食事を届けさせたら悲劇が…犬に非はなくむしろ訓練もしてないのによく口笛だけで届けに行ったね、と名犬だったのですが残念です。

そして圧倒的に男前だったのはCJ!!

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最初こそ態度は最悪だったものの根っからの悪党ではなかったようで…突然めっちゃいい人になったように思えるのでもう少し人柄に迫るエピソードがみたかったです。

仲間を見捨てず常にしんがりを務め「エイリアン2」のバスケスのように自爆。生き残ってほしかった。

 

映像は今みるとCGと分かってしまうようなゲーム画面みたいなところも多いし、話も改めてみると粗が多いです。

何で冒頭でのショッピングモールはあんなにガラガラだったんだろう、メル・ギブソンにちょい似な金持ち男の船を何で一瞬で見分けられたんだろう…と腑に落ちない点もちらほら。

突き抜けてボンクラ映画してるわけでもないからチグハグに思えてしまうけど、出てくるゾンビの速さと疾走感で何だか誤魔化されてしまいます。

ガントレット」みたいにバスでゾンビを突破するクライマックスは素晴らしく、絶望感たっぷりの中あの手この手で戦うのにドキドキしました。

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最後の船→孤島は「サンゲリア」を意識してるのでしょうか。(トップレス女性も一瞬映ったことだし)

テレビニュースの映像で、トム・サヴィーニケン・フォリースコット・H・ライニガーが出演しているのは嬉しかったです。

昨年みた「サスペリア」のリメイクは受け入れられなかったのにこっちは良いと思うのはなんでだろう…リスペクトがきちんと感じられるからかな。

人間同士で争ってしまうという基本のドラマを要所要所で取り入れつつ、ゾンビについては中途半端に模倣せず潔く別モノとして見れるようにしてくれたのが良かったのかな、と思います。

オリジナルにあった政治色も哲学も人間ドラマも皆無、ゾンビそのものの出来も比較にならないのですが、総じてみると悪くないリメイク作品でした。

 

「乱気流/タービュランス」…変態レイ・リオッタとダイハードな対決

護送中の犯人が上空1万メートルの機内で野放しに…!!

公開時大コケだったらしいですが、スカイパニックもので面白かった作品。

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クリスマスを迎えようとするケネディ空港。ロスに向かう便の乗客はわずか11人…とガラガラの飛行機。

しかしその中には護送される犯罪者2名と同行の警官4名も含まれていました。

犯人の内の1人がレイ・リオッタ。ブロンド美人と付き合っては殺害を繰り返す絞殺魔らしいのですが、本人曰く濡れ衣。

彼を捕まえたという刑事がどこか胡散臭いので、もしかしてホントに無罪??…とミスリードしますが、まあレイ・リオッタなんで初めから普通にめちゃくちゃ怪しいです。

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↑この笑顔、信じられん。

一方主人公はローレン・ホリー演じるフライトアテンダントのテリー。ベジタリアンで死刑制度に反対という心優しい女性ですが男運は悪し。

「犯罪者の接客はしたくない」などと語る同僚に代わって護送犯にも分け隔てなく接しました。そんな彼女に好印象を持つレイ・リオッタ

ところがもう1人の護送犯スタッブズがトイレに立った際に警官を襲い銃を奪って人質をとります。

当たり前のように機内で発砲しまくる人たち。大丈夫なんかいと思ってたらやっぱり機体に穴空いてゴゴゴー。

しかしそれをアタッシュケースで塞いで事なきを得るという離れ業をやってのけます。

てっきり護送犯と一緒に大暴れするかと思ったレイ・リオッタはどさくさに紛れて自分の手錠を外し、警官と犯人を相打ちさせつつ皆を救った味方面をします。
まさに場を支配するサイコパス…!!

 

しかし早々ボロを見せ始め、他の乗客を監禁し、殺人鬼とヒロインの一騎討ちへと進んでいきます。

なんと言ってもレイ・リオッタのネチネチしつこい悪役ぶりが素晴らしい本作。

女性を手にかける際には、「好きな本は?映画は?音楽は?」と相手の好みを知ろうとし、幼少期の思い出などを探ってきます。

完全にレクター博士ごっこ。でもこれがこの人の一種のプレイなんでしょう。

テリーの同僚女性に迫ると、

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…と質問を浴びせてきますが、

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…と答えると「寂しい女だ」と言って彼女に襲いかかります。

かましいわ!!と何だか腹立たしい気持ちになってきます。

一方主人公テリーの好きな映画は…

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夢見がちだと一蹴されますが、前半頼りなさげだったヒロインが力強く変態男に立ち向かって行く姿がカタルシスです。

 

先の発砲騒ぎの際に操縦士2人も命を落とすというアクシデントもあってヒロインが何とか着陸させるしかない!!

それなのに天候は極めて悪く嵐に突入、乱気流で飛行機はアップダウン。

機体が真っ逆さまになった中、変態レイ・リオッタと追いかけっこするシーンはもっと盛り上がっていいと思うのですが、画面が終始暗めで見辛いのがとても残念です。

着陸をサポートする管制塔の人たちとのやり取りは「新幹線大爆破」の千葉真一宇津井健の掛け合い然りこういう作品ならではのテンプレが展開。

レイ・リオッタの方は「自分はどうせ死刑になるから」とハナから助かる気はなく、少しでも他人を道連れにしようとロスに飛行機を落とすべく邪魔してくる、本当に嫌な男です。

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↑コックピットの扉を斧持って破ってくるところは「シャイニング」のパロディっぽい。

変態男が痛い目に遭いつつ成敗されるのにスカッとします。

 

ラストシーンに着陸をサポートしてくれた機長たちと挨拶を交わすところは「ダイハード」のような雰囲気。機内上映で掛かっている映画は「素晴らしき哉、人生!」と意外にちゃんと?クリスマス・ムービーしています。

もうちょっと機体のアクションの映像に迫力があればなあ、乗客のキャラクターも話に絡められなかったのなあ、と磨けばもっと光りそうな作品に思われますが、レイ・リオッタはいい悪役ぶり。

ポンコツボンクラ映画としては大変満足な1本でした。