どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「サスペリア2」4Kレストア完全版・特別記念上映に行ってきました

GWに予定されていたのが延期になっていた「サスペリアPart2」4Kレストア完全版Blu-ray発売記念上映。

シネマートさんのホームページをチェックすること度々、6月18日(金)〜7月1日(木)上映にリスケされたようで、もう映画館に行くのもすごい久しぶりだったのですがこの週末観に行ってきました。

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↑ネタバレ覚悟の凝った展示スペース…!!

1日1回上映というプログラミングだったけど、座席数335の比較的大きめのスクリーンでの上映でありがたい。

ゴブリンのテーマ曲が鳴り響く冒頭からとにかく音が良かった…!!床も震えるような爆音上映にこちらのテンションも爆上がり。

画質はまあまあ普通にいいと思ってみてたけど、家に帰ってからDVD再生させてみたらかなり綺麗になってたんだなーと気付きました。

ストーリーについては割愛しますが…
別に観光地をフィーチャーしてるわけでもないのになぜだか美しいロケ地の数々、アルジェントにしては破綻の少ないストーリー、グロ控えめだけど痛さの伝わる殺し方、コミカルパートとのバランス…とどこをとっても素晴らしく、ジャーロものとオカルトもののどっちが好みかで意見が分かれるでしょうが、個人的にはやはりこれがアルジェントの最高傑作だと思います。

子守唄、殺人人形のホラー的アイテムのインパクトも絶大、特に意味もなくビー玉転がしながら「♫ダ、ダダダダダダッ〜」と鳴り響く音楽、なんて大胆なんでしょう。

めちゃくちゃやってるようで音と映像がピッタリとハマっているのが不思議、カッコいいです。

繊細な主人公に迫力あるヒロインのバランスも楽しく、初見時にはジャンナが犯人だと疑いまくってましたが、ただのめちゃくちゃかわいいツンデレヒロインでした。

親友カルロの哀れさも際立っていて腐った脳みそはカルロ→→マークの妄想が止まりません。

陰鬱家族ドラマとしての締めくくりもパーフェクトで、犯人を知った後でも繰り返し楽しんでみれる作品でした。

今回の上映では特別に2つ折り4ページのプレスシートが先着順で配られていて、中には昨年11月に亡くなられたダリア・ニコロディへの追悼文が載せられていました。

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↑左:プレスシート表紙、右:チラシ

裏面には公開時の解説が載ってましたが、続編でもなんでもないのに先に上映された「サスペリア」と無理やり絡める、ストーリー90%くらい書いちゃう…と当時の自由さに笑ってしまいました。

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フェノミナ」も併せて24日まで上映されてるようで、2本みるのは厳しかったのであきらめたけど一気見できた方はうらやましい。

劇場でみるのはじめてでしたがやっぱり映画館でみると集中度も迫力も違いますね。ありがとうございました!!

 

「es」エス/役割に支配された人の暴走が怖かった

2001年公開のドイツ製サスペンススリラー。
テーマを煮詰めた真面目映画にもB級娯楽作にもどっちにもなりきれてない感はするものの、なんだかんだで面白くみれた1本でした。

タクシー運転手のタレクは2週間で4000マルク貰えると言う大学の心理実験に参加することになった。
その内容は地下に作られた擬似刑務所で20人の男を「看守」と「囚人」に分けそれぞれ与えられた役割を演じるというものだった…

1971年にスタンフォード大学で実際に行われた実験を参考にしてつくられたフィクションだそうで、ホンモノの方は6日間で実験が中止になったらしい…そんな話をきくと余計に不気味に思われるストーリー。

映画でも面接では和やかに話していたはずの20人がいざ2グループに分かれると看守側が1日目から高圧的な態度をとり始めます。

エルヴィスのモノマネする看守役の人はかなり人柄に問題ありそうで、権力を握ると途端に加虐的になる人間性が怖いです。

けれど主人公のタレクもなかなかの問題児で記者のバイトをするため無断で盗撮のカメラを仕込み、ドラマある映像を撮ろうとわざと看守を挑発しているような節がみられました。

タレクのロールプレイングの秩序を乱す行為、看守個人を侮辱するような行為が相手を刺激する要因になったのも事実。

そしてタレクの反抗態度を鎮めようと看守チームのボス的存在になっていくのがベルス。

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空港勤務のごく普通のサラリーマンのようで事前のインタビューでは、「7年間一度も遅刻したことがない」と語っていました。

勤勉で義務に忠実な人だけど考える力がなく与えられた役割に依存しがち…奴隷気質なの自分もそういうところあるあるなのでこの人の暴走がみてて1番怖かった。

最初から役割を放棄したような主人公タレクの行動はあれはあれで問題があったと思うし、役割を演じるというのも社会基盤を支える上では重要だとは思うのですが、何の目的で自分はそうしているのか、人間は環境に支配されるという自覚がないとこんなトチ狂ってしまうことがあるのかも。

「何かあれば上が止めるだろう」と責任転嫁して考える事を放棄してしまうのも組織や集団でハマりがちな落とし穴、追い詰められると自分に都合のいい解釈しかしなくなっていくところもリアルでした。

だんだん看守たちが暴力行為に酔いしれたようになってくのは鬱展開ですが、明らかにヤバいのに止めない大学の管理者たちが杜撰すぎて緊迫感を削いでるのは否めないです。

途中から得体の知れない冷蔵庫みたいな懲罰ボックスまで持ってくる教授、完全に変態趣味としか思えません。もっとアクシデントで孤立してしまうとかの展開の方がよかったかも。

また男だらけの地下刑務所というワンシチュエーションの方が俄然盛り上がったと思うのですが、全く意味をなさない主人公の彼女とのシーンを入れてくるのが大変邪魔でした。

主人公と同室の空軍少佐・シュタインホフのキャラが立ってたのでどうせなら男同士のアツい何かの方がみたかった…

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↑ドイツ映画でよく見かける顔!?「イングロリアス・バスターズ」にも出てたクリスチャン・ベルケル渋くてカッチョイイ。

全体的には真面目映画するかボンクラ映画するかどっちつかずで惜しかったですがそれでも充分面白く観れたサスペンスでした。

「ファンボーイズ」…残念映画だけどラストはEP1公開時の熱気伝わる

世界中の「スターウォーズ」ファンがエピソード1公開を待ちわびていた1998年。
末期がんで余命わずかな友人のため集まったオタク仲間たちが「死ぬ前に何としてもエピソード1を観せよう」とスカイウォーカーランチ目指してアメリカ横断の旅に出掛ける…

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  • サム・ハンティントン
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2008年公開のコメディ映画で、日本では未公開ビデオスルーのはずだったところをファンの署名運動で劇場公開が決定したことが話題になっていました。

プロットだけみるとめちゃくちゃ面白そうで豪華ゲスト出演もあるのですが、映画の出来栄え自体はかなりイマイチ。

主人公たちのキャラクターがふざけすぎていて下ネタが多い構成になっています。自分はこういうおバカ映画のノリ嫌いじゃないけどSWとの相性は悪かったんじゃないかなー。

部屋はグッズに囲まれ、愛車の名前はスレーヴ1、「ルークはレイアを異性として認識してたか??」の議論が白熱…でもどっか夢中ポイントがズレてるような気もしてもっと単純にライトセーバーや戦闘機のカッコ良さを語るとかの方が良かったんじゃない??とライトなファンとしては思ってしまいます。

反対に笑わせてくれるのは「スタートレック」ファンとの抗争。

知識のない自分としてはどこまでマジなのか分からなかったけど、嫌いという割には積極的に絡み合って、しかもお互いをめちゃくちゃ知り合ってるってのが可笑しかったです。

そしてスカイウォーカーランチへの潜入方法を授けてくれるのがなぜかウィリアム・シャトナー(笑)。

他にもビリー・ディー・ウィリアムズレイ・パークスターウォーズからのゲストはお楽しみですが、キャリー・フィッシャーとの掛け合いが1番よく出来ていてここはニッコリです。

7年後に出る続3部作のほうが痩せて若返ってたなーなどとついつい余計なことを考えてしまいますが…

主人公の青年の「大人になって好きなものへの純粋な情熱を失ってしまう」という姿は非常に共感しやすく良いドラマだと思うのに上手く掘り下げられていないのが非常に残念です。

一応ラストは好きなものからパワー貰いつつ現実と向き合っていくという結論になっていたように思うけどふざけているだけでドラマ要素が皆無なので感動できず…

主人公は高校を出たての若者ではなく、もうちょっと歳とったアラサー、アラフォーのリーマン、所帯持ちにした方が絶対良かったと思う。

全体的には辛口評価になってしまいますが、それでもラストほんの数分、スターウォーズ公開初日の熱気が伝わってくるところだけは評価したいです。

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テントを張っての行列、頭にトルーパーを被ったりライトセーバー持ったりコスプレしてる人たち、そして流れる20世紀フォックスのファンファーレ…

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↑主人公は「公開まであと○か月○日○時間○分○秒」のカウンターを持っていたけど本当にこういう熱意があったと思う。

予告編観ただけでもう座ってられないような大興奮、アナキン坊やの後ろにベイダーのシルエット浮かんでるビジュアルみただけでカッケーーーーってワクワクが止まらずものすごい期待感がありました。

この映画の最後のオチの一言が「駄作だったら?」なのも評価したいです。(よく言ってくれた!!)

でもエピソード3まで観れば泣いて劇場を出れるよ…!!って友人もう逝ってしまってるか…

自分は大学に入ってから新三部作からファンになったというスターウォーズ好きの友達ができてEP3は初日に一緒に観に行った思い出があるのですが、あのお祭り騒ぎ感、「最速でみてるぜヒャッホー!」のテンション、劇場にいる人と共有できる熱気感みたいなものはこの映画のラストシーンで表現されていてここだけは観るとあったかい気持ちになります。

自分が懐古厨になってしまったからかもしれないけど近年はこういう熱のある大作がすっかりなくなってしまったのかなあと思ってしまう…

映画としてはなぜこんな素晴らしいプロットでこんな出来栄えになってしまったのか、料理次第で傑作になり得た1本なのにと非常に惜しく思われます。

国内DVDは当時TSUTAYAが限定発売元になっていてこれから再販される予定はなし??制作会社は元々ルーカスフィルムとも全く関係ない会社のようだけど配信もされにくい作品なのかも。

残念な出来ではあるものの「スターウォーズ」の公開史を振り返るうえでは観ておいてもいい1本なんじゃないかと思いました。

 

「SF /ボディスナッチャー」/個人か集団か、普遍的恐怖が伝わる78年度版

知らない間に何者かによる侵略がはじまっている…「遊星からの物体X」や「Vビジター」に先駆けたようなエイリアン乗っ取り系サスペンス。

これ系ばっかり観てたら偏りそうだけどやっぱ面白いもんは面白い…!

同じ原作を題材に4度も映像化されてるというけどやっぱり1番評価が高いのは78年度版!?

手作り感満載の特殊効果と不穏を煽るカメラワーク、そしてインパクトのある俳優の顔…低予算映画とは思えず今観てもすごくよく出来てます。

冒頭、白く渦巻く胞子が地球に降ってくる映像はネイチャー番組のような妙な神々しさ。漫画「寄生獣」の冒頭はこれに似てるかも。

宇宙→地球→サンフランシスコと胞子の視点で切り替わるカメラが大胆で一気に引き込まれます。

謎の植物が密かに根付くと街には「家族や隣人がすっかり別人になってしまった」という騒ぎが後を絶たなくなり、主人公のマシュー(ドナルド・サザーランド)も同僚エリザベスから「恋人が一夜にして変貌した」と相談を受けます。

皆が通勤しているごく普通の日常の景色、けれど人々がなぜかよそよそしく心がないように見える…都会の孤独感を現したかのような不穏なショットがいちいち上手いです。

マシューの車の窓が嫌がらせで叩き割られ移動中の視界に常にヒビが入っているのも見えざる脅威にさらされているような、何とも言えない不安感を煽ります。

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事件について相談しようと精神科医のキブナーを訪れるマシューたち。演じるレナード・ニモイがまた独特の雰囲気。

「心のインフルエンザさ」「(恋人を別人に思うのは)別れたい君が口実を探してるだけ」この精神科医なんか胡散臭いなー。

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けど他の明らかに乗っ取られた感のする人達に比べるとよく喋り表情も豊かなのでこいつはシロ…と思っていたら何と彼もスナッチャー

寄生獣」の広川みたいに「人間だけどみずから望んで侵略に加担した」とかでも面白かったかも。

一方このキブナーを嫌うジャック(ジェフ・ゴールドブラム)とナンシーの夫婦は陰謀論者の如く疑いまくりますが、売れない詩人&泥風呂サウナで働くマッサージ師とやたら個性が強くて溢れる人間味にほっこりとなります。

ジャックがうたた寝をしてたら知らん間に自分の姿形によく似た繭人間が…!!

宇宙からやって来た謎の生命体は人々が眠っている間にその人の完全な複製をつくり、元の人間の方を亡骸にしてすり替ってしまう…脳を乗っ取ったりせずわざわざ身体作るってのがエラい手間かかってるように思われますが、インパクトは抜群。

気付けば街中スナッチャー、「寝たらゲームオーバー」な無理ゲーの中逃げ回るマシューたち。

学習せず何度も警察に電話するドナルド・サザーランドにイライラしますが自分が行政の人間だから諦めきれずに信じちゃうのかな。

無表情にそれっぽく歩けばバレないかも、という「ショーン・オブ・ザ・デッド」のような作戦が意外な効果をみせるも人面犬の出現に絶叫を我慢できずとうとう追い詰められてしまいます。

既にスナッチされた人曰く「心も記憶も継承されて辛いことはなくなる。悪いもんじゃない。」……

98年の映画「パラサイト」でも「寄生されちゃった方が皆と一緒で寂しくないわよ」…ってぼっち高校生にエイリアンが迫ってましたが、いっそ支配された方が悩み苦しまなくて楽なのかも、ってちょこっと思わせるところが怖いです。

キビキビと連携をとりながら動くスナッチャーたちは有能そうで、合理性を突き詰めた彼らは彼らで豊かな社会を築いているといえるのだろうか…

個人を重視した社会と統一された社会とどっちが幸せなのか…最近の映画だと「ミッドサマー」も個人主義アメリカ人vs全体主義カルト教団という構図でしたが、この人間の迷いは今に至るまで通用するテーマでだからこそ長く親しまれているのかもしれません。

道中エリザベスと想いを通わせ2人でずっと手を取りあって逃げていただけにやはり感情を失ってしまう展開には切なくなりました…ラストはホラー的にも満点の迫力…!!


◆比較すると面白い56年度版

ボディスナッチャー=78年度版のイメージでしたが、オリジナルである56年度版も監督ドン・シーゲル、脚本にはサム・ペキンパーも参加…とかなり渋い製作陣で評価が高いようなので気になって観てみました。

78年度版とほぼ同じ立ち位置の男女キャラクターが4人登場、リメイク版は結構オリジナルをトレースしてたようです。

こちらでは舞台が都会ではなく狭い田舎町。78年度版は分かりやすくスナッチャーたちは「感情のない非人間」になってましたが、こちらは変化がもっと分かりにくく、普通に町の人たちから知らない間によそ者にされ村八分されるような疎外感がありました。

ひっそりと集まるスナッチャーたちの不気味さ…原作は55年に書かれたものだそうですが、みえざる共産主義の脅威、異なる少数派を弾圧する赤狩りのような過度な運動への懸念…などこの時代特有の不安が伝わってくるようです。

別の作風ながら78年度版は56年度版をかなりリスペクトしてたようで、

・マシューとエリザベスが乗り込むタクシーの運転手を演じているのはドン・シーゲル

・マシューの車に掴みかかって「あいつらはもう来ている!!」と絶叫する男は56年度版で主人公を演じてた俳優さん

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この56年度版主人公の使い方はオリジナルをみると100点満点の粋な計らいだったことが分かり唸らされました。

自分はやはりホラー要素の強さと映像にキレがある78年度版がいいと思ったけど併せてみても楽しめるようになってました。

やっぱりこれ系のSFサスペンスはいつみてもオモロイです。

 

「ホワイトドッグ 魔犬」…アニマルホラーじゃない!!差別を描く異色社会派サスペンス

子供の頃レンタルビデオ店で目を引いた、血を滴らせ牙を剥いた白い犬の何とも恐ろしそうなジャケット…

ホワイト・ドッグ~魔犬 [DVD]

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ホラー映画のコーナーに置かれてたこともあって、犬が怪物になって人を襲うB級映画なんだろう、犬が可哀想なのは嫌やわーなんて思ってましたが、のちに監督サミュエル・フラー、脚本カーティス・ハンソンだと知って驚愕。

人種差別主義者から黒人を攻撃するように躾けられた1匹の犬。果たしてその病は治せるのか…

アニマルホラーかと思いきやしっかりした社会派作品で鑑賞後も深い余韻が残る傑作です。

 

主人公のジュリーはある夜白い犬を車で轢いてしまいます。

動物病院で治療してもらったはいいものの飼い主不在でこのままでは保健所で殺処分されてしまう…心優しい彼女は飼い主が見つかるまで犬を引き取ることを決意します。

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↑ジャケ写では怖い顔してるけどかわいいワンちゃん☆

ジュリーが暴漢に襲われた際には犯人に噛み付く名犬ぶりを披露、1人と1匹の間には絆が芽生えたかのように思われました。

しかし犬には脱走癖があり、時々人を襲っては白い毛並みを赤く染めて帰ってきます。

前半から大仰に恐怖を煽らない淡々としたつくり、そして犬を飼ったことのある人は親近感の湧くホワイト・ドッグと女性のやり取りにホッコリさせられます。

しかしある日白い犬はジュリーの同僚をも襲ってしまいます。悩んだジュリーは著名な動物訓練施設を訪れますが、そこで告げられたのは衝撃の事実…

この犬は人種差別主義者によって黒人を襲うように訓練されたホワイト・ドッグだ。
差別主義者の白人がアル中や中毒者の黒人に金を渡して子犬の頃から殴らせる。恐怖心は憎しみに変わりやがて黒人を襲うようになる…

前半を振り返ると確かに暴漢の男以外の襲われた人たちが皆黒人だったことが分かりゾッとさせられます。

犬の視力は人より弱く色味は白黒の世界で見えているらしいというけど、果たして肌の色を見分けるような学習が可能なのか…生物学的な正確さは分かりませんが、映画の中で語られる「元々は脱走した黒人奴隷を攻撃するためにそういう犬が訓練されていた」という話には胸が悪くなります。

犬を虐待する行為自体胸糞ですが、小さい頃から巧妙に思想を植え付ける行為は人の間でも行われているものではないだろうか…と思わせる設定が秀逸です。

あれだけ動物に愛をみせていたジュリーも「殺すしかない」と見限ってしまいます。差別をなくすにはその存在ごと潰すしかないという絶望感…しかし何とか犬を再調教しようと黒人の動物トレーナー、キーズが立ち向かっていきます。

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洗脳を帳消しにしてこそ差別への勝利になる…諦めずにトレーニングに取り組む姿は涙なしにみられません。

そしてついに犬の信頼を勝ち取ったキーズ…しかし最後の最後でホワイトドッグは今度は白人男性を攻撃してしまい、キーズは犬にそっと銃弾を撃ちこみます…

ハッピーエンドでない結末は鬱々しいことこの上ありません。

しかし植え付けられた憎しみはそう簡単に消えるものではなく、1つ学んで道を断てたとしてもまた別の吐け口に向かってしまうというのがリアルでよく練られたラストだと思いました。

途中にはキーズの両親が学者で裕福な家庭で育ったのだと語られるような場面もありましたが、キーズが善良だったのも恵まれていたから…幼少期に置かれる環境はそれだけ大きなものでそれに抗うことはできないのだという無力感も感じさせます。

またホワイトドッグの元の飼い主が突然姿を現す場面も衝撃的でゾッとするオチとなっていました。
愛らしい孫娘を連れた裕福そうな白人男性が元の飼い主。一見どこにでもいるような人が悪いとも思わず差別意識を伝染させているというのが恐ろしいです。

86年当時には公開前から物議を醸し映画会社から見捨てられプロモーションも一切されずにアメリカでは1週間しか上映されなかったという不遇の作品。

B級アニマルホラーと思ってみると閉口すること間違いなしですが、シナリオも演出も丁寧で時が経ってもみられる意外な傑作です。

 

「スリープレス」…横溝正史風アルジェントサスペンス劇場

全盛期をとうに過ぎた2000年公開のアルジェント監督作ですが、意外によく出来た満足な1本。

スリープレス [DVD]

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オカルト要素ゼロ、原点回帰のジャーロもの。グロ描写は控えめだけど、人が死ぬペースがとにかく早い!!117分の映画なのに90分位に感じちゃう謎の疾走感です。

まず冒頭の殺人シーンからしてかなり良い出来栄え。
娼婦が変な客につかまって帰ろうした際、誤って客の持ち物をうっかり自分のバッグに入れてしまう…
そのブルーのファイルの中には17年前の連続殺人事件の切り抜きがたくさん入っていました。

気付いて追っかけてくる男と深夜人のいない電車の中で鬼ごっこ。スピード感たっぷりの映像にドキドキです。

助けを求めた女性の眼前で電車の窓のブラインドが無慈悲に閉められるところはアルジェントらしいイヤらしさを感じてしまいます。

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そして電車の急停止音と女の悲鳴が重なり絶命…映像と音のリンクもばっちり、まだまだ衰えてないと冒頭から期待値グングンあげてくれます。

ホームには娼婦から呼び出された友人が待っていて、てっきり「サスペリア」みたいに主人公交代劇になるかと思いきやこの友人もあっさり殺されてしまうのは意外。

話は警察視点に飛び、17年前にあった連続殺人事件の手口にそっくりな殺人がトリノの街で起こっている…とかつて事件を担当していた老刑事モレッティが捜査に呼び出されます。

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モレッティを演じるのはマックス・フォン・シドー

自宅でオウムを飼っている設定は先日鑑賞した「ナイトビジター」へのオマージュ??かと思ったけど、アルジェント映画はやたら鳥の出演率が高いので関係ないかも。

でもマックス・フォン・シドーのおかげでこの映画の格が軽く2、3段上がってる気がします。

加えて17年前の事件にて母親を殺された少年・ジャコモもモレッティとともに事件を調べることになります。

お母さんが殺されてる際ベッドの下に隠れていて犯人の顔は見れなかったというのですが、トラウマな記憶を再び掘り起こそうとします。

過去の事件と共通している手口は女性が動物に見立てて殺されているというところ。それもある子守唄をなぞっているらしく金田一に出てきそうな殺人ミステリの雰囲気がいいです。

朝の4時に猫の声、水に放り込んで溺れさせたとさ。朝の5時にうさぎを潰す。暴れてかみついて大人しくなった。朝6時白鳥の首をスッパリ。そうして最後の敵が死んだとき夜が明けると農夫はベッドへ。道具をしまってやっと眠りについたとさ。

不気味なこの詞を書いたのはなんとダリオの愛娘アーシア・アルジェントだそうで…どっか病んでますな。

見立て殺人が見所の1つではありますが、白鳥=バレエのプリマ 猫=バーzooで猫のコスプレしてる女性…まではいいけどウサギ=出っ歯の女性って雑すぎないか。

被害者が続々と現れる中、モレッティとジャコモは17年前に容疑者として上がっていたヴィンチェンゾという男の自宅を捜索することにします。

したためていた小説の内容が事件の内容と酷似していたこと、小柄な人物という目撃情報が合致してことから犯人とされたヴィンチェンゾはその後謎の死を遂げていました。

警察はヴィンチェンゾの墓を掘り起こしますが、なんと死体が消えている…!!

果たして犯人は模倣犯なのか、蘇ったゾンビか何かなのか…

地道に調査を続けたモレッティは重大な手がかりを発見するも犯人と思しき人物に詰め寄られ死亡、そのヒントを受け継いだジャコモが真相にたどり着きますが…(以下ネタバレ)

 

何と犯人は主人公の幼馴染ロレンツォでした。

17年前の事件は犯行の範囲が狭かったのに今回の事件は地域が大幅に拡大している→→犯人は昔子供だったけど今大人になってる奴!!

いくらなんでも推理飛躍し過ぎだろと思うけど、なんかコイツ最初から怪しかったです。

この作品アルジェント映画には珍しく伏線っぽいもんが回収されていて、

・子供だったジャコモは母親が殺される際にシュッシュッという謎の音を耳にしていた
→アレルギー持ちのロレンツォが薬を吸引する音だった

・主人公を狙ったと思われる毒入りビールをロレンツォが誤って飲んでしまった
→疑いをそらすため自作自演でロレンツォが飲んだ

何より怪しいのは主人公と半裸で語り合うシーン、

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「父は僕に失望してる。それでも息子に期待して色んな国に送った。」親が息子の殺人を隠して且つ更生させるため街から遠ざけてたって如何にもな話。

アルジェントの過去作「サスペリア2」ではカルロという主人公の親友ポジのキャラがいましたが、あのカルロ役を演じていたガヴリエレ・ラヴィアが本作では息子を庇う父親役を演じている…とサスペリア2を反転させたような役回りでファンはニッコリしたくなります。

途中犯人が万年筆を落としたという描写の後でロレンツォ父が手元にペンがないと探る場面もアルジェントらしからぬ余裕のミスリード

きちんとミステリとして評価してもよさそうなもんですが、場面転換がやたら多い、それっぽい人物に疑いを散らすためとはいえ登場人物もやたら多い、説明臭いセリフもわんさか…と普通の映画に収まってないところが流石アルジェント。

犯人のサイコっぷりに深い陰鬱ドラマ感じさせるところがあるのも確かで、濡れ衣を着せられ非業の死を遂げた小人症のヴィンチェンゾの人生を思うとめちゃくちゃ可哀想です。

お母さんは息子のことずっと信じてたのに皆と見た目が違ったために余計な偏見の目にさらされ、これ以上辛い目に遭わないようにと母ちゃんが息子殺した…ってドラマが悲しすぎて、殺人鬼の息子庇ったロレンツォ一家と対比すると余計に虚しく感じます。

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「この17年安眠できないまま」スリープレスってこっちだったのかー!!っていう。

かなりの凶悪犯だったロレンツォ、主人公を呼び出したのも苦しむ姿をみて楽しみたかったから…どこか歪んだ愛を感じてしまいます。

最後は科学捜査に頼る警察も実はしっかり仕事してた…ってオチになっているようですが、証拠も取り揃ってない犯人を後ろ姿だけで判別して豪快に射殺…イタリアンポリスが1番恐ろしいわ…!!

アルジェント映画にしては破綻少なくグロも控えめ、美女が少ないのは物足りないかもしれませんが、しっかり陰鬱家族ドラマしてて所々に〝らしい〟いたぶり描写はたっぷり、ゴブリンの曲もしっかりハマってて満足度の高い1本でした。

 

↓↓元ネタ作品!?のエラリー・クイーンの小説を読んでみました。

dounagadachs.hatenablog.com

 

「赤い影」と「ミッドサマー」、なんか似てる

オカルトサスペンスの名作とよばれる73年公開ニコラス・ローグ監督作品。

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あたまからネタバレになりますが…

ドナルド・サザーランドジュリー・クリスティの夫婦が愛娘を水難事故で失ってしまう。
その後夫の仕事でヴェネツィアに旅に出た夫婦はそこで「亡くなった娘さんの霊がみえる」と語る霊媒師の老姉妹に出会う。
妻の方はその話に夢中になり、霊媒師は「今すぐここを離れないと旦那さんの命が危ない」とさらなる霊視をする。しかし話を取り合わなかった夫は不気味な殺人鬼に突然殺されてしまう…

初めて観た時は何の話かさっぱり分からず霊媒師のおばあさんが黒幕なのかと思ってみてたけど、実はドナルド・サザーランドが超能力(予知能力?)を持っていたのに自分の能力に気付けなかったため命を落としてしまったという何とも不思議なオチになっています。

冒頭にて不吉な何かを予期したかのように突然庭に走り出すところ、ヴェネツィアで喪服を着た妻をみかけるところなど、「実はあの時予知能力を発揮していた!!」という伏線があちらこちらに張られています。

霊媒ばあさんの話を聞いておけば助かったのに…という話ですが、突然江原さんみたいなスピリチュアル系の人に「あなたには娘さんの守護霊がついてますよ」なんて言われたらめっちゃ嫌な気持ちになるの分かります。訳の分からないまま間抜けな死を迎えてしまうドナルド・サザーランドがひたすら気の毒に思えました。

原作は「レベッカ」のデュ・モーリア。監督は夫婦の別離がテーマと語っていてそう言われてみるとパートナーと悲しみを共有できなかった女性が信仰の世界へ…昨年観た「ミッドサマー」はこれによく似てるなあと思いました。

「ミッドサマー」のカップルより遥かに健全で善良な夫婦にみえるこの「赤い影」の夫婦もよくよく目を凝らすとすれ違っていたということが分かります。

教会の修復という建築関係の仕事をしている夫には全く信仰心がない。ないならないでいいけど建築物の背景とかにも微塵も興味なさそうで相手の文化を尊重する姿勢に欠けた冷たい男に見えなくもない。

親を転落死で亡くしたと語った神父さんの話をガン無視、妻が息子に書いた手紙にもノーリアクション、もうちょっと人の話きいてもよくない??

長男が事故にあったと学校から連絡があった際にはすぐに帰国するという妻に対しあとから行くとその場にのこる。あんたは息子のこと心配じゃないんかい、長女亡くしたばっかりで奥さんメンタル弱ってるのに1人で行かせちゃっていいの??そういうとこやぞ!!

…って男性からすれば「メンドクセー」ことこの上ないでしょうが(笑)、全く悪い人じゃないけど妻視点でみると鈍感に思えてしまったりするんだろうなあという夫像がリアルでよく出来てます。

反対に妻のジュリー・クリスティは動物と子供が好き、目の不自由な老人にすぐに助けの手を差し伸べるような心優しい女性として描かれていますが、裏を返すと感情的で繊細、メンタルを病みやすい人なのかもしれません。

この妻が夫に「子供たちが池で遊ぶのを許したのはあなたよ」って言う場面はさらっとしてるけど心の中ではずっと夫責めてるのが分かってとても怖いです。

でもあの夫も子供を亡くして悲しいのは一緒でだからこそ赤い影を追いかけてしまったのだと思うのですが、同じ気持ちを持っていても共有できるわけじゃない(夫の方は共有したいと思ってないけど妻が違う悲しみ方をするのは解せない)…と上手いこと行かないもんなんですね。

長い結婚生活経てあんなセックスもする愛の深い、お互い労る努力をしてきたように見える人たちでさえと思うと余計に切なさが際立ちます。 

夫が突然現れた殺人鬼に殺されてしまうのが伏線というには強引で正体も謎のままですが、実は罪悪感を抱えていた夫が死に引き寄せられたみるか、夫を許せてなかった妻の思いが具現化して夫を亡き者にしたとみるか……感覚的な映画でスッキリしませんが2人別れ別れになる結末には物悲しさが漂います。

印象的なラストは夫を亡くした妻の表情が穏やかな笑みを浮かべているようにも見えて、このシーンが「ミッドサマー」のエンディングにとてもよく似ていると思いました。

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思いを共有できなかった男と別れて宗教の世界へ…
信仰が救いとなったハッピーエンドとみればいいのか、依存先が変わったとみればいいのか複雑です。

精神的な依存って「自分1人で消化できない感情を他の何かを利用して消化すること」で、程度の差はあれ自分も他人や趣味に依存しながら日々生きてると思うのですが、消化し難いどえらいモンを抱え込んじゃったら変な宗教に入っちゃうとかアルコールや麻薬に走るとかそんなことにもなっちゃうのかな…

「ミッドサマー」のダニーは身内に精神疾患を抱えた人がいて、挙句家族を自死で失って自責の念も抱え込まされて…とあの結末に至るまでに説得力を感じたし、この「赤い影」のジュリー・クリスティも子供亡くした母親が「娘さんは天国で元気よ」っていう一言に救われたっていうならもうそれはそれでアリなのかなって気がしました。

昔みたときはドナルド可哀想、だったのにしゃーないか、という感想になるのは自分が年取ったからなのかどっか病んでるからなのかどっちかな(笑)。

家族や身近な人を失っていくうちに若いときは信仰がなかった人でも死後の世界を期待したり死に対して何かイメージをつけていくものなのかな…歳を重ねていくとまた見方が変わる作品かもしれないと思いました。

スッキリするわけじゃないけどなぜだか好きな映画です。