どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「ワイルド・バンチ」…ジジイのロマンスと煌めく笑顔

69年制作、「最後の西部劇」と呼ばれるサム・ペキンパーの代表作。

ペキンパーと共同で脚本を手がけたウォロン・グリーンはのちにフリードキンの「恐怖の報酬」の脚本も担当していて、クズ野郎どもが破滅に向かっていくという所では共通点があると言えるのかもしれません。

けれどあちらが不条理な運命をホラーテイストで描いているのに対し、こちらで描かれているのは男の矜持や懐旧の念など全くテーマは異なります。

「恐怖の〜」では極めてドライだった人間関係も「ワイルド・バンチ」ではもっとロマンチックに描かれていると思いました。

悪名高き強盗団「ワイルド・バンチ」は鉄道会社の銀貨強奪も謀るも失敗。
老いを感じたリーダーのパイクは仲間とともにメキシコに逃亡する。
そこを仕切る将軍からアメリカ軍の兵器を略奪する最後の大仕事を持ちかけられるが…

 

とにかくジジイの笑顔が眩しい映画。

仲間割れすんのか…と思ったらワーッハッハッハ。
サウナではしゃいでワーハッハッハ。
機関銃をうっかり乱射しちゃったメキシコ人もワーハッハッハ。

ちっちゃいこと気にしてたらこの西部では生きていけません。

 

古い仲間もいれば新しい仲間もいる強盗団のメンバー、ハナから強い結束があるわけではなく徐々に認め合う過程が丁寧に描写されています。

足の悪いパイクを老いぼれだと軽視していたゴーチ兄がその能力を認めて酒瓶を差し出す。
自分のことしか考えてなかった野郎共がエンジェルの愚直な故郷愛を無下にできなくなる。
列車強盗時にエンジェルに助けてもらったダッチが彼を一旦見捨てることになったときの切ない表情…

悪党どもの持つ人間味にどんどん魅せられていきます。

 

ほんの少ししか登場しない他のキャラクターも印象的。

冒頭の強盗シーンに登場する自分の死にすら無頓着なワイルドすぎるジジイの孫、どこか誇らしげに将軍に便りを持っていく少年兵、主人公たちグリンゴを無視して権力者の腕に抱かれるビッチ…など、どの人物も決して善人ではありませんが生き生きとしています。

ガメつい賞金稼ぎのおっちゃんがやたらおっきな十字架を首にぶら下げてるのが可笑しかったりして(笑)。

 

不思議な朗らかさとともに作品には強烈な寂寞感も漂いまくっています。

ときは1913年、鉄道が各地を走り次に迫るは飛行機の時代。
無法者の時代は終わった…「自分の居場所のなさ」を痛感しつつ頭をフル回転させて生き残ろうと必死なパイク。

冒頭のアリの大群に飲まれるサソリは主人公の心境そのものなのでしょう。 

そしてそんな主人公を追うかつての仲間、ソーントン。
恩赦のため賞金稼ぎとなってパイクを追うも仲間はゴロツキに青二才とロクなのいない…

「パイクお前本当に大した奴だな、別れてからお前のことを考えない日は1日もないよ」…って言ってないけどジジイの心の声が聴こえる…

パイクも道中ソーントンと過ごした日々を思い出しそれをジトッとした目でみつめるダッチ…
「元カレのことなんか気にして…俺がずっと傍にいるよ」…って言ってないけどジジイの心の声が聴こえる…

結局パイクと対決することもなく1人死に場所を失ったソーントン。

長生きすることが必ずしも幸せとは限らないのかもしれない…何とも切なくなりますが、こんなに死を悼まれる、こんなに強く思える人が人生に1人いるってロマンチックですね。

 

列車強盗に橋爆破、圧巻のラスト銃撃戦とアクションのカタルシスは凄まじいですが、個人的に1番好きなのは突撃前の男の賢者タイム

将軍たちの祝賀会から少し離れたところに泊まって女を抱く一行。
パイクに充てがわれた女は乳児を子育て中…(モラルどうなっとんねん)

(うるさいなあ…)

どう考えても男の方がクズですが、吐き出してもスッキリしない野郎どもの気持ちがまざまざと伝わってきて続くレッツゴー、ワイノットの名台詞…

最後に自分の思う道を選択しその責任を負うことを厭わない潔い姿が胸に焼きつきます。

どうしようもない悪党が見せる気高さが嘘くさくなく、静かなドラマ部分も通してよく出来てると思いました。

エンディングもジジイの笑顔が眩しかった…!!

 

「悪魔の墓場」…ヨーロッパ製リビングデッド、ゾンビの出来が秀逸

英題:The Living Dead at the Manchester Morgue。

ロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(68年)と「ゾンビ」(78年)の間…74年にスペイン・イタリア合作で作られたゾンビ映画

サンゲリア」のような作品を期待するとマジメかっ!!となる社会派要素も兼ね備えたシリアスゾンビ。

特殊メイクを手掛けたのが「サンゲリア」のジャンネット・デ・ロッシということもあってゾンビ自体の出来栄えが非常に秀逸な作品でした。

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オサレヨーロッパ映画の雰囲気でやたらカッコいいオープニング。

舞台はイギリスのマンチェスター、工業化が進むなか街では公害が溢れ裸の女性(ストリーキング)が現れても無関心!?精彩を欠いた人々の姿が映されていきます。

バイクで都会から田舎町へと駆け抜けていくヒッピーっぽい雰囲気の主人公・ジョージ。

アクシデントに遭ってエドナという女性の車で彼女の姉が住む町まで同乗することに。

ところがその町では超音波を使って害虫駆除をするという新たな試みが行われていました。

「虫の神経系に作用してお互いを攻撃するようにする」…ところがこれが死体にも作用して2人は死人に襲われることに…

 

環境問題を訴えるラジオ音声が挟まるなどロメロを意識したのかな、と思ってしまう演出がチラホラ。

↑車が曲がった小道を向かってくる画も似てる

行き過ぎた科学技術が人に害なす存在となる…プロットはSF要素を兼ね備えていますが、肝心のゾンビは〝カメラに映らない〟など心霊系要素もあったりでどこかゴシックなムード。

最初に出てくるゾンビのおっちゃんはホームレスだったそうで村の誰も火葬費を出さなかった…
この世に未練でもあるような充血した眼でこちらをジッとみて襲ってくるのが怖いです。

ただの白塗りではない病的な顔色や生前の手術跡など「新鮮な死体感」のあるビジュアルが秀逸。

メインのおっちゃんゾンビをはじめ白髪バーサンなど顔に迫力のある面々が揃い、この世の重力を無視しているかのようにゆらーっと起き上がる動作も迫力たっぷりです。

食肉シーンも白黒で控えめだった「ナイト〜」のゾンビに比べしっかりレバーに喰らいついていてこちらの方が異常性が際立っていました。

墓石を持ち上げるまさかの知能ですが、決して人間離れしていないゾンビらしい動きで荒唐無稽な感じは全くしないです。

 

頭を撃っても死なず倒すには燃やすしかない…灰になって証拠が何も残らずゾンビの存在を信じてもらえない主人公たちは逆に疑われてしまうことに…

ラストもまさに「ナイト〜」なのですが、若者ヒッピーvs老世代の権力者という構図にニューシネマらしさを感じます。

美男美女の主人公2人が場当たり的にいい感じの雰囲気になってたり、麻薬常習者というこれまた時代を感じる設定なエドナの姉と夫の関係もあっさりしてて何があるわけでもなく…人間ドラマ、人物の描写は圧倒的にロメロに軍配が上がります。

最後の最後で因果応報な結末を迎えるのにはスッキリ、ここはイタリアンなホラーらしく思われました。

 

グロもアクションも昨今の映画に比べると控えめですが、「ナイト」後、「ドーン」前という立ち位置を考えるとかなり意欲的な作品だったのではないでしょうか。

教会で火を投げてゾンビを撃退する場面は「サンゲリア」に引き継がれてるように思われます。

真面目なゾンビ映画の名作…!!って感じの1本でした。

 

「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」4Kリマスター版観てきました

ゾンビ映画の原点になった「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」の4Kリマスター版がこの度劇場公開されるとのことで観に行ってきました。

自分が「ナイト〜」よりも先に観たのは「ゾンビ」の方。
高校生の頃映画秘宝で取り上げられていてどんな作品なんだろう??と思って借りてみたのがきっかけでした。

家族が寝た夜中にこっそりビデオで観たのですが、あまりの面白さに絶句、興奮して全く寝付けず立て続けにそのまま2回鑑賞してると朝起きてきた親に「何みてんの!?」と言われてしまいました(笑)。

並々ならぬスケール感と終末感、アクションも多かった「ゾンビ」に対し後からみた「ナイト〜」の方はかなり地味な印象。

黒人男性の主人公が迎える冷酷な結末には「すごい社会派だ…」とずーんとなり圧倒されましたが…

 

今回久々の鑑賞でしたが、さすが後続の作品のテンプレとなっただけあって改めてみると非常によく出来てました。

最初に出てくる墓場爺さんのゾンビがやたら強くてこんなだっけ??とビビる(笑)。
道具も使って賢いし動きも意外に素早いです。

序盤はセリフも少なくサイレント映画のような雰囲気、そしてやはり白黒なのがいいです。(カラー版をみたときのコレジャナイ感がすごかった)

ゾンビの顔にあまり個性はなく生者と区別がつきにくい位ですが、白黒映像の効果で死人の世界に取り囲まれたような怖さがあります。

ゆっくり歩き&人を食う&感染する&頭撃つ…のルールはもちろん、人間同士団結できず争い合う、ゾンビより怖いのは人間…と今に至るまでの法則が見事に確立されていて本当に凄い発明。

登場人物は皆悪人ではないけど、自分優先の頑固親父に鈍臭いカップル、何もしないバーバラにイライラ。

間の取り方などもゆっくりでかえって今の映画よりリアルに感じられました。

主人公ベンはクールな人ではありますが、あんな状況で協力しようと必死だったのに可哀想…
せめてもう1人まともに話せる奴がいればなあ、「バトル・ロワイヤル」の三村くん並みに出会う人の引きが悪すぎでひたすら気の毒でした。

地下室に籠もるかどうするか??…の選択も「えじき」や「ミスト」など後続の作品と重なります。

地下室への扉が思った以上に薄いので籠もるのは考えものだなあと思ったけど、結局ベンがここでゾンビたちから逃れることになる皮肉。

そしてエンドロールが1番怖いっていうオチがやはり強烈でした。

 

ほぼずっと一軒家が舞台ではあるものの、テレビとラジオが孤立感とスケール感を与えていてここも次の「ゾンビ」に上手く生かされてるように思います。

よく出来た作品だ!!と感心するとともにやはりこっから10年後に「ゾンビ」にまで昇華したのが凄いなーと思わずにいられません。

異形感が薄い「ナイト」のゾンビに比べ「ドーン」のゾンビはゆーっくりな動きにもっと統一感があってそれが怖かったし、生前の人生が想像されるような衣装で皆キャラが立ってたところなど、面白さ倍増になってたように思います。

ゾンビに関しては「ナイト~」の地点では完成されていなかった、むしろドラマ部分の方が完成されてたんだなーと思いました。

 

自分が観た劇場ではグッズ販売はなく、1週目なのにパンフがもう売り切れてました(゚ロ゚)

映像は抜群に綺麗で、血の滴る音までクリア、ゾンビがドンドン板を突破してくる音も大迫力…!

「ゾンビ」はバージョン違いで何度か劇場でみる機会があったのですが、今回「ナイト〜」もみれて感激。クラシックな名作でした。

 

「キャッスル・フリーク」…スチュアート・ゴードンの陰惨古城ホラー

スチュアート・ゴードンとチャールズ・バンド率いるフルムーン・ピクチャーズが組んだ95年のホラー。

他作品に比べるとかなり地味な印象ですが、家族ドラマの要素もあって個人的にはとても好きな作品でした。

アメリカ人のジョンは見知らぬ親戚から古城を相続することになり、妻・スーザンと目の不自由な娘・レベッカを連れてイタリアに渡った。
しかし城の奥深くには人間の姿をした化物が監禁されていた…

 

夫婦役はジェフリー・コムズとバーバラ・クランプトンの黄金コンビ。

夫の夜の誘いを頑なに拒否する妻ですが、何やら訳ありの様子。

実は夫ジョンの飲酒運転が元で一家は事故に遭い、息子は亡くなり娘は視力を失ってしまいました。

娘の方は父親を赦し障害を乗り越えようと前向きですが、妻は夫の過失をずっと許せず娘には過保護になって自由を奪いがち…修復できない家族の溝に切なくなります。

 

古城に着くと盲目のレベッカは何者かの気配を感じます。

なんと地下には亡くなった公爵夫人の息子・ジョルジョが監禁され化物同然の姿になっていました。

元の城の持ち主であった公爵夫人は夫に捨てられた憎しみを息子にぶつけ、40年もの間虐待を行なっていたのです……

2つの不幸な家族が交わる陰鬱なストーリー、ジェフリー・コムズのダメ夫っぷりが名演です。

息子を失った悲しみと罪悪感に耐えきれず結局また酒に逃げて娼婦を城に連れ込んでしまうヘタレ男。

その情事を盗み見たジョルジョが大興奮、性欲と食欲が暴走しひたすらおっぱいを追いかける…!

40年間も何の楽しみもなく過ごしていたら人間こうなるのかもしれん…性命力の強さにただただ圧倒されます。

容姿を気にする心はあるのか顔に包帯を巻き、言葉を話せず自分の幼い頃の写真を手に持ってくるジョルジョ、めちゃくちゃ哀しいです。

盲目のレベッカと心を通わせるのかと思いきや全く意思疎通がとれず、性欲バーサーカーと化してひたすら若い娘の肉体にアタック。

「わたしを抱きなさい!」と怪物を阻止する母・バーバラ・クランプトン。(この人いつも体張ってるなあ…)

 

舞台の古城はプロデューサーであるチャールズ・バンドが所有する別荘だったそうで相当低予算なこの作品。

制作スタッフにはイタリア人が多く参加していてゴシックなムードが漂っています。

特殊メイクを施され怪物を熱演したのは「ペンデュラム/悪魔の振り子」のジョナサン・フラー。

後半はひたすら怪人が全裸姿で女性を追いかけ回すというゴードン監督らしい!?変態な姿に絶句。

股間にボカシがかかっていて余計にグロい映像になっているような…

クライマックスは父ちゃんと怪物のタイマン勝負。ドカッ!バキッ!やたら効果音のいい格闘戦に。

 

結局父親は死ぬことでしか赦されなかったという悲しい結末なのですが、ラストの出棺シーンが妙に美しく心に残ります。

もうひと家族を対峙させ、救いを感じさせるエンディングが印象的でした。

ストーリーは何の捻りもなくシンプルすぎるくらいですが、古典ホラーの質感があって好印象。物悲しい家族ドラマしてて好きな作品でした。

 

「ザ・ブルード/怒りのメタファー」…クローネンバーグの隙がない傑作家族ホラー

カルト宗教に入った妻の下から子供を連れ戻す…クローネンバーグの当時の実体験が色濃く反映された作品だそうで…

本監督の初期の傑作、肉体の変容という一貫したテーマも在りつつ明快な家族ホラーになっていていいですね。

神経症を患ったノーラは夫と親権を争いつつも精神科医・ラグランの管理下にあった。
博士の治療法は〝怒りを具現化して切り離す〟という画期的なものだったがそれが思わぬ事件を引き起こしてしまう…

 

とにかく顔の圧の強い人たちのオンパレード、クローネンバーグ作品の真骨頂ともいうべき奇人変人も続々と登場します。

そんな中でも際立つサマンサ・エッガーのメンヘラ女っぷり。

「どうせ私が悪いのよ」とブツブツ、宥めようとしたら「あんたそれホントに心から思ってんの?」とか言い出す…マジで勘弁してくれ(笑)。

↑身体を前後に揺らしながら話しかけてくんのめっちゃ怖い。

でもそんな彼女にもこうなるに至った原因があるようで、母親に虐待され父親はそれを見て見ぬふりしていたと。

ノーラの両親が孫娘のじいちゃん・ばあちゃんとしてサラッと登場するのも気味の悪いところで、ジジババともに「酒!飲まずにはいられないッ!」人っぽいのが不安定な感じしますね。

やった方にとっては取るに足らない/記憶に残らないものであっても、やられた方にはいつまでも傷になって残ってしまうものなのかもしれません。

 

「人間は生まれながらにして自分を守る機能を持っているのよ。」…

小さい頃には身体にデキモノが出来て入院していたというノーラ。

心の異変や消化できないストレスが身体に出てしまうことは現実にもあって、言葉に出来ない彼女のSOSのサインだったのでしょう。

ラグラン医師の研究によりこのデキモノが異形児の子宮外出産にまで昇華させられ、その子供たちが人を殺めるようになってしまいます。

荒唐無稽なようで妙なリアリティも感じてしまう秀逸な設定。

誰しも人間はストレスを抱えていて、スポーツででもお喋りででも何かでそれを発散しているものだと思いますが、到底消化できない大きな感情が本人が全くコントロールできないところで撒き散らされる…

他作品だと多重人格とか超能力とかに変換されることが多い気がしますが、科学要素を混ぜてくるのがこの監督ならではの表現ですね。

 

またこういうホラーでは怪物の正体をなかなか見せないパターンが多いように思われますが、本作は割と序盤から小人殺人鬼がバッチリ映る大胆さでビビります。

↑思わずドキーン!となるシーン。だけど皆スキーウェアみたいな繋ぎの服着てるのが妙にかわいかったりして^^

小学校で撲殺!!…の情け容赦のなさには絶句、時間外労働させられるわ、勝手に恨まれるわで担任の先生気の毒すぎる…

 

クローネンバーグ自身を投影したと思われる夫・フランクは終始暗澹たる表情を浮かべながらも娘・キャンディを助けようと必死ではあります。

医者の下を訪れ直接対決になりますが…
オリヴァー・リード演じる医者は娘救出に協力してはくれたけど、珍しい研究体のノーラに固執して残りの患者の治療を放り出すわ、明らかに手に負えないモンを放置してるわでヤブ医者もいいとこ。

「キャンディとブルードたちは同腹児だ」…違う、キャンディは普通の子なんやで!!と思ってたら暗雲漂うようなあのラスト。

子役の女の子の演技が上手で寡黙にじーっと耐えている様子がひたすら悲しいです。

暴力を受けた人間の負った心の傷は深い、虐待は連鎖する…ヘレディタリーなラストでとても綺麗にまとまった家族ホラーでした。

 

先月鑑賞したルチオ・フルチの「黒猫」の特典映像にて解説者の方が「ブルードの構想が入り込んでいるのでは」と指摘されていて久々に観てみたのですが…(「黒猫」は主人公の憎悪に同調したネコが人を殺すという内容)

トーンが全く違うからかあまり似てるとは思えず、イタリアンはパクるならもっと盛大にパクる気がしますがどうなんでしょう(笑)。

小人殺人鬼というところではニコラス・ローグ監督の「赤い影」が想起されます。

あちらも夫婦の不和を描いた作品、唐突なオチは「妻の意識下の怒りが夫を処刑した」とも読めなくもなくてこういう文学性漂うホラーはいいですね。

低予算をものともしないアイデアと緊迫感で完成度の高い作品でした。

 

「トップガン マーヴェリック」…限界突破トム・クルーズのヤヴィンの戦い

やたら評判がいいのでこれは劇場で観なければと行ってきました。

隣に座ったおじさんがずっと泣いていて自分も最後の方泣きながら観るというホルガ村のような状態になりました。

2週目だったのに満席の劇場、エンドロール前のテロップで拍手が巻き起こる、場内が明るくなるまで皆席を立たない…アダルトな観客が集まった至高の映画鑑賞タイムでした。

1作目に特別な思い入れがあるわけではない人間がみてもめちゃくちゃ面白かったです…!!

これでもかと矢継ぎ早に来るクライマックス、プロット自体は「ヤヴィンの戦い」と言っても過言ではなく胸熱で心昂るストーリーでした。

何よりトム・クルーズ本人のパーソナリティを活かしたような脚本が素晴らしく、生き残りジジイの無双がひたすらカッコいい。

 

トム・クルーズといえば…何十回はされてるだろう同じ質問をされても、見ず知らずのウマ娘に話しかけられても常に笑顔をたやさない…宗教でもやってらっしゃるのかな、と思うと本当にやっていて(笑)、めちゃくちゃ真面目でストイックでプロフェショナル。

90年代〜2000年代前半まではオスカー俳優を目指していたようにも思えるキャリアですが、演技派には転向できず、スター性がありすぎて助演にまわるタイプでもない…ずっとトップを走りつつ裏では迷いや不安もあったのかなと思ったりします。

代表作になった「ミッション・インポッシブル」シリーズを中心に大作プロデューサーとしての腕をずっと磨き続けてきた…若い頃のルックスや体力が失われる中それでも同じ道で戦い続けた男の集大成に胸をうたれました。

(以下内容に触れています)

 

冒頭から掴みバツグンで限界突破サバイバーしちゃうトム…何となくご本人のイメージと重なり、機械化/無人化が進む中でパイロットの必要性が問われているというプロットも時代の変化の中で何が残せるのか…中高年の胸に染みるような内容になっていました。

トムは若手と共演しても相手を上手く立てられないみたいなイメージがありましたが、今回は教官役がばっちりハマってました。

グースの息子グースに似てる…!!と思ったら「セッション」のドラマー役の人だった。ムキムキになってるしすごい!!

PVみたいだった1作目のラブストーリー、今回はなくても…と思ったら新たなヒロインはジェニファー・コネリー。(めっちゃ綺麗)

こんな人前作にいたっけ、誰!?と思いながらみてましたが、1で名前はしっかり登場してたキャラだったんですね。

謎ルール連発のハードロックカフェ、体育会系すぎておっかねー(笑)、でも前作のノリや雰囲気を所々で上手く掴んで生かしていたように思います。

なかなか姿をみせないアイスマンにドキドキ。ヴァル・キルマーの病気のことを事前にネットで知ってどうなるのかなと思ったけどファンも納得するようによく練られてるなーと思いました。

前作で1番いいキャラだったアイスマン。異様に若作りなトムの隣に立つの厳しいんじゃないだろうかと余計な事心配しましたが、予想外にヴァルもカッコよかったです。

 

時々人物パートを挟みつつ「1つのミッションに向かっていく」プロットに緊張感と達成感があってとてもよかったです。

低空飛行で目標物を破壊ってデススターとめちゃくちゃ重なる(笑)。

「考えるな」「ヒアデイカム!」と個人的には「うぉー、EP4だ!!」と昂ぶりまくりで、最後に助けにくるハン・ソロ(次のアイスマンっぽいお兄ちゃん)まで完璧。

いつもの全力疾走するトムまで拝めた上、グースの息子乗せてのF14vs次世代機、めちゃくちゃクライマックスでした。

 

グッズは完売でしたが、パンフレットは売っていたので購入。

キャストのプロフィールなどは薄めでしたが、メイキング情報を読むとCGを使わず俳優さんたち全員が訓練を受け、パイロットが操縦する機体に実際に乗って自らカメラ操作しつつ演技したのだとか。

CGなしのホンモノの映像の迫力に納得…!

上映前には「ミッション・インポッシブル」最新作の予告が流れたけど、トム・クルーズほんと凄いわーと圧倒されました。

音のいい劇場で観ましたがIMAXで観たい作品でしたね。

久々に洋画の大作をみた!…って感じで大大満足の続編でした。

 

「ノー・エスケイプ」…レイ・リオッタが彼岸島でプリズンブレイク

先日レイ・リオッタが67歳で亡くなられたとのこと。

作品的なベストは「グッドフェローズ」かと思いますが、自分が初めてこの俳優さんを知ったのは「不法侵入」という作品。

美しすぎる人妻マデリーン・ストウをストーカーする警官の役だったのですが、勘違いサイコパスっぷりが堂に入っててドキドキ。

その後も「タービュランス」「ハンニバル」などネチネチな悪人を演じると天下一品という印象が残りました。

個人的には悪役のイメージが強かったレイ・リオッタですが、善玉役で好きだったのが94年のこの作品。

ときは2022年。
上官殺しの重罪を犯した軍人・ロビンスは〝アブソロム”と呼ばれる刑務所へ送られる。
そこは世界から隔絶した究極の監獄島だった…

 

レイ・リオッタにしては珍しくアクション映画の主役。

刑務所が民間に委託され悪徳所長がやりたい放題というあるあるな設定。

序盤は近未来っぽくホログラフ映像や最新監視システムの様子が描かれますが、ハイテク感を醸そうと必死な90年代刑務所モノを観るとなぜかワクワクが止まりません。

訳ありで上官を殺したと思われるレイ・リオッタは絶海の孤島に送られます。

しかし…!!
この島では暴力を正義とするアナーキストたちのグループ・『アウトサイダー』と、改心して平穏な文明社会を築こうとする『インサイダー』の2つのグループが争っていました。

 

マッドマックス2と食人族を足したようなワイルドな見た目のアウトサイダーたち。

元軍人で能力の高い主人公は「仲間にならないか?」と勧誘を受けますが、誘いを無下にしてしまいます。

負傷し今度はインサイダーの村に拾われますが、そこでも「俺は誰とも群れないから」と雲雀恭弥のようなことをボヤきながら、たった1人島の外に出ようと画策するレイ・リオッタ

オーストラリアがロケ地の本作は自然が美しく、村のセットもよく出来ています。

↑とにかく木材の多い映画

みてると「思ったより何でもあるやん」ってなってきますが(笑)。

メカ担当、調達屋、酒造屋など各々役割を持ったキャラクターが登場、こうした〝脱獄モノ”の面白さをしっかり押さえられてるのがGOOD。

こんなに適応力のある人たちが何で囚人になっちゃったのよ…と思いますが、めっちゃ器用に何でも作るおっちゃんは元爆弾製作者。

訳ありの過去持ちが多いインサイダーのグループ、村のリーダーはランス・ヘンリクセンが演じていて皆のファーザーと呼ばれる人格者。

彼だけは冤罪だと噂されていますが真相はいかに…??

思いの外キャラクターが1人ひとり立っています。

 

ところがある日アウトサイダーたちが攻めてくるとの情報が。

あとやっぱりインサイダーの人たちも脱獄あきらめてなかった…!!

衛星から監視中の悪徳所長は邪魔ばかりしてくるし一体どうなってしまうのか!?

 

監督は「マスク・オブ・ゾロ」「007カジノ・ロワイヤル」のマーティン・キャンベル
プロデューサーは「ターミネーター」「ウォーキング・デッド」などヒット作を数多く手掛けたゲイル・アン・ハードと手堅い布陣。

合間に激しい合戦場面などを挟みつつダレないアクション映画となっています。

ラストバトルはまさかのどんでん返し!?にびっくり(笑)。

敵大将ときっちりタイマンバトルで決着つけるところは90年代ムービーらしくスカッとします。

なによりトゲトゲ&ツンツンだった主人公が少しずつ心を開き、集団と協調する姿をみせるのがいいんですよねー。

ギラギラした鋭い眼差しのレイ・リオッタが怒りや孤独をしっかり表現していてシリアス味が失われず良いバランス。

代表作ではないかもしれませんが、こういうB級な作品の中でも個性が輝いて、映画に一味も二味も加えてくれるような俳優さんだったと思います。

助演でもまだまだご活躍できそうなお年だったのに悲しい…

素敵な作品を沢山ありがとうございました。