どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「ダゴン」…抗う人の意志と無情な血の運命

いあ!いあ!

スチュアート・ゴードン2001年の監督作、未見で気になっていたのを初鑑賞。

「死霊のしたたり」のようなユーモアあるやりすぎエログロ路線とは全く違って、得体の知れない集団に取り囲まれる恐怖、逃れられない血の宿命…シリアスに怖い王道ホラーしてて見応えのある作品でした。

IT長者のポールは恋人のバーバラ、そして友人夫妻とスペインへボートで優雅な休暇を楽しんでいました。

休みの日も株価をチェックするポール、そんな彼に痺れを切らしパソコンを海に放り投げるバーバラ。ワイルドすぎる(笑)。

ところが突然の嵐に巻き込まれ船は座礁、救助を求めてポールたちは近くの漁村に向かいますが…

 

手に水かきのある謎神父にまばたきしないホテルのおっちゃん。
建物は傷みまくっててどこもかしこも汚い。

あれこの村おかしいぞ!?と思ったのも束の間、仲間とはぐれた主人公が村人に襲われる追いかけっこが開幕。この鬼ごっこが異様に長い(笑)。

けれど緊張感が途切れないのが凄いところで、スペインがロケ地だという町は本物の廃村のようで雰囲気満点。

一向に止まない雨は運命を操作されているような不条理感を醸し出しています。

やがてようやく話せる第一村人発見…!!

そのおじいちゃん曰く村はかつてキリスト教を信仰していたものの不漁になり海の邪神を崇めるようになりました。

村は富み村人たちは永遠の命を手に入れたものの、その代償として半魚人化、定期的に生贄を捧げなければならなくなったのでした。

遠目ではゾンビのようにもみえた村人たちですが、足が遅いのは陸地から海で生きるよう体が適応したから…世界観がしっかりしています。

そして「ウィッカーマン」「サイレントヒル」のような邪教集団の恐ろしさ。

捕らえられたおじいちゃんが聖書を読み上げながら生皮を剥がれるシーンは強烈で絶句です。

けれど両者とも救いを求める信仰者という点では同じでどこか皮肉めいたものも感じてしまいます。

ウィッカーマン」同様ダゴンの村人たちも不作になるたび生贄を必要とします。

残酷で胸糞ですが食の保障されない生活になったとき人間が選ぶ合理的な解決方法がこれだった…人は追い詰められると何かに縋りつきたくなるものなんだ…普遍的恐怖、絶望をまざまざと感じさせるストーリーです。

 

こんな恐ろしい目に遭う主人公、オタクっぽい雰囲気だし弱いに違いない…と思いきや果敢に恋人を助けに行くし、諦めずにしぶとく戦う…!!

↑だんだんジェフリー・コムズにみえてくる

「人生は二進法」と語るポール、鬼ごっこ中にはまるでゲームのように選択肢をとる場面が度々ありました。

いかなるときも自分で選択し道を切り開いていくのが人生だ…好感の持てる応援したくなる主人公です。

ところがラストに無情な事実が突きつけられます。

なんとポールにも魚人の血が流れていました。

スペイン生まれだというポールの母はかつてこの漁村の男と付き合っていてそこで身籠ったのがポールだったのでした。

最後の最後まで抵抗するも海に帰っていくポール。結局自分のルーツに勝てなかった敗北エンドですが、ラストはなぜか美しくこれでよかったんだという思いも湧き起こります。

バッドエンド感が少ないのは主人公と結ばれる運命だという異母妹・ウシアちゃんが美しいからかもしれませんが…(笑)

↑こんな美人が相手なら足がイカだっていいじゃなイカ

主人公の出自部分が唐突に思われる節もありますが、冒頭から伏線がしっかりあってテーマも明快なので「こうなるさだめだった」感がある種の安堵感すら与えてくれます。

怪物(ダゴン)の全貌をあえてみせないスタイル、回想シーンへの鮮やかなジャンプ、途切れない鬼ごっこの緊張感…演出が冴え渡っていて怪物の触手レイプも映像にせずともしっかり陰惨感がでていたように思います。

 

ラヴクラフトを全く知らないのですが、「インスマウスの影」と「ダゴン」の二篇を併せて上手く脚色したよう。

今更ですが原作も手にとってみたくなりました。

B級かと思いきやさすがスチュアート・ゴードン、完成度が高かったです。

 

エラリー・クイーン「Yの悲劇」を読んでみた

先月ダリオ・アルジェントの「スリープレス」のBlu-rayが発売されました。

特典盛りだくさんでめちゃくちゃ嬉しい内容だったのですが、アルジェントはエラリー・クイーンが好きでかなり影響を受けているとのこと。

エラリー・クイーン…名前は知ってるけど読んだことない…

犯人についてネタバレを喰らってしまったものの元ネタだという「Yの悲劇」を読んでみました。

全米一裕福だと噂され、同時に悪評轟く異形の一族の一員、ヨーク・ハッターの腐乱死体が発見された。死因は毒物によるものと判明する。

その後ハッター家では奇怪な毒殺未遂事件が発生し、ついにエミリー夫人がマンドリンで殴殺される。

シェイクスピア俳優ドルリー・レーンの推理が明かす思いもよらない犯人とは??

 

(以下ネタバレ)

犯人は子供…という壮絶なネタバレを喰らった状態で読んだわけですが、盲目の目撃者による証言が「身長が低い&肌がスベスベ」…ニブチンな自分でもこれは序盤で気付いたんじゃないかなあ。(←あとからでは何とでもいえる)

子供の描写が13歳にしては幼すぎて7〜8歳くらいじゃないの??と思いましたが、幼い子だとあんまりなので無理矢理年齢を引き上げたのかも。

1932年当時ではかなりショッキングな結末だったことでしょう。

 

でも面白かったのは犯人の意外性云々よりも見事な伏線回収。

犯人・ジャッキーは死んだ男主人が遺した小説のアイデアメモを真似て遊んでいただけだった…幼さゆえトレースを優先するばかりで所々合理性を欠いた突飛な事件になってしまった…このプロットの隙のなさに圧倒されました。

冒頭自殺を遂げた男主人・ヨーク・ハッターの遺体は損傷が激しかったらしく、実は生きていて真犯人なのでは??と思わせます。

子供が殺人事件をマネするよう仕向けていて実は全ての黒幕だった…金田一少年露西亜人形殺人事件みたいなオチを予想しましたが、全然そんなことはなかった。

でも長年妻に虐げられた男がその憎しみを消化するために書いた小説のプロット、それが思わぬかたちで現実の人間を殺す…「架空の暴力が伝染する」という筋書きがとても面白かったです。

 

残念だったのは人物描写があっさりめなところで、家屋や町の雰囲気なども含め「ドラゴンタトゥーの女」や横溝正史作品にあるような不気味さ、閉鎖的なコミュニティ感が全くありませんでした。

主人公探偵が「この一族には異常な血が流れている!!」と今だとお蔵入りにさせられそうな遺伝差別の台詞をバンバン口にしていて、一族の病が母親の梅毒が原因であることが示唆されていました。

…が、そんなに言う割には普通のギスギスした家族って感じで異常な家族感があんまり伝わってこない…

苛烈な性格の母親が障害のある異父姉にかかりきりで家族仲が最悪だったというけれど、一方で憎悪を撒き散らしつつ一方で愛に満ちている…こういう人の矛盾と魅力、悲劇性みたいなものが描写出来ておらず、「フェノミナ」の母ちゃんの方がよっぽど怖さと哀しみ感じさせたなーと物足りなかったです。

 

しかしビックリだったのはラスト。

犯人の少年が小説の内容で満足できなくなってしまい、そこから逸脱してさらなる残虐な犯行に手を染めようとするところは真に迫っていて怖かったです。

そしてそんな犯人をみてなんと探偵が子供を独断で処刑…!!…したらしいことがラストに示唆されていました。

元の殺人は小説が犯人みたいなものなのでこの罪では裁けない…けど確実に殺人衝動を抱えた子供を放置しておけないので毒をすり替えて殺した…

ジイさんの中では筋を通したつもりなんだろうけど真相掴んだ地点で警察に報告した方がよかったんじゃないの??…探偵が「この一族は異常だから」と子供を切り捨てて殺すという衝撃的な陰鬱エンドでした。

この1作だけだと完成度が高いオチに思えますが、このジイさん他の作品でも主役やってるみたいで主人公にするにはクセが強いように思われました。

アルジェントの「スリープレス」とは犯人像はもちろん楽器を凶器にしたところ、童謡にインスパイアされて事件が始まったところ、疑いの目を逸らすため毒入りビールを犯人がわざと飲むところ…など確かに共通点が多々見られました。

小説がもとで現実に殺人事件が起こってしまうプロットは「シャドー」とも似ています。

初期のジャッロ「わたしは目撃者」も「Yの悲劇」を題材にしているそうで、盲目の目撃者、殺人は遺伝する説、毒入りミルク…と成る程、読んでみると元ネタの宝庫でした。

古めかしく思うところも多々あったけれど、色んな形でその後のミステリや映画にも影響を与えたんだろうなーと納得の名作ではありました。

 

アルジェントの「オペラ座の怪人」…驚愕!!美しき変態ネズミ男

劇団四季のミュージカルが好きで間違ってこのビデオ借りちゃった人はきっとトラウマもの。

ホラーファンが観てもなかなか珍妙な作品で、アルジェント好きの人間が観ても「どうした、アルジェント!?」とのけぞるような、別の意味で記憶に刻まれるトンデモな1本でした。

オペラ座の地下深くには音楽の才を持つ謎の怪人ファントムが住んでいた。ある日怪人は美しき新人ソプラノ歌手に恋をするが…

基本のストーリーは原作・ミュージカルと同じですが、本作の怪人はなぜかイケメン。
金髪ロン毛に黒装束、乙女ゲーに出てきそう(笑)。

奇形があって両親に捨てられたというオリジナルの哀しい設定はいずこ…「ファントム・オブ・パラダイス」の爪の垢でも飲んどけや、という気持ちになります。

しかし冒頭、捨てられた赤子の乗った揺り籠が下水を下っていく様子は「バットマンリターンズ」に似ていたりして、なんと怪人はネズミに育てられ大きく成長したのでした。

どうやって言葉や音楽の才を磨いたのかサッパリ分かりませんが、新人歌手のクリスティーヌ(アーシア・アルジェント)と恋に落ちる怪人。

 

やたらと生々しい性描写の多い作品で娘のヌードをバンバン撮るお父さん。

全裸の男女が交わるサウナ(風呂場?)のシーンがあったり、バレエ劇団の少女を追い回すロリコンのジジイが登場したりと退廃的というか無駄にヘンテコなシーンが多かったです。

官能的でもなければ美しくもなくむしろ汚いといっていい仕上がり。

 

そして極め付けは怪人の特殊性癖。

クリスティーヌがいない間にこっそりネズミたちと…(以下自重)

これぞアルジェント作品に登場する「動物を友とする孤独な男」の極北。

オペラ座の怪人」といえば、ヒロインが才能ある気難しい男と一緒になってアウトローとして生きるか、それとも普通のいい男と一緒になって平凡な幸せを掴むか…揺れる女心を描いているのが面白いところではないかと思います。

それが今作はイケメン彼氏の特殊性癖を許容するかどうするか…これはこれで悩みそう(笑)。

さすがアルジェント、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」みたいな生ぬるいもんじゃない変態性をみせてくれます。

 

怪人を美男にしたため本来イケメンに描かれるはずのライバル男キャラがビミョーな印象になってしまったり、恋愛ドラマ皆無のまま性描写が挟まるためヒロインがビッチにしかみえなかったりと、色々残念。

コミカルな描写が浮いてしまいホラーとして大いに緊張感に欠け、グロ描写も昔の作品のような精彩はなくただグロいだけの味気ないものになってしまってました。

同じくオペラを舞台にした「オペラ座の血の喝采」でアイデアが出尽くしてて、もうあっちがアルジェントの「オペラ座の怪人」ってことでよかったのでは思いますが…

 

ラスト、怪人と仲違いして別れようとしたクリスティーヌが唐突にファントムの死を嘆き悲しみ愛を叫びます。

思うに本作の怪人はアルジェントの投影。(イケメンなのに陰キャ、多くの人には理解されないかもしれない性癖)

そして揺れ動くヒロインは我々アルジェント好きの映画ファン。変態やなあ…と思ってもやっぱ好き!!大好きなんやでーー!!

アルジェント映画にランク付けしたら最下位かもしれませんが、よくも悪くも記憶には残る作品でした。

 

「トラウマ/鮮血の叫び」…アルジェント首切り殺人事件

ダリオ・アルジェントが娘・アーシアを主演に迎えた93年の作品。

どこか「サスペリア2」を彷彿させるジャーロもので決して面白くないことはないのですが、アメリカをロケ地にしたからかビジュアル的な魅力が半減。

音楽はピノ・ドナッジオが担当していますがあまりしっくり来ずゴブリンが賑やかにやってくれた方が良かったんじゃないかなー…と映像&音楽面が残念な作品であります。

拒食症に苦しむ美少女・オーラは精神病院を脱走し自殺を図ったところを偶然通りかかったデヴィッドに助けられる。

警察に保護されたオーラは自宅に送り返されるが、その夜霊媒師をしている母・アドリアナが降霊会で怨霊に憑依された。

「殺人犯がいる」と叫びながら外に飛び出した母親は追いかけた父親共々何者かに首を切断される。

再びオーラを匿ったデヴィッドは次々に起こる首切り殺人の謎を追うことになるが…

 

16歳の娘を自宅に住まわせちゃう主人公にドキドキ。

けれどどこかボーイミーツガール的要素を感じさせるストーリーで、青年が心に傷のあるヒロインをどうにかして助けようとする…アルジェントにしては明るめなドラマが描かれています。

オカン&オトンが訳あり霊媒師とメンタル病むのもまったなしなオーラちゃん。

降霊術→殺人事件…という流れは「サスペリア2」とよく似ています。

本作での犯人の手口は一貫しており、電気ドリルにワイヤを取り付けた特殊機械で首を切断…!!

アルジェント特有の痛覚に訴えかけるような殺しのシーンはなく描写はあっさりしていますが、絞首刑と斬首刑を一体化させたような殺人方法は強い怨恨を感じさせます。

事件が起こるのはいつも雨の日、被害者は医者に元看護師…これは何かありそうと惹きつけられるサスペンスです。

 

(以下ネタバレ)

ラスト10分ほどで急転直下!!

なんと冒頭殺されたはずのオーラの母は生きていました。

十数年前…オーラの弟の出産時、突然の停電が元で医者が誤って赤ちゃんの首をメスで切断してしまいました。
事実を隠蔽しようとした医者たちは母親に電気ショック療法を施し記憶を抹消していたのです…

どんな病院やねん!!とびっくり仰天、恐ろしすぎるトラウマ。

犯人が自分の死を偽装していた…ミステリものあるあるなどんでん返しですが、母親が「自分の手で自分の頭を掴んで首を切られたように見せかけていた」というトリックが面白いです。

「最初にみたものに真相があった」…「サスペリア2」とここも重なります。

 

結局殺人を犯していたのは死んだ赤子の怨霊だったのか、それとも母親のトラウマが雨の日に偶然蘇ってしまったのか…

オーラの精神科医は母親と不倫関係にあったようで殺人の協力者。オトンが殺されたのは完全に巻き添え…??

なんにせよ目撃者として利用され凄惨な場面を見せつけられたオーラが可哀想ですね。

 

母親役は「キャリー」で毒母を演じていたパイパー・ローリーでさすがの迫力。

このキャスティングはアメリカ合作ならではでしょうか。

そしてラストこのオカンが「サスペリア2」まんまな壮絶な最期を迎えます。

隣の家の少年にトラウマが残るわ!!っていう(笑)。

途中主人公カップルの視点以外にも度々少年のドラマパートが挟まっていました。

フェノミナ」を思い出させる昆虫好きの描写はファンには嬉しいですし、「隣の家に住んでるのは実は殺人鬼かもしれない」…という恐怖には童心が感じられて良かったのですが、まとまりはイマイチだったかも。

でもラスト10分で怒涛の種明かし&破滅ってのがイタリアのジャーロっぽい感じがしますね。

 

とってもリアルな生首、特殊効果はトム・サヴィーニが担当。

切断後に喋るという「魔界転生」並みのファンタジーにびっくり(笑)。

犠牲者の1人をブラッド・ドゥーリフが演じているのも豪華キャストですが、あまり見せ場がないのは残念でした。

 

「シャドー」までに在った映像と音のキレみたいなのが失われていてビジュアル面の魅力が乏しい1作。

だけど全体的にはしっかり陰鬱ジャッロしていて「サスペリア2」が好きならそれなりに楽しめる、そんな作品でした。

 

アルジェント後期傑作「スタンダール・シンドローム」を独自解釈してみた

性暴力の被害に遭った女性の精神崩壊を描くダリオ・アルジェント監督作。

殺人シーンにいつものような芸術性は皆無で淡々と渇いた感じ。ストーリーは破綻こそ少ないものの解釈を委ねたようなやや難解なつくり。

好みが分かれそうな作品ではありますが個人的には「スリープレス」と並んで…いや味わい深さではそれ以上の、後期の傑作ではないかと思う大好きな作品です。

 

女性警察官・アンナは連続レイプ犯が現れるというタレコミを受けフィレンツェウフィツィ美術館を訪れました。
しかし絵画を観ているうちに絵の中に吸い込まれたような感覚に陥り失神してしまいます。

タイトルである「スタンダール症候群」とは芸術作品に触れてめまいや錯乱などの症状を呈する心因性の疾患のこと。
作家のスタンダールがこの症状を起こしたと記録されておりその名が付けられたそうです。

失神後、アルフレイドという男性に介抱されたアンナでしたが、なんとその男こそレイプ魔でした。

男はアンナを強姦しさらに彼女の目の前で娼婦を惨殺。

事件後地元で療養することになったアンナでしたが、アルフレイドが再びそこに現れ惨劇が訪れます…

 

◆アルフレイドは実在したのか??

この映画の奇妙なところは主人公が何者か一切分からぬまま話が開幕するところで、途中の回想にてようやく警察官だったことが判明します。

しかし冒頭美術館を訪れているアンナは何とも頼りない雰囲気でとても捜査中の警官にみえません。

レイプ被害者になる前から「よく眠るように」と書かれた精神科医と思しき人物のメモを所持していたり、不可解な点が多いです。

さらに幼少期にもスタンダール症候群を発症していたことが明らかになり、「地元を忘れようとした。父親のことも…」といった意味深な台詞も散見されます。

 

ルフレイドは行為の最中以外ではスーツにブリーフケースと「働く男のみなり」をしていてその風貌はどこか父親像を想起させます。

アンナの父とシルエットも少し似ているような気がします。

またアルフレイドの登場はいつも唐突で現実離れしているといっても過言ではありません。

精神科医とアンナしか知り得ないスタンダール症候群の会話をアルフレイドが知っているのも不自然。

護衛2人が殺されたのも実は犯人がアンナだからで油断してやられた…と考えると合点がいくのではないかと思いました。

↓赤いワンピースの女性を殺したのもアンナ??

女性をみつめてる視点のカット→走ってるアンナ→女性に声をかける視点のカット…と間にアンナだけが存在しているのは主人公が犯人だと示唆しているようにみえました。

 

実はアンナには幼少期父に性的虐待された過去があった…レイプ犯の捜査をすることになりそこで過去のトラウマが蘇って壮大な妄想をしてしまった…

(15件のレイプ事件のうちアンナのいるローマでのみ殺人が起きていた=殺人の犯人はアンナ)(父親を殺したい位今も憎んでいてレイプ犯を逮捕せずに殺した)

そんな風に読みとれるストーリーではないかと思いました。

 

最初の壮絶な暴行シーンでは、アルフレイドがアンナの唇をカミソリで切りつけ血まみれの口に無理矢理キスをします。

破瓜の苦痛を表しているようにもみえて、裸体が映ったりするわけではないけど強烈なシーンです。

 

◆暴力を受けた女性の心の苦しみを描く

暴行を受けた後、アンナは一変して髪を短く切り、マニッシュな服装に身を包み、男たちに混ざってボクシングのトレーニングを繰り返します。

自分が女性だから犯されたのだ…自分の中の女性らしさに罪悪感を抱き、それを排除することで必死に身を守っているようにみえます。

またアンナは「彼がまた私の前に必ず現れる」「嫉妬に駆られて私が付き合う男性を殺そうとする」と恐れを抱いていました。

けれど発覚しているだけで15人の女性を暴行したというアルフレイド、(彼が実在している人物だとしても)捕まらなかったのは再犯がなかったからで手当たり次第に犯行に及んでいたのではないでしょうか。

犯人が自分に執着したためこうなってしまったのだ…理不尽な暴力を受けた人間はそこに特異な理由を見出そうとしますが、性暴力を振るう男にとって相手は誰でもよかった…往々にしてそんなものだったりしないだろうかと思いました。

 

ルフレイドを殺害したあと、次にアンナは金髪のカツラを被りフェミニンな服装に身を包みます。

自分の中に芽生える暴力衝動(男らしさ)を否定したい、女性らしくいれば守られるという不安の表れにみえます。

新たに出会った男性と恋を始めようするもアンナの中に芽生えた別人格(アルフレイド)が恋人を惨殺してしまう…というストーリーはヒッチコックの「サイコ」然り、ある種ベタな展開ではあります。

けれど暴力を受けた人が暴力の連鎖を引き起こしてしまう、虐待の連鎖の悲劇は真に迫ったものとして描かれていると思いました。

 

アンナの恋人も上司も精神科医も、彼女の周りの男性は皆優しい人ばかりでした。

しかし彼らの努力も虚しく1人の人間から受けた暴力体験のせいでアンナは二度と他人との信頼関係を築けなくなってしまいます。

暴力を受けた人間は世界に対して懐疑的になり、過度に防衛的になったり攻撃的になったりしてそこから回復することは難しい…深い絶望が突きつけられます。

ラスト同僚の警官男性たちに赤子のように抱きかかえられるアンナ。何とも悲しい気持ちが込み上げるエンドロールでした。

 

◆印象的な絵とCG

絵画が不気味なホラー装置として作動している本作。

冒頭アンナが〝ダイブ〟する印象的な絵画は「イカロスの墜落のある風景」。

右手前に墜落しているイカロスに誰も見向きもしていない…という不思議な構図の絵で虐待の苦しみを1人抱える主人公の孤独な思いを表しているようにも思えます。

イカロスが太陽に近づく欲求に抗えなかったため墜落した」というエピソードも暴力衝動を抑えられなかったアンナの姿と重なります。  

 

アンナが宿泊するホテルの壁に掛かっている絵画はレンブラントの「夜警」。

アルジェント曰く主人公の職業とリンクさせたそうですが、精神錯乱した観客に損傷された過去を持つ曰く付きの絵。ヒロインの未来を暗示しているようです。

 

本作には全盛期のような映像美はありませんが、主人公が絵画の中に入るシーン、飲んだ錠剤が食道を通ってく様子など一部CGを使って表現している場面があります。

95年のCGなので出来上がりとしてはショボいですが、使い所がユニークで同じくCGを使った後期の他作品より好印象です。

モリコーネの美しく不穏な旋律が鳴り響く冒頭の場面から一気に引き込まれます。

↑金髪が全然似合ってないアーシア。だけど不思議な国のアリスみたいなシルエットは面白いですね。

 

個人的には「父親に性的暴行された娘の大妄想」という解釈の作品。

そしてそんな作品を親子で撮っちゃうアルジェントどうかしてるぜ!!(笑)ってなりますが、アルジェント好き以外の人がみても意外にハマる作品かも…上質なサイコサスペンスでとても好きな作品です。

 

「ウハウハザブーン」…ポロリと爆破とめっちゃ賢い犬

「ウハウハで行くか?」「ザブーンだな!」

日本劇場未公開作でVHS発売時タイトルは「アップ・ザ・クリーク」。
しかしテレビ東京で放送された際に付けられたのがこのふざけたタイトルだったそうで…

「全米川下り選手権」という造語が2ちゃんねるの実況版に定着するなど一部のファンの間で人気を誇った伝説の作品。

ずっと気になっていたのを初鑑賞してみました。

 

とある全米最下位のFラン大学…

その中でもワースト4と呼ばれる問題児4人がある日突然校長に呼び出されます。

「この大学は賞というものを一度もとったことがない。あるのは卒業生が服役中にもらった仮出獄証のみ。学位をやるからお前らラフトレースで優勝して来い!」
…と暴言を吐かれ無理矢理レースに参加させられます。

主人公は16の大学を停学になり23回専攻を変えた伝説の男・ボブ。

↑あなたホントに大学生??

やたら渋くていいお声、日本語吹替は山路和弘さん(ジェイソン・ステイサム、ケニー・アッカーマン)。ホントにいくつなんだよ(笑)。

残りのお仲間はデブにメガネといかにも80年代のルーザーといったメンバーが集結。

ボブの飼い犬・チャックもお供しますが、逆にこのワンちゃんは偏差値80位ありそう。

人の言葉を完全に理解しているような驚異の名演技でめちゃくちゃ可愛いワンちゃんでした。

 

レース会場に着くとそこでは男女が身体を重ねまくりでおっぱいの大放出がはじまります。

主人公勢も必死にナンパを開始。

「マッグロー、ボブ・マッグロー。」(ボンド、ジェームズ・ボンド風に)

なぜかレイチェル・マクアダムス似の美女・ヘザーといい感じになるボブ。

しかしライバル校・アイビー大学が主催者に賄賂を渡しレースが有利になるよう細工をしていました。

↑オールはベン・ハー仕様。

その上出場停止になった陸軍学校から逆恨みされ妨害の嫌がらせを受けます。

ボンクラどもは果たして勝利を掴むことができるのか…!?

 

B級映画ですが川下りシーンはかなり迫力がありました。

堂々と発射される魚雷、「トップガン」並みの神操縦をみせるラジコンなど敵チームの攻撃もなかなか面白い。

爆破オチを1度や2度ならず5回も10回も使う能のなさですが、何度でも再生するゴムボート(笑)。

マックスがダッチワイフの修理で手慣れてたってことかしら。

クライマックスの大爆破は大変気前が良く、遊園地でアトラクションに乗って帰ってきたみたいな爽快感があります。

 

今回日本語吹替版で鑑賞してみましたが……ぶっとい警棒、ケツの穴組合の会議、未確認アホウ物体などいちいち言葉のセンスが光ります。

まさか「ウハウハで行くか」「ザブーンだな」が何の台詞もないところに入れられた完全オリジナルだったとは…

途中ピー音を入れるなど遊び心満載、ヘザーの「ていうか…」が可愛かったです。

暑くてだるくてしんどい日に涼むため観るには最高の1本といえるでしょう。

テレビでまた放送してくれないかな。

 

「戦争のはらわた」…サラリーマン的悲哀と不可解だけど凄みのあるラスト

これまで敵役ばかりだったドイツ兵をあえて主人公に置き人間らしい兵士として描く…当時衝撃を持って迎え入れられたという77年製作のサム・ペキンパー監督作。

ドイツとソ連が死闘を繰り広げる43年の春。
卓越した戦闘能力を持つシュタイナー伍長はプロイセン貴族出身のシュトランスキー大尉を新たに上官として迎え入れることになりますが…

10年窓際族やってたコネ入社のボンボンがいきなり異動してきて周りを振り回す…
戦争映画というと構えて観てしまいがちですが、本作の人間ドラマは意外に親しみやすくサラリーマン的悲哀や組織の愚かさが突き刺さります。

人の弱み握って腰巾着つくる、高い理想語りがち、具体策なく精神論でなんとかなるやろと部下に丸投げ…とうんざりする上司なシュトランスキー。

他の上官も呆れ顔でこんな奴が激務の部署にまわされてくること自体組織に未来はないんだと痛感させられるようなクソ人事です。

そんなクソ上司を迎えつつ部下は守りたい現場課長が主人公・シュタイナー(ジェームズ・コバーン)。

仕事はめちゃくちゃ出来るけど根回しやおべっかは一切できないタイプ。

不器用だけど誇り高い「ワイルド・バンチ」の野郎どもに通じるアウトロー気質。部下には慕われるも上からは評価されずチームにその皺寄せが思わぬかたちでやって来ます…

 

脇役含め他の登場人物も皆印象的。
将校クラスでもナチ党員ではないブラント大佐とキーゼル大尉は遠くにいる管理職とは違いとっくに敗戦を予期していて厭戦的です。

今にも崩れそうな塹壕の中お誕生日祝いをする兵士たちは強い絆で結ばれており、負傷のため帰国できるとなった主人公も仲間の下に舞い戻ってやっと生き生きした表情を取り戻します。

お国のためでもなく大義のためでもなく、仲間のために戦う…多くの軍人ってこういう人たちなんじゃないだろうか、と思わせる人物描写がリアルです。

 

ヒロイックな大規模戦闘シーンはなく、霧がかった森の中で見事な斥候をやってのける主人公たち、悪路も障害物もなんのそので追ってくる戦車…と緊張と恐怖の連続。

仲間が死ぬ場面ではこれでもかとスローモーションになって今みるとちょっと過剰な感じもしますが、悲壮感際立っていてエモーショナル。もうやめてーってこちらも叫びたくなります。

 

そしてやや難解な印象を残すラストの後味が独特。何かを超越したような凄みを感じてしまいます。

部下を失ったシュタイナー、ソ連軍が攻めて来る中「俺が鉄十字勲章のとり方を教えてやる」とシュトランスキーを引き連れて戦場を駆け進んでいきます。

弾の再装填すらできない大尉をみて高らかな笑い声をあげるシュタイナー。

大尉に意趣返しができてスッキリした歓びの笑いなのか、無能な自軍や戦争自体が滑稽に思えて笑ったのか…

合間にはソ連の少年兵の姿が挟まりこれがまるで幻覚のようで、子供がごっこ遊びでもしているような不思議な感覚に陥ります。

 

あれだけ憎々しかったシュトランスキーですが、「プロシアの闘魂をみせよう」と語ってみせる笑顔には邪気が全くありませんでした。

シュタイナー小隊にはディーツという若くやや貧弱な印象を与える新兵も配属されていましたが、彼も道中「日陰だけを踏んでいれば生き残れる」とまさに子供じみた馬鹿げた遊びに興じていました。

けれど過酷な状況下ではある種の遊びを見出せるような精神が要る、そういう人が戦場を駆け回れるのかもしれません。

「ワイルド・バンチ」では主人公たちが最後の銃撃戦突入前、自分たちの死が確定したような場面で笑みを溢していて、なんでこんなところで笑えるんだ!?と思ってしまうのですが、死を前にしても戦闘を遊びのように楽しめてしまう子供のような無邪気さが人の中にある…

戦争自体は嫌悪する理性的で善良なシュタイナーにもそういう一面があった、むしろ誰よりもその性質が強かった、というオチなのかなと思いました。

 

冒頭とエンドロールで流れる童謡〝ハンス少年の歌〟がまた強烈な印象を残します。

「故郷の人々は誰も彼だと分からない」…という歌詞には何とも切ない気持ちにさせられますが、ママだけは「私の息子!よく帰って来たわね!」と言った…そもそもどんな人間にも純粋に暴力を楽しめる気質はあるもんなんだよ…と全て許容・肯定するような大らかさのようなものも感じてしまいます。

けれど実際の戦場の場面では人が手足を失い残酷に死んでいてやっぱり恐ろしい…元から備わっている人の性質であってもそれが発露しなければならない戦争は悲惨なものなんだと、なんとも複雑な気持ちが残るエンディングでした。

 

イライラMAXにさせてくれるシュトランスキーを含め人物描写が秀逸、けれど消化できないようなどっしり重たい気持ちが残る凄い作品でした。