このタイトルをきいて、アンジェリーナ・ジョリー主演、クリント・イーストウッド監督の作品を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、あったよ…!もう1本傑作が…!!
1980年に製作された「チェンジリング」は、いわゆる家系ホラー(家の中に霊がいたり、家が呪われてる系)に属するのではないかと思うけれど、血が飛び出したり、スプラッターな描写は皆無。
心理的な怖さはあるものの、ホラー苦手な人が敬遠する、「気持ち悪さ」みたいなのがあまりない作品だったように思う。
TSUTAYAの名作復刻コーナーでみつけて、自分の中では、なかなか掘り出し物の面白さだったので、感想を少し書いてみたい。
(以下ネタバレで作品詳細について語っています。)
超冷静な、おじさん主人公が斬新!?
この映画が怖さ控えめに感じられる要因の1つに、主人公の魅力があると思う。
主人公・ジョンは、音楽家で、裕福で、落ち着いた、知的な雰囲気のおじさんだ。
映画の冒頭にて、彼の若い奥さんと娘が、交通事故にあって亡くなってしまう。
悲しみに暮れ、愛する家族のことが忘れられないジョンは、住み慣れた街を離れ、シアトルで新しい生活を送ることに。
ピアノが思い切り弾ける家がいいと、郊外の歴史ある屋敷を借りて住むことにしたが、夜な夜な不思議な轟音が鳴り響き、怪奇現象が次々に起こりはじめる。
普通こういう映画を観ていたら、主人公が恐怖におののくのを観て、観客もそれに感情移入しながら見守る感じになると思うのだが、観ているこちらが逆に勇気づけられてしまうくらいジョンが冷静…!!
捨てたはずのボールが転がりでてきたり、いきなり蛇口から水がでてきたりしても、叫んだり、パニックにならない鋼のメンタルすぎるジョン。
でもしっかり汗はビッショリかいていたりするジョージ・C・スコットがいい。
「気持ち悪い家だ。」と逃げ出したりせずに、冷静な探究心でもって、家の〝何か〟を解決しようと単独で動き出す。
不動産会社に問い合わせる…図書館で家の記録を調べる…高名な霊媒師をよぶ…淡々と落ち着いて行動をとる主人公がカッコいい。
「あの家は人を拒絶する。」と漏らした不動産会社に対し、「この家は何かを訴えようとしている。」と唯一真相に勘付けたジョン。
一体この家の霊の正体は何なのか??
意外なほどに哀しすぎる霊の正体
冒頭で妻子を亡くしたジョンをみていると、「亡くなった家族がジョンに会いたくて死者が出てきた」みたいな展開を想像しがちだ。
この映画はその予想を裏切ってくる。
霊の正体は、70年前に屋敷で殺害された子供だった。
その子供・ジョゼフには障害があり、病弱で車椅子に乗っていた。
母方の祖父がジョゼフに莫大な遺産を用意していたが、「成人する前にもし子供が死んでしまったら、慈善施設に全て寄付」という遺言があった。
金に目のくらんだ実の父親は、なんと子供を風呂場で溺死させる。
そして代わりに孤児院から似た子供を用意して、実子と入れ替えてしまう。
(タイトル・「チェンジリング」はこの意)
戦争時代で疎開させていたと理由をつけて、子供の入れ替えをゴマかした父親は、まんまと遺産を手中にする。
お金と障害を理由に、実の父親に殺された子供の霊の悲しみ。
これを解決しようとするのが、妻子を亡くした孤独な音楽家。
霊の方も、「この人なら何とかしてくれるかもしれない。」と、最後の望みをかけた、巡り合わせだったのかもしれない。
そんなことを感じさせる秀逸なつくりだ。
ジョンを演じたジョージ・C・スコットは、「パットン大戦車軍団」でアカデミー賞主演男優賞を受賞したが、お祭り騒ぎに興味ないからと受賞を拒否した、変わり者演技派俳優!?
本作時には53歳!?となかなかいいお年なので、冒頭の場面が、「お父さんなの?おじいちゃんなの?」と戸惑ってしまいました。
怖いシーンはあるが、気持ち悪くない
全編通してみて、不思議な上品さの漂う作品だなあ、と思う。
屋敷の雰囲気も、主人公が闊歩する街の雰囲気もなんだか美しい。
途中、霊からのメッセージを受け取り、主人公が推理…。遺体の隠し場所ではないかと思われる、旧井戸を掘りに行くシーンは、「リング」に似ているように思ったが、おどろおどろしい感じが不思議なほどにしない。
お屋敷自体は綺麗だけれど、不気味さはちゃんとある。パッケージの表紙にもなっている車いすが追いかけてくるシーンにはドキドキ。霊の視点アングルみたいなカメラワークも迫力があった。
そして、いくら音楽家という特殊な職業でも、よくこんな大きな家に1人で住むなあ~と主人公の肝っ玉に感心してしまうわ…。
失ったものは返ってこないけれど…
結局この子供の霊は何を求めていたのか。
自分を殺した父親はもう既に亡くなっている。
しかし、自分と入れ替わった、自分が受け取るはずだった全てのものを継いだ〝成り代わり〟は、今も生きている。
〝成り代わり〟は既にかなりの高齢だが、遺産を土台に大成功し、議員になっていた。
”成り代わり”が、血の繋がりがないのはずの父親の写真を大事に飾っているのは印象的だった。
殺人犯の継父でも、彼にとっては、かけがえのない恩人だったのだろう。
しかし、コトが大きく動いて、彼の心にも罪悪感が湧き上がってくる。
どれだけ自分が恐ろしい、悲しい思いをしたか。屋敷の霊は、それを知って欲しかったのだと思うし、心優しいジョンがそのメッセンジャーになったというストーリーがシンプルだけれど、とてもいいな、と思った。
家系ホラーといえば…?
家系というとなんかラーメンみたいだが、「チェンジリング」は家系ホラーの中では、おとなしめの異色作なのかもしれない。
他にいい作品あったっけ?と浅い知識といい加減な記憶で思い出してみる。
「アザーズ」
リアルタイムで映画館で観た作品。怖かったし、どんでん返しに「えーっ」と普通に驚いた。こちらも悪霊系ではなかったなあと思う。
「ヘルハウス」
Blu-rayが出てる…!すごく評価が高いので、昔レンタルして観たけどとても面白かった。家系ホラー(屋敷の悪霊と戦う)の王道だと思う。また再鑑賞したい。
「TATARI」
友達とワイワイしながら観た楽しい思い出があるので…。情緒もへったれもない、「悪霊だらけの家から脱出できるか!?」という安いアトラクションみたいな映画だったと思うけど、結構好きだった。
「キャッスル・フリーク」
いやいや、どう考えても家系じゃないよね、コレは…。霊とか皆無の、キャッスル(お城)のフリーク(怪物)の話…。でも「家族」の話で、結構面白かった記憶がある。Blu-rayが出ていたことに驚きだが、すっかり値上がりしていることにも驚きだわ…。
自分は「呪われた場所」系より、「哀しい家族のホラー」みたいなのが好きなのかなあ、と思う。「チェンジリング」は、その両方を押さえていて、なかなか心に迫る作品だった。
未見の良作がたくさありそうなので、また当たり作に出会えると嬉しい。