TSUTAYAの名作復刻コーナーにて、新作入荷!!と並べられていたのが気になって、手にとってみた。
「恐怖の報酬」ってなんかきいたことあるなあ。タランティーノがベスト映画の1本に選んだやつだっけ?
今回リリースされたのは”リメイク版”のようで、「恐怖の報酬」という作品は2作あることが分かった。
●「恐怖の報酬」(1953年)監督:アンリ・ジョルジュ・クルーゾー ディレクターズカット版148分
●「恐怖の報酬」(1977年)監督:ウィリアム・フリードキン 北米公開版121分
フランス映画の148分ってみるの気合いりそうだけど、ここは順番どおりにオリジナル(1953年版)から観たほうがいいのかなあ…両方それぞれ評価が高いみたいだけど…くどくど悩んだものの、「先に目にしたのも何かのご縁。フリードキンの方、先にみたろ!!」と77年度版から鑑賞することに。
予想以上にめちゃくちゃ面白くて、先週から2回立て続けに同じ作品を観るほど夢中になってしまった。
説明のないクールな映画
「恐怖の報酬」のストーリーは大変シンプル。人生崖っぷちの4人の男が密林超えて、いつ爆発してもおかしくないニトログリセリンを運ぶ…というもの。
しかし本筋が展開するまでに結構尺があって、最初の50分くらいは、4人の男たちの背景や、彼らの逃げた先・南米の泥沼みたいな小村の様子を描くことに徹している。
そして、説明らしい説明が皆無…!!
「え?何?何が起こってんの?」「これは誰?」と付いていくのに必死だった。分かりやすくつくられたテレビや映画に浸っていると、こういう「1秒たりとも逃さず、こっちについてこい」という心意気の映画には、背筋が伸びる気分になる。
ゆとりな自分のために4人のキャラクターをちょっと整理…!!
殺し屋:ニーロ from ベラクルス(演:フランシスコ・ラバル)
ひげがトレードマークのおじさん。「人殺しのシオニスト」…という他のキャラクターの台詞からユダヤ系の殺し屋だと判明。南米まで元ナチを殺しにやってきたが、巻き込まれるかたちで、ニトロ運送に参加するはめになった模様。冒頭で人を撃ってるシーンがでてくるけど、出番がごくわずかなので、「この人もメインキャラの1人なの?」「誰なの?」と、1番分かりにくかった。
テロリスト:マルティネス from エルサレム(演:アミドゥ)
なんかエクソシストっぽい雰囲気のロケ地きたー!!と思ったら、エルサレムだった。アラブ人テロリスト3人衆が銀行を爆破、うち1人(マルティネス)だけが逃げおおせ、南米に潜伏…!!ニュース映像みたいにリアルで迫力満点なパート。
銀行家:セラーノ from パリ(演:ブルーノ・クレメル)
なんか半沢直樹みたいなことやってる銀行家かな?と思ったら、不正に金儲けしようとして失敗して、負債を義理の実家になんとかしてもらおうとして、やっぱり無理で、国外逃亡や…!ってもしかして相当のクズ!?しかし愛妻家で、落ち着いた物腰からか、現地の女性にも好かれるフランス人。
強盗ドライバー:ドミンゲス fromニュージャージー(演:ロイ・シャイダー)
教会賭博をタタキに行ったら、スカタンのリーダーが神父を撃ってしまった…。それがマフィアの弟だったので、もうこの国で生きる場所はない…ととりあえず南米に逃亡。ここでの車がクラッシュするシーンもなにげにすごい。
”説明”はないけれど、次から次へとすごい映像がどんどん流れてきて、前半もまったく退屈しない。
助かる道は、ニトログリセリンしかない…!
そんな崖っぷちの男たちが飛んだ南米の村(チリのポルニベール)という村がまたとんでもないところ。中でも油田火災の映像は「ゼア・ウィル・ビー・ブラッドの100倍くらい燃えてそう」「どうやって撮ったんだ!?」と驚いてみてしまった。
油田が燃え続けて火が消せないので「爆発で消すしかない」とストーリーが動き出すけれど、このへんも説明らしい台詞は1個もない(笑)。
唯一残っていた使えそうな爆発物が未管理だったニトログリセリンという悲劇。少しの衝撃で爆発するから空輸は無理なので、上手く運転して火災先まで届けてくれるドライバーがいれば、高額の報酬を与えるという…。
舗装なんてされてない道路、泥沼&石だらけの道を200マイル(300キロ)。どうみても無理じゃね!?とツッコミが止まらない。
トラックの準備が完了し、暗闇にライトをつけて浮かび上がる姿には、どうしても「エクソシスト」のポスターになった場面が思い浮かぶ。
運搬がはじまってからはノンストップの緊張感…!なのに、思いがけず笑ってしまう場面もあった。
例えば、原住民の男性が煽ってくるシーン。
車を進めていたら、前方に現地の住民が。道の前をチラッチラッと通り、わざと進路を妨害。「こっちはニトロ積んでんだよ!」「お前も死ぬで!」と最高にイライラするメンバーたち。すごい緊張感なのに、からかってる男性は本当に無邪気な笑顔。落差がすごすぎてなんか笑ってしまう。
そして、行く手に大木…のシーン。
大木が道をふさぎ、どうやっても通れない…。ナタで切ってなんとかしようと両津勘吉みたいな発想のドミンゲス。
そこへ「あったよ!爆発物が!」と知恵者のマルティネスがニトロそのものを利用し、ピタゴラスイッチをつくって大木を見事に破壊してくれる。そっか、テロリストだったものね…。
メインビジュアルの「壊れそうな吊り橋を暴風雨のなか突破」のシーンもそうだが、ありえないだろ、これは…というすごい状況が何個も出てきて、殺し屋のニーロみたいに、なんだか笑いたくなってしまう。
男たちの切ないドラマ
こういう「男同士の脱出もの」って、男の友情が芽生えて、お互い庇い合ったり…そんなドラマを期待してみてしまうけれど、「恐怖の報酬」は、友情成分極めて低めだった。
でも、ドミンゲスが撃たれた殺し屋を放置せず、声をかけ続けたり、「俺の分もお前が…」なんて言葉をニーロがのこしたり……。
そもそもが「ろくでもない4人の男」。そんな人間でも想像もつかないような苦難を共に味わうと、ほんの少しだけ情を向けることもある…という乾いた感じもまたリアルだ。
そしてなんといってもラストシーン。
やり遂げたドミンゲスが、死んだ者たちのことを心に思い浮かべていると、そこにニュージャージーからやってきたマフィアの兄貴が…!(身内殺されたら絶対許さないイタリアン・マフィアって地の果てまで追ってくるのね…。)
最後までうつしきらない幕のひき方がまたいい。
しかし、4人の男たちをみて、あれだけ頑張ったのに、結局何も手に入らなかったのか?!という無力感はのこる。
先日観た「ポセイドン・アドベンチャー」もそうだったが、「決して報われるわけでもないがそれでも生きなければ…」という人間ドラマって悲しいけど、心惹きつけるものがあるなあと思う。
「恐怖の報酬」の舞台である異国の地…密林の大自然からはどことなく神々しい感じも漂う。人間の力でどうにかなるわけでもない自然。それに抗って進もうとする男たち。
2台のトラックにペイントで書かれた”名前”がラザロ(聖書に登場する貧しい者)とソーサラー(魔術師・不可能に挑む人間)なのも意味が込められていそうだ。
何かを一生懸命やっている人間、必死に生きている人間の姿って、悪人・善人/悲劇・喜劇にかかわらず、パワーがもらえたりする。善悪超越して4人の旅路を夢中で見守る2時間だった。
セラーノの手紙、誰か届けてやってくれ…!!
公開当時大不評と知ってびっくり…
観終わった後、色々調べてしまい、
・「恐怖の報酬」は1977年の公開当時、大コケして全く評価されなかったこと。
・日本で公開されたのは、92分の短縮版だったこと。
・権利関係整理のもと、ようやく本来の北米公開版が「オリジナル完全版」として復活。昨年には日本でリバイバル上映され、今年ソフト化されたこと。
…などなど、「恐怖の報酬」自体、長年報われなかった作品だと知って驚いた。
こんなに面白いのになんで評価されんかったんだろ??92分にしたらどう考えても台無しでは??…と、不思議に思ってしまった。
作り手自身の評価と、観客の評価がいつも決して同じとは限らないだろうが、フリードキン自身が「最高傑作」と語るのに異議を感じない傑作のように思う。
また幾多あるこぼれ話の中で、ロイ・シャイダー演じた主役が、当初スティーヴ・マックィーンのはずだった…という話を知ってあれこれ想像してしまった。マックィーンだとヒーロー感が強まり、恐怖感が下がりそうなので、”普通の人”っぽいロイ・シャイダーでよかったよ…!キャスト4人ともみんなよかったよ…!と思った。
リメイク版も鑑賞して、比較してみたいと思っていたが、フリードキン版でしばらくお腹いっぱい…!
少し時間をおいて、評価の高い53年クルーゾー版もそのうち鑑賞できればと思う。
↓↓観ました!!