どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「召使」…ご主人様と召使のキケンな関係

映画に出てくる執事や家政婦って時々怖いときがないでしょうか。

レベッカ」のダンヴァース夫人とか、「ゆりかごを揺らす手」のペイトンとか…。執事は「バットマン」のアルフレッドみたいに格好いい頼りになる存在のイメージも強いけど、「ジャンゴ」のサミュエル・L・ジャクソンなんて「あんたがラスボスかい!」ってその腹黒さにビックリしたりして(笑)。

「家族・友人ではないが共に生活するもの」…って想像するとちょっとサスペンスな存在のような気もします。

 

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こちらは1963年のモノクロのイギリス映画。

主従関係を緊迫感たっぷりに描いて、イギリスの階級社会を皮肉る。その上さらに「主人と召使」設定で同性愛を描く…というなかなかヘビーなドラマが展開しています。

同性愛というのは、勝手な個人の解釈なんですけど、もうそうとしかみえない!と叫びたくなるような作品でした。

 

物語は、とある貴族の青年・トニーが、ロンドンの新居でベテラン執事・バレットを雇うところから始まります。

この貴族のトニーがなかなか好感度の低い奴。1人暮らしで豪邸に住み、働かず身の回りのことは全部人任せ。世の中こういう優雅な生活送ってる人もいるのよ、とスルーしたいけど、薬も1人で飲めないって大丈夫かいな。

対する執事・バレットは料理上手で気が利く超出来る男。寒い日に主人が帰宅したらあったかいお湯が入った洗面器に足をつけさせてくれたりなんかする。(←ここ既になんかエロい。)こりゃ手放したくない存在になってしまいますね。

 

イギリスの上流階級が皆トニーみたいってことはないでしょうけど、「生まれながらの恵みにあやかるだけで実は無力で依存的」という執事視点の蔑みの目線がこちらにまで突き刺さってくるような、そんな人物描写です。

 

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2人の関係性をこれでもかと強調したような階段でボール投げをするシーン。低い位置から乱暴にボールを投げつけてくるバレットがどこか怖くも哀しいです。

 

トニーの婚約者・スーザンもバレットを見下していて、立て続けに命令するところなんかも、〝低い方が拒めない”上下関係の怖さをどうにも感じてしまいました。

 

しかしこの主人と召使の関係が次第に逆転していくところがこの作品の恐ろしいところで…

逆転のきっかけは、執事・バレットが「自分の女を主人に抱かせる」というもので、自分はここでホモ・セクシャルをビンビン感じてしまいました。

キャスカを介した「ベルセルク」のガッツとグリフィスの関係とか…怒られるかもしれんけど同じお嬢さんを好きになる夏目漱石の「こころ」とか…。

女性を介した擬似的な関係性というのかな。そういうのを感じずにいられないストーリーでした。

 

バレットの女を抱いたのをキッカケに、主人公は婚約者を失い、挙句女性不信に陥り、結果バレットに依存した2人きりの生活を送るようになります。

酒場でのバレットの懇願…「幸せな日々でした。」「私達なら上手くやって行けます。」はもう愛の告白にしか聴こえないし、同棲生活からの「君とは昔から友達のような気がする。」&「前にも軍隊時代にそういう感覚を抱いた。」という台詞は、まんま同性愛の告白にしか聴こえない(笑)。

 

また婚約者・スーザンとバレットが部屋のインテリアのことでイザコザしてるのも、「こんなゲイっぽい部屋はイヤ!」というスーザンの侮蔑にみえてくるし、お花を置くかどうかのギスギスした遣り取りも、花=女性性・女性器の象徴で、「こんなもんいらねえ!」というバレットの魂の叫びのように思えてくる。

 

本作の監督はジョセフ・ロージーという、赤狩りでハリウッドを追われ、イギリスで映画を撮ったアメリカ人として知られている人だそうです。

鏡や扉の使い方など、全体的に映画の演出がくどいというか、オーバーだなーと思いながら途中観てしまうところもあったのですが、この監督の特徴なのでしょうか。

 

印象的だったのは、バレットが電話ボックスで電話を掛けているときに順番待ちの女性たちから追い立てられるというシーン。

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狭い居心地の悪い空間。外から理不尽に非難がましく迫る人たち…。

自身の生きにくさを投影したとか、当時を生きる同性愛者の心地の悪さを表現したとか、そんな受け取り方ができるシーンのようにも思いました。

 

またバレットとトニーが隠れんぼをする場面もどこか狂気を孕んだ感じがして、「同性愛者は恐れを抱きながら隠れるしかなかった」という表現にも思えます。

総じてみるとサディステックで過剰とも思える演出が、物語と一致していて、それが良いという気もします。

 


ホモ・セクシュアルのドラマって多々あって…。
美しさ・特別さ・疎外感みたいなのをひたすら強調するような作品もある気がするんですが、本作は、同じ同性愛者どうし、本来愛し認め合える関係のはずのトニーとバレットが、結局階級差というものに阻まれている…というところに悲劇性を感じて、かえって斬新な印象を受けました。

 

最後にバレットをぶったスーザン。同性愛に対する嫌悪なのか、庶民風情が上流階級舐めんなと誇示したのか…何とも冷たい感じのする終わり方で、ここも独特の余韻がのこります。

 

バレットを演じている俳優・ダーク・ボガードは、「ベニスに死す」で美少年を追い続けていた方ですね…!(「ベニスに死す」は子供の頃にみたからなのか全く刺さらなかった映画だなー)

ご主人様堕落作戦がどこまでがバレットの計画的犯行でどこまでが突発的な衝動だったのか…結局分からずじまいでしたが、「大人しく従順そうな男が次第に粗暴さを出していく…」という乱れっぷりに何ともゾクゾクさせられます。とにかく執事がエロかった…!

対する貴族の坊ちゃん役は「ジャッカルの日」のエドワード・フォックスに似てる!と思ってみてたら、なんと弟でした…!シャープなお兄様に比べて、弟君はかなりソフトな印象です。

 

古いヨーロッパのサスペンスドラマ、逆に新鮮な感じがしてなかなか面白い…! 今年もゆるりと良作発掘できると嬉しい限りです。