イタリアン・ホラーの名匠、ルチオ・フルチ監督による1979年製作のゾンビ映画。
ロメロゾンビは観たあと余韻が残ってズーンとなるけど、フルチゾンビは何も考えずに済むホラーって感じである意味癒される…。
「サンゲリア」というインパクトのある謎の邦題は、日本でヒットした「サスペリア」にあやかって付けられたらしいのですが、原題はZombie2。(国地域によってはZombieの題名だったところもあるみたいです)
ロメロの「Dawn of the Dead」が世界各地でZombie(ゾンビ)のタイトルを付けられて公開されたことに便乗し、あたかも続編のように思わせる!?という商魂たくましいマカロニの精神。
そんな「サンゲリア」はニューヨークから話がスタートします。
ニューヨーク沖に漂流中のクルーザーから全身腐乱の男が現れ、警官が襲われる事件が発生。クルーザーの持ち主の娘・アンと新聞記者のピーターは事件に疑問を持ち、アンの父がいるという、カリブ海のマトゥール島に向かう。しかしそこはゾンビの巣窟と化していた…。
ザ・死人が動いているという印象のロメロゾンビに対し、フルチゾンビは構成成分の50%くらいは土!!って感じで、むしろミイラっぽい雰囲気。
マトゥール島はブードゥー教の信仰がある島という設定のようで、そこに400年前に葬られたスペイン征服兵が蘇った…!!というのが「サンゲリア」のゾンビ。
カリブ海は昔スペインが征服してたんですね。(コンキスタドール)
でもこれが歴史的背景として巧みに話に絡んできたりするわけでは一切ない(笑)。それどころか地元信仰とのリンクもみえず、蘇りのきっかけも何だったのか全く明かされません。
それでも得体の知れないものに取り囲まれた恐怖はビシバシ伝わってきて、フルチの必殺技!?眼球潰しも炸裂…!!
また古いゾンビに噛まれた地元民たちが小さな病院で診察を受けているのですが、その環境が劣悪。ドクター・コトー診療所的な医者がどんどん追い詰められていく様子も鬼気迫っています。
基本動きがゆっくりなフルチゾンビ。しかしその世界観がぶち壊しの名(迷)場面が…!!それがこのゾンビvsサメのシーン!!
主人公一行が問題の島に向かう中、突然メンバーの1人・スーザンが海に潜って写真を撮りたいと言いだし、なぜかほぼ全裸になってカリブ海にダイブします。そこに忍び寄るサメ…。
「ジョーズ」が始まるのかと思いきや、さらにいきなり海底からゾンビが出現し、ゾンビとサメのバトルが開始…!!
・なぜあのゾンビは海底にいたのか?
・ゾンビは水中で呼吸できるのか?
色々疑問が浮かんでますが、どうやら「サンゲリア」のプロデューサーが、当時「ジョーズ」のヒットを受けて、サメ映画用に使おうと購入してたサメ映像をどっかで使ってくれとか言い出して、こんな流れになったみたいです。イタリア、フリーダムすぎやろ…!
しかしCGなしのホンモノのサメ!!この映像はかなりいい!!
撮影前にサメに麻酔を打っていたとか、事前にサメをたくさん泳がせて疲れさせておいたとか、色々言われてるみたいですが、演じる役者さんは恐怖だったに違いありません。
きっと「電波少年」でサメのいる海に檻ごと沈められた出川哲朗のような心境だったでしょう。
そのせいかサメが向かってくる場面で身構える動きは、もはやゾンビではなく機敏なヒトの動きそのもの…!!
しかし海は綺麗で、ゾンビは醜くて、自然のサメは躍動感があって…と、生と死を感じさせる不思議なイタリアンな芸術と化しています。
自分はサメが空を飛んでいるようなシャーク映画をまったく観たことがないのですが、「面白ければ何でもオッケー」というサメ映画の精神はここから来たのかもしれません。
このサメのシーンを除くと、「サンゲリア」という作品は、破綻の少ないホラーな気もします。
何より「ニューヨークで始まってニューヨークで終わる」という幕の閉じ方が綺麗で、デッドエンドの演出が最高にキマっています。
ラスト、ブルックリン橋を大量のゾンビが渡っていく場面。
なんとここは無許可のゲリラ撮影で撮られたそうで、よく観ると両サイドは交通規制できなかったから普通に車が行き来しています。微妙なチグハグ感…!!
それでも絵的な迫力が打ち勝って、強引ながらも終末感に浸ることができます。
グロいB級映画という印象のある「サンゲリア」ですが、100%オカルトに振り切ったのちの「ビヨンド」と比べても、正当なゾンビ映画ではないかと思います。
きっとあのゾンビvsサメさえなければ…。
でも唐突なバトルが最高に面白くて、ホラーなのになぜか元気がもらえる!!という謎の魅力に満ち溢れた作品です。