どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「殺しのドレス」…ヒッチコックを知らずに観たら、最高に面白かったサスペンス

ヒッチコック作品を知っている人がみれば、あとの展開が読める凡庸なストーリーなのかもしれませんが、自分はコッチを先に観てしまった…。

以下あたまからネタバレですが…

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「犯人は女装の多重人格!!こんなすごい話を考えられるなんて、天才や!!」と初めて観たときの衝撃は忘れられません。

観返すと犯人バレバレにしか思えないんですけど、昔から鈍くて鈍くて、土壇場まで全く気付きませんでした(笑)。


ストーリー&見所を順に追っていくと…

1人目の主人公はケイト。(当時51歳のアンジー・ディッキンソンがお美しい)

冒頭のシャワーシーンは改めてみると、ボディ・ダブルだと一目瞭然。

”夫との性生活に不満を感じている妻”という役どころなのは分かるけど、1人で精神科に通ってどうにかなるもんなのか…アメリカの富裕層にはこういうセラピーが身近なものなんですかね。

 

ある日ケイトが美術館に行くと、見知らぬ男性からのアツい眼差しが。

セリフなしでみせる、男女の駆け引き、追いかけっこ。このシーンだけで短編みたいに成り立っているような完成度で、大好きです。

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「めまい」によく似た風景。

飾ってある絵も面白くて、アンニュイな感じの女性の自画像は、「ああ、私の人生退屈だわ…!」、謎のゴリラの絵は、「男!獣のような男が欲しい!!」という彼女の想いが伝わってくるようです。

そして男のアパートに行き、情事の帰りに惨殺されてしまうケイト。

全身白コーデがおしゃれ!!と思ってたら、血の赤を際立たせるためだったのね、とあとから納得~。

 

〝不貞な人間が殺される〟…ホラーの法則発動!!にも思えますが、もしかしてケイト、置き忘れた結婚指輪を取りに帰らなければ殺されなかったでしょうか。

幸福でない結婚生活に自分を偽って戻ろうとしたから死んでしまった…なんて無理やりな見方ですかね。

エレベーターで鉢合わせた親子も、家族の別れを暗示してるような感じがして、よく出来た緊迫のシーンです。

 

そして開始約40分。ケイトの死で次の主人公リズ(ナンシー・アレン)にバトンタッチという展開。この辺も「サイコ」ぽいのでしょうが、グイグイ引き込まれて観てしまいます。

コールガール役だけど、生き生きしたしっかり者のナンシー・アレンも大変魅力的ですが、自分が大好きなのは、キース・ゴードン演じるオタク少年、ピーター。

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バリバリの理系で、「シュタインズ・ゲート」みたいなお部屋に籠り気味。

どうやらデ・パルマの若い頃を投影したキャラクターで、当初10歳の設定だったらしいのですが…

漫画「ジョジョの奇妙な冒険」4部に出てくる川尻早人くんはこのピーターをモデルにしているのでは!?ときいた覚えがあります。

家族を疑ってカメラで監視、悪い犯人を探し出す…って確かに似てるー。

ちょっとお姉ちゃんな感じのリズと、純朴そうなオタク少年のタッグが微笑ましくて、「付き合っちゃえ!!」と応援したくなってしまいます。


しかしやがて驚愕の犯人が明らかに。

”男の人格が欲情すると女の人格が相手の女性を殺害する”というまさにサイコなキャラクター。

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「ファミリー・プロット」な見た目。気付いてしまうとかなり背が高いんですね!!

どんな映画にも出てくれるマイケル・ケインだけど、女装姿は別の女優さんに演じてもらっていて、途中の電話の声はデ・パルマ作品常連、ウィリアム・フィンレイが演じていたというから驚きです。

気付かれにくいよう考え抜いての作り込みにしては、「鏡をみる演出」が随分露骨にみえてしまいます。騙された人間がいうのもなんだけど(笑)。

 


中学生当時、初めて観たときの衝撃は大きく、ずっと1番好きなデ・パルマ作品だったのですが、改めてみると、ラストは「キャリー」の焼き直しにみえてしまって、そこは残念でした。

リズは殺人鬼との対決のトラウマを乗り越えそうな強い感じのするキャラクターに思えるし、犯人の脳内空間みたいなので終わってくれてた方がよかったかも。


やはり通してみるとこの作品で1番魅力的なのは、監督ご本人をモデルにしたというピーター少年で、デ・パルマは子供の頃、母親の浮気を尾行していた…とドキュメンタリーで語っていました。

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なんとも悲しいエピソード。

そういえば、大師匠ヒッチコックも、母親べったりな幼少青年期を送り、その鬱屈した気持ちを「サイコ」や「めまい」に昇華させたなんて言われていました。

家族のトラウマを映画で発散した監督!?ということでも共通点がある2人なのかもしれません。

 

お話は上手くヒッチ作品をアレンジ、キャラクターも魅力的、さらに絵的センスは抜群。改めて観てもよく出来たサスペンスの名作でした。