いつ観てもサッパリ分からんダリオ・アルジェント監督の「インフェルノ」を久々に鑑賞。
アルジェント監督のフィルモグラフィーとしては、
・「サスペリア」(1977)マーテル・サスピリオルム/嘆きの母
・「インフェルノ」(1980)マーテル・テネブラルム/暗闇の母
・「サスペリア・テルザ」(2007)マーテル・ラクリマルム/涙の母
…と、魔女3部作の2作目にあたるのがこの「インフェルノ」。
前作「サスペリア」が、魔女の存在が明かされていくのは少しずつ…あたまからオカルトです!!ドーン!!と来なかったスタイルは、非常に恐怖を煽るもので、〝異国の地にきた謎を追う主人公〟も感情移入しやすいキャラクターでした。
それに対し、この「インフェルノ」は…
冒頭から、〝むかしむかし、3人の魔女がいて、邪悪な魔女の住む建物がうんたらかんたら…〟と、ある意味「スターウォーズ」のような!?壮大なファンタジーを感じさせる出だし。あんまり怖くない…。
また女性主人公ローズは、はなからオカルトを全力で追うという理解不能な人物です。
アルジェントが初期の作品からやっていた、ジャーロもの的な要素も引き継いでいますが、なんの伏線もなく黒幕がドヤ顔してくるチグハグな展開。
混沌としまくってる「インフェルノ」ですが、イギリスのプログレバンド、エマーソン・レイク&パーマーのメンバーとして知られる、キース・エマーソンが音楽を担当していて、これが抜群にカッコいい。
この音楽と絵的な見せ場/映像の美しさで、なぜか引き込まれて観れてしまう作品です。
ストーリーと見所(聴きどころ?)を軽く振り返ってみたいと思います。
オープニング…主人公のローズが古本を読んでいる場面で流れてくるクラシックな感じのピアノのイントロ。ミステリアス且つアドベンチャー感も漂う情緒的なメロディーライン。ホントにこんな映画なのか??格調高いファンタジーのような幕開けです。(Inferno)
ニューヨークの、ゴシックな雰囲気のアパートに住んでいるローズは、ある日、近くの骨董屋さんで「3人の母」という古本を購入。
ヴァレリという建築家が書いたその本から、自分の住むアパートは、魔女の建物かもしれん!!といきなり地下室を調べ始めます。
水没した地下になんの躊躇いもなくダイブ!!着衣水泳で身体が透けてみえたりのラッキースケベシーンですが、下着はダサめ。
何となくニューヨーク感のしない、イタリアロケかな?と疑ってしまうような雰囲気ですね。
ローズは気になる魔女の建物について、ローマに住む弟のマークに手紙を書いて知らせることに。
音楽大学の教室、ヴェルディの「ナブッコ」が大音量で流れる中、猫を腕に抱く謎の女性に気を取られ、マークは手紙を読まない…。
女性は、おそらく3人の魔女の1人(最も美しい魔女、マーテル・ラクリマルム)なんでしょうね。自分たちの秘密を暴く奴を邪魔するため、ちょろっとやって来たのかな…。
その後、マークの手紙を拾った女学生、サラが夜の街をタクシーで走るシーンは「サスペリア」の冒頭にも似ていますが、こっちは不安感がない…。
事前のシーンで流れていたオペラ「ナブッコ」をプログレにアレンジしての、”Taxi Ride”が名曲で、ダダダダダッというリズミカルな音が、タクシーの疾走感と相まって最高にカッコいい!!
そして手紙を出したお姉ちゃんもサラも殺されてしまい、弟のマークに主役がバトンタッチ。
マークは、お姉ちゃんのアパートを訪れ、不可解なアパートの住人と接し、謎の建築構造を調べて、真相に迫っていきます。
途中本筋とまったく関係ないとこで骨董屋さんのカザニアンがセントラル・パークで殺害されるシーンの圧倒的意味不明さ。
向かいのホットドッグ屋さん、助けに来てくれたのかと思いきや、グサッ、グサッって、「お前がやるんかい!!」とツッコミが止まりません。
皆既月食の日というのが大事なフラグだったのか…満ち欠けする月で〝魔女のパワーで、一般人の店主が、精神を乗っ取られた〟のを表現したのかなんなのか…分かりにくいよ!!
この脇役の死に壮大なオーケストラの曲調という摩訶不思議な組み合わせにポカーンとしてしまいます。(Kazanian’s Tarantella)
一方マークの謎探しは、アパートの管理人さんが迫力ありすぎて怖いアリダ・ヴァリなので、「サスペリア」に続き、この人が魔女か黒幕なんだろうと思い込んでいたら、どっこい、まさかの一般人!!
マークが床を叩き割る場面は、「サスペリアPART2」の壁画発掘場面と重なりますが、床下捜索の際かかる曲(Mater Tenebrarum)はオーメンのような荘厳さを漂わせつつ、よりノリのいい感じ。
♫マーテル!!サスピリオルム!!♫ドミネ〜ドミネ〜のメロディ、1度きいたら頭から離れない…!!
ノーマークだった車椅子のおじいちゃんが実は生きながらえた建築家のヴァレリで、付き添う看護婦さんが、なんとマーテル・テネブラルムご本人でした!!…という真相。
テネブラルムさん、最後には本来の姿である死神姿を披露してくれますが、ちょっと頑張ったハロウィンの仮装にしかみえない…。
「3人の母」の古本がそんなに見られてはいけないものだったなら、なぜ燃やすなりしなかったのか?
館が燃えてしまったのは魔女の意図ではないはず…なのに、最後はテネブラルムさんのガッツポーズみたいなので終わるという荒唐無稽さ。
なんでしょう、存在を知られてはいけないけど、時々誰かに気付いてもらえて嬉しかったわ、みたいなことだったのかしら…。
マークは助かるけど、魔女を倒したスージーのような爽快感は全くないビミョーな幕引きに唖然、でもエンドロールは一緒に♫マーテル!!サスピリオルム!!と口ずさみたくなります。
余談ですが、自分はこの映画がきっかけでEL&Pを聴きはじめて、マーク・ボニラというアーティストと組んだ2008年のエマーソンの来日公演に行き、生タルカスを聴いたという幸せな思い出があります。
最後には「ナットロッカー」だったか、ピアノを逆さ側から、すごいスピードで演奏するあのテクをみせてくれて…
ご自身が手掛けた映画音楽はスルーでしたが、途中ボニラさんの方がなぜか007のテーマを即興で演奏してくれる謎のサービスがありました。
ライブ終了後…「エマーソンはもうダメ。」「全盛期の3分の1も演奏できてない。」…と話している古参のファンの方たちがおられて、昔はもっとすごかったんだろうとは思ったものの、エマーソン当時64歳、超テク演奏にすごい体力いるだろうに、衰えてようが、めちゃくちゃカッコよかったです!!
まったくもって話は意味不明ですが、全編貫くダーク・ファンタジー感、映像の美しさだけで見応え充分な「インフェルノ」。
エマーソンの音楽は、普通に聴いたらゴブリンよりもうるさくないはずなのに、プログレでもより機械的な感じがするというか、アルジェントの映像にかっちりハマってるかというとどうなのかという気もしますが、初めてこの映画を観たとき、なんてカッコいいんだ!!と音楽の方に気をとられるぐらい、すごい魅力がありました。
なんとなく元気の出るホラー。