西部劇ってとっつきにくいジャンルだよなあ、映画好きだった自分の親もあまり観なかったなあと思うのですが、高校生のときに観てハートを奪われたのが、この「夕陽のガンマン」。
タランティーノ映画の元ネタ追いや、当時読んでいた「映画秘宝」という雑誌の中で、マカロニ・ウエスタンという言葉を知り、何となく借りてみた1本だったのですが、その世界観にシビれ、「この世にクリント・イーストウッドよりカッコいい男がいるのか!!」と愕然となってしまいました。
なかなかハードルが高いように思われるこのジャンル。自分も沢山観れてはいないのですが、とにかく最初にみた「夕陽のガンマン」はすごく面白かった!!と感想を語ってみたいと思います。
◆マカロニ・ウエスタンって何だ!?
読み飛ばし可な軽い内容ですが、少しだけこのジャンルの説明的なのを…。
自分はアメリカの西部劇もあまり観ていなくて、「結局マカロニっていうのはイタリアがつくった西部劇ってことなんだよね??」という認識だったのですが、以前とある上映会で詳しい人が説明してくださったお話でとても面白いのがありました。
例えばアメリカの西部劇、ジョン・ウェインの「アラモ」では、川下りのシーンで、「みんな銃を頭上に掲げている」と。
それに対して、マカロニの「続・夕陽のガンマン」という作品では、登場人物が浴槽から銃を取り出してバンバン撃つ。
火薬しけるだろー!!って話してて、ホンマや、そんなん思いつかんかったわ、と爆笑してしてしまいました。
要するに、
・真面目に作ってるのがアメリカの西部劇
・面白ければ何でもいいのがマカロニ・ウエスタン
だというんですね。
大雑把なライン引きではあると思いますが、マカロニってそんな感じ!!とすごくイメージのつく楽しい説明でした。
ちなみに作家の池波正太郎先生はエッセイで、「女性が良妻賢母なのがアメリカ西部劇、女性が強姦されるのがマカロニ」なのだと大っぴらに語っていました。そんなもんなのかな(笑)。
さて、マカロニ・ウエスタンの中で、「夕陽のガンマン」の監督であるセルジオ・レオーネは、1964年公開の「荒野の用心棒」をきっかけに爆発的マカロニブームをもたらした人であります。が・・・
個人的には、レオーネ作品を観た後で、その他のマカロニ作品を観ると、ちょっと毛色が違うなあと思ったりしました。
何というか、レオーネ作品は他の作品より、美しく、格が高い感じがするというか…。
「レオーネは、単純なエンタメを超えて、戦争の愚かしさを描いたり、人間ドラマを展開させたりしていて、厳密にいうとマカロニとはいえない。」・・・なんて議論もあったのだと、映画秘宝だったか以前どこかで読んだ記憶があります。
1作品撮るごとにアメリカ映画の巨匠の階段を登っていったレオーネ作品…。
しかし「夕陽のガンマン」に関しては、ドラマは〝個人の復讐〟がテーマで、あくまでエンタメに特化している、マカロニらしいマカロニといえるのではないかなと思います。
順序的には「荒野の用心棒」が先だけど、「夕陽」の方がずっと面白いし、入りやすいんじゃないだろうか…。とにかく西部劇みなれてない自分にも、すごく観やすい1本、それが「夕陽」でした。
◆めちゃくちゃ面白い「夕陽のガンマン」
前置きはさておき、ここからは大好きな「夕陽のガンマン」の見所を語っていきたいと思います。
まず、主要登場人物3人が全員イケメン…って軽い言い方ですが、ダンディーな男前おじさんばっかりです!!
まずは汽車での登場シーンからシビれてしまうダグラス・モーティマー大佐(リー・ヴァン・クリーフ)。
全身黒の衣装に、スラッと高い身長、ギラリとした眼光。なんとも絵になるその姿…!!
もう1人は大スター、めちゃハンサムなクリント・イーストウッド。当時35歳…テレビ俳優やったあとのマカロニと遅咲きだったんですねー。
リー・ヴァン・クリーフと並ぶ俳優さんは甘めのマスクのイケメンだとお互いを引き立て合うなあ、なんて思ったりしますが、正統派イケメンでかつ渋い風格を漂わせる〝名無し〟(モンコ)も滅茶苦茶カッコいいです。
そして…リー・ヴァンのモーティマー大佐とイーストウッドのモンコが手を組んで追いかける賞金首がジャン・マリア・ヴォロンテ演じるインディオ。
この人もよく見るとかなり男前じゃないでしょうか。緑がかった瞳の色が何とも綺麗で魅せられてしまいます。
主演陣の迫力もさることながら、悪役からほんのちょっとしか映らない脇役に至るまで、〝人の顔がすごく面白い〟!!
基本マカロニの世界観は、モラルもへったくれもないような世界で、男が自分のガンさばきだけを頼りに生きていく…という大変厳しいものです。
〝人の必死で生きている顔〟というのがすごい迫力で伝わってくる映画だなーと思います。
そしてなんと言っても最大の見所は、男同士のタイマン、決闘、ガンさばきの対決となっています。
「夕陽」でカッチョええ〜とシビれたのは、有名な帽子撃ちのシーンですね。
大佐とモンコが町で邂逅して、モンコが挑発するように大佐の帽子をバキューンと撃って、大佐は何度もそれを拾いに行く。2人がかなり離れたら、もうモンコの弾丸は届かない距離で、大佐が見事に撃ち返してくる。
動きも台詞も極めて少ないシーンですが、「2人の凄腕っぷり」「大佐の冷静さ」が分かる。アニメ的ともいえる見せ方が斬新にみえました。
また大佐の持っている銃の銃身の方が長く、当然使う銃によって射程距離が変わる!!…そういうディティールの面白さも分かりやすく伝えてきてくれます。
〝帽子うちシーン〟はあえて音楽なしでキメてきますが、その他の決闘シーン(インディオvs裏切り者と、ラストのインディオvs大佐)は、モリコーネの音楽がオペラのようにジャンジャン鳴り響きます。
冒頭の軽快ながらどこか孤独感漂う口笛のテーマ曲もカッコいいですが、劇中で音と映像がシンクロしてグアーっと迫ってくるところがやっぱりすごい。
オルゴール音が重なってきて、管弦楽器が♫ファララーとくるところで、鳥肌がたってきます。
そしてモーティマー大佐が、実はお金目当てではなく、仇討ちのためにインディオを追っていたということが明らかになります。
極めて落ち着いた人物にみえた大佐ですが、奥底では物凄い熱い怒りと哀しみを持っていたんですね。
最後モンコの助太刀を受けての待ちに待った決闘の瞬間…鉄面皮だった大佐のみせる人間らしい涙ぐむ表情に物凄い色気を感じます…押し寄せる大佐萌え…。
対するインディオは大悪党ですが、この人もこの人で失った恋(といっていいのかな)があって、過去が忘れられず自暴自棄になって狂気に駆られている感がどこか哀しみをたたえていました。
インディオ、ホントはずっと死にたかったんじゃないだろうか…2人の男の人生に決着がついた決闘、実に渋い…!!
全編通してストーリーは三つ巴的な展開で二転三転あって普通に面白く、サラリと盛り込まれたバディもの要素。
友情よりも淡白…しかしお互い敬意を払いあうデキる男たちのパートナーシップ…ホントに漫画チックな世界観ですが、今観ても全く色褪せない面白さです…!!
最後に余談ですが、先に挙げた「アメリカ西部劇とマカロニの違いは〜」は、2010年にシアターN渋谷で開催されたマカロニ・ウエスタン50周年記念、ディ・モールト映画祭で伺ったお話です。
なかなか西部劇はビデオ屋さんの品揃えも悪く、観にくいところがあったりしますが、この上映会は全30作品を14日間で上映(レオーネはなし)という貴重な機会でした。
土日の4回分の上映しか行けなかったのですが、トークショー付きの回もあって、ロケ地のスペシャリスト、銃火器の専門家というように、ディティールを追いかける昔からのファンの方たちの物凄い熱量も感じることができました。
でも自分みたいな「カッコいいおっさんたまらん!!」というお気楽な見方でも単純にめちゃくちゃ楽しめる映画です。
それにしても・・・その後にみた「続・夕陽のガンマン」がまた更に面白いとは全く予想だにしておりませんでした…。