前作「夕陽のガンマン」の続きだと思って、「あんな綺麗な終わり方の作品に続編つくるなんてけしからんなー、多分つまらんやろ。」とかなりの期待薄で鑑賞に臨んだ「続・夕陽のガンマン」。
まず「続編じゃない!」ということに驚き、しかもめちゃくちゃ面白くて、ラスト約20分は座って観ていられないくらい大興奮でした。
南北戦争のさなか、隠された20万ドルの金貨。行方を追う3人の男、一体誰の手に渡るのか!?
至極単純なストーリーですが、手に入ったのが各々違う情報だったりして、お互い協力もしなければ見つけられない…。
「夕陽のガンマン」同様の〝三つ巴〟的展開だけど、こちらの方が、より裏切りと暴力が入り乱れていく…予測がつかないストーリーに物凄く引き込まれました。
主演3人のキャラクターは…
まずは悪玉、リー・ヴァン・クリーフ演じるエンジェル・アイ。モーティマー大佐と違って、ひと目で悪者だと分かる面構えに。
3人の中で圧倒的に出番が少ないですが、存在感は負けておらず、リー・ヴァン・クリーフはやっぱりすごい役者さん!!
他人様の家でやりたい放題な冒頭の場面は、「イングロリアス・バスターズ」の酪農家訪問シーンと雰囲気がよく似てる~。
2人目は、善玉、クリント・イーストウッド演じるブロンディ。
〝いうほど善玉か?〟という気もするけど、灼熱砂漠歩かせたトゥーコになんだかんだでお金半分あげるし、見ず知らずの死にゆく兵士にタバコ分けてあげたり…やっぱりいい人な気がする。
イーストウッドってブロンドなのかといつも疑問に思ってしまうんだけど。
3人目は卑劣漢(〝きたねえ奴〟がしっくりくる)イーライ・ウォラック演じるトゥーコ。
凄腕ガンマンで頭もまわると思いきや、どこか抜けてるイディオット、なんとも言えぬ愛らしさ。
神父の実兄と再会したときにチラリと覗かせる過去。貧困から抜け出せなくて盗人になるしかなかった…ブロンディの前では「自分は兄から愛されて友達もいる」と見栄を張って嘘をついてしまうあたり、痛々しいし寂しい奴…。
カッコいい男ではないけど、笑わせてくれて、哀愁があって、なぜか1番応援したくなる、実質の主人公!!「続・夕陽」をどれだけ好きになれるかはトゥーコのキャラクターを愛せるかどうかではないかと思います。
この「続・夕陽のガンマン」という作品には、アメリカや日本で公開された162分版と、イタリアで公開された178分版が存在しています。
近年発売のBlu-rayや配信されてるのは178分版ですが、自分が初めて観たのは162分版。ぶつ切りでよろしくないという評判もあるみたいですが、テンポがよく、〝エンタメ寄り〟になってて、すごく面白かったです。
178分版をあとから観ると…比較して増えていたシーンは、南北戦争の描写やトゥーコの内面を掘り下げるようなシーンだったと思うのですが、より壮大な叙事詩感が漂っています。
ちょっとだけ登場するキャラクターが戦争負傷者(身体障害者)だったりするのも印象的ですが、南軍の捕虜を北軍が管理している収容所のシーンは、ザ・戦争映画という感じがしました。
南軍兵士が虐げられ、悪玉エンジェルは捕虜から金品を巻き上げて拷問している…。
捕虜が強制的に演奏させられている優しい音楽の裏で、トゥーコが目玉を潰されそうになるシーンなんかはかなり残酷。
南北戦争というと、奴隷解放のために戦った北軍が善玉というイメージがあるけど、戦争の勝者敗者、大義に関わらず、現場の兵士は苦しめられている…すごく冷めた視点での戦争批判を感じます。
もう1つ、後半の橋爆破シーンも大作感があってここも戦争映画っぽい雰囲気。
ここで登場する北軍の大尉は心優しく、長期戦争で疲弊しきっています。「シミのような地図の1点を守ることに意義を感じない、そもそもなんで戦ってるのか…」
全くの部外者のブロンディとトゥーコが、橋を木っ端微塵にする爽快感。
政治色を全く感じない作品ですが、戦争に全く関心のない人間が戦争の不毛さをみる、その視点がダイレクトに観客と共有される…
客観的な視点での戦争批判が、純度100%のエンタメにブッ込まれていて、まるで物語が2段構えになっているようですが、この構成が成功する映画って稀有じゃないのかなあ、と何度観ても新鮮さがあります。
タイトルが”The Good,The Bad And The Ugly"なのも、人間そんな簡単に善悪で割り切れるもんじゃないという皮肉にも思えたりしてきますね。
そして・・・壮大になったかと思われた物語が、ラスト20分にはまた3人の男の話に戻ってきます。
「アーチ・スタントンの墓、ほんとにあるのか!?」と、トゥーコが墓地を走り回るシーンでかかる「黄金のエクスタシー」に大興奮で一緒に走りたくなる!!
すんごい景色の円形墓地ですが、もともとあったものでなく、映画用に偽の墓を5000個つくったとか。CGなんて敵わない迫力!!
トゥーコの手を左右に振る謎の走り方が妙にかわいくて笑ってしまいます。
そしてクライマックスの三角決闘のシーンへ…。
多人数で銃を向け合ってすくむ場面は、90年代のガン・アクションでもあるある。
それが溜めに溜めて、どんだけ溜めんねん!ってくらい時間をかけて見せてくるのが物凄く新鮮にみれて、どーなんのよ!?と、心臓バクバクでした。
トゥーコの向いた方向をみると、この人もエンジェルを先に撃っていました。開始から悪玉の敗北だけは決まっていたのかも…。
ラストの〝初めに戻る〟ような締めくくり方も何とも粋でカッコいいですね。
つい先月、TSUTAYAの名盤復活コーナーに待望だった「サッドヒルを掘り返せ」という作品が入荷されました。
↑「続・夕陽のガンマン」のファンが、埋没したロケ地を復活させるという昨年日本でも劇場公開されたドキュメンタリー映画です。
子供にかえったかのように、大はしゃぎするファンたちにこちらも胸がアツくなり、改めて知るメイキング的内容にも大満足、構成もお洒落で非常によく出来た1本でした。
10代の頃…自宅で夜中1人「続・夕陽」を鑑賞したとき「こんなに面白い映画はない!」「最高の映画を今みている!」と思った興奮が今も身体に残っているような感じですが、老若男女問わず好きな人にはとことん刺さるという作品なんだと思います。
邦題の「続・夕陽のガンマン」、最初は「続編じゃないのに」と思ってしまったけれど、三つ巴の二転三転ストーリーは「夕陽」を大きく受け継いでいて、”続”というタイトルも案外相応しいものなのかもと、後から思いました。