このゴールデンウィーク、新作「イエスタデイ」をレンタルしてみたら全く肌が合わなくて、お口直しにこちらを再鑑賞することに。
音楽大学を舞台に狂気の鬼教師とそれに喰らいつく新人ドラマーの対決を描いた、もはや音楽映画というより、サイコスリラーといえる作品。
公開時にみられず大分遅れて昨年に鑑賞したのですが、作品の評価/感想がキッパリ分かれているようで、ネットでレビューをみるのも楽しい作品でした。
中には「フレッチャーは素晴らしい教師だ」と彼の人格を称えるような見方もあり、それはないわーとびっくり(笑)。
パワハラクソ野郎に違いないフレッチャーですが、「自身がミュージシャンになれなかった嫉妬心を生徒をいじめて発散している」というような狭量な人間でもまたないように思います。
・次のバディ・リッチを育てる。その生徒がバディ・リッチなら自分のしごきにも当然堪える。
・よいジャズを生み出すために自分のやっていることは素晴らしい努力である。
もうこれは彼の確固たる信念、宗教といっていいものであり、そのために人をどれだけ傷つけているか一切省みない…悪人というよりもう狂った人間というしかありません。
目的のためには時々「本当は生徒のためを思っている」という“飴〟の一面を演じてみせるのも上手く、序盤は「もしかしていい先生なのか?」「愛と青春の旅立ちで終わってくれるのか?」と無駄な期待をもたせられましたが、ハラスメントの加害者に振り回される心理を追体験しているかのようでした。
物語の主人公がごく普通の青年であったなら「パワハラ上司に追いやられておかしくなったワーカーホリック人間の悲劇」と受け止めて終わりますが、ニーマン自身がそもそも「元気な金持ちの90歳として忘れられるより、文無しで早世して名を残したい」と語るような相当なエゴの塊なので、この主人公にとってはこれがハッピーエンドなのかな、と思ってみてしまいました。
ニーマンが親戚たちと食事をする場面。
お互いマウンティングをしあっているようなどこか殺伐とした雰囲気ですが、ここでは「芸術という分野では大成功しない限り道楽者としてしかみられない」という厳しい目線がありました。
仲間を蹴落とさなければならない厳しい競争、全てを練習に注ぎ込むための極端な生活、それが周囲から理解されず孤独を極める道…自らこれで良しと選択したニーマンは普通にみてたら嫌な奴。…だけど「人からどう思われようとやりたいようにやってやる!」という断固とした姿勢は単純にすごいなあと思ってしまいます。
出番が少ないながら父親も印象的なキャラクターで、一見優しそうにみえながら、実は息子の夢を全く応援していない。内心は夢をあきらめて安定した道に行けばいいと思っていそうな親で、理解されない子供という点でもニーマンはずっと孤独だったのかもしれません。
ラスト、フレッチャーがニーマンを呼びだして赤っ恥をかかせたのは悪意以外の何ものでもなく、パワハラを告発された腹いせに自分の舞台をおじゃんにしてもいいからやり返すって相当歪んだ性格でないと出来ない芸当でしょう。
しかし土壇場の土壇場、なにくそ!!とさらにやり返しに行ったニーマンにはなぜか胸がアツくなってしまいます。
フレッチャーの狂気を跳ね返すのもまた狂気で、感動的なラストという言葉はしっくり来ませんが、まさに”2人だけの世界”という言葉がピッタリ!!
フレッチャーの熱い目線を受けての演奏には何だか笑いたくなってしまい、この狂人2人にはこれがハッピーエンドでいいんだ!と不思議に爽やかな気持ちになってしまいました。
自分はジャズも知らないし音楽演奏の経験もないのですが、途中のフレッチャーの台詞…
「世の中甘くなった。ジャズが死ぬわけだ。」
「明白だ。カフェあたりで売ってる“ジャズ〟のCDが証明してる。」
いち鑑賞者の傲慢な意見ですが、自分は最近の映画つまらなくなってないかなー、昔の映画はすごいなーとか思うことがあったりして…
昔の作品のおそらく今だと色んな規定でアウトになってしまう危険な映像ってあるよなあ、死人がでてもおかしくないジャッキーのアクションのスタントとか、女優さんを精神的に追いつめて撮ったといわれてるラブシーンとか…
一線を超えてつくられた傑出したものに感動していることはあるよなあ、芸術の分野はそういう過程でできたものが生き残る面もあるのかなあ…と、この映画の2人を理解不能の狂人とバッサリ切り捨てられないような、複雑な気持ちも残りました。
追って同監督の「ララランド」も鑑賞。
理想高く夢を追うには何かを捨てなければならない…「セッション」ほど極端ではないにせよ、少し似たものを感じる作品でした。
結果一定の成功を手に入れたような人間でもめぐる思いがあるもんなんだなあ、人生で何もかもを手に入れるというのは難しいことだけどそれぞれ幸せがある…ラスト15分で胸に迫ってくるものがある作品でした。
仕事、夢、人間関係の成立し難さみたいなのを、ありきたりなドラマではないモノでみせてくれて、すごい監督だなあと思いました。
個人的には、きらびやかな「ララランド」の主人公たちより、童貞感漂う泥臭い努力のニーマンの方に強く惹かれてしまいましたが(笑)。
音楽も聴かせるところで一気にきかせてくれて、一般的な音楽映画じゃないのでしょうが、その部分でもスッキリさせてくれる映画でした。