バズ・ラーマン監督といえば…〝虚構〟をことさら強調したようなきらびやかな舞台、大げさと思えるほどに芝居がかった登場人物たち…と好みの分かれる監督かもしれませんが、自分はあのワールドが結構好きで…
ラーマン監督のデビュー作「ダンシング・ヒーロー」は、子供のころ親に連れられて映画館で観た作品で、ストーリーはきちんと理解できていなかった気がするのですが、主人公の男性が床を踏み鳴らし踊っている姿がただただ記憶に刻まれました。
大きくなってから「ムーラン・ルージュ!」をみた際に本作を観返したところ…これぞまさにラーマン劇場の原点!!話も含めて面白いし、ダンスシーンがこんなに魅力的な映画は滅多にないんじゃないかなーと改めて夢中になりました。
舞台はオーストラリアの社交ダンス大会。優勝最有力候補だったスコットは、オリジナルの派手なステップをみせて、保守的な大会側からひんしゅくを買って敗北してしまいます。
跳んで、跳んで、まわって、まわって…とにかく主役のポール・マーキュリオが輝いていて、「フラッシュ・ダンス」のクライマックスが最初に来たかのようなオープニングですが、採点者にダメ出しされてしまうんですね…。
パートナーにも逃げられてしまったスコットの下に、同じダンス教室の生徒で初心者のフランがやって来て、一緒に組まないかと誘います。
「優勝という肩書きに拘らず、自由に踊りたい。」そんな思いが一致して秘密の大特訓をする2人。
シンディ・ローパーの名曲「Time after time」のアレンジがBGMに流れる中、練習を重ねた2人の距離は縮まっていく…。
このロケーションも「ムーラン・ルージュ!」とどこか重なりますが、コカ・コーラの看板が実におしゃれ!!ラーマン監督は演劇出身でこの「ダンシング・ヒーロー」も元は舞台作品だったそうですが、小さな町1つがステージのようにみえる空間づくりが美しいです。
そしてある日の練習帰り、スコットがフランを家に送り届けると、すごい怖そうなお父さんが…。悲惨な境遇のヒロインなのかと思いきや・・・
ダンス対決で心を通わせるというまさかの展開に笑ってしまいます。
フラン一家はスペイン語圏をルーツに持つ一家のようで、自信なさげのヒロインが、フラメンコを踊るときだけ別人のように艶やかなのが何とも愛らしいです。
しかしスコットは母や叔父から、フランとのパートナーを解消するよう追い込まれ、優勝するために新しいパートナーと無難なダンスを踊ることになります。でもやはり気持ちに嘘はつけない…。
「制圧的な親世代の呪縛から解き放たれて、自由を得る」という、もうめちゃくちゃ古典的&シンプルなストーリーなのですが、ステージママみたいなお母さんや、出来レース仕込んでるダンス協会の黒幕のおじさんのキャラもどこかコミカルで、明るく観れてしまいます。
とにかく本作のクライマックス、フラメンコシーンは圧巻!!めちゃくちゃカッコいい!!
ミュージカル映画ではないはずなのに、完全にミュージカルやろ!と言ってしまいたくなる独特の空気感が魅力的な本作。
たとえばスコットがケンカした元パートナーを引き止める場面では、いきなり2人がタンゴを踊りながら応酬するのですが、大胆な場面転換の仕方がいきなり歌って踊りだすミュージカルともう一緒だなあと。
言葉じゃなくて身体が動いちゃう!!というミュージカルな世界にぐいっと引き込まれてしまいます。
カメラワークにも拘りがあるようで、両親の真実を知って動揺したスコットが部屋をぐるーっと見渡す場面から一気にウィンナーワルツの回転のシーンに転換するところなんて実にダイナミック!!
デビュー作とは思えない冒険心、すごいテクニックです。
周りにどう思われるかを気にせず、自分のやりたいことをやってこそ観客がついてくる…というハッピーエンドな物語ですが、この超絶ポジティブな芸術賛歌こそバズ・ラーマンの映画作りの姿勢なのでしょうか。
ラーマンワールド、好き嫌いは分かれそうですが、「ダンシング・ヒーロー」は低予算作品だったからかそこまでハデハデしていなくて他の作品が苦手な人でも結構楽しめるかも!?
その分人物の魅力が際立っていて、95分という短さで疾走感もバツグン、とにかくダンスがかっこいい!!デビュー作だけど、1番好きな作品です。