「ゴールデンカムイ」の作者・野田サトルが2011年〜2012年にヤングジャンプで連載していたアイスホッケー漫画。
全6巻完結、打ち切りといっていいエンディングを迎えているのですが、なぜ連載終了したのか不思議なくらいめちゃくちゃ面白かったです。
幼少よりオリンピックを目指していたフィギュアスケーターの白川朗は母を亡くし、東京から親戚のいる北海道苫小牧へ引っ越すことに。
ある日地元のアイスホッケープレーヤーと練習場所の奪い合いになり、思いがけずホッケー対決をすることになるが…
フィギュアスケーターがアイスホッケーに魅せられて華麗なる転身。
92年の「飛べないアヒル」という映画にて、弱小チームが助っ人にフィギュアスケーターの女の子を呼んでその子が試合中くるくるスピンするという面白場面がありました。
これが元ネタなのか分かりませんが、トリプルアクセル決めながら敵を突破する朗、めちゃくちゃオモロイです。
氷上を優雅に舞いながらたった1人で戦うフィギュアの世界に対し、アイスホッケーの世界はラフプレーもなんのその、汗にまみれてチームで戦わなければならないという全くの別世界。
仲間に揉まれて変わっていく主人公がドラマチック…!!
でもフィギュアスケーターらしさはずっと持っていて、人一倍負けず嫌いで美意識が高い。ちょっと潔癖症でマメな性格してる朗くん、カッコかわいい面白イケメンです。
そしてホッケーの楽しさを知った朗は強豪校のアイスホッケー部に入りますが、そこにはハートマン軍曹かと疑う鬼監督が。
映画の他にも「ジョジョ」や「マサルさん」など別漫画のパロディと思われるコマがあってそれを探すのも楽しかったりして…。時折炸裂する独特のギャグセンスも自分は大好きで、爆笑でした。
シュールさもありつつ全体的には感動的な王道スポーツ漫画で、アイスホッケーのルールを知らなくても分かりやすく楽しめます。
1巻の中学生試合にて…少子化で廃校になるためもうアイスホッケーが出来ない弱小校の苦悩はすごくリアルに思えたし、部員すらおらずボロボロなのにそれでも試合がしたくて戦う姿にもうグッとくる…。
ゴールキーパーのプレッシャーとの戦い、優勝を逃した卒業生のシビアな進路…キャラクターの内面を掘り下げたドラマが幾つも展開され、読み応えたっぷり。
「フィギュアは親に託された夢で自分のやりたいことじゃなかった」・・主人公が過去から脱却していく王道青春モノ的なストーリーにも爽快感があります。
しかし何が凄いってこんな感動てんこ盛りの内容が打ち切りのせいでたった6巻に濃厚圧縮されているということ。
最終巻はもう「武士沢レシーブ」にも負けないような詰め込みっぷりですが、それでも張っていた伏線ドラマをすべて回収して見事にまとめあげているのが驚嘆です。
下記は「ゴールデンカムイ」の単行本付録にて作者が語られていた言葉ですが…
体操の金メダル級の着地を目指しますが、バタバタとブサイクでもなんとか着地させるのがプロの漫画家だと思いますし、読者への責任だと思います。
なんてカッコいいんでしょう…。
打ち切りって読者も悲しいし漫画家さんにとっては無念以外の何物でもないのでしょうが、行くところまで行ってぶん投げて終わるようなエンドもある中、限られた回数でまとめあげた作者の手腕と、最後まで完結をあきらめなかったド根性を感じて、ラストは不思議な二重の感動に包まれました。
綺麗に終わらせているけれど、2年生編が出来るエンドにもなっているし、完全版として20巻くらいの内容にして新しく書き下ろされてもいいし…
個人的には朗に恋するスピードスケーターの女の子のピュアなズレっぷりが可愛かったからここのラブコメももっと見たかったなー。
「ゴールデンカムイ」のヒットで再評価されてるようなので、また読めないだろうかと密かに期待してしまう作品です。