どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

漫画「ブラック・ジャック」の好きなエピソードをあげてみる

鉄板すぎる名作ですが久々に読みたくなって、再読。

自分が小学校の頃には図書室にあって皆で読んでいたけど、「人間はいつか必ず死ぬ」「この世には理不尽な病気や障害が存在している」…子供の頃に読んでおいて良かったなあ、としみじみ思う作品です。

ツンデレでキビしいブラックジャック先生ですが、病という強大な敵を前に患者と一緒に立ち向かう…努力推奨の少年漫画の王道でもあるなあと思いました。

「合理的で周囲の理解を得られず孤立しがち」という人物像は、現実にお医者さんが抱えがちな悩みなのでしょうか…
特に外科の先生は嫌がられる手術を患者と話し合って進めなければならず、患者にはドライにみえてしまうこともあるのかもしれない…

大人になって読むとブラック・ジャックが単なる破天荒医師にも思えず、医者=患者間の人間関係について考えさせられるところも多かったです。

 

ベストエピソード10を選ぼうとするとどれも良くて迷ってしまうけれど、改めて読んでこのエピソードが好きだと思った!!というのを直感のまま10個あげてみたいと思います。

 


1:犬のささやき
全く医療ドラマしてない動物回ですが、読後に残る余韻も含めて強烈でした。

死んだ恋人が忘れられない男は、彼女の声が録音された機械を愛犬の声帯に埋め込んでもらう。
犬の口から漏れ出す「愛してるわ」という女の声。

人間のエゴによる動物虐待としか思えないけど、不気味な倒錯愛すら感じる男とヌーピーのやりとり。

ラスト、電車に轢かれた男を振り切ってブラックジャックのもとに駆け出すヌーピーは、男を憎んでいたのか、愛していたのか…

どちらにもとれる見せ方に唸らされますが、犬の表情をみてると飼い主を助けてもらうためにブラックジャックのところに駆けていったんだと思う。

動物のひたむきな愛が染みて、最後の1コマにゾクっとさせられました。


2:なんという舌
生まれつき異常のあった手をブラックジャックに付け替えてもらったものの、可動に制限があり、そろばん大会での優勝がのぞめない少年。
その少年が最後に手ではなく舌を使ってそろばんして優勝する…。

リハビリテーションを描いている回はどれも必死に努力している姿に心打たれますが、このお話はその先にある苦悩も描いているところが深いなあと思いました。

機能回復だけがゴールではない本人の障害の受容…それが他者にも認められるというハッピーエンドに涙が出ます。


3:上と下
助けられたら助け返す、倍返しだ!!

血液型RH -のおじさん2人が助け合う回はブラックジャックの脇役への徹しぷりも含めて何だかほっこりする回。

一世一代の商談か恩人の命か…飛行機から引き返す社長のおじさんの決意の顔に胸がアツくなります。

社長が高級レストランより安い定食屋さんで美味しそうにごはん食べてるのがいいですね。

人生何があってどんな人と繋がるか分からないものだという奇縁にただただ優しい気持ちになれる回でした。

 

4:ちぢむ
アフリカで発生した身体がちぢむ病気。

「そんな病気が本当にあったら…」と子供の頃に読んで強烈なインパクトがありました。人口増加、環境破壊への不安が短い話に圧縮されていて今読んでも怖いです。

「この病気は神のおぼしめしだ」という戸隠先生の言葉…お医者さんでもそんな風に思う未知の領域みたいなのがあるのかな、と重たく響きます。

 

5:侵略者(インベーダー)
深刻な病気で入院している少年。まわりの大人は気を遣って彼に病気を告知していない。

やがて大人たちの様子がおかしいと疑心暗鬼に陥り、恐ろしい幻覚を見はじめる…。

病気になったら厳しいことも含めてハッキリ言って欲しいなあと思うけど、子供が相手で両親やお医者さんがあえて伏せようとした気持ちも分かる…。

「知らなければ戦えもしない」と努力至上主義のブラックジャック先生は情け容赦なく告知。

誰にとってもこれがベストなのか分からないけど、隠されていることに子供がこんなに不信感を感じるんだーってその心理描写がホラーテイストで、昔読んでも今読んでもなんだか心に残る1編でした。

 

6:ふたりの黒い医者
子供の時分にも安楽死の賛否を問うキリコが決して悪人ではないことが分かって、カッコいいダークヒーローのように映りました。

ブラックジャックも無頭症の赤ちゃんのことは助けないとはっきり決めていて、命の線引きはしている。そのラインがキリコと違うだけなのかも、と改めて読んでも思います。

キリコ登場回はどのエピソードがというより、登場時のインパクトがやはり圧倒的なのでこの回。でも軍医の過去が明かされるところや「助かってよかった」とブラックジャックと肩並べてるところもいいですね。

 

7:古和医院
小村にいる無免許医師のお話。

戦後はこういうニセ医者とよばれる人たちが医療の受け皿になっていたんじゃないかな…とリアルな話に思えるのですが、50歳過ぎて大学に入りなおそうとするラストがあっさりとカッコよくてシビれました。

 

8:ピノコ西へ行く
手術した患者の親がクレーマーで、治らないから刑事告訴すると脅されるブラックジャック。1人で山奥に隠れることにするが、ピノコはそれを追いかける…。

クレーマーの患者家族の姿がこういう人いそうだよなあ、というリアルさ。

中途半端な知識で医者と議論しようとする、せっかちで治療経過を待てない。

医師にとっての信じてもらえない辛さ、患者にとっての信じられない辛さ…治したいという強い気持ちがお互い全くかみ合わないって悲しいですね。

医療者の心折れる瞬間を描いたような暗いお話ですが、どんなときもブラックジャックの味方でいてくれるピノコに最後救われる気持ちになりました。

 

9:笑い上戸
ブラックジャックの中学生時代の友人、笑い上戸の”ゲラ”。厳しい生活を送っているのに、常にポジティブでいる姿勢がブラックジャックを惹きつける。

そんなゲラにブラックジャックの憎しみのダーツが突き刺さってしまうのがすごい皮肉。

最後に笑ったのはゲラの「ありがとう」だったんだろうだろうなあ…。悲しいお話だけど、ゲラの優しさと強さが胸にきます。


10:ある老婆の思い出
優しく誠実がゆえに苦悩を抱えて乳母に転職する看護師さん。
何が正解か分からなくても、助けた命が紡いでいるものがあると信じて医療者であり続けるブラックジャック

冒頭から「お帰りなさい、大統領閣下」のラスト1コマまで短いのに映画のようなスケールを感じさせ、じーんとなってしまいます。

「人生という名のSL」もいいけど、これも最終回オーラがあると思う。

 


ほか…人面瘡も子供の頃強烈に残ったし、シャチとラルゴにも泣かされたし、おかあさんの顔に整形する話も好き…と挙げてくとキリがないですね(笑)。

2013年には40周年記念読者投票が開催されていたみたいで…

www.akitashoten.co.jp

恵さんのエピソードが1位なのと、キリコ人気の強さにびっくりー!!

でもずらっと並んでるのをみてると、アレもいい、コレもいいと目移りしてしまいます。

大人になって読んでも面白いし、子供の時分に出会えてよかった、この先も子供たちに読み継がれていて欲しい超鉄板の名作だなあと改めて思いました。