人形ホラーかよ!なジャケ写ですが「腹話術師がお人形に別人格をつくってしまう」という多重人格を題材にしたサスペンス。
監督リチャード・アッテンボロー、脚本「マラソンマン」のウィリアム・ゴールドマン、音楽ジェリー・ゴールドスミスと渋好みな製作陣。
主演は若かりし日のアンソニー・ホプキンス。
ナイトクラブの売れないマジシャンだったコーキーは、ファッツという人形を使ってカードマジックをしたところ、たちまち人気爆発。
テレビ出演のチャンスを掴むも途端に怖気づき、高校時代に想いを寄せていた女性・ペギーのいる静かなコテージに身を寄せるが…
いっこく堂ばりの芸を披露するアンソニー・ホプキンスがとにかくすごい…!
腹話術は実際にやったのか、後から声をあてたのか分からないけど、エンドクレジットみるとお人形の声役も彼みたいなので、声の使い分け演技だけでもすごいです。
マジシャンらしいカードやコインの鮮やかな手捌きも圧巻…!
そして何より身体から溢れ出る根暗男のオーラがハンパないです。
技術はピカイチだけど、プライドが高くてストレスに弱い。何事も自分で決められない性格でずっと師匠に依存して生きてきたけど、その人が亡くなってからは自分の使うお人形を新たな拠り所にしてしまう…。
まさに「サイコ」ですが、脳内で独り言呟いたり、妄想したりする癖の人間にはこの怖さ、どこか他人事と思えないもんがあります(笑)。
多重人格って、「幼少期のトラウマで別人格が誕生」みたいな物語が多い気がしますが、
ネットで普段自分が言えないこと呟いてストレス解消するとか、インスタ映え目指して自分をよく見せようとしちゃうとか、「自分以外の自分」を持ってる人って案外多いのかもよ!?なんて。
”声に出さない心の声”はある程度皆持っていて身近に感じるテーマのように思えます。
普段大人しい雰囲気のコーキーに対し、下ネタでも何でも言いたい放題の自由奔放なファッツ。
負の感情をこの人形に担当させてたら、次第にそれが暴走して主人格の奪い合いになってしまう…設定が大勝利のサイコサスペンス。
このお人形が本物の人間にみえてくるような演出が上手くてゾゾーっとさせられます。
ここからはラストまでのネタバレになりますが、最後の展開はちょっと唐突な感じがして好みが分かれるように思いました。
高校時代の同級生ペギーと結ばれるも彼女には夫がいて、駆け落ちするか揉める。
ペギーがいると自分は捨てられると思ったファッツは彼女を殺そうとするも、コーキーが自殺して全てを終わらす…というエンド。
でもファッツの「お前は最初から1人だよ」という台詞、そして最後にはペギーがファッツの話し方を真似している…と、まるでファッツが悪霊かなにかで新しい獲物に乗り移った…というオカルトホラーにも見えなくもないエンディング。
でもここまでやっておいて多重人格モノじゃなかったって解釈はやっぱりないんじゃないでしょうか。
振り返ればペギーという女性も、退屈な夫婦生活にふと現れた元同級生との不倫で現実逃避という、コーキーに負けず劣らず優柔不断な人間でした。
軽い気持ちで何かに依存すると貴方も多重人格になっちゃうかもよ、フフッみたいな終わり方ですかね。
ラストの曖昧さといい脚本はちょっと甘い気もしますが、不気味さが残って自分は嫌いじゃなかったです。
アンソニー・ホプキンスめちゃくちゃ演技上手いのに「羊たちの沈黙」で大ブレイクするまでここからあと13年もあるのね…。
地味だけどすごく引き込まれた作品でした。