アルジェントの監督デビュー作ですが、オカルト要素ゼロのジャーロもの(イタリア製サスペンススリラー)。
「サスペリアPART2」が大好きな人間には、犯人探しが主体のこの「歓びの毒牙」もすごく楽しめました。
音楽エンニオ・モリコーネ、撮影ヴィットリオ・ストラーロと豪華制作陣で、「これがデビュー作なんてアルジェントめっちゃセンスあるやん!」と惚れ直すような1作です。
仕事のためにイタリアを訪れたアメリカ人のサム(トニー・ムサンテ)。
ある夜画廊で男女が揉み合っている姿を目撃、女性は刺されて重傷を負う。
警察に目撃者として呼ばれたサムは作家特有の探究精神で独自に事件を調査し始めるが…
異国の地で事件に出会す主人公と「サスペリア2」と重なるストーリーですが、冒頭の事件目撃シーンの舞台装置がまず魅力的。
高級マンションのエントランスっぽい雰囲気、自動ドアの間に挟まれ、閉じ込められてしまう主人公。
見ているだけで何もできないというシチュエーションは「裏窓」っぽいでしょうか…ガラスケースに入れられた昆虫のようで、アルジェントのイヤらしいSっ気を感じてしまいます。
警察はあまり頼りにならないものの、謎のハイテク捜査方法が登場。
犯人の特徴を打ち込むとコンピュータが15万人のデータから容疑者を絞り込む…って1969年にそんな技術あるの!?
他にも犯人からの脅迫電話を録音、声を分析…とアナログな世界観っぽいのにやたら機械が出てくるっていうのも面白いです。
そうこうしてるうちに新たな被害者が続出。
後のアルジェント作品と比べるとずっと控えめでグロくない殺人シーンだけど、女性のパンティを脱がす、「殺しのドレス」を彷彿させる執拗なカミソリでの切り込み…など妙な性癖はこのときから漏れ出てる気がします(笑)。
主人公の恋人にまで魔の手が及びますが、分厚い木の扉を小さいナイフで削って穴開ける犯人。いくらなんでもそれじゃ入って来れないんじゃ…とにかく美女をネチネチ追い詰めたかったとしか思えません。
一方主人公のサムは最初の犠牲者が働いていたという古物商に赴き、襲われた日に売られたという1枚の絵を発見します。
この絵を描いたという画家に会いに行きますが、このおじさんが何気に1番不気味なキャラクター。猫の肉を食べているって直接の描写はないけど完全にアウトです。
「サスペリア2」でもトカゲに釘刺してた女の子が不気味でしたが、さりげなく脇におぞましいキャラを入れてきますね。
結局最後の手掛かりは〝脅迫電話の背景に聴こえる謎の音〟ということになりますが、知人カルロのアドバイスで動物園にいる珍しい鳥の声だと判明。
(ここから犯人ネタバレ)
そしてその近くに住んでいるのはなんと最初に襲われてた女性モニカとその夫だった…!!
犯人は夫かー!!っていくら何でも単純すぎるよね、と勘の悪い自分もここでよくやくピーン。
なんと被害者だと思ってた女性の方が真犯人でした。
子供の時に暴行事件に遭った女性モニカは、例の絵をみたことで過去のトラウマが蘇ってしまい、〝加害者〟に同調して殺人を繰り返すように…それを庇って止めようとしてたのが夫というオチ。
冒頭の目撃シーン、実はナイフを握っているのは女性の方だった…と「真相に直結する場面を実は主人公は既にみている」という仕掛けは「サスペリア2」と同じ。
ただこっちの方は観客にはボヤかしてはっきり見せていないので、画のインパクトも含め「最初からみせていた」サスペリア2の方がトリックとしては冴えてると思います。
被害者だと思ってたのが加害者というどんでん返しは普通に面白いものの(元ネタの小説があるらしい)、妻を庇ってたという夫が負傷した彼女を放置してたり、整合性が取れてないように思えるところも…
元より「緻密な伏線回収サスペンス」の作り手ではなかったようですが、ビジュアル面のセンスがこのときから卓越していて普通のサスペンスより数段面白い作品になってると思いました。
居並ぶ鳥の剥製、車庫に眠るバスの迷路、威圧感のあるアパートの階段など、病んだ精神世界みたいな雰囲気が好きな人間にはたまらなく刺さります。
残酷描写は控えめ、60年代のイタリアの雰囲気はおしゃれと、ホラーなアルジェントが苦手な人も観れる作品のように思えます。
その後「サスペリア2」で出会ったダリア・ニコロディの影響で大きくスピリチュアル路線に傾いたアルジェント…
もしこのジャーロ路線にい続けてたらどんなんだったんだろう…と思ったりもしますが、デビュー作から以降の作品に続く〝らしさ〟に溢れていて、楽しめる1本でした。