この「ハッピー・デスデイ」みたいなジャケ写なんなん…とちょっとパッケージが残念なアルジェント監督3作目。
アルジェントが撮った最初の3作品は、
・歓びの毒牙(原題:水晶の羽を持った鳥)
・わたしは目撃者(九尾の猫)
・4匹の蝿(灰色のベルベットの4匹の蝿)
とすべてタイトルに動物が付いていることから〝動物3部作〟と呼ばれているそうです。
この中でも「4匹の蝿」はVHSがリリースされず2010年にソフト化されるまで観るのが困難とされていた作品。
ずっと見逃していたけど、今回初めて鑑賞しました。
キャラクターや演出がチグハグだなあと思いつつ、話はスッキリしてて、犯人のサイコパスっぷりがなかなか良かったです。
今回の主人公はバンドのドラマー、ロベルト。
お金持ちの妻と結婚した若い男で、繊細な感じがするイケメン。
演奏の練習中、1匹の蝿がロベルトの周りをウロウロ…同時に見知らぬ男に尾行&監視されてるのを察知!!
飛び回る蝿の鬱陶しさが不吉な予感を表現??と相変わらず独特の映像表現ですが、冒頭から引き込まれます。
帰り道、尾行に耐えかねたロベルトは口論の末に男と揉み合い、誤って相手を刺してしまいます。
その様子をパシャパシャと写真におさめるハッピー・デスデイみたいな仮面の人物。
その後、証拠写真が家に届いたり、無言電話が掛かってきたりと脅迫まがいの被害を受けるもなぜか警察には行かない主人公。
ポエム口調で妻にグチった挙句、〝ゼウス〟と呼び慕う謎の友人のところに相談に行くことにします。
マカロニ・ウエスタンにでも出てきそうな豪快な雰囲気のおっちゃんゼウスですが、自分の知ってる探偵を紹介してくれた上、聖書を朗読する奇妙な男「教授」に家を見張らせるなど、色々取り計らってくれます。
一方ロベルトの家に仕えているメイド、アミリアはなぜかいち早く脅迫事件の真相に気付いたようで、犯人らしい人物と電話。口止め料を貰うために交渉していました。
公衆電話の電線を辿って犯人の自宅電話へと繋がる映像は、「インフェルノ」で通気口から音がアパートに伝播していくシーンが思い出されます。凝っててカッコいい!!
しかし公園で犯人と待ち合わせしていたアミリアは、惨殺されてしまいます。
日中の人が多い場所に居たはずなのに、遊んでいた子供たちやカップルが一瞬にして忽然と消え、一人ぼっちになってしまう…魔女の呪いでも発動したかのようなオカルトな演出で、ここも面白い映像。
そんな中、ロベルトが殺したと思われていた冒頭の尾行男が再登場し、犯人に雇われて仕込みナイフで殺される芝居をしてただけだったと判明。
だから警察にまっすぐ行っておけばよかったのに…しかし協力者のこの男も証拠隠滅のため犯人の毒牙にかかってしまいます。
そんなことは露知らずゼウスに紹介された探偵を訪問するロベルト。
現れた探偵は、「3年探偵やってて、1件も事件解決したことない」とオネエ口調で朗らかに語る驚愕の人物なのに、解決を丸投げ。
でもこの探偵、犯人と思しき人物が居たと思われる精神療養施設を訪れるなど、案外仕事をきっちりしてくれて、真相に近づきすぎたため、トイレで毒物注射されて殺されてしまいます。面白いのに途中退場が勿体ないキャラ…!
一方ロベルトは妻ニーナと事件のことでギクシャクして、ニーナは家を出てしまいました。
堂々と自宅を占領するロベルト、ニーナのいとこのダリアといい感じになり、風呂場でイチャイチャ、浮気に走る…とさらに理解不能な行動へ。
巻き込まれサスペンスなのに主人公に共感しにくいのがなんだかなー。
死亡フラグたてまくった浮気相手のダリアが案の定殺され、その検死に立ち会うと、「死の直前に被害者のみた光景が数時間網膜に映るので、それを今から再生させる!」といきなりブラックジャックみたいな展開に。
なんとダリアの目に最後に映っていたのは…
警察はサッパリ分からんと首を傾げ、ビビリまくったロベルトは、銃を持って自宅に引きこもります。
※ここから犯人ネタバレ
そこに仲違いしていた妻が帰宅。
ふと彼女の胸元をみると、蠅のオブジェのネックレスが…
なんちゅーファッションセンスや…じゃなくて犯人はお前かー!!
蝿のオブジェのネックレスが揺れてダリアの目に焼き付いていたってことで事件解決。
でもこういう犯人当てにとことん鈍い自分でも「犯人役って妻くらいしかいないよねー」と疑わざるを得ない存在ではありました。
驚きの動機は「自分を虐待した父親と顔がソックリだったから苦しめて殺そうと思った」というこの上なく理不尽なもの。
女性なのに男児が欲しかったという理由で父親に虐げられていたというニーナ。話の途中、探偵が精神療養施設を訪れるシーンでは「その父親は実父ではない」と語られてましたが、一体どんな家族関係だったのか??
詳細は特に掘り下げられないまま丸投げして終わっちゃうというのがアルジェントらしいですが、結婚前から苦しめる目的で近づいてきた妻って考えただけでゾッとします。
間一髪でゼウスが助けに来て、車に乗って逃亡したニーナはラスト前を走る車両にぶつかり絶命。
スローモーションで粉々に砕けるガラスが突き刺さるシーンはモリコーネのメロディと相まって幻想的で、女優さんの儚げなオーラもあっていい幕引き。
全2作に比べて主人公に魅力が乏しく感情移入しにくい、脇キャラの個性が強すぎてサスペンスから浮きがち、とクセのある作品ですが、病的な犯人のキャラクター像や映像の面白さで充分楽しんで観れる作品になってました。
「歓びの毒牙」の美術センス、「わたしは目撃者」の殺しのテク、そして「4匹の蝿」のサイコっぷり&ユーモア…
全部磨かれて結集したのが「サスペリア2」…!!最高傑作に至る片鱗がうかがえて、3作品ともそれぞれに見所があるように思いました。
音楽は3作品ともモリコーネだったけど、物足りない感じもする。普通の映画だとうるさいように思えるゴブリンの方がアルジェントにはあっていたのかもね。
こうしてみるとアルジェント、「サスペリア」の前からもう充分スピリチュアルさんでした。