タイトルは知っていたもののずっと未見だったのを初鑑賞。アクの濃い暗い映画なんじゃないかと思ってたけど、めちゃくちゃ面白かった…!!
中学校の理科教師がお手製の原子爆弾をつくり、国を脅迫して自分の望みを叶えようとする…
破天荒なストーリーですが、思った以上に政治色がなく、エンタメ映画として成立していることに驚きです。「タクシードライバー」に「ファントム・オブ・パラダイス」のコミカルさを足した感じ!?
79年の作品ですが、以降の日本を覆う停滞感を一喝しているようで、リアルタイムで観てない世代の自分にも突き刺さるものがありました。
◆しらけ世代の主人公・城戸の虚無
学校では大人しく理科の教師をしている主人公が家に帰るとアパートでせっせと1人爆弾作りに勤しむ。
この非日常感がとにかくシュールで、普通の映画ならダイジェストにしてみせるだろう作業シーンを延々と映しているのが新鮮でした。
狭い部屋にあらゆる機器をつめ込み、汗だくでガイガーカウンターと睨み合いながら、誰とも話さず爆弾を完成させる城戸。
なぜそんなことをするのか??主人公の家族背景や内面は一切語られません。
それでも主人公の持つ孤独感、倦怠感は漠然と伝わってきます。
城戸は団塊世代と団塊Jr.世代の間に位置する〝しらけ世代〟と呼ばれる層に位置するでしょうか。
この時代を生きていないと分からない空気感だとは思うのですが、盛んだった学生運動が落ち着き、高度経済成長を経てこれからバブルへと突入する日本。
世界が冷戦やベトナム戦争で混沌とする中、国内の景気だけは良く、皆がかむしゃらに働き、物質的な豊かさだけはどこまでもアップしていく。
受験戦争世代の生徒たちは入試に必要なことだけを教えろとどこか賢しい。
この中で静かに狂う主人公が全くおかしな存在とも思えて来ず引き込まれる魅力がありました。
しかしつくった原爆を盾に政府を脅すも何を要求すればいいのか戸惑う姿が次第に虚しく映ります。大きな力を手にしたところで、夢も野望もない。大金や女や家族が欲しいわけでもない。
次の世代を予見したようなどんづまり感に圧倒されてしまいます。
◆警察・菅原文太がカッコいい
爆弾を手に入れた城戸は2人の人物と接触しますが、その1人はラジオDJの零子(池上季実子)。
面白ければ何でもいいと無責任に事件を煽る姿はマスコミ批判なのか何なのか…主人公を受け入れて応援してくれる理想的な女性なのに結ばれるわけでもない。メディアの上辺だけの賞賛は空しいということでしょうか。
石原さとみ似&独特の可愛い声でなぜだか憎めない不思議なヒロインでした。
そしてもう1人は城戸に名指しされ事件の担当となる菅原文太演じる山下警部。なんて濃い男なんだ!!
ヘリコプターから落ちても、銃で撃たれてもゾンビのように立ち上がってくるとあり得ない屈強っぷり(笑)。
仕事の汚い部分も飲み込みながら職務を全うする〝強い男〟の山下に城戸も心の奥で憧れているようにみえました。ホモセクシャルにも親子的関係にもみえる2人で、どこか世代間の対立ドラマを感じさせます。
「お前のようなやつに人を殺す権利などあるもんか。お前が殺したがっているたった1人の人間はお前自身だ!」
「奴は他人に触れたがっている。」(それが弱点だ。)と城戸を分析する台詞もありましたが、斜に構えてても本心は寂しくて誰かと繋がりたい…前半キテレツな男にみえた城戸が段々と普通の男にみえてくるのが切なかったです。
◆ラストの虚無に圧倒される
しかしラストはとても意外な展開で、警察の山下が死に、城戸の方が生き残ってしまいます。
体制側の警察を悪とし、主人公が散る儚い結末にカタルシスを感じる…というのがひと昔前の日本映画らしい結末なのかなあ、なんて思っていましたが予想が大きく裏切られました。
最後は爆発したのか、あの音は城戸の頭の中のものなのか…ハッキリさせていないところがまた洒落てます。
どうにもならないモノを抱えながらそれでも生かされてしまう城戸。あのまま爆弾を抱えて何も変えられないまま被ばくしてゆっくりと死んでいくのではないか…
開き直ったかのように投げやりな主人公の姿に何とも言えない余韻がのこりました。
Wikiをみていると、撮影秘話も数々の伝説的エピソードがのこっているようで、「新幹線大爆破」といい、昔の日本映画の気力の凄まじさにびっくりします。
70年代の日本の街がなぜかとても美しく見えて、失われた時代にタイムスリップしたような感覚にさせてくれました。
個人的には「エヴァンゲリオン破」でマヤの出勤シーンで流れていた印象的な曲がこの作品のものであることを知って今更ですが驚きです。
また2018年のドラマ「獣になれない私たち」でパワハラに遭う主人公が退職届を常に懐に忍ばせ「太陽を盗んだ男が核爆弾を持っているようなもの」みたいに語ってた台詞も回収できて嬉しいです。
世代を超えてファンが多くあちこちで引用されている作品だというのも納得。
ジュリーってめちゃくちゃカッコよかったんだなーと退廃的な美しさに惚れ惚れとしてしまいました。