なんて罰当たりな話なんだ。(いいぞ、もっとやれ)
イタリアンホラーの巨匠、ルチオ・フルチが「サンゲリア」と「ビヨンド」の間に撮っている1本。
ジャンル的にはゾンビものですが、ロメロや「ウォーキングデッド」系ゾンビではなく、世界がまるごと死者の世界に変異するような、よりオカルト色の強い作品となっています。
話は安定の支離滅裂、しかし気前よくグロが炸裂した雰囲気満点のホラー。
アメリカのとある町、ダンウィッチにてトマス神父という人が自殺。なんとこの神父、聖職者の自殺という冒涜行為により地獄の門とやらを開こうとしていました。
キリスト教圏の人からすればこれだけでガクブルなお話なんでしょうか。
土台がないけどどうやって飛び降りたんだよ、とどうでもいいことばっかり気になってしまいます。
一方ニューヨークで降霊会に参加していた女霊媒師・メアリーはその様子を遠隔地から霊視、あまりの恐怖にショック死してしまいます。
墓に埋葬されますが、棺の中でなぜか蘇生。真っ暗な中ドンドンと棺を叩きます。
閉所恐怖症には堪らない恐ろしさ、「キルビル」にもこんなシーンがあったな。
偶然通りかかったジャーナリスト・ピーターがメアリーの叫び声を聞き、棺をぶった斬って助けてくれますが、メアリーまで一刀両断しそうでヒヤヒヤ。
メアリーを送り届けたピーターは、彼女のボスっぽい霊媒師から「今からダンウィッチの町に行って地獄の門を閉じないとこの世が終わる。4000年前の本にそう書いてある」と意味不明なことを言われます。
4000年前の本ってアンタ読めるんかい!って思うけどエノク書(旧約聖書の1部とされる)のことを言ってるみたい。
なぜかピーターとメアリーの2人が組まされ、地図にも載ってないというダンウィッチの町をひたすら勘に任せて車で探し回ります。
一方当のダンウィッチの町でも鏡が突然割れるなど怪奇現象が勃発してました。
なんとこの町は元々魔女と異教徒の住む場所だったといいます。
悲しいことに若者が犠牲となってしまいますが、まずは車デートしてたローズとトミーのカップル。(トミー役は若い頃のミケーレ・ソアヴィ監督)
イチャついてる最中、急に視線を感じて外を見ると自殺した神父が突然現れる…!!その目を見つめるとローズの目から突然血の涙が流れ出し、口から内臓をゴボゴボと吐き出します。
ホルモン、レバー、ミノ、ハラミ…勢いよく次々にゲロゲーロ。
食事中には絶対観たくないグロさ。そして男の方は頭蓋骨を絞られあっさり死亡してしまいます。
さらにもう1人、エミリーという若い女性も神父の霊に襲われ殺されますが、町の人々は証拠もなしにボブという変わり者の青年を犯人だと決めつけてしまいます。
そして町の親父が電気ドリルでボブの頭を貫いて惨殺!!
霊的世界と全く関係のない恐ろしい人間の仕業。
恐怖に駆られた人間は何するか分からないという深い人間ドラマ?が展開されます。
そんな中メアリーとピーターはダンウィッチにたどり着き、町の精神科医ジェリーと合流します。
ジェリーが神父の怪死事件について語ろうとしたその時、突然窓が開き、大量のウジ虫が吹雪となって降り注ぎます。
50キロの本物のウジ虫を巨大掃除機で飛ばしたという狂ってるとしかいいようのないシーン。
俳優さんは皆真一文字に口を閉じています。
何としても虫を口に入れてたまるかという演技じゃなくてマジのやつ。
しかしCGも使わずこんな狂気の沙汰をやらかしたおかげでこの世がヤバい世界になってるという危機感は存分に伝わりました。
町の明かりが次々に消え、薄暗い中逃げ惑う姿もホラーな雰囲気バツグン。
神父の墓をようやく見つけたメアリーたちは、地下墓地に降りて行きますがそこには沢山の蘇ったゾンビたちが…
ジェリーが十字架の釘で現れた神父の霊を刺すとあら不思議、神父も周りのゾンビも全て燃えて灰になりました。
しかしハッピーエンドかと思いきやラスト、地下墓地から戻ってきたメアリーたちに町の子供が駆け寄ってくるといきなり画面に黒い亀裂が現れ叫び声が…少年がゾンビになった演出?らしいですが意味不明です(笑)。
明るいエンドにしたくなかった気持ちは分かりますが、あまりに投げっぱなし!
ラストも含めお話的には支離滅裂なのですが、本作で登場するゾンビは瞬間移動したかのようにとつぜん現れるというのが面白いです。
急にふと出たかと思えば瞬きすると消えている…人の恐怖心に反応して実体化するとかの設定に昇華できそうな気もしますが、そんな理詰めの映画にしたらフルチらしくなくてつまんなくなってしまうでしょうね。
この世が死者の世界に呑まれるという世界観は次作「ビヨンド」と共通していますが、あちらは三途の川を垣間見たかのような気分にさせられ、その画の美しさも寂寞感も圧巻でした。
「地獄の門」も墓地の雰囲気や風吹きすさぶ荒涼とした町の景色は雰囲気満点ですが、生死の哲学すら感じさせた「ビヨンド」はまさに奇跡の1作、それに及ばずあと10歩といったところ。
今回眼球破壊シーンはないものの、目のアップはやたら多かった(笑)。
CGなしのハンドメイドなグロ描写は見応えたっぷりで「好きなことやってる」感が伝わってきて何だか元気の出るホラーです。