決して重くも暗くもなく、サリバン先生がカッコよくてラストにはスカッと明るくなれる作品でした。
子供の頃図書館にあった「世界の偉人」の漫画でヘレン・ケラーの話を読んだ憶えがありましたが、有名な「み…ず…」の場面は言葉を初めて獲得したんだとその感動は子供にも伝わってくるものがありました。
生後6ヶ月で視覚と聴覚を失ったヘレン。
映画はお母さんが我が子の異変に気付く場面から始まりますが、赤ちゃんを映さず母親の恐怖の表情を捉えた見せ方が白黒映像も相まってまるでホラー映画…一気に引き込まれるオープニングでした。
◆言葉がないというストレス
その後成長したヘレンは手探りであちこち移動し、ご飯も手掴みで食べる。
しかし会話が全く出来ず癇癪を起こして暴れ回ってしまい、家族は疲弊していきます。
自分が普段意識せずやっていることの不都合さを想像するのは難しいことですが、自分の意見を的確に伝えられないとか、せっかくいい映画を観たのに貧相な語彙力で感想が浮かばないとか…
言葉がない、言葉を伝えられないということは人間にとって結構なストレスなのかなと思います。
言葉の概念すらなくただ内に感情の波が渦巻く世界。音も光もなくヘレンはどんな世界にいるのだろう…と説明描写なしでも子役の演技だけで想像させられるものがありました。
サリバン先生が現れると手でアルファベット文字を作り何度も手の触覚にそれを伝えて行きます。次第にそれを模倣するヘレン。
視覚がないのによく指の形を覚えて真似できるなあとそっちに驚いてしまいますが、感覚の幾つかが遮断されても人間の脳は思いもよらぬ適応をみせるものなのかと神秘的にすら思えました。
しかしそれが物の名前を表しているということが理解できない。
なぜ模倣ができるのにそのことが理解できないのだろう…見ていてもどかしくサリバン先生も葛藤しますが、それでも諦めずにひたすら反復する。
1万回ダメなら1万1回目もダメだろう、でも2万回やってやるわ!!みたいなある種のスポ根精神を感じさせるドラマに奮い立たされます。
ヘレン・ケラーはその後の人生の逸話をとっても、元々相当頭のいい人だったんじゃないかと思わずにいられませんが、初めの1歩になったサリバン先生の努力が奇跡だったんだなーとラストのWaterの場面は知っていても涙が止まりませんでした。
◆厳しいしつけって難しい
途中サリバン先生がヘレンを「椅子に座ってスプーンで食べるように」と躾ける場面がありますが、このシーンがとにかく壮絶でした。
もう殴り合いの格闘戦!今だと「虐待だ」と通報されそうな大乱闘。
家族はヘレンに同情して甘やかしていたけれど、サリバン先生だけが彼女を対等な人間としてみて「生活すること」を教えようとする。
人間辛いことがあって「自分だけが」と心を閉ざして楽な沼に浸かろうとするのは大人でもそうだと思います。ヘレンの姿は障害のありなし関係なく考えさせられるものがありました。
また両親が子離れできず過保護になってしまう姿もリアルでした。
人生をサポートすることと依存は違うけれど、1歩間違えるとこういう落とし穴にはまってしまうというのはどんな子育てでもあり得ることなんじゃないかと思いました。
あるいは子育てでなく仕事でも、特定の仕事が特定の人に集中していたりするとあとで困ったりする…けれど人に伝えて残していくということはそれだけしんどい、労力のいることのような気もします。
相手とぶつかっても根気よく向かい続けるサリバン先生の姿勢に圧倒されました。
◆サリバン先生の過去
サリバン先生自身も弱視で障害を抱えていたというのは有名なエピソードですが、本作では劣悪な環境の施設で育ったという過去も描かれていました。
ヘレンの方がずっと障害は重いけど、ヘレンは両親に愛され、家は裕福で家庭教師を雇える。外の世界と繋がり学ぶ機会が用意されていたという点では、弱者であるけどサリバン先生より恵まれた存在ともいえます。
同じ障害を抱えたものとしてヘレンの孤独が分かった。より過酷な環境にいたからこそ学ぶことの貴重さを知っていた&その中で自分が知った学ぶ楽しみを伝えたいという思いがあった。損得勘定なしの無償の愛が最後に打ち勝ったのではないかと思いました。
オスカーを受賞したという主演2人の演技は素晴らしかったし、ヘレンの家族の人たちもいい味出してました。
お父さんの方は最初はすごい距離感だったけど娘を愛する気持ちは本物ではあって、南部の頑固親父が北部女性のサリバン先生と和解する、というドラマもアメリカ映画のハッピーエンドらしいなあと思いました。
実際の出来事より多少脚色されてるんだろうけど、100分ほどでさくっと観れる作品にまとまっていてとても良かったです。