北野武監督作品ではないのですが、ビートたけしの原作をたけし主演で映画化。
「ソナチネ」「HANABI」といったザ・北野作品よりもとっつきやく面白かった1本でした。組織内のゴダゴタドラマという点では「アウトレイジ」の新興宗教版といえるかも。
93年公開ということでオウム事件が話題になる前だったからこそここまで自由につくれたのかな、と思うかなりの毒気をはらんだ作品です。
冒頭からもう笑ってしまうのですが、ビートたけし率いる真羅崇神朱雀教は信者1000人獲得を目指し、地方を巡業、路上パフォーマンスに近い勧誘を行なっていました。
「教祖様は水の上を渡り、万病を治せます。」とたけしがスピーチしていると…「じゃあウチのおばあちゃんを治してください!」と祖母を車椅子に乗せた女性が登場。
教祖さまがお経を唱え、えいっ、えいっ!!と手をかざすと……なんとおばあちゃんが立った!!
ところが教団一行が電車で町を立ち去る際、先程のおばあちゃんが再度姿を現します。
↑めっちゃ走っとるがな!!
やはりこの人は教団が事前に仕込んだサクラだったということで…そうだと思ったよというオチなのですが、世の中にはこんな手口に引っかかる人もいるのよね…
偶然この茶番をみていた萩原聖人演じる和夫は、教団に興味を持ち手伝いをさせてくれと一味に加わります。
そして暴かれる教団の裏側。
実質組織を切り盛りしているのは、ビートたけし演じる司馬と岸部一徳演じる呉。
教祖様は実は元アル中のホームレスで、司馬に拾われた操り人形。裏では「バカヤロー、コノヤロー」と罵られてばかりいました。
しかし一方では純粋に教祖様を慕い教えを尊ぶ信者もいて、玉置浩二演じる駒村は拝金主義の司馬たちを内心蔑んでいました。
可笑しいのは「万病をなおす」という手かざしが意外にプラシーボ効果を発揮して本当に良くなったりしてしまうこと(笑)。
人間ちょっとした心の支えでエネルギーがもらえるなら悪いことじゃないのかも…教祖様の人生相談も悩み聞いてもらうカウンセリングと同じで、たまたまその人にとってこの宗教が心の拠り所だったというならそれはそれでいいのかも…と思わせます。
しかし一方でどうにも救えない信者もいて、余命数日のおじいちゃんをどうにかしてほしいという依頼には教団の面々とともにギョッとなってしまいました。
人間追いつめられたときに何かを頼りにしたくなるという気持ちは分かる気がするものの、土台無理なものを誰かが良くしてくれると思うのはどこかで自己を特別視しているからでは…現実を直視できない人が結局怪しい宗教や根拠のない治療方法に搾取されてしまうのでは…と色々考えさせられます。
さらに可笑しなことに、ニセモノのはずの教祖様が本当に自分には力があると信じて暴走していきます。
人に囲まれてチヤホヤされてると人間勘違いしてしまうものなんですかね。むしろそういうナルシストでないと教祖様なんて務まらないのかも。
しかし司馬によって調子づいた教祖は追放され、新しい教祖に和夫が抜擢されます。
↑大幅イメチェン。こんなんで信者ついてくるんか??
しかし和夫は和夫で大真面目に教祖をやろうと断食や滝行に勤しみだし、玉置浩二組と拝金主義のたけし&一徳コンビとで対立していきます。
真面目組は他人を救いたい一心で行動している善意の塊で、どう考えてもたけし一派の方が悪いのですが、こういう宗教を一歩引いた目でみてしまう自分としては、たけしの「2週間断食しただけで神様になれるわけねーだろ!」の台詞に納得してしまいます。
信者から分不相応な金をとっている点では悪ですが、サラリーマン的視点でみれば地道な金集めと運営をやっているたけし一派がいないと組織はなりたたないしなーなどと思わせるのがこの作品の毒だと思います。
しかしラストにもう一展開。もっとも善良にみえた玉置浩二演じる駒村が結局暴力に走り、彼を返り討ちにして殺してしまった司馬が一言「バチが当たったかな」…
バチが当たったって言葉、自分は嫌いなのですが、あれほど神仏を見下していた司馬でも自分が苦境に立たされるととたん何かに縋りたくなる…最後に露呈した人の弱さに誰しもこういう宗教にハマる素養はあるのかも…と唸らされました。
映画全体としては、信者側のドラマが少なく集団の狂気みたいなものが描かれていないところ、教団の悪行が全体的にマイルドなところは少し物足りなく思われます。
が、あくまで教祖が誕生するまでのお話なのでこんなところかな、オチも含め上手くまとめられてると思いました。
俳優陣の中では玉置浩二が1番印象に残ります。純粋な信仰者のようで「神様に1番近づけると思った」という動機も「特別な人間になりたい」って言ってるようで、一見穏やかそうにみえてすごく怖かった…
信仰心のカケラもない岸部一徳が朗々とお経を誦むところ、玉置浩二が宗教ソングをやたら美声で口ずさむところは爆笑でした。笑いどころもたくさん、皆さん光っています。
個人的には代表的な北野作品より印象に残った1本でした。