どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「赤い影」と「ミッドサマー」、なんか似てる

オカルトサスペンスの名作とよばれる73年公開ニコラス・ローグ監督作品。

赤い影 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2019/09/06
  • メディア: Blu-ray
 

あたまからネタバレになりますが…

ドナルド・サザーランドジュリー・クリスティの夫婦が愛娘を水難事故で失ってしまう。
その後夫の仕事でヴェネツィアに旅に出た夫婦はそこで「亡くなった娘さんの霊がみえる」と語る霊媒師の老姉妹に出会う。
妻の方はその話に夢中になり、霊媒師は「今すぐここを離れないと旦那さんの命が危ない」とさらなる霊視をする。しかし話を取り合わなかった夫は不気味な殺人鬼に突然殺されてしまう…

初めて観た時は何の話かさっぱり分からず霊媒師のおばあさんが黒幕なのかと思ってみてたけど、実はドナルド・サザーランドが超能力(予知能力?)を持っていたのに自分の能力に気付けなかったため命を落としてしまったという何とも不思議なオチになっています。

冒頭にて不吉な何かを予期したかのように突然庭に走り出すところ、ヴェネツィアで喪服を着た妻をみかけるところなど、「実はあの時予知能力を発揮していた!!」という伏線があちらこちらに張られています。

霊媒ばあさんの話を聞いておけば助かったのに…という話ですが、突然江原さんみたいなスピリチュアル系の人に「あなたには娘さんの守護霊がついてますよ」なんて言われたらめっちゃ嫌な気持ちになるの分かります。訳の分からないまま間抜けな死を迎えてしまうドナルド・サザーランドがひたすら気の毒に思えました。

原作は「レベッカ」のデュ・モーリア。監督は夫婦の別離がテーマと語っていてそう言われてみるとパートナーと悲しみを共有できなかった女性が信仰の世界へ…昨年観た「ミッドサマー」はこれによく似てるなあと思いました。

「ミッドサマー」のカップルより遥かに健全で善良な夫婦にみえるこの「赤い影」の夫婦もよくよく目を凝らすとすれ違っていたということが分かります。

教会の修復という建築関係の仕事をしている夫には全く信仰心がない。ないならないでいいけど建築物の背景とかにも微塵も興味なさそうで相手の文化を尊重する姿勢に欠けた冷たい男に見えなくもない。

親を転落死で亡くしたと語った神父さんの話をガン無視、妻が息子に書いた手紙にもノーリアクション、もうちょっと人の話きいてもよくない??

長男が事故にあったと学校から連絡があった際にはすぐに帰国するという妻に対しあとから行くとその場にのこる。あんたは息子のこと心配じゃないんかい、長女亡くしたばっかりで奥さんメンタル弱ってるのに1人で行かせちゃっていいの??そういうとこやぞ!!

…って男性からすれば「メンドクセー」ことこの上ないでしょうが(笑)、全く悪い人じゃないけど妻視点でみると鈍感に思えてしまったりするんだろうなあという夫像がリアルでよく出来てます。

反対に妻のジュリー・クリスティは動物と子供が好き、目の不自由な老人にすぐに助けの手を差し伸べるような心優しい女性として描かれていますが、裏を返すと感情的で繊細、メンタルを病みやすい人なのかもしれません。

この妻が夫に「子供たちが池で遊ぶのを許したのはあなたよ」って言う場面はさらっとしてるけど心の中ではずっと夫責めてるのが分かってとても怖いです。

でもあの夫も子供を亡くして悲しいのは一緒でだからこそ赤い影を追いかけてしまったのだと思うのですが、同じ気持ちを持っていても共有できるわけじゃない(夫の方は共有したいと思ってないけど妻が違う悲しみ方をするのは解せない)…と上手いこと行かないもんなんですね。

長い結婚生活経てあんなセックスもする愛の深い、お互い労る努力をしてきたように見える人たちでさえと思うと余計に切なさが際立ちます。 

夫が突然現れた殺人鬼に殺されてしまうのが伏線というには強引で正体も謎のままですが、実は罪悪感を抱えていた夫が死に引き寄せられたみるか、夫を許せてなかった妻の思いが具現化して夫を亡き者にしたとみるか……感覚的な映画でスッキリしませんが2人別れ別れになる結末には物悲しさが漂います。

印象的なラストは夫を亡くした妻の表情が穏やかな笑みを浮かべているようにも見えて、このシーンが「ミッドサマー」のエンディングにとてもよく似ていると思いました。

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思いを共有できなかった男と別れて宗教の世界へ…
信仰が救いとなったハッピーエンドとみればいいのか、依存先が変わったとみればいいのか複雑です。

精神的な依存って「自分1人で消化できない感情を他の何かを利用して消化すること」で、程度の差はあれ自分も他人や趣味に依存しながら日々生きてると思うのですが、消化し難いどえらいモンを抱え込んじゃったら変な宗教に入っちゃうとかアルコールや麻薬に走るとかそんなことにもなっちゃうのかな…

「ミッドサマー」のダニーは身内に精神疾患を抱えた人がいて、挙句家族を自死で失って自責の念も抱え込まされて…とあの結末に至るまでに説得力を感じたし、この「赤い影」のジュリー・クリスティも子供亡くした母親が「娘さんは天国で元気よ」っていう一言に救われたっていうならもうそれはそれでアリなのかなって気がしました。

昔みたときはドナルド可哀想、だったのにしゃーないか、という感想になるのは自分が年取ったからなのかどっか病んでるからなのかどっちかな(笑)。

家族や身近な人を失っていくうちに若いときは信仰がなかった人でも死後の世界を期待したり死に対して何かイメージをつけていくものなのかな…歳を重ねていくとまた見方が変わる作品かもしれないと思いました。

スッキリするわけじゃないけどなぜだか好きな映画です。