どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「ホワイトドッグ 魔犬」…アニマルホラーじゃない!!差別を描く異色社会派サスペンス

子供の頃レンタルビデオ店で目を引いた、血を滴らせ牙を剥いた白い犬の何とも恐ろしそうなジャケット…

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ホラー映画のコーナーに置かれてたこともあって、犬が怪物になって人を襲うB級映画なんだろう、犬が可哀想なのは嫌やわーなんて思ってましたが、のちに監督サミュエル・フラー、脚本カーティス・ハンソンだと知って驚愕。

人種差別主義者から黒人を攻撃するように躾けられた1匹の犬。果たしてその病は治せるのか…

アニマルホラーかと思いきやしっかりした社会派作品で鑑賞後も深い余韻が残る傑作です。

 

主人公のジュリーはある夜白い犬を車で轢いてしまいます。

動物病院で治療してもらったはいいものの飼い主不在でこのままでは保健所で殺処分されてしまう…心優しい彼女は飼い主が見つかるまで犬を引き取ることを決意します。

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↑ジャケ写では怖い顔してるけどかわいいワンちゃん☆

ジュリーが暴漢に襲われた際には犯人に噛み付く名犬ぶりを披露、1人と1匹の間には絆が芽生えたかのように思われました。

しかし犬には脱走癖があり、時々人を襲っては白い毛並みを赤く染めて帰ってきます。

前半から大仰に恐怖を煽らない淡々としたつくり、そして犬を飼ったことのある人は親近感の湧くホワイト・ドッグと女性のやり取りにホッコリさせられます。

しかしある日白い犬はジュリーの同僚をも襲ってしまいます。悩んだジュリーは著名な動物訓練施設を訪れますが、そこで告げられたのは衝撃の事実…

この犬は人種差別主義者によって黒人を襲うように訓練されたホワイト・ドッグだ。
差別主義者の白人がアル中や中毒者の黒人に金を渡して子犬の頃から殴らせる。恐怖心は憎しみに変わりやがて黒人を襲うようになる…

前半を振り返ると確かに暴漢の男以外の襲われた人たちが皆黒人だったことが分かりゾッとさせられます。

犬の視力は人より弱く色味は白黒の世界で見えているらしいというけど、果たして肌の色を見分けるような学習が可能なのか…生物学的な正確さは分かりませんが、映画の中で語られる「元々は脱走した黒人奴隷を攻撃するためにそういう犬が訓練されていた」という話には胸が悪くなります。

犬を虐待する行為自体胸糞ですが、小さい頃から巧妙に思想を植え付ける行為は人の間でも行われているものではないだろうか…と思わせる設定が秀逸です。

あれだけ動物に愛をみせていたジュリーも「殺すしかない」と見限ってしまいます。差別をなくすにはその存在ごと潰すしかないという絶望感…しかし何とか犬を再調教しようと黒人の動物トレーナー、キーズが立ち向かっていきます。

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洗脳を帳消しにしてこそ差別への勝利になる…諦めずにトレーニングに取り組む姿は涙なしにみられません。

そしてついに犬の信頼を勝ち取ったキーズ…しかし最後の最後でホワイトドッグは今度は白人男性を攻撃してしまい、キーズは犬にそっと銃弾を撃ちこみます…

ハッピーエンドでない結末は鬱々しいことこの上ありません。

しかし植え付けられた憎しみはそう簡単に消えるものではなく、1つ学んで道を断てたとしてもまた別の吐け口に向かってしまうというのがリアルでよく練られたラストだと思いました。

途中にはキーズの両親が学者で裕福な家庭で育ったのだと語られるような場面もありましたが、キーズが善良だったのも恵まれていたから…幼少期に置かれる環境はそれだけ大きなものでそれに抗うことはできないのだという無力感も感じさせます。

またホワイトドッグの元の飼い主が突然姿を現す場面も衝撃的でゾッとするオチとなっていました。
愛らしい孫娘を連れた裕福そうな白人男性が元の飼い主。一見どこにでもいるような人が悪いとも思わず差別意識を伝染させているというのが恐ろしいです。

86年当時には公開前から物議を醸し映画会社から見捨てられプロモーションも一切されずにアメリカでは1週間しか上映されなかったという不遇の作品。

B級アニマルホラーと思ってみると閉口すること間違いなしですが、シナリオも演出も丁寧で時が経ってもみられる意外な傑作です。