ストレスを爆発させた中年男が些細なことから凶行にひた走る…
ジョエル・シュマッカー監督、マイケル・ダグラス主演のサスペンスドラマ。
渋滞にキレる。不親切な店員にキレる。朝食セット終了したバーガー店にキレる。
一切なんの冗談も通じなさそうなマイケル・ダグラスのサイコっぷりがハマりすぎてて怖いのですが「ちょっと分かる」主人公にもなっているのが面白いところ。
結局壊れたきっかけは失業によるところが大きそうで「家族に会いたい」と願う姿は哀愁漂ってますが、元からヤバい奴だった感もありありです。
規律正しいようで他者に不寛容、短気で自分の思い通りにならないと気が済まない性格。元妻が三くだり半つきつけて再会を恐れるのはやむなし。
マイケル・ダグラスを追跡する定年間近の刑事ロバート・デュヴァルの役がまたいい味を出していて、こちらは主人公と対照的に「理性に踏みとどまる男」になっていました。
無神経な同僚の言葉をスルー、精神を病んだ妻の苛烈な仕打ちにも耐え続けてきたその姿をみると「抑圧して生きることが幸せなのか」とほの暗い気持ちも込み上げます。
けれど場面だけ切り取れば歪に見える夫婦関係もお互い愛があって上手くいってたのかもしれませんし、有能さを理解してくれる同僚もいました。
傍若無人に振る舞えば人間失うものもあってデュヴァル刑事はデュヴァル刑事で折り合いをつけつつ得られる幸せがあったんだろう…その柔和な物腰にホッとさせられました。
93年のこの作品、「全くキレイじゃないアメリカ」を描き切っているというか今みると人種差別の描写が結構エグいことにも驚きます。
最初に主人公が成敗するのは移民の人たち(韓国人とヒスパニック系)で、相手の行為も相当なものなのですが、主人公の方も差別的な暴言を吐きちらしています。
ミリタリーショップを営む隠れナチ信奉者が同性愛者を追い立てる場面も強烈、黒人男性が銀行の前で「白人は融資を受けられるのに自分は受けられない」とデモして黒人警官に連行されていくところもシンドイ…
結局暴力を持たないと何の主張も通らないというのが絶望的で、一見大人しいサラリーマンしてるマイケル・ダグラスが銃をみせた瞬間いきなり皆言うことをきく…妙な爽快感がありつつも笑っていいのかわからなくなってきます。
バーガー店のシーンは本作屈指の名場面だと思いますが、「3分遅れて朝食セットが頼めなくてゴネる客」…やだねえ、なんでもマニュアル通りの時代になっちゃって人情がなくなっちゃったねえ…なんて懐古的な気持ちも分からなくないけど、店側からすればモンスタークレーマーで嫌なことこの上ないというのもめっちゃ分かる。
豊かな資本主義の象徴のようなバーガー店に対し失業者の中年白人男性が怒りを振り下ろす…なんだか時代の先を読んだ深いシーンにもみえてきます。
↑写真と実物が違う!の咆哮に共感(笑)。
やたらマイペースな女性店員、ゲロ吐くばあちゃんと所々ユーモアが散りばめられていて重たくなりすぎてないのがいいバランス。渋滞つくってる道路工事に「予算消化のために傷んでない道路わざとやってんだろ!!」とバズーカ発射するとこもスカッとしてしまいました。
一回こんなに怒れたら気持ちいいだろうなあ…私の心の中にもいるんです、大きなカバンを持ったマイケル・ダグラスが…
…って言うとかなりヤバい奴みたいですが、電車の中で、お店で、目にしたニュースで…怒りの湧くようなことがあって、そんなストレスがメガマックスになっちゃってるような気がする今日この頃。
自分が直感的に思ったことの他に何か隠れてないかと想像したり、腹がたった人やものの背景を頭で考えてみたり…そうやって許容できるときもあれば本当にただ理不尽だと腹の立つときもある…
嗚呼、生きることってストレス!!って投げやりな気持ちも湧くけれど、結局自分も自分基準でしかものを考えていなくて周りにそれを強制させたくなるような暗い気持ちは持っている。
だからこそこの映画のマイケル・ダグラスの暴走にスカっとしてしまうのだと思うし、生活が逼迫したり家族を失ったりするとこんなたがが外れてしまうこともあるのかな…とヤバいというだけでは切り捨てられない主人公でした。
「キレる」とか「ムカつく」という言葉が流行り出した90年代、「暴力的な映画」だとあまり評価されてなかったような気がする本作。
最初から最後までテンションの持続する見事なサスペンス展開、社会派ドラマの側面、家族ドラマ要素、笑っちゃうユーモアのセンス…欲張りセットで見事にまとまっててなかなかの傑作ではないかと思いました。