車ホラーの元祖らしいということで観てみたところ、地味な作品ながらよく出来てて面白かったです。
漫画「ジョジョの奇妙な冒険」第3部では主人公たちを追い詰めるホウィール・オブ・フォーチュンという車の姿をしたスタンドがありました。「激突!」が元ネタだと思ってたけどこの車にもちょっと雰囲気似てるかも。
人間同士の対決だった「激突!」に対し、こちらは「陸版ジョーズ」としてヒットさせたい思惑があったらしくモンスターパニックもののような幕開け。
小さな田舎町に突然現れた真っ黒な車が次々と人を轢き殺していく…
冒頭、真っ暗なトンネルをライトなしで走ってるところからして既に不気味、窓まで真っ黒に塗られていて中に誰がいるのか分かりません。
↑いかにも改造車らしい低い車体、とにかく前方に圧がありすぎなボディー。
人を轢いては短く連続で鳴らされるクラクションは小さな子供がキャッキャッと喜んでるようでまた不気味。ふかすエンジン音、ブレーキ音などとにかく「音」のよい映画でした。
中に誰かが乗っているのか…最初はハッキリしないまま話が進みますが、町民たちが十字架の並ぶ墓地に逃げ込むとまるで結界を張られたように中に入れない車。不吉な風の話もあってここらでようやくどうやらオカルトものみたいだぞと判明。
なぜ悪魔が車のかたちで顕現したのか、なぜこの街が狙われたのか理由は一切明かされず、舞台がユタ州なので特別な信仰のテーマみたいなのが用意されてるのかと思いきやそうでもなし。
銃で撃っても絶対に当たらないという超常現象をみせてくれる割にパトカーが来ると逃げるなどその行動は一貫性はありません。
けれど狭い町の狭い人間関係を描いたドラマパート部分が意外に丁寧に描かれていて、「町のみんなで理不尽な怪物をやっつける」善と悪の戦い的要素がきっちり感じられるつくりになってると思いました。
皆に慕われていた老保安官に身寄りがないとわかってしんみりしたり、臆病者キャラがその性格ゆえにいち早く車が人外の存在だと気付けたり…学校の先生が父親不在の家庭で子供たちを寝かしつけてる姿など何でもないシーンから町の人々の繋がりがみえるような演出が丁寧です。
血が少なく暴力描写は控えめだったけど、真っ黒な車体が暗闇からヌッと現れたり、神出鬼没な登場の仕方は上手い…!!
特に自宅にいる主人公の恋人が家ごと車に轢かれるところは画のインパクトも抜群で名シーンでした。
何気に1番良かったと思ったのは音楽。
「シャイニングにめっちゃ似てる…!」と思ったけど年度的にはこちらの方が先。
なんと「シャイニング」の曲も「ザ・カー」の曲もグレゴリオ聖歌のメロディを取り入れてアレンジされたもののようです。知らなかった…
YouTubeで3曲聴き比べてみたらサビが一緒でした。「ザ・カー」を手掛けてたのはレナード・ローゼンマンという名作曲家だったようです。
エンドロールにて…今度は都会に行った黒い車がテーマ曲にあわせて全貌を見せないまま駆けていくところがめちゃくちゃカッコ良かったです。
脚本がずば抜けて優れているわけでもなく、「ジョーズ」の亜流のB級作品にも思えますが、CGなしのカーアクションはそれだけで見応えがあってモノづくりの丁寧さが感じられる。この年代の映画はいいなーと惚れ惚れする1作でした。