どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

トラウマ映画「オーメン」/もしダミアンが悪魔の子じゃなかったら…

子供のころ親が私の頭をくしゃくしゃにして「頭に666はないかー、あったらオーメン、悪魔の子なんやでー」とよく冗談を言っていました。

「おお麺??」と言葉が全く頭に入って来ずある日「おーめんって何やねん」という話になり名作ホラーのタイトルなのだとビデオを借りてきて観せてくれることになりました。

以前「ジョーズ」をみてから水溜りすら怖くなったとテレビで語っていた芸能人の方がいましたが、私にとっては「オーメン」がそんなインパクトを受けた作品でした。

鑑賞後しばらく外に出ては上から何か落ちてこないだろうかと不安になる(笑)、横断歩道を渡るのにも信号が点滅したら絶対に渡らない…などとまるで居住まいを正されるような強い恐怖が残りました。

「人はいつか死ぬ」という理解は漠然と子供の時分にもあったと思うのですが、「オーメン」が伝えてくるのはより厳しい現実、「人はいつでも死に得る」ということでそれがとてつもなく恐ろしいことのように思われました。

数ある登場人物の中でもやはり強烈だったのは写真家の死に様です。

トラックからガラス板が飛び出すあの場面は大きくなってから「ファイナル・デスティネーション」をみたときにピタゴラスイッチみたいな所がとてもよく似ていると思いました。
あちらのシリーズは「志村後ろ後ろ」の感覚で笑って楽しめるのですが…

まさに〝生き残るのは死んでも無理”…避けられない不幸が人を襲う恐怖…「オーメン」はそんなホラー映画の真髄を極めたような作品だと思っていました。

そしてつい先日、リチャード・ドナー監督が91歳で亡くなったことを知り、「オーメン」が彼の監督作の1つだったことに今更ながらとても驚いてしまいました。

上質娯楽作をつくる職人監督のイメージで、ホラー畑でない人がこんなに恐ろしい作品を撮っていたのか、考えてみればポランスキーやフリードキンもホラー監督ではないのだけれど…
2006年のリメイク公開の際に見直していたはずなのですが今回特典映像やコメンタリーも探ってみようと久々にみてみたところ…

今まで持っていたイメージと真逆の印象で全く違う恐ろしさを感じてしまいました。

本当にダミアンは悪魔の子だったのだろうか…もしかしてこれは身勝手な親の方が恐ろしい話ではないのだろうか…

まず1番の被害者だと思っていた母親(妻役)のキャシーが以前観た時と全く違う印象でした。

子供の遊び声にうんざりした顔をみせる、世話の一切合切を任せている若い家政婦が息子と2人で写真を撮ろうとすると嫉妬でもしたのか邪険に子供を引き剥がす…大統領夫人になれるかもとはしゃいでいるところなどをみると意外に野心家な面も伺わせます。

序盤にはダミアンが教会に入ろうとすると癇癪を起こすという場面がありました。

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「邪悪な悪魔の子だから神聖なものがダメなんだ」…そう思ってみていたシーンですが、事前の出来事をみるとダミアンは家政婦さんと公園に遊びに行こうとしていました。
「大人の冠婚葬祭の行事がつまらなくて遊びに行きたかった」…5歳の男の子がワガママしたかっただけだったのかもと思うとまるで違う映画のように思われました。

キャシーは実は血の繋がっていないダミアンに疑念を抱きはじめ、自分の望みとどこか違った子供に苛立ちを募らせていきます…

親が子供に何かしらを期待するのは当然のことだろうし、きれいなことばかりじゃない子育ての中で親も慈悲深い神のように子供に接していられるばかりではないものだと思います。
キャシーを悪く捉えるのは意地悪な目線なのかもしれませんが、ある角度でみれば親の方が利己的で不寛容に映る…実は全くオカルトホラーしておらず現実的なサスペンスとして作られていたこと、その構成の素晴らしさに唸るばかりです。

また父親ロバートも上品で真面目そうなグレゴリー・ペックの印象をミスリードしたような人物となっていました。

年の離れた若妻のことばかり気にしていて子育てに参加している様子はまるでなし。
そもそも流産を妻に伏せて別の子を引き取るという彼の偽りから物語が始まっています。

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さらには妻が次の子を妊娠すると「子育てに自信がないから産みたくない」という母親の意見を無視して自分の血をひく子供に拘る、そして養子の祖先を探ろうと墓暴きに出かける…これも見方を変えると身勝手で差別的な人物です。

映画が上手いのは夫妻が赤ちゃんを失った辛さや子供のお骨をみつけるシーンなど哀しさも存分に伝えてくるところなのですが…

他の脇キャラクター、「ダミアンは悪魔の子」と警告する神父・写真家・エクソシストの3人は改めてみると皆揃って人相が悪く怪しい陰謀論者のようでした。

神父に教会の避雷針が突き刺さる場面…あそこも子供の頃恐怖したシーンで「信者を助けない神様は無慈悲だ」などと思っていたものですが、改めてみると無垢な子供を悪魔扱いした男を神が拒絶し鉄槌を下したような、そんな真逆の見方もできるように思われました。

悪魔の手先のようで恐ろしかった家政婦ベイロックの見せ方も非常によく出来ています。

もしかしたらおかしな親から子供を守ろうとした善意の第三者だったのかもしれない、妻キャシーが病院で命を落とす場面も目のクローズアップが映るだけで彼女が直接手を下した描写などどこにもありませんでした。

有名なラストシーンでは大統領の養子となったダミアンが振り返ってニコッと笑います。

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利己的な悪魔が生き残ったアメリカの未来は暗い、ベトナム戦争の影を背負った暗さをどことなく漂わせているんだろう…そんな風に思っていましたが、身勝手な大人たちから逃れられた少年のハッピーエンドの笑顔だったのかも…と今回全く違う印象でエンドロールを眺めてしまいました。

リチャード・ドナー監督は特典・オーコメにて「人生には信じがたいことが起こる」と語っていました。そこがまさに自分が子供の頃「オーメン」をみて恐怖したところなのだと思います。

邪悪な殺人鬼の殺意も魔女の呪いもなくあるのはただ偶然の不幸。けれど実は子供と周りの人々の死は全く因果づけられていなかった…改めてみるとそのように作られていたということが驚きです。

さらにドナー監督は、

「不幸続きのせいで子供を殺したいと思うほど父親が追い詰められた話だ」

とも語っていました。

不幸を誰かのせいにしたくなる人間の心、その対象が家族にもなりうるってすごい怖い話だなあと思います。

以前鑑賞した際には恐ろしい悪魔にしかみえなかったダミアンですが、今回観返すとこんなにちっちゃかったんだなー、はじめてその姿が目に入ったというかすごく可愛いかったです。

ジェリー・ゴールドスミスの音楽が最大のミスリードにもなっているようで夫婦のシーンでは美しいメロドラマな旋律、ダミアンのシーンでは不協和音響かせたテーマ…と曲自体の良さもさておき計算された使い方も改めてみるとすごかったです。

ホラーが平気になっても積極的に見返さなかった作品で「エクソシスト」や「ローズマリーの赤ちゃん」に比べると格落ちの作品、そんな風に思ってたけどとんでもない!!

大人になってやっと気付けた深い恐怖がありました。