「イヴの総て」を観たらやはりこちらと見比べたくなってしまった…
売れない脚本家・ジョーは偶然からサイレント映画のかつての大スター・ノーマの住む大邸宅に居候することになる。
若い愛人としてとり囲われ彼女の妄執から逃れられなくなっていくが…
さすがビリー・ワイルダー監督、素人目にみても映像も話の流れも洗練されていて「イヴ〜」より遥かに観やすく映画としてはこちらの方が格上という印象です。
死んだ男のナレーションで始まる構成はこれが史上初だったのでしょうか、後続の作品だと「アメリカン・ビューティー」に踏襲されていました。
プールの底から映したアングルは今みても新鮮味があり、あっけらかんとした語り口はユーモラスであたまから一気に引き込まれます。
若い頃の自分が忘れられない大女優・ノーマは楳図かずおの漫画にでも登場しそうなキャラ。
ドラキュラ城のようなお屋敷も謎の執事もホラーっぽいのですがあまりに浮世離れした暮らしっぷりはどこか可笑しくて笑ってしまいます。
カッと見開いた目で大袈裟な身振り手振りしながら話すノーマ、サイレントの映画って音がないからこういうパフォーマンスだったのね、と納得。
冒頭ではチンパンジーの葬式を大仰に取り行ってましたがペットに異常な愛情を傾ける人はメンタルが危うそう…何かで心の隙間を埋めないとやっていけなかったんでしょう。細やかなところでもキャラクターの人間性が伝わってきました。
子供の頃「雨に唄えば」というミュージカル映画が大好きだったのですが、美人だけど声の演技が全くできずトーキー映画に出れなくなった女優・リナというキャラクターがいました。
リナはあの作品の中では道化に徹していて大いに笑わせてくれましたが、彼女の果てがこのノーマだと思うと切ないです。
道を歩けば誰もが知っていて崇め奉られるような存在だったのが久しぶりにスタジオを訪れたら若い人たちからは無視される…
時代の変化に取り残される恐怖、人から忘れられる哀しさ、「イヴ」と違って肉体的な老化というだけではない老いの残酷さが伝わってきました。
一方ウィリアム・ホールデン演じる脚本家もなかなか我の強い曲者です。
夢見るライバルはたくさん、製作陣に書いたものを勝手に変えられて憤慨…ビリー・ワイルダーのハリウッドでの体験が投影されているのでしょうか。
「5分でストーリーを要約して話せ」と映画会社のプロデューサーが宣うところはロバート・アルトマンの「ザ・プレイヤー」が思い出されました。
ジゴロやるには性格が全く向いてなかったように思うけど、憧れの業界も必ずしもやりたいことだけがやれるわけじゃなく、納得できない仕事することもあるし中にはパトロンみたいな人に身を売って生活してる人もいたんだろうな…とリアルに思えました。
「イヴ」もラストが圧倒的名シーンでしたが、こちらも有名なラストシーンが圧巻…!!
結局境遇の近かった元夫の執事だけが彼女の理解者だったんでしょう…ビリー・ワイルダーの作品って悲劇と喜劇が一体になったようなドラマが多かったように思うけれど、ノーマはキツすぎる、滑稽だけど可哀想で何とも言えない気持ちにさせられました。
映画界を辛辣に描いたためオスカーから拒絶されたらしいけど主演女優賞だけでもグロリア・スワンソンが獲ればよかったのにね。
(ベティ・デイヴィスも彼女が獲るなら祝福すると言ってたらしい。同じ主演女優賞枠に乗り込んできたアン・バクスターには絶対獲られたくなかったっていうのもありそうですが)
キャラクターの掘り下げや心理サスペンス色の強い「イヴの総て」の方が個人的には好みではありますが、こちらの方が知名度が高く名作として語り継がれているのは納得でした。