どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「イノセント・ドール/虜」…フルチの官能映画、倒錯プレイで生を実感せよ…!

86年制作、ルチオ・フルチが病気を患ったあと復帰作として撮ったという1作。

なんとそのジャンルは官能映画…!!

事故で恋人を失った女性が逆恨みでその執刀医を拉致監禁する…何だか心がざわつくストーリー。

女優さんは出演シーンのほとんどを脱いでいて、フルチこんな映画も撮るんだ…という衝撃の1作でした。

本作には冒頭から2組のカップルが登場。

1組目はサックスフォン奏者のガエターノとその彼女チェチリア。

なんとサックスを彼女の局部にあてて演奏、その刺激で悶える彼女…と開始数分からトンでもないもの見せてきます。

バイクで2人乗りしてる最中には手○キを要求してくるガエターノ、危うく車と衝突しそうになってもヘラヘラ。

完全に狂ってやがる…!!

ジェットコースターから落下する最中も激しくイチャイチャ、あの上がり下がりがまさにエクスタシー!?恋人たちの行為の最中にはジャーマンシェパードが吠えて暴れる…

イタリア独特の感性が爆発したような映像が可笑しくて「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」のようなおママごとじゃないガチの変態性を感じさせてくれました。

そしてもう1組登場するカップルは倦怠期夫婦のグイドとカロル。

外科医のグイドは急患の知らせが入っては病院に駆けつけるというストレスフルな仕事。

そのせいもあるのか不能気味??(というより早漏??)のようで、美しい妻との性生活は拒否し代わりに気を遣わなくて済む娼婦と関係を持っていました。

娼婦の伝染したストッキングに欲情し、赤いマニキュアを筆で身体に塗りたくるプレイに大興奮…この人も色々こじらせてそう。

耐えかねた妻はある日離婚を切り出しますが、一気に態度を変えて「捨てないでくれ」と懇願する夫。

どうやら相手から邪険にされた方が愛を感じるという複雑な男のようです。

ところがある日のこと…1組目カップルの男・ガエターノが頭部を強打してしまいます。

病院に運び込まれ医者のグイドがオペをするも妻の離婚話により気が動転していたためオペは失敗。

恋人を失ったチェチリアは「アイツが彼氏を殺した…!!」と激怒し医者を拉致監禁します…

完全に逆恨みな気がしますが、とにかく2組のカップルの話がここで繋がる。

首輪をつけられたグイド、どえらいめに遭いますが、もともとドMだったのか幸せそう。

チェチリアはグイドを虐げながらかつて恋人と過ごした過去の日々を思い出します。

回想シーンの交差では死んだガエターノの幻覚が話しかけてくる…とオカルトテイストなところがフルチっぽいかも、間に挟まるヴェネツィアロケは「赤い影」を思い出させます。

その中で判明する衝撃の事実、ガエターノは実はバイで友人の男性とも関係を持っていた…

冒頭からヒロインに感じ悪く当たってた同僚は確かにゲイっぽかったけど、ガエターノの方も完全にそっちだったのね…

彼女のこと好き好きいいつつ実は意中の男と肉体を重ねられないその代替としてチェチリアを利用していたガエターノ。あんな男のことは忘れよう…過去を認めたチェチリアは吹っ切れた様子。

また強い男を無理に演じていたグイドの方も自分の弱い部分を認められるようになり股間が復活。

ラストは唐突に終わりますがハッピーエンドに思われました。

フルチは女優さんに当たりが厳しく女性差別とか色々言われたりもしたみたいだけど、この映画はむしろ女性解放、医者の妻役の女性なども非常に力強い雰囲気で清々しいまでの女性強しな作品となっていました。

ヒロインが壊れた人形をグイドに差し出して「直して」と迫るシーンがあったけど、自身も病気を患ってやりきれない思いがあったのでしょうか…
強い妻に対して性的不能になってしまうグイドの姿からも老いの苦悩のようなものが感じられて、この時期のフルチの思いが投影されている作品なのかもしれません。

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主演の女優さんは黒髪・黒目の可愛らしい容姿で、アルジェントの「オペラ座血の喝采」のヒロイン、クリスティーナ・マルシラチに似てると思ったのですが、お名前はブランカ・マルシラチ、なんと妹さんでした。

自分的にはやっぱりホラーのフルチがいいわ、と思ったけど悪くはない作品で好きな人には刺さりそうな1本です。