ホラーのイメージが強いルチオ・フルチ監督ですが、元々コメディ出身→マカロニ・ウエスタンを経てサスペンスをヒットさせたという経歴。
キャリアの転機となった初挑戦のジャーロもの(イタリア製サスペンススリラー)が69年公開のこちらの作品。
舞台がサンフランシスコ、死んだ妻にそっくりな女性に翻弄される主人公…と明らかにヒッチコックの「めまい」を意識したつくりの本作。
「サンゲリア」のフルチがフルチだと思ってみるとカラーが違いすぎてびっくりですが、後続の作品との共通点も窺えて楽しんでみれる1本でした。
主人公はちょいアラン・ドロン似なイケメン医師・ジョージ。
兄弟で営んでいる診療所は赤字の連続で誇大広告を打っては客寄せ、病弱な妻を放置して愛人と絶賛不倫中…と絶妙に感情移入しにくい主人公です。
ある日妻スーザンが発作で死亡、100万ドルの保険金が入り込むことになりますが警察から殺人を疑われます。
その後謎の電話の指示に従いストリップクラブを訪ねるとそこには死んだはずの妻にそっくりな女性が…
妻本人かと疑ったジョージは彼女が本物か確かめようと身体を重ねますが…
冒頭、ジョージが新米看護師に妻の服薬を指示する場面は「主人公が殺人を謀っているような匂わせシーン」にみえましたがその後特に活きてこず…
探偵役が突然主人公の愛人に交代したりと視点もはっきり定まっておらず、巻き込まれ型サスペンスとしての吸引力は弱め。
謎のストリッパー・モニカは髪の色と瞳の色以外は全てが妻と同じらしく、ここで目のアップが強調されます(笑)。
音楽は「怒りの荒野」のリズ・オルトラーニが担当しており、ストリップシーンでもかかるジャジーなメインテーマ曲は雰囲気満点。
愛人女性がモニカを問い詰めるレズっぽいドキドキシーンなども挟みつつ、「実は妻と愛人が手を組んでるパターンかな…」と思っていたら意外な方向に転がっていきました。
(以下ネタバレ)
実は妻は死んでいなくてストリッパー・モニカと同一人物だった…新米看護師を殺して死体を入れ替えていた…
DNA鑑定がない時代だからこそできる所業!?
替え玉女性の方はいなくなっても誰も探さなかったのかしら、亡くなった扱いのスーザンのパスポートはまだ使えるのかな…など細かいところは考えてしまうと気になります。
妻の死体と対面するシーンは「サスペリア2」っぽかったです。一瞬よぎった違和感をぬぐえない主人公…
そっくりなモニカを抱くシーンでこの場面がフラッシュバックするところは変態プレイをみせられてる気分(笑)。
妻だって気付かんもんかね…と思っちゃうけど亡くなっても遺体も碌に見ず、抱いてもわからんくらい愛情のない夫婦だった…ってことでしょうか。
首謀者が妻と不倫中の兄というのも意外な展開で、甘ちゃんイケメンの弟に対しパッとしない苦労人兄の対比もよく、姉妹ならぬ兄弟の愛憎劇ってあまりないパターンで面白かったです。
ガス室送り手前となった主人公、愛人の女性が手掛かりを掴んで助けてくれるのかと思いきや、思わぬところから真相が明るみになります。
ストリッパー・モニカに夢中になった客がひっそり彼女をストーキングしており、兄と逢瀬している現場をみて激昂し2人を射殺…それによって身元が明るみに出て奇しくも無罪が証明される主人公。
それ本筋と全然関係なくね!?っていう無理矢理伏線ねじ込んだような展開でしたが、悪巧みした悪人はしっかり処刑され、個人の努力でも何でもない思いがけない偶然に人の運命は転がされている…
こういう運命論みたいな描写は初期の作品「ザ・サイキック」や後期の作品「クロック」などにも共通していてフルチらしいテーマなのかなと思いました。
ラスト主人公自身を一切映さずにテレビのレポーターに顛末を語らせるという奇抜な演出も、その冷めた俯瞰視点に妙な寂寞感があってよかったです。
女優さんは妻役愛人役ともに美しく、ストリップバーのサイケな雰囲気やサンフランシスコのロケ地も含め大いに目で楽しめる作品でした。