どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「フルチトークス」/「フルチ・フォー・フェイク」…ドキュメンタリーでみるフルチの表裏

フルチ監督作ではありませんが、没後25年に際しこちらもニューリリースされたタイトル。

両作品ともドキュメンタリーで「フルチトークス」の方は監督本人が自らを語る内容、「フルチ・フォー・フェイク」の方は親交のあった人たちによる証言を集めたものになっていました。

それぞれ別の年・別の監督によって制作されたものですが2作続けて鑑賞。

 

◆フルチトーク

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監督が自らを語る作品といえば「デ・パルマ」が非常に面白かったのですが、あちらが過去作品の映像も交えつつ巧みに構成されていたのに対し、こちらはひたすらフルチがこっちを向いて喋り続けるという超低予算なつくり。

ビデオ撮影のためテープチェンジで話が中断してはあっちこっちに話題が飛びますが、お喋りで言いたい放題のフルチ、めっちゃオモロかったです。

フルチといえば…他作品のDVD特典映像などでみられる出演者インタビューでは、「怒鳴られた」「嫌がらせされた」「いつも不機嫌だった」など人間的にはかなり不評だったよう。

このインタビューでも親しい人について褒めたかと思えば貶めるようなこと言ったり、何も考えず思ったことを何でも口に出しちゃうタイプっぽい…誤解されたり反感を買う人だったのは容易に想像できました。

一方制作スタッフからは「一流だった」「念入りに準備する人で低予算でいかに撮るか心得ていた」など讃えるエピソードもあったフルチ。

映画に関しては古きヨーロッパ映画〜最近のアメリカ映画までしっかり網羅していて博識と言われるのにも納得。

偉大な映画人との思い出エピソードも語られフルチの生きた時代の凄さも感じました。

意外だったのは、自作に模倣が多いことやプロットが矛盾だらけなのを指摘されても怒らず本人も自覚していたところ。

「ホラーには遊び心が必要」、目の破壊についても本人の中では哲学があったよう(笑)。

自分の作品がB級だから劣るとは思っておらず、映画を芸術作品と娯楽作品に分けて名の知れたものだけを持ち上げる権威的志向に怒りを抱いているようで”反骨精神の人”。

イロモノ扱いで作品が真っ当に評価されずコンプレックスはずっとあったのかなと思いました。

けれど「あらゆる映画を愛する」フラットな姿勢と、低予算に不満もありつつ工夫しながら作品を完成させてきた職人の気骨みたいなものはこのインタビューからもひしひしと伝わってきます。

俳優さんとのエピソードでは「マッキラー」のフロリンダ・ボルカンを「意気投合した」と絶賛。

低予算だからとかホラーだからとかいって見下して中途半端な態度で現場に臨む人には辛辣だったのかもしれないけど、反対に仕事に全力投球してくれる人とは対等に接して良好な関係を築けたのかも…

アルジェントについては「あんなのと一緒にされたら困る」とボロクソでしたが(笑)、ライバル意識と仲間意識はあった様子。(こんなに悪く言われてるのに「肉の蝋人形」で声をかけたアルジェント寛大…!!)

1作ずつ深く掘り下げられてはいませんでしたが、「マッキラー」「地獄の門」「墓地裏の家」など多作品の裏話が登場。

(「マッキラー」はネタバレ全開だったので未見の人は該当部分を飛ばしてみた方がいいかもしれません)

毒舌な上に意外に自虐的なフルチ、マシンガントークと言っていい喋りっぷりで面白かったです。

 

 

◆フルチ・フォー・フェイク

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先の「フルチトークス」を観るととても亡くなる前とは思えないくらい覇気があったフルチ。

しかしこちらの作品で彼の親しかった人たちが語る姿は全く違っていて「明るくお喋りにみえて孤独」という評価…思わず「さっきの何だったのよ…」と何とも切ない気持ちに。

フルチ自身の闘病についても語られていますが、奥さんが若くして病気を苦に自殺していたこと、次女が落馬事故に遭って障害を負ったことは初めて知るエピソードだったのでびっくり。

死や病気を身近に感じる環境にいたこと、罪悪感を背負いがちな複雑な境遇だったのを知ると、「マッキラー」の子供の骨を抱く母親の姿などより複雑なもんが込み上げてきそうです。

登場するのはフルチの娘さん2人、フルチに詳しい映画雑誌社の人、長らく親交があった映画制作陣などなどで、自分の知っているところではミケーレ・ソアヴィとファビオ・フリッツィが出演していました。

ファビオ・フリッツィの「ビヨンド」評、「まるで別世界にいるような感覚になる、自分もあの場所にいった感覚になる」…という絶賛コメントには深く共感。

娘さんは2人とも父親の仕事に対して理解が深かったようですが、包み隠さず話すところといいお姉さんの方がお父さんに似ていそう。似た者同士の方が衝突も多かったのかな…と複雑な家族関係を垣間見たような気持ちにもなりました。

内容は興味深かったですが、ドキュメンタリーの作りとしては「フルチの伝記ドラマで主人公を演じることになった俳優」がインタビュアーになって話が進められるつくりをしていて、これが何だかまどろっこしい。

フルチを追うその人のドラマと、しんみりする私的エピソードと、評論家の客観エピソードなどが混ぜこぜになっていて、まとまりはあまり良くないように思われました。

 

個人的には”トークス”の方が見応えがあったけど、併せてみると裏表からフルチを知れたようで面白かったです。


◆◆◆
さて今回この2作を見終えて今年ニューリリースされたフルチ作品の観たかったものをコンプリートすることが出来ました。

マカロニホラーにもフルチにも詳しいわけでは全くなく「サンゲリア」と「ビヨンド」の2発屋みたいに思っていたのですが(爆)、改めてみると後期の作品にも見所があって、初期のジャーロには驚きの傑作があったりと深い監督だと思いました。

マカロニウエスタンや未見のジャーロものも来年どこかで観れると嬉しいです。