どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「ミザリー」映画/原作…白熱の頭脳戦で男女愛憎劇

キングの最高傑作といえばきっとこれ、映画の方もキング映像化作品の中でトップクラスの出来栄えじゃないでしょうか。

自分が初めて「ミザリー」をみた頃、ちょうどテレビで陣内孝則雛形あきこに付き纏われるその名もズバリ「ストーカー」というドラマが放送されていたのですが、女性の方が男性を追いかけて追い詰めていく…そんなこともあるのか、とそれだけで新鮮で衝撃的でした。

ミザリー」を熱く語るアニーの目は澄み切ってキラキラしていて、生き生きしたオタクというかなんか可愛らしかったりもします。

f:id:dounagadachs:20220114120110j:plain

推しの死が受け入れられず激昂。好きなキャラが死んでから一回途中で読むのやめた漫画とかあるから気持ち分からなくもない…

モテモテ美人ヒロインに自己投影。だって現実しんどいんだもの、息抜きに夢みたっていいじゃない。

ミザリー復活をのぞんでポールが提出してきた第1稿は「ニセモノよ!」とバッサリ切り捨てるアニー。

(B級と割り切れる作品はさておき)裏打ちされたものが全くない状態で雑に話展開されると萎えるの分かる、そういう丁寧さの欠けた作品って作り手の真摯さが伝わって来ないんだよね…とめんどくさいオタクほどアニーに多少共感するところがあるのではないでしょうか(笑)。

決して作家自身を盲信する信者ではなく、良し悪しをきっちり判別できる目を持っている。且つ作家の創作行為自体にはリスペクトを持って応対したりしていて、狂ってるのにデキる編集者のような佇まいみせてくるのが何ともいえないギャップです。

映画にも登場した”思い出のスクラップブック〟は小説の方ではより深く掘り下げられていて、シリアルキラー感はさらに強まっています。

生活のルールに異様に拘るところとか親に厳しく躾けられたのかなーとか、不審死を遂げた(殺した)父親に瓜二つの男性と結婚してたのはお父さんに愛されたかったからじゃないのかなーとか色々想像もさせてきます。

何かのファンでいられることって通常元気をもらえる、精神的に健康でいられる秘訣の1つのように思われますが、麻薬や宗教にハマるように孤独が「それしかない状態」にまで追いやると人間こんなになることもあるのかしら…

「私だけが特別なファン」ってリアルで誰の特別でもないことの裏返しで「愛されたい」っていう強烈な願いが認知を狂わせてしまうのかも…リアルなストーカー・悪質ファンの心を映したようなキャラ描写が恐いです。

何かにつけて「バカにしやがって」と怒ることが多く被害妄想甚だしいのですが、むしろ頭の回転はめちゃくちゃ早く看護師としての腕もかなりよさそうです。

そんな彼女の頭の良さを見抜いていく主人公・ポール…孤独なアニーの人生の中でこれほど彼女の本質を理解する人間はいなかったのではないでしょうか…

もちろんポールは殺されないように必死なだけなのですが、このポールが凡人が安易に想像するような作家像…唯我独尊で書きたいものを自由に書いてきたような人間では全くなく、生みの苦しみや世間の評価と自己評価の乖離に悩んできたような苦労人で謙虚で忍耐強い。

そんな彼がアニーを手なづけようとしてはアニーもさらにそれを機敏に読み取っていく…という2人の頭脳戦が、「敵対しつつもお互いを深く分かり合っている関係」でもあって、愛憎劇というかある種変則ロマンス小説にさえ思わせるところがめちゃくちゃ面白いです。

f:id:dounagadachs:20220114121920j:plain

ジョジョ4部の「山岸由花子は恋をする」はオチも含め「ミザリー」リスペクトが半端なく「こぼしたのあんたのせいよ!」のくだりも完全にトレース(笑)。

自分は映画→小説の順で手にとったのですが、小説の方では「タイプライターでポールが打ったミザリー原稿」が合間に挟まってきて、フィクションの中でさらにフィクションが繰り広げられいく構成も当時新鮮でした。

古い文庫版の方ではタイプの文字が欠けてるところは手書き文字で埋められている…など作りが細かく、こういうのは映画じゃ味わえない臨場感だなーとワクワクした憶えがあります。

ハーレクインを読んだことがないのでこのジャンルのことはよく分からないけど、めちゃくちゃ読ませてきて「アニーがどんな物語に夢中になったのか」すごくよく分かるし、第1稿がゴミだったのにも納得する(笑)。

映画は概ね原作に忠実ながらラストは原作と少し異なっていました。

映画では…
ポールが書き上げたミザリー新作を燃やす→助かったあと別ジャンルの本を出して文学界からも認められる…悲劇を糧に皮肉にも作家として一段高みに上がった…という展開。

一方原作のポールは書き上げたミザリー完成作を燃やす…と見せかけて表紙の1枚を除き下は他の紙に差し替え、ちゃっかり完成作を自分の手元に残していました。
そして助かった後「ミザリー」最新作はシリーズ最高の評価を受ける…

個人的には原作エンドの方が好きで、終盤ポールはただ単に助かるためだけじゃなくて自ら創作熱にかられて作品を完成させていたのでその血と汗の結晶は残った方がよかった…不本意な部分もあったとはいえ「ミザリーと完全に決別する」映画のラストはそれまでの作家の歩みを全否定していてしっくり来ません。

また原作ラストはポールが再び創作に乗り出すことによって悲劇を消化し精神の自由を勝ち取るというハッピーエンドにもなっていてドラマ的な深みを感じさせるのはこちらの方でした。

対して映画のエンディングはなんとなくデ・パルマの「キャリー」のラストと重なってしまい、衝撃度ではあちらに負けてしまう印象です。

でもこちらも「アニーはポールの心の中で永遠に生き続ける」というラストになっていてヤンデレヒロインとの究極のメリーバッドエンド、今みると綺麗にまとまってる気もしました。

映画は全体的に残酷描写が控えめで怖さでいったら小説の圧勝ですが、「メンタルアップダウンの大嵐」を見事に再現したキャシー・ベイツは超名演。
ジェームズ・カーンも小説家にしては繊細さが足りないかと思いきやハマリ役で、テンポ良く緩急つけてまとめられている映画版も傑作です。

怖いけれどオタクにはどこか親しみも感じさせる存在でアニーは魅力ある悪役でした。