どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「クルージング」…ゲイバー潜入捜査、不完全B級サスペンスなフリードキン

ゲイ連続殺人事件を追ってアル・パチーノSMクラブに潜入捜査する…

フリードキンこんな映画も撮ってたんだー、という80年制作の作品。

公開当時「偏見を増長させる」とゲイ団体から猛バッシングを受け、興収も振るわずその年のゴールデンラズベリー賞にノミネート。

北米版Blu-rayが出たのも2019年と曰く付きの作品??のようであります。

 

NYでゲイを狙った連続殺人事件が発生。
被害者と風貌が似ているということで若手警官のスティーヴ(アル・パチーノ)が潜入捜査官に抜擢され、夜な夜なSMクラブに出かけます。

タイトル・クルージングは男漁りを意味するそうで…

レイザーラモンHGのようなコスチュームの男たちが乱れるクラブの様子に圧倒、アンダーグラウンドな舞台のホンモノ感は抜群で前半は緊迫感たっぷり。

当時を知る警察の関係者は本作について「あの時代の景色がそのまま映されてる」とも語っており、当時のカルチャーの1つではあったんでしょうね。

スカーフの色が「どんなプレイをしたいか」暗黙のサインになっている…未知の世界に踏み入れる主人公にドキドキさせられますが、服装・仕草などを少しずつモノにして堅調に捜査を続けるスティーヴ。

アル・パチーノの変貌演技は見事で引き込まれます。

 

しかし任務のストレスは半端なくガールフレンドとの性生活は変調をきたしギクシャク。

目星をつけた男が誤認逮捕に終わるなど日に日にやつれて行く主人公。

ついに真犯人と思しき男と対峙しますが…

(以下ネタバレで語っています)

 

結局犯人の青年はなぜ殺人を行なっていたのか…

犯行の際に告げる「自業自得だ」という台詞、父親の幻影に悩まされている様子、ナイフを相手に何度も突きつける行為……など「本当はゲイだけどそのことを父親に叱責され強く抑圧されてきた。男に性衝動を覚えると罪の意識から相手を殺してしまう」…ハッキリした説明はないけど如何にもーって感じの犯人像が想像させられます。

この作品、元はデ・パルマが企画に興味あったそうですが、「殺しのドレス」の犯人に激似な人物像。古典をトレースしたスラッシャーものあるあるなオチ!?でした。

 

しかしこちらはラストにもう一捻りあって、事件解決かと思われた矢先、全く同じような事件がまた勃発。

「こういう凄惨な事件はずっと後をたたないものなんだ」…フリードキンらしい厭世的&現実的な終幕を迎えますが、同時に主人公(アル・パチーノ)が犯人だと示唆したような演出でこれが実に曖昧でスッキリしません。

フリードキンは自らの人生観について「どんな人間にも善と悪の面がある」と語っていました。

性的な嗜好も不確かなもので身を置かれる状況によって変わり得る…というのが本作のテーマのように思えます。

↑ラスト、髭を剃る主人公とゲイ変装コスチュームを興味津々で羽織る彼女…の姿は「性の境界線の曖昧さ」を映し出している??

けれど人物描写が少なすぎてそこに至るまでの説得性が薄い…いきなりオチだけどーんと見せられた感じで面食らってしまいました。

 

冒頭のガールフレンドとの会話から主人公も「父親に認められたい」思いが強い密かな野心家であることが示唆されてたように思います。

そういう主人公の内面に迫る描写や、隣人のゲイに心惹かれる場面などがしっかりあれば印象が違ったかも…前半のクラブの呑まれるような空気が生かせてないのが残念です。

個人的には「ニセモノの自分を演じるストレスで壊れてしまう」シンプルなエンドでも良かったんじゃないかなーと思いましたが、「犯人を追う人間が犯人に同化して新たな殺人を犯す」…というオチはアルジェントの作品にも似たようなのがあったなーと何となくイタリアの陰鬱ジャーロっぽいエンディングですね。

もっと虚構を強調したようなタイプの作品ならスッと受け入れられた気がしますが、前半あれだけ隙のないリアリティある映像で迫ってくるのに後半がスカスカでチグハグな印象が残りました。

 

唐突なB級感で1番オモロかったのは警察に勾留された際に現れる謎の黒人男性。

パンツ一丁にカウボーイハットという刺激的な姿で容疑者をいきなりビンタ!!

ガキ使に出てきそうな人で思わず笑ってしまいました。

本当にこんな脅し役がいるのならアメリカンポリスおっかなさすぎる…!

本作でなにげに1番良く描かれてないのは警察で、情報屋の女装のゲイにセクハラを迫る、余罪を吐けば懲役を大幅に短くしてやると犯人と交渉する(=ゲイ殺人の再犯が起こることにお構いなし)…など汚い部分が多々垣間見えてこういうリアルな描写はフリードキンらしかったです。

 

雇われ仕事であっただろう「真夜中のパーティー」の方がお見事、そういえば「エクソシスト」も原作モノだし「恐怖の報酬」も元の映画があって脚本は別の人に書いてもらってるし…脚本から全部やるパターンはフリードキン難しかったんかなーと思ってしまう作品でした。