どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「ガルシアの首」…ダメ男を徹底的にダメに描くペキンパーの誠実さ

ペキンパーが唯一自分の撮りたいように撮れた作品だったという「ガルシアの首」、未見だったのを初鑑賞。

ワイルドバンチ」のような格好よさは全くなく、ダメ男が一貫してダメなままで描かれているのがとても誠実で、その誠実さがグサグサ突き刺さってくるような作品でした。

 

若い妊婦が水辺で涼んでいる静かで美しい景色。

しかし娘は男たちに連れ去られ権力者である父親の下へ…

メキシコの大地主エル・ヘフェは自分の愛娘を妊娠させた男・ガルシアに激昂し、その首に100万ドルの賞金を懸けました。

冒頭は西部劇のような昔の時代の雰囲気なのに、次の場面では手下たちが車や飛行機で大移動。

タイムスリップしたかのような場面転換が面白いです。

 

手下たちが酒場で聞き込みする中、金の匂いを嗅ぎ取ったピアノ弾きのベニー(ウォーレン・オーツ)は自分の情婦・エリータからガルシアが既に死んでいることを聞きつけます。

首を差し出せば1万ドル渡すという下請けもいいとこな仕事を引き受けることに。

アメリカ人でもメキシコ人でもない、所在なきベニーの負け犬オーラ。

もしガルシアが生きていたのであれば、殺しに行くなんて真似はできず、「死体を掻っ払うだけなら誰も損しないしいいだろ」と心の中で言い訳しながら楽な仕事を引き受ける。みみっちい人間性がひしひしと伝わってくるようです。

そんなベニーにも腐れ縁の仲である恋人のエリータがいました。

2人でピクニックに出かけるも愛に溢れた雰囲気は束の間、ベニーが「教会で式をあげよう」と結婚を仄めかすや否やぎこちない空気に一変します。

ずっと逃げの人生を送ってきたベニー、責任をとるのが嫌だ、こんな甲斐性のない男じゃ、と余計なプライドが邪魔してプロポーズもできず幸せを掴めなかったんだろうなあ…

「首さえ手に入れば大金が貰えてお前を幸せにできる」というのも欺瞞で金持ってええカッコしたいだけなんだろうなあ…

ダメ男のこれまでの人生と、その矮小さに改めて失望する中年女性の心境が透けて見えてくるような名シーンです。

気乗りしないエリータと墓を掘りに行くベニーでしたが、追っ手の男たちに襲われ首を横取りされてしまいます。

そして巻き添えを食らったエリータはひっそり息を引き取っていました。

ここから加速度的にバイオレンスが暴走し、ベニーは転がり落ちるように罪人の道を歩んでいきます。

自分の愚かさ・情けなさに対する憤懣やるかたない気持ちと、ここまで来たらタダでは帰れないという金に対する捨てきれない欲と…

自業自得には違いないのですが、ちょっといい思いがしたくて調子に乗ったら下手こいて何もかも上手くいかなくなる…めちゃくちゃ怖い話だなあと同情もしてしまいます。

 

首を奪った者たちを撃ち殺し、追ってきたガルシアの家族と殺し屋が相討ちになったのをいいことに再び首を強奪するベニー。

手柄を独り占めして雇われ主のもとに戻るも、成金趣味の男たちに急に嫌気がさしたベニーは彼らも皆殺しに。

大元の依頼人である地主の下まで首を持って出かけていきます。

ところが当の地主は孫が生まれると世継ぎが出来たと喜んで可愛がっているようでした。

なんの話やったんと思ってしまうような事の顛末。

そもそも息子のように思われていたというガルシアはなぜここまで追われなければならなかったのか。

良くしてやってたのによくも俺の所有物に手をつけたな…!!ボスである自分に把握してないことがあると周りに知られるなんてとんだ赤っ恥だ…!!

そんなちっちゃな男のプライドから転がり出した話だったのではないでしょうか。

みみっちい男が始めた物語をみみっちい男がカタをつけに行く、お話の構成がシンプルで綺麗です。

 

娘の「殺して」の号令で地主を撃ち殺すと金と首を持って逃走するも蜂の巣にされてしまうベニー。

地主を殺ったあと、首だけ持って帰るのかと思いきや金の詰まったスーツケースもしっかり引っ提げていくところで「それも持ってくんかい!!」と思ってしまいましたが、そんなみみっちさがリアル。

アウトローの破滅を描いている所は「ワイルドバンチ」に似ていますが、友情・仁義などが感じられるあちらとは違い、こちらは主人公が一貫してダメ男として描かれていてもっと情け容赦ない感じがしました。

なんで恋人と歌うたってドライブしてるささやかな日常で満足できなかったんだろう……なんて思うけれど、男性には「成功した強い男にならねば」というプレッシャーがあったりして、人生1回だけでいいからモテたい、チヤホヤされたい。ついつい欲をかいてしまったのかもしれません。

戦争のはらわた」のクソ上官シュトランスキーも「わらの犬」の自分の世界に閉じこもった主人公も、周りから期待される姿とそれになれない自分に対する苦悩というのがあって、嫌な奴ではあっても卑近でどこか親しみも感じてしまうところがあります。

その中でも本作のベニーが特に憎めない感じがするのは自分のクズさを認められるだけの心を持ち合わせているのが伝わってくるからかもしれません。

でもだからこそ生きるのが苦しい、しんどい。

自分を内省するだけの心がある人は優しい、自分を批判する目線があってこそ人は成長するものだ…と思ったりしますが、自分の弱さを追い詰めるまでの厳しい目線を持っているがために一層メンタルを病んでしまう。それで酒に走ったり現実逃避してますます自分を痛めつけてしまう…愚かさと誠実さが同居した監督の人物像を垣間見たような気持ちにもなりました。

 

ちょっとしか出番のない人物も強烈なのはさすがペキンパー、BLの波動を感じる殺し屋コンビのアクが強い!!

酒場で突然女性を肘突きするシーンにビビりました。

男の生きづらさとリアルな人物像が深く突き刺さる、ペキンパー成分濃厚圧縮な作品でした。