72年制作、レナート・ポルセッリ監督によるイタリアの異色ジャーロ。
DVDがAmazonだと18,000円くらいになっていてレアな作品っぽいのですが、かなり人を選びそうな1本。
難解で退屈な作品かも…とやや期待薄で鑑賞に臨んだのですが、自分的にはめちゃくちゃ楽しくて102分があっという間でした。
入場特典でいただいたポストカード。犯人は足フェチ…!!
高名な心理学者のリュータック教授は、妻マルツィアと深く愛し合っていましたが、インポ。
拗らせた教授はミニスカートの女性を襲う殺人鬼となってしまいます。
それを知ったマルツィアは愛する夫の嫌疑を晴らそうと、自らも殺人に手を染めますが…
殺人シーンはさほど華々しくないものの、やたらノリのいい音楽と共に犯人の衝動が爆発していくのが謎の躍動感。
殺人の合間に女優さんがバンバン脱いでエロシーンがてんこ盛り。
人を選ぶヘンテコ映画には違いないのですが、「恐怖奇形人間」とかが好きな人には刺さるかも…
波に乗れるととことん楽しめる、愉快な変態映画でありました。
(以下ネタバレ)
バーで出会った女の子を目的地まで送るからと車に乗せる変態教授。
ミニスカ女性の足をチラ見しまくる、俳優さんの演技が不自然にみえたけど、この挙動不審っぷりが逆にリアルかも(笑)。
主演のミッキー・ハージティさん、元はボディビルダーだったそうで演技力は決して高くないのか、終始ワンパターンな困り顔。
「デビルズゾーン」のチャック・コナーズほどのインパクトはないけれど個性的なお顔立ちで、表情に何とも言えない哀愁が漂っています。
♪デンデデンデデン〜刺激的な音楽が流れてくると共に結構激しめな流れの川の中で殺される女性。
噴き出る水は男の射精…なのかなんか知らんけど、妙に勢いだけはある冒頭の殺人シーンからテンション爆上がりでした。
その後、女性に声をかけるところをバーの店主に目撃されていたため、警察がリュータック教授の下にやって来ます。(展開が早い)
しかし犯罪心理学者という肩書きを利用し、捜査を撹乱する教授。
犯人を追う側にいる人間が犯罪に手を染めているのは乱歩の「蜘蛛男」を思い出したりしつつ、ド派手なシャツを着ていてとてもカタギにみえない刑事さんたちに唖然(笑)。
一方夫の秘密を知った妻マルツィアは、夫のアリバイが確立されている状況で同じ手口の殺人を決行。夫にかかる疑いの目を逸らそうと奔走します。
「サスペリア2」も真犯人とその秘密を隠そうとした者の行動が錯綜していましたが、サスペンス・ストーリーとして本作も出だしは悪くない感触。
冒頭の殺人の手口を真似て殺される2人目の犠牲者は、電話ボックスで首を絞められて死亡(妻の犯行)。
夜の囮捜査で娼婦を見張っている最中に殺される3人目の犠牲者も妻の手によるもの。
凶器を偶然手にしてタレコミ電話を警察ではなく教授宅にかけた女性は4人目の犠牲者に…
風呂場で衣服を体に被せられて殺されるのもヘンテコだったけど、そのあと死体が窓から落ちる凝った仕掛け!?が用意されていたのはよく分からなかった(笑)。
警察は2件目の殺人現場付近にいた駐車場係の男性が犯人ではないかと疑いますが、男性は無実を証明しようと自ら奔走。
同時に妻の抑圧された性衝動も描かれていき、インポの夫と結婚し処女だったという妻は、夜な夜なレズビアンSMプレイを夢想していました。
そこにマルツィアを愛するレズビアンの姪も突如現れ、複雑な三角関係となっていきます。
どんどん新キャラが登場、もう何が何やらストーリーは混乱を極めていきますが、常に珍事が起こり続けている画面には釘付け。
膝まで紐が巻きつけられた妙なデザインのサンダルを履いた女子大生と、ボーンレスハムのように細い紐で足を締め上げられるメイドさんには、変な性癖に目覚めさせられそうになりました(笑)。
また妻と姪ジョアキンのいる自宅に無言電話がかかってきてテープレコーダーから謎の音声が流れてくるシーンは訳もわからぬ不条理さ。
ジョアキンが突然床をゴロゴロ転げ回りながらレコーダーのスイッチを切る姿はさらに意味不明で爆笑。
「どうにかなりそう」ってそれはこっちの台詞や(笑)。
そしてこんなにとっ散らかっているのに、妻マルツィアの夫への愛は伝わってくる謎の夫婦愛ドラマ。
自分の性癖を夫に知られたくないと取り乱したり、幸せそうなカップルを眺めて夫と付き合いたての頃を思い出したり、冴えない夫を真剣に愛している様子でした。
夫の方は鏡を見て「悪魔め!」と自らを罵ったりしていて、てっきり自首するのかな…と思ったら、いざ現場に戻ったら嘘をつきまくる。
「不能の俺と別れて君は幸せになってくれ」などと手紙で言っていて愛情深い夫なのかと思いきや、平然とマルツィアを利用して見捨てようとする…
お前ホンマになんやねん(笑)ってなるけど、人間とは矛盾する生き物。
自分のダメさに辟易としながらも変わらない性を抱えて生きていくしかない…クズ親父にはどこか親しみも湧いて、言い知れぬ哀愁を感じてしまいました。
クライマックスではマルツィアを愛するレズビアンの姪・ジョアキンが激昂。
「どうしてあんな男が好きなのよ」「卑怯者!」鉄の鎖をぶん回し刃を脳天にお見舞いするジョアキン。
「ジャンゴ繋がれざる者」でジェイミー・フォックスが白人に鞭を振るうシーンかの如きカタルシスが、なぜだか胸に迫ってきました。
けれど最後の最後に「妻を助けてくれ」と呟く夫…嗚呼、夫婦って複雑ね…そんな気持ちにさせられる意外に味わい深いエンディング、最後まで全く息がつけませんでした。
今回も上映終了後にトークイベントがあって、伊東美和さんと山崎圭司さんが登壇。
これまた貴重な話をたくさん伺うことができました。
同監督作に「イザベルの呪い」というのがあって、「デリリウム」と同じキャストが集結。輪廻転生を描いた作品らしく、併せてみると不思議な味わいになるのだとか…気になります。
また「デリリウム」は各国バージョン違いがあることでも知られていて、アメリカ版はベトナム戦争のシーンが冒頭と終わりに付いているそう。全く別物でびっくり。
さらにフランス版はバスタブで殺される女性が殺されそうになってる最中に突然マスターベーションを始めるというカオスな展開があるとか…さすがに攻めすぎでは(笑)。
他にも今回みたバージョンにはないシーンのエピソードが色々、マニアックな監督の他作品の話も伺えたりで、すっかりデリリウム沼に…
「メサイア・オブ・デッド」「悪魔のしたたり」にも少し触れて下さりつつ、「メサイア〜」は冒頭とラストにオンボーカル曲が入っているバージョンがあったとのこと。
「デリリウム」も最後に印象的な主題歌!?が流れてきてこれが中々良い歌だったのですが、それと同時に夫婦とレズプレイのスチル写真がスライドショーみたいに延々と流れてきて…
クレジットも出ない珍妙なエンドロールに爆笑、静かな劇場で笑いを堪えるのに必死。
「デリリウム」、最後の最後まで衝撃的でありました。
秘宝まつり、結局「悪魔のしたたり」は見れずじまいになりそうで、一押しされているセンターのおじさんが一体誰なのか分からないままになってしまいましたが…
先日みた「メサイア〜」はアート性が高くじわじわ来る恐怖が卓越していて静かなる傑作。「デリリウム」は何だかとっても楽しくてパワーをもらえる作品でした。
滅多に拝めないであろうラインナップ、劇場で味わえて感激でした。