75年公開、ルチオ・フルチが2番目に撮ったマカロニ・ウエスタン。
この作品は前にも観たことがあるのですが、マカロニっぽくなくて、ホラーのフルチのイメージとも違っていてびっくり。
フォークソングみたいな曲がじゃんじゃんかかって、ロードムービーのような雰囲気。かなり変わった映画だったのですが、印象に残っていてなんだか好みの作品でした。
改めて久々にみたら、あら、ビックリする位とってもいい映画…!!
残酷な死が迫ってくる不条理なこの世界を生きていかねばならない切なさ…〝らしくない〟かと思いきや、フルチの死生観が色濃く出ているように思われる内容。
年をとると余計に沁みる内容だからかもしれませんが、胸を打つ静かな傑作でありました。
◇◇◇
無法者が集まる堕落した西部の町で、ある日一斉粛清が行われた…
殺す価値もないと、奇しくも命を取り留めることになった4人のならず者たち。
詐欺師のギャンブラー、身重の娼婦、アル中の浮浪者、墓掘り人の黒人…
4人は荷馬車に乗り、新たな人生を求めて南の町へ向かうことにしますが…
KKKのような白い覆面を被った村人たちが一斉蜂起。
銃弾が撃ち込まれ胴体に広がる鮮血、2階から突然首を吊るされる人…地獄絵図に相反して堂々と食事をとり続ける保安官に異様さが漂っていて、見せ方が面白い。
一夜明けての死体だらけの村の景色も荒涼としていて、静かな残酷描写がかえって鮮やかに迫ってきます。
主人公たち4人も曲者の集まり。
拘置所で大の字で失神、酒瓶欲しさに香水を口に入れるマイケル・J・ポラードのアル中っぷりがやばい(笑)。
黒人の墓掘り人・バッドは悪い人ではなさそうだけど、「あちこちに霊が見える」と真顔で語る、あんまり関わりたくない系の人。
娼婦のバニーはなんと妊娠中。生々しい役どころですが、リン・フレデリックの透明感溢れる美しさが眩しい。
ギャンブラーのスタビーは、髭剃りを欠かさない甘いマスクの詐欺師ですが、主人公が凄腕ガンマンでも何でもないのがこれまた新鮮。
序盤は仲間に冷たく当たるなど度量の狭い人間として描かれていますが、次第に他人を思いやる人へと変化をみせていきます。
旅の途中、スイスから来たという敬虔なキリスト教徒の集団と出会う4人。
温かく善良な人たちを前にして、スタビーとバニーは嘘をついてとっさに夫婦を演じてしまいます。
続いて4人はチャコという謎めいた男と遭遇。
グループに無理矢理入ってくるチャコでしたが、見事な射撃の腕の持ち主で、獲物を仕留めては一行に肉を振る舞います。
しかし次第にグループを支配するチャコ。
麻薬と酒に溺れさせて仲間を気絶させると、妊婦のバニーを犯すという非道極まる行動にでます。
どことなくヒッピーを思わせる風貌、悪の伝道師オーラを放つ、トーマス・ミリアンの悪役キャラが強烈…!!
1番心の弱いアル中のクレムが言いなりになり、犬の真似をさせられるところもサディスティック。
チャコに置き去りにされるも、命からがら荒野をあとにした4人は、先に出会ったキリスト教徒たちがチャコによって惨殺され、無惨な死体と化しているのを発見します。
いい奴、悪い奴、汚ねえ奴のうち、善人が真っ先におっ死ぬという非情な世界観。この不条理さがフルチらしい。
一行は空き家で身を休めることにしますが、墓場だらけの廃墟と化した村…あの世の入り口に片足を突っ込んだような、どこかホラーな雰囲気が奇天烈。
負傷したクレムが息を引き取ってしまいますが、スタビーとバニーに結婚するようにと言葉を遺して他界。
チャコに犯されたバニーの衣服を整えるなど、ダメな奴なのかもしれないけど、思いやりの心は持っていた人…どうしようもないアル中が最後に他人の幸せを願う姿が切なくて胸に来ます。
その後…突然バッドが新鮮な肉を持ってきて皆でバーベキュー、何とその肉はクレムの死体だった…!!
突然カニバルホラーな展開が挟まれますが、意外とグロくないし浮いてもいなくて、静かな見せ方が秀逸。
正気を失った仲間とはあっさり袂を分つのが何だかリアルで切ない…
正常と異常を隔てたような、木板の隙間越しに2人を見送る〝狂人視点〟のカメラワークが、これまた静かながらゾッとさせられます。
バニーと2人きりになったスタビーは、旧知の間柄である神父と偶然再会。歓談をはじめますが、バニーが産気づいため、近くの村に身を寄せることに…
罪人もいるという男だらけの村で、エイリアン3のような特殊すぎる環境ですが、意外にもここからハートフルドラマが展開。
聖職者は全く役に立たず、荒くれ者の男が産婆役となって赤ちゃんが誕生…キリストの誕生を強烈に皮肉ったような感じもする一幕。
おっちゃん連中が赤子の性別を賭けて賭博を始めるも、産声があがるやいなや静寂と共に命の誕生を真摯に受け止めるシーンは、長回しのカメラワークも見事で、宗教絵画のような神々しさ。
くたびれた親父たちが赤ちゃんを愛で慈しむ姿は微笑ましくて、ほろっとさせられます。
一方出産したバニーは息子の誕生とともに息を引き取ってしまい、スタビーは赤子を村の皆に託して、チャコとの決着をつけるため出発します。
汚ねえ奴が悪い奴を粛清するラスト。
格好いいガンファイトは一切なく、完全に不意打ちなのが面白い。
最後に髭を剃って、また元通りの見た目となって、荒野に1人去っていく主人公…現実に帰っていくような、何とも言えない寂寞感があとに残ります。
他人を慮ることのなかった男が、一味の中の弱者・クレムを見捨てず手を差し伸べるようになったり…偽りから始まりつつも女性を愛して子供の出産に立ち会うことになったり…自分しか見えてなかった若者が一人前の大人になっていく心の旅路。青春映画のような後味も残る不思議な感触。
度し難い悪が存在していたり、何の咎もない善人が真っ先に死んだり…この世は不条理に溢れた恐ろしい場所だけれど、それでも出会いと別れに満ちた人生には刹那的美しさがある…
全体的にはかなり感傷的なムードで、好みは分かれるかもしれませんが、胸にじーんと来る感動作でした。
音楽にはこの作品からフルチと組むことになったファビオ・フリッツィが参加。フォークロックのような主題歌が耳に心地よく、作品に絶妙にマッチ。
荒涼とした山々の景色があの世の雰囲気を醸し出していたり、おっさんだらけの雪景色の村の隔絶感が凄まじかったり…ロケーションも印象的。
75年の作品で、1作目のマカロニ「真昼の用心棒」からおよそ10年空いていますが、ジャーロも撮り始めていた頃の作品。この年代のフルチが真の意味で〝黄金期〟だったのかも…
フルチの中でも完成度の高い作品に思われて、目から鱗でありました。