どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

ジャーロなローマの休日…!マリオ・バーヴァ「知りすぎた少女」をみてみました

ジャーロ映画の原点といわれる、マリオ・バーヴァ監督の代表作の1つ。

先月「4匹の蝿」を観に行った際、トークイベントでアルジェントに影響を与えた作品としてあげられていて、気になったのを初鑑賞してみました。

アルジェントやフルチが好きだというのにほぼ全く見ていないバーヴァ。

「ザ・ショック」だけ大分前に観たはずなのですが、なぜかあまり記憶に残っていなくて…

 

とっつきにくい作品かと思ったら、小難しいことを考えず思い切り楽しめるサスペンス映画で面白かった…!!

黒作品でホラーの雰囲気抜群、「歓びの毒牙」「サスペリアPART2」に似ているところがあってジャーロの始祖と呼ばれているのにも納得。

この時代のローマの景色が美しく、ひたすら眼福の作品でありました。

 

◇◇◇

病気の伯母を見舞いにアメリカからローマにやって来たノーラ。

少女というにはかなり無理がある20歳の女性ですが、ジャーロ小説が好きで夢みがちな主人公。

乗った飛行機で見知らぬ男からタバコを勧められ、断りきれずに受け取ったノーラでしたが、降りた空港でそれがマリファナ煙草だったことが発覚。目の前で男がしょっ引かれて行きます。

これがのちの重要な伏線!?に。

 

ローマに着くと伯母の主治医マルチェロが温かくノーラを迎えてくれました。

しかしその晩におばさんの容体が急変、突然亡くなってしまいます。

気が動転したノーラは誰かを呼ぼうと深夜のスペイン広場を駆けていきますが、ひったくりに出会して揉み合った末に気絶。

意識朦朧とする中、ノーラはなんと殺人現場を目撃してしまいます。

背中を刺された女性の死体を引きずっていく男…その様子を物陰から見つめるノーラ。

翌朝になると謎の男がノーラの口に酒を含ませて去っていき、そのせいでノーラは目撃情報を取り合ってもらえず、アルコール中毒者や精神錯乱者とまで言われてしまいます。

 

その後の伯母の葬儀…ノーラはスペイン広場近くに住むローラという女性と知り合います。

「私が旅行で不在にする間この家に住まない?」…ローラの申し出を受け入れて、異国の地での休暇を楽しむノーラ。

しかしローラの家から過去の殺人事件に関する謎の切り抜きが発見。

10年前この地でアルファベット順に女性が殺されていく連続殺人事件があったことを知ります。

そしてノーラの元にも殺人予告の電話が…(次の犠牲者の頭文字はノーラ・デイヴィスのD??)

犯人の影に怯えながらも、ノーラは事件の手がかりを追っていきます。

 

開幕早々、おばさん役のお婆ちゃんが中々にホラー。

白い布を被って登場したり、家のランプがまたたくなか目を見開いた死体が照らし出されたり…

白黒映像の美麗さがより恐怖を引き立てています。

そして大目玉の殺人目撃シーン、誰もいない真夜中のスペイン広場が幻想的で美しい。

ローマの休日」とは全く異なる様相に驚かされます。

 

ヒロインに恋をした医者のマルチェロが相棒的ポジションとして登場しますが、ジョン・サクソン、こんな昔からイタリア映画に出てたのね…若い姿に何だかびっくり(笑)。

途中にはノーラとマルチェロがビーチでデートしているシーンが突然挟まれますが、男の下心を察知したヒロインの心象風景なのか何なのか…こういう摩訶不思議な場面もとても面白かったです。

 

また手がかりを追ったノーラが、犯人が用意したテープレコーダーの音声に導かれる場面も印象的。

サスペリア2」「デリリウム」など脈絡なく登場する謎アイテム、元祖はここだったのね、と納得させられました(笑)。

 

ノーラは10年前の事件を知る新聞記者・ランディーニと出会いますが、その後ランディーニは自分が過去の事件の真犯人だったと遺書を残して死亡。

事件は解決したと帰国を決意したノーラでしたが、川辺から女性の死体が発見されたというニュースが…

新聞に載せられていた女性の写真は、ノーラがあの晩目撃した、夜のスペイン広場で殺された女性と瓜二つ。

警察に出向き、女性の手に握られていたというボタンをみたノーラは、ある違和感を抱きますが…

 

(ここからネタバレ)

犯人はこいつしかいない…!!早々に予想がついてしまいますが、犯人はノーラに家を貸し出していた女性ローラ。

「仕方ないわよね、名前がABCなんだから殺さなくっちゃ…!!」と真剣に語るおばさんが意味不明にトチ狂ってて最高だった(笑)。

ABCとか言いつつ関係ない人間も結構殺してるし何なのよ!?

自分の世界に住んでいて話が一切通じない感じ、「サスペリア2」の犯人になんだか似ていました。

 

旦那さんは妻を庇っていたようですが、背中を刺されて死亡。

ノーラがあの晩目撃したのは〝ローラが刺した女性の遺体を川に運ぼうしていたローラの夫〟だった…

男性が殺人犯かと思ったら実は夫が妻を庇っていた…という部分も、「歓びの毒牙」に似ていますが、〝思い込みによって見間違えていた〟という「歓びの毒牙」の方がより鮮やかなどんでん返しになっていると思いました。

けれど蜃気楼のような最初の目撃シーンが、終盤までサスペンスとしてしっかり効いているのはお見事。

主人公は10年前の事件を心霊体験したのか…本人の深層心理を映した幻覚なのか…スピリチュアルな雰囲気に満ちていて、とても面白かったです。

最後の最後にもうひと展開あって、主人公のカバンから転がり出てくるマリファナ煙草。全ては幻覚だったのか??

そんな狐につままれた余韻を残しつつ、次の持ち主にバトンをつないで無限ループを予感させるラストも大変おしゃれ。

整合性云々よりも撮りたい画が優先されている…アルジェントをはじめとするジャーロへの影響には大変納得。

でもその一方で、酒を飲ませた男の正体が記者で事件を再び追うようになった経緯がしっかり説明されているところなど、意外と理詰めで整理されているように感じるところもあって、アルジェントやフルチと比べるとかなり落ち着いた印象。

ナレーションで逐一解説が入るところは分かりやすかったけど、ちょっぴり説明過多な気もしました。

 

クローズアップや光と影の使い方など、とにかく映像の美しさが抜群。

回想シーンで画面が水面のように揺らぐところなど、凄いテクニックで驚かされました。

部屋のインテリアはおしゃれだし、女優さんが大変美人で衣装も素敵。

コロッセオサンタンジェロ城など、ジョン・サクソンと巡るローマツアーの映像もなんだか楽しかった(笑)。

スペイン広場の真横に家があるってすごいなあ…

 

以降の作品を先に観ている人間としては刺激足らずな面も多少はありつつ、でもとても面白くて、大変美しい映画でした。