1989年に劇場公開されミニシアターブームの火付け役となった「バグダッド・カフェ」。
この度4Kレストア版が35年ぶりに劇場公開されるとのこと、近くの映画館でも掛かるようだったので早速観に行ってきました。
自分はこの作品、高校生の頃にビデオを借りて深夜ひっそりと1人で鑑賞した記憶があります。
おじいちゃん・おばあちゃんのご夫婦が営まれていた地元の小さなレンタルビデオ店で「おすすめ作品」とシールが貼られていて目立つ位置にあったのを、たまたま借りてみた思い出。(そのビデオ屋さんは町にTSUTAYAが来てまもなく閉店)
お話はぼんやりとしか憶えてないのですが、一度聞いたら忘れられない「コーリングユー」の主題歌、美しい独特の色彩と居心地のいい不思議な空気感。
好みの作品だった記憶があって、久々に鑑賞。
席がかなり埋まっていて大盛況でびっくり…!!
大音量の「コーリングユー」がこだまして、日常の悩みは忘れて頭が空っぽに…
旅に出たような心地になる、めちゃくちゃ幸せな時間でした。
◇◇◇
ラスベガスへ向かう途中、車の中で喧嘩を始めていきなり別れてしまうドイツ人夫婦。
斜めに傾いた画面が醸し出す謎のどん詰まり感。
旦那さん、一応コーヒーポット残していって、カフェで奥さん探してたみたいだけど、この後何の説明もなく一切出て来ないのが凄い(笑)。
夫と別れて、1人トボトボと砂漠のような荒涼とした道を歩くヤスミン。
ムチムチの体型に場違いすぎる衣装、メイクもキツくて初見はギョッとしますが、髪を下ろすと一気に柔らかい雰囲気に…映画の後半では絶世の美女にみえてくるからこれが不思議。
行き場を失ったヤスミンが身を寄せるのがバクダッド・カフェ。
ダイナー兼ガソリンスタンド兼モーテル…らしいですが、日本人の自分もなぜかノスタルジックな気持ちになる風景。
トラックが行き交うどこまでも長い道…アメリカの広大な景色から漂う寂寞感って半端なくて、どこかに寄れるところがあったらさぞかしホッとするんだろうなー、まさに砂漠のオアシス。
目に鮮やかなヤスミンの黄色いコーヒーポットは結局カフェに拾われることになりますが、薄味を好むアメリカ人には濃すぎ、スタークな味を好むドイツ人には水を足すなんてもってのほか…味覚の違いが絶対に埋まらないものとして描かれてるのがなんか面白かったです。
カフェは女主人のブレンダが1人で切り盛りしていましたが、働かない夫に激昂。とうとう家から追い出してしまいます。
怒ってばっかりのブレンダ、みてるとしんどいのですが、年をとってみると感情移入するのはヤスミンより彼女の方。
仕事と育児に追われてイライラ、日々の生活に必死で気持ちに余裕がないの分かるかも。
ヤスミンに子供がいないと聞いてから態度が変わるの、唐突だけどなんかリアル。
どこまでもフリーダムにみえた長男と長女は、演奏や話を少しでも聞いてくれる人がいるだけで凄く嬉しかったのかも…
ささくれだった心を丸くしてくれるヤスミンが妖精のように映りました。
ブレンダ一家以外にも変わり者キャラが次々に登場、皆個性が強い。
映画業界出身だというミステリアスなジャック・パランスの絵描きおじさん、一家には「家族だから」と受け入れられてて謎すぎる(笑)。
アンニュイな雰囲気のタトゥー掘りのお姉さんは、「仲が良すぎる」と言って途中で抜けるのがいい。
自分も現実にはあの距離感、ついていけない気がします(笑)。
甘ったるくなりすぎず、時々ドライなところも見せてくるのが絶妙なバランス。
テントを背負ってやって来た若いキャンパーは、数日泊まる旅行者かと思いきや最後までずっといてこの人も謎すぎる(笑)。
投げては帰ってくるブーメランが人生を暗示しているよう…詩的かつ景色がひたすら美しいです。
次第に活気に満ちていくカフェ。
部屋のものを勝手に捨てるのはどーなんって思ったけど、キレイ好きドイツ人の性が暴走!?オフィスが片付くと仕事も上手くいく…みていると何だか心がスッキリ。
そして後半はあれよあれよという間にヤスミンのマジックが炸裂…!!
元からの特技というわけでなく、練習してるシーンがまた可愛らしかったです。
誰かに喜んでもらいたい、ささやかな気持ちが幸せを呼び込むあったかストーリー。
カフェが大繁盛してミュージカルショーまで始まるのにはさすがにびっくり。
ブレンダ歌うますぎ、そして常連客のおっちゃん、お前も歌うのかよ(笑)。
夫がしれっと戻って来て和解するところはそれでいいんかいって思いましたが、ラストのジャック・パランスのプロポーズはロマンチック。
いやらしい感じが全くせず、いくつになっても生を謳歌しようとする爺さんがカッコよく映りました。
ヤスミンの返事が「ブレンダに相談するわね」なのが甘くなくてまたいい。
ヤスミンにとってブレンダがかけがいのないパートナーなのが伝わって来て、改めて観ると静かに熱い、女の友情映画でした。
青い空に黄色い給水塔。独特の色合いのモーテルの部屋の壁紙や登場人物たちの鮮やかな衣装。目に飛び込む色がとにかく美しい。
外置きしたソファに座り込むブレンダの姿、こんなところに座って1日過ごしてみたいなあ…
ジャック・パランスのおじいちゃんが住むアトリエ・トレーラーハウスも格好よくて、何のしがらみもないこんな生活してみたいなあ…
実際やるとなったら大変で自分にはとても無理なんだけど、あの景色には吸い込まれてしまいます。
なにげない日常を描いているようで、非日常をこれでもかと満喫できる、不思議な魔法のような映画でした。
入場特典ではジャバラのポストカードがいただけました。
4枚綴りになっていて豪華、飾っているだけで絵になります☆
パンフレットもこだわった装丁で、中身も充実。
チョイスの素晴らしい場面写真がたくさん載っていて嬉しかったです。
グッズも販売されていましたが、マグカップと黄色のTシャツは売り切れで残念…!!
グレーのTシャツを購入しましたが、シンプルなロゴのデザインがオシャレ〜♫
大音量の「コーリングユー」がひたすら心地よく、観終わったあと幸せな気持ちになる癒しのひとときでした。