マイケル・ウィナー監督、オリヴァー・リード主演の69年イギリス映画。
「ゾウを連れた連合軍捕虜が脱走」という大戦中の信じられないような実話をベースにつくられた戦争アドベンチャー。
普段あまりみないジャンルの作品ですが、めちゃくちゃ面白かったです。
硬派なアクションシーンもありつつ、ゾウとともに「サウンド・オブ・ミュージック」のような絶景を駆け抜けていく様がどこか牧歌的。
コミカルで爽やかなのに、戦争の愚かさや恐怖もしっかりと伝わってきて、只ならぬものを感じる傑作でした。
◇◇◇
第二次世界大戦末期、ドイツ軍の捕虜となった英軍兵士ブルックス。
ある日特別業務が与えられるというので付いていくと何とそこは動物園。
ブルックスはゾウの世話を任せられることになります。
人の争いごとが嫌いなブルックスは、強面にみえて意外と動物好き。甲斐甲斐しく世話をしてゾウと心通わせるようになります。
とにかく愛らしいゾウのルーシーちゃん。
主人公を仲間と認めて好物のリンゴを差し出すの可愛いすぎる。
「一次大戦では俺も捕虜になったことがある」と語るドイツ人の飼育員のおっちゃんもいい人そうで、敵味方関係なくフラットに描かれる人間関係も大変魅力的です。
ところが、ある日空襲を受けて動物園が被災。
人間の争いに巻き込まれる動物たちの姿が痛ましい…またルーシーを助けようとした飼育員のおっちゃんも亡くなってしまいます。
のほほんムードから一転してリアリスティック、戦争の悲惨さがズシンと迫ってきます。
ブルックスはゾウをオーストリアへ疎開するようドイツ軍から命じられますが、偉そうなナチ親衛隊が列車のスペースを譲らなかったため160キロの道のりを徒歩移動することに…
ポーランド人女性のヴローニャ、真面目そうなオーストリア人のウィリー、そしてお目付け役として親衛隊員クルトが旅の仲間となります。
しかし酒癖が悪く女好きのクルトはゾウを邪険に扱い、ブルックスはルーシーを撃ち殺そうとしたクルトを殺めてしまいます。
ブルックスは残り2人の仲間と共に死体を隠し、ルーシーを連れてスイス国境を越えようと決意。
目立つゾウを目撃されると軍に通報される恐れがあるので、ブルックスとルーシーは別行動で迂回ルートを辿ることに…
オーストリア山々の景色が圧巻。
そこにゾウが加わった、非日常感満載の画がとにかく美しいです。
ナチス親衛隊と出会すも、酔っ払いのイカれ親父のフリをしてピンチを切り抜けるブルックス…オリヴァー・リードの演技がリアルすぎて圧倒(笑)。
途中ルーシーがおたふく風にかかってしまい、小さな村のお医者さんが助けてくれますが、朴訥すぎる人柄ゆえ噛み合わない会話のやり取りがユーモラス。
そして行く道の先々で出会わす神出鬼没のアメリカ人兵士・パッキー(マイケル・J・ポラード)がこれまた強烈な印象を残します。
冒頭の捕虜収容所シーンから登場していて脱獄常習犯っぷりをみせつけていましたが、「跳び箱の中に身を隠してその中で地面を掘る」という珍妙な作戦を1人で決行するも、開始5秒で失敗(笑)。
全然強そうに見えないのにめげないメンタルが凄い。
戦争に興味がなく争いごとを好まない性分のブルックスと、好戦的な性格でヤンチャな子供が遊ぶようにレジスタンス活動に興じるパッキー。
対照的だけれどマイペースな2人が、奇縁で結ばれお互い助け合うことになる展開が謎に胸熱でした。
ゾウを連れたブルックスをみてパッキーは不思議そうに「置いていけばいい」と言います。
ゾウは頑固な男の簡単には捨て置けない誇りや尊厳そのもの…どこか哲学的なムードも漂う1人と1頭の旅路。
無垢なるものを見捨てられない主人公の姿は人間的で、合理的とは程遠いけれど、その行動が思わぬ勝利をレジスタンスにもたらしたりもする…ユーモラスな珍道中で繰り広げられるドラマがあたたかかったです。
列車大爆破や丸太を転がして親衛隊を倒す場面など、アクションもてんこ盛りでしたが、1番驚かされたのはロープウェイのシーン。
主人公たちを追跡しようと閉じ込められたロープウェイから脱出してロープを辿って移動しようするナチス親衛隊の爺さん。
イーサン・ハントばりのアクションにびっくり(笑)。
その後大佐に裏切られて転落していく様も凄まじくて、ハリウッド大作にも負けない迫力映像でした。
心優しいオーストリア人のウィリーが死んでしまったときのオリヴァー・リードの男泣きの表情。
裏切り者かと思いきやブルックスたちを庇ったヴローニャの非業の死…戦火を生きる女性の選択肢のなさが胸に切なく迫ってくる姿。
所々でシビアなドラマが細やかに描かれていました。
続くクライマックス、山中の検問所でのバトルは高低差のあるロケーションでのアクションが視覚的な面白さに満ちていて、ゾウならではの大活躍をみせるルーシーにニッコリ。
最後になぜかお姫様抱っこされてるマイケル・J・ポラード(笑)。
おとぎ話のような朗らかなエンディングには爽やかな気持ちが残りました。
原題:Hannibal Brooksは戦象を連れてアルプス越えをしたカルタゴの名将ハンニバル・バルカから。
のほほんとしているけど同時に渋みもあって、優しさと厳しさが絶妙にブレンドされたような塩梅がすごい。
残酷な現実をしっかり映し出しつつ、美しさに満ちていて、すっきりと心が洗われるような凄い作品でした。