どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

日本公開50周年記念「パピヨン」(1973)を観てきました

スティーブ・マックイーンダスティン・ホフマン主演の伝説的映画が日本上映50周年記念を祝して1月31日から全国公開。

今週末は「セブン」ジュラシック・パーク」のIMAXも公開されていて、どれを見に行くか迷ったのですが、時間の合いそうな「パピヨン」をシネマートさんで観てきました。

初見ではなく、中学生の頃だったか一度ビデオでみたことがあるのですが、断片的にしか覚えてなくて記憶が朧げ。

大脱走」のような爽快感はなく、もっと重たくてしんどい映画だった印象。

独房の場面とラストシーンだけはしっかり記憶に残っていました。

150分、疲れるかなあ…などと思いつつ鑑賞に臨みましたが、めちゃくちゃ面白くてめちゃくちゃいい映画だった…!!

 

改めて劇場でみるとかなりの大作。

裸の囚人がズラーッと並んでいる引きの画、出航する囚人たちを見送る道いっぱいの人だかりなど、冒頭から壮観でびっくり。

豪雨の船上で飯をかき食らいながら話すパピヨンドガの出会いのシーンもさりげなく凄い映像で、これが70年代クオリティか、とひたすら圧倒されるばかりでした。

終身刑といっても1年で半数の囚人が死んでしまう、人権もへったくれもない劣悪すぎる環境。

入所して早々にギロチンで処刑されるおっちゃん、何のタメもなくいきなり首チョンパされるのにもびっくり。

 

身体が丈夫で打たれ強い主人公と、金のコネがある頭脳労働派のドガは生き延びるべく協力関係を結ぶことに…

主演2人が本当に好対照。

顔の表情だけでとことん魅せられてしまうマックイーン、やつれて老けていく様も素晴らしい。

ダスティン・ホフマンは他作品と比べてかなり抑えた演技ですが、主役を食わず、熱苦しい友情になっていない匙加減がとてもよかったです。
 
2人でワニを捕まえようとするところは笑ってしまいましたが、〝ホンモノ感〟溢れる映像が逐一凄い。

 

そしてやっぱり強烈だったのは独房に入れられるシーン。

1週間とかじゃなくて2年か5年って長過ぎる…並の人間は頭おかしくなること必至。

筋力低下を防ぐため、パピヨンが数字を数えながら狭い部屋の中を往復して歩くシーン。

この場面は中学生の頃にみたときにも強く印象に残って、理不尽な目にあっても次の目的のために合理的に行動できる判断力と精神力…主人公の格好良さに心打たれて憧れを抱きました。

しかし食事を減らされて光も絶たれて衰弱。

視界がぼやけて5歩で歩けた部屋を10歩で歩いているという恐怖の演出にビビりまくり。

歯がボロボロになって抜けるところもリアルで恐ろしかったです。

挨拶を交わした隣のおっちゃんがさりげなく死んでいてその順番が気付けば自分に巡っている…説明なく時間の経過を感じさせる巧みな描写にも唸らされました。

 

差し入れしてくれたドガの行動が裏目に出て、余計に過酷な目に遭ってしまったパピヨン

でも〝1人きりじゃない〟というのが、あの独房の中では大きな心の支えになったのかも…

ときに足枷となることがあっても、1人では生きていけないのが人生の真理。

散々な裏切りが多々あるなかで、義理堅く友情を貫き通す2人の関係がただただ胸熱。

絶対に名前を言わなかったパピヨンの底意地と精神力にはひれ伏すばかり、口の堅い人のカッコよさの極み。

「誘惑に勝てるかどうかで人間の真価が分かる」の名台詞にもシビれまくりました。

 

後半まではまったく長さを感じずノンストップで面白かったのですが、刑務所を出てからの展開が分かりにくかった。

新しい島に到着すると仲間と散り散りになって唐突に追いかけっこ…先住民の人と仲良くなって真珠を得て島を脱出、修道院に身を寄せるも婆さんシスターに通報されてしまう…

海で原住民の女性に体を洗われてるところとか急に違う映画が始まったのか!?となって困惑(笑)、主人公がクスリの幻覚をみているのかと疑ってしまうくらい。

このパートはダイジェストみたいで、意図したものなのか付いて行きにくかったです。

 

さらにまた5年独房に入れられるパピヨン

すっかりお爺ちゃんになった姿にゾゾーッ。

いよいよ悪魔島に送られますが、そこでドガと再会します。

崖からジャンプして荒波に飛び立つパピヨンが圧巻…!!

”主人公が自由を求めてあの世に旅立ったエンド”だと思っていたら、脱獄に成功していてなんと実話だったという…これには初見時も驚愕した憶えがあります(笑)。

お前は両津勘吉かっ!!しぶとすぎるパピヨン

 

一緒に行かず1人残るドガを切なく思っていましたが、改めてみると行かなくてよかったよ…ドガにはドガの人生がある、そんな気持ちが残りました。

寂しい時もあるけど家畜に話しかけて孤独をやり過ごし、どうにかおいしい食事をつくりささやかな幸せを噛み締める…現実の私たちの人生もそんなものかも…

不自由の中に自由を見出して生きるドガの姿に深く共感する自分がいて、限られた選択肢しかなく何らかのしがらみを抱えているのは囚人に限った話ではなく大概の大人が皆そう。

だからこそドガの生き方も讃えたくなりました。

もちろん真の自由を掴もうとする孤高のパピヨンは眩しい存在…それを分かっているからこそのドガのあの表情。

別れを惜しむ気持ちと友人へのエールの気持ち。変わらないそれぞれの性、各々が違う道を行くことをよしとする2人の姿が美しかったです。

「馬鹿野郎、俺は生きてるぞ!!」と叫ぶパピヨンが最高にカッコいいし、廃墟になった監獄が映るエンドロール…確かにこんな場所が実在していたんだと恐ろしさを感じさせるとともに、謎の勝利感をもたらして神がかり的。

最後の最後まで最高の映画でした。

 

ラストも含め名シーンが沢山でしたが、ハンセン病のおっちゃんにパピヨンが手を差し出して握手を交わす場面も感動的で涙が込み上げました。

別れの挨拶が〝ありがとう〟じゃなくて〝さようなら〟なのがまた渋い。

おっちゃんも島から出られず外の世界では生きられない不自由な身。

だけど偶然やってきて何となく気に入ったパピヨンに味方してやるような選択ができるの、めちゃくちゃ格好いいなと思いました。

 

合間で突然挟まる夢のシーンもユニークで鮮やかでしたが、「お前の罪は人生を無意味に過ごしたこと」という台詞が人生観を感じさせてなんとも深い…

脚本がダルトン・トランボというのを今更初めて知って驚きましたが、日々あくせく生きる中では考えだにしない自由や時間の価値を突き付けられたような気分になりました。

 

シネマート新宿さんの展示コーナー。

今回の再公開バージョンのポスターは綺麗でとても整ったイメージですが、各国版のポスターはシブい。

入場特典では裏面カレンダー仕様のポストカードがいただけましたが、古い方のビジュアルで、やっぱりこっちのイメージだなーとなりました。

パンフレットは1500円と高めでしたが、48ページの大ボリューム。

フランクリン・J・シャフナージェリー・ゴールドスミスの解説が詳しくて有難い。(最初の約20分音楽がない…確かに!!)

読むともう一度見たくなること必至。

宇多丸さんのトークイベントの採録もあってページ数たっぷり。なるほどーと深く頷きたくなる内容で他脱獄映画への言及も大変興味深く、楽しく読ませてもらいました。

 

マックイーンの顔の迫力とこの年代ならではの重厚感…画面に吸い込まれるような150分で、年を重ねた今劇場で観ることができて本当によかったです。