どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

やっぱり「エクソシスト3」が好き!!ディレクターズカット「レギオン」及び原作小説との比較諸々

2月26日に発売された「エクソシスト3 4KレストアUHD+Blu-ray」デラックス版。

特典盛り盛りの豪華仕様で、別バージョンであるオリジナルカット「レギオン」も丸々収録。

元々監督のブラッティが完成させたのがこの「レギオン」だったそうですが、試写で不評だったこともあり、製作陣が「悪魔祓いのシーンを入れた方がいい」となって大幅に追撮&再編集されたのが今の「エクソシスト3」なんだとか。

 

確かにみると後半の内容が大きく違っていてびっくり。

元々本編から浮いていたモーニング神父は不在、悪魔が登場せずクライマックスのジョージ・C・スコットの魂の雄叫びもない。

またジェイソン・ミラーが出演しておらずブラッド・ドゥーリフが患者Xことカラス神父をずっと演じていますが、全くイメージに合わなくて混乱(笑)。

ただ悪魔憑きの明確な表現がないことで別の味わいが生まれているのは確かで、悪の存在がより抽象的。

患者X(ブラッド・ドゥーリフ)が「もしかしたら俺は本当にカラス神父なのかもしれない。赤い薔薇の夢も殺人の夢もどちらも心地いい」…と語る場面は非常に不明瞭で、善悪の曖昧さが強調されているようでした。

ラストも異なっていて、自宅を襲撃されたあと独房に向かい患者Xを撃ち殺すキンダーマン。 

娘を殺されそうになって身を守ろうと決意したのか、取り憑きを目の当たりにして犯人を葬ることを決めたのか…心情がはっきりしなくてやや唐突に思われるラスト。

悪の存在を認め対峙し友を解放する…形は違うものの「3」と根本では同じエンディングといえるのかもしれませんが、「3」と違ってカラス神父の呼びかけもなく、より渋い印象になっていました。

 

元々は83年にブラッティが発表した原作小説「レギオン」がベースになっている「エクソシスト3」。

残念なことに日本語版は出版されてないのですが、年明けにKindleで購入して自動翻訳を延々とタップ(笑)。

軽く内容をさらってみましたが、3とも映画「レギオン」ともまた全く異なる内容になっていました。

 

まず大きな違いは、双子座殺人鬼ジェミニの過去ががっつりと描かれていて、とても可哀想な人物であること。

・双子の兄弟がいて弟(もしくは兄?)が精神疾患を抱えており幼い頃から弟の面倒を見てきた

・説教師の父親は子供たちの面倒を全くみず兄弟を虐待した 

・兄ジェームズは16歳で家を出たが、精神病棟に入った弟をずっと気にかけて面会し続けた

・暗闇恐怖症で夜も明かりをつけていなければ眠れなかった弟トーマス。しかしある日意地悪な看護師が医師の指示を無視して出来心で消灯、弟はショック死してしまう…

 

”弟の死んだ瞬間に双子座殺人鬼がこの世に誕生した…”

キンダーマンが捜査中に彼の背景を知り、心を傷める場面も登場します。

この世の不条理に絶望して一気に悪の道へ…説教師の父が悪しき存在で、悪魔のような殺人鬼は元は天使のように優しい人だった…

患者Xは看護師たちから「ミスター・サンライト」というあだ名で呼ばれていて、明けの明星ルシファーを彷彿とさせる名前なのも意味深。

「なぜ全能の神がつくったこの世に病や悪が存在するのか」…ブラッティの神への不信感が映画以上に強く打ち出されたキャラクターになっているようでした。

 

また小説版では映画と違って、医者のキャラクターが2人登場。

1人は映画にも登場したテンプル医師。

胡散臭いオーラが半端ない男でしたが、小説版でもキンダーマンに「感じの悪い男」と評されています。

怪しげな催眠治療を患者に施していて、それをみたキンダーマンが「テンプル医師が独房にいた患者Xに自分が双子座殺人鬼だと暗示をかけたのでは…」と疑う一幕もあって、一体何が真実なのか実にややこしい(笑)。

15年前に双子座殺人鬼が逮捕された際には、犯人であるヴェナマンの精神医療チームに在籍していたことも発覚。

自ら命を絶った映画版とは異なる結末を迎えますが、怪しさ満点で捜査と読者の心をかき乱すキャラクターになっていました。

 

そしてもう1人、映画には出てこなかったアムフォルタスという医者が小説版には登場。

優秀で患者に心を寄せる優しい医者だったけれど、決して治せない難病患者たちと接するうちに心を病んでしまう…さらには最愛の妻を失いこの世に疑問を抱くように…なんとなく「エクソシスト」1作目のカラス神父と重なる人物像。

患者の声や病棟の様子をテープレコーダーに録音し「テープに死者の声が入っている!!」と謎のオカルト研究にのめり込んでしまうヤバい一面も…なんというか愛と狂気は紙一重。 

ある日〝もう1人の自分〟が話しかけてくる幻覚をみるようになりますが、明らかに邪悪そうな自分の分身。(まさに善と悪の双子)

悪玉が「少年も神父たちもお前がやっただろ」と善玉に言う場面がありますが、復活した双子座殺人鬼の犯行では薬品が使用されていて、このアムフォルタスが薬の提供者として殺人に協力していたことが伺えます。

結局彼は悪魔に取り憑かれていたのか、抑圧された自我が悪を引き起こしたのか…「エクソシスト1」のリーガンのような不確かさに満ちていて自分はよく解読できませんでしたが、薬提供の部分は映画のテンプル医師、死者と交信しようとして邪悪な霊に操られてしまうところは映画のラジオお婆ちゃん(クレリア夫人)…と各アイデアの元になっているキャラクターのようでした。

 

ラストは映画のいずれのバージョンともまた異なっていて、説教師だった父親が心臓麻痺で亡くなると自らこの世を去る患者X…

大それた目的もなくただ本当に父親に怒りをぶつけていただけだったのかと、あっけない結末にびっくり。

自分は映画の双子座殺人鬼が”善の面もある人”にどうにも見えず、迫力たっぷりのブラッド・ドゥーリフが”はなから憎たらしい悪の存在”に映ってしまって(笑)この可哀想なお兄ちゃん設定には驚かされましたが、Blu-ray特典でも「復讐に駆られた人間的キャラクターだった」と語られていて、元々の「レギオン」の脚本はかなり原作に近しいものだったのかもしれません。

 

小説はお世辞にも明快とは言い難く、主人公キンダーマンが様々な文学作品や映画作品を引用して語りまくる哲学的パートが時折挟まり、日本語訳版が出てたとしても自分には全く理解の及ばない内容。

でも「悪と対峙してこそ善なるものが見えてくる」という作者の苦悩と信仰、”双子座”という言葉に集約されているかのごとき相反する複雑な人間の精神(善人の中にも抑圧された悪の感情が潜んでいたりしてふとしたことで惑わされて転落したりする)など、深いテーマ性は感じました。

原作とディレクターズカット「レギオン」でもかなり内容が異なっていて別物といえそうですが、悪魔祓いシーンがなく不明瞭なスリリングさに満ちているところ…ダークなミステリの雰囲気なところ…ブラッティが「エクソシスト1」とは大きく違う方向に舵を切ってやりたいことを詰め込んだのはやはり「レギオン」の方だったのかな、と思いました。

 

◆でもやっぱり「エクソシスト3」が好き!!

でもどっちが好きかというと自分はやっぱり「エクソシスト3」の方(笑)。

モーニング神父は明らかに浮いているし、カラス神父の肉体に宿っているのは双子座殺人鬼のはずなのに終盤悪魔が突然しゃしゃり出てくるし…改めてみるとツッコミどころも多々ありましたが、最後のキンダーマンの怒りの咆哮が「神への限りない不信とそれでも立ち向かう人間の美しさ」という1からのテーマに見事に迫っていてこれがストレートに胸に来る。

カラス神父を再び埋葬するラスト(これがレギオンの墓暴きのシーンを再利用していたことにはびっくり)…も救いと深い別れの悲しみの両方を感じさせて、とても美しいエンディングだと思いました。

また双子座殺人鬼とカラス神父の顔が交互に映し出される演出が後からそうなったとは思えないくらい効果的で、メリハリがあってミステリアスさ倍増。

ジェイソン・ミラーが参加しての2人2役!?の改変は非常によかったのではないかと思いました。

ずーっと患者Xが独房で語り続ける静的なシーンから動的なクライマックスシーンへの移行も素晴らしく、ハサミババアの自宅襲撃→倒れ込むババア→モーニング神父が扉ガラガラッ…のところがカッコよすぎる(笑)。

 

悪魔は神様のコマーシャル的存在…不信心な者としては「もう神が悪魔やん」とか思ってしまうけど、この世の悪しき存在を認めつつも立ち向かっていくキンダーマン、最後に呼びかけに応えるカラス神父…救いを感じる3のラストがやはり心に残りました。


2バージョンの比較も楽しいですが、結局あの有名なハサミ殺人鬼のシーンや天井ババアのシーンは両バージョンに存在。

直接的なグロシーンなく語りで想像させる残酷描写、撮りたいイメージをそのまま撮ったような大胆な映像など、改めてみてもすごく面白い、見応えのある作品だと思いました。

今回目を通した小説版にも、”何も映っていないテレビに群がっている病棟の老人たち”、”スリッパの音を響かせ一斉にキンダーマンに寄ってくる患者たち”…などゾクッとする場面があって、作者の恐怖演出の才の片鱗をみたよう。もっと他のホラーも撮ってみて欲しかったと惜しく思われました。

今回のBlu-rayには「レギオン」を改変されて不満の残るブラッティと、「ブラッティには向いてないところもあった」と改変してよかったと語る製作陣と、双方の言い分がきけるメイキングがあって、これも大変面白かった(笑)。

文字ぎっしりで濃厚な内容のリーフレットもめちゃくちゃ楽しく読ませてもらい、また音のよい本編に改めてビビらされました。

↓↓エクソシスト3単体の感想、以前の記事に少し加筆

dounagadachs.hatenablog.com

 

1には及ばないものの原作者ブラッティの真摯な想いが伝わってくる感動作。

静かながら恐怖満載でホラーとしても出色の出来栄え、「エクソシスト3」やっぱりすごくいい作品だなーと思いに浸りました。