「ヘル・オブ・ザ・リビングデッド」のブルーノ・マッティ監督が撮った「食人族」の続編…というよりリメイク的な立ち位置の作品!?
英語タイトルは”CANNIBAL HOLOCAUST:THE BIGINNING”。
なんと2004年の作品らしく「食人族」から24年も経ったあとにまだこんなパチモンを撮ろうとする意気込みが凄い(笑)。
相変わらず既視感ありありの映像が流れまくる清々しいまでのバッタ物でしたが、ロケーションは案外しっかりしていて、テンポもよく、思ったより悪くない印象。
普通に見たらチープなグロ映画だと思いますが、オリジナルの「食人族」を知っているとクスリとさせられて、20世紀になっても食人を追い求める主人公クルーたちの姿が本作製作陣そのものと重なるような、どこか不思議な味わいを残す作品になっていました。
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過激な番組レポートをすることで有名なニュースキャスターのグレースは、ある日重役から会社が視聴率低迷の危機に陥っていることを聞かされます。
かつてないセンセーショナルな映像を撮ろうと決心したグレースは、食人部族を求めてジャングルの奥地に突撃することに…
オリジナルの「食人族」では若者たちが撮影班でしたが、今回はかつての栄光を追い求める中年男女が主人公…とここは少し違った趣。
ヒロイン女性が度を超した野心家でとにかく口が悪い(笑)。
かつて仲間だった撮影チームを招集しにかかりますが、戦場リポーターのボブはすっかりアクが抜けて、現地住民の保護を訴える常識人に…
「食人族は絶滅した。今や彼らは菜食主義だ。」
「プルーンと小麦を食べていたとしても昔のメニューに戻すのよ!!」
ヤラセありきで番組を作る気満々のグレースに難色を示すボブでしたが、高額な報酬に釣られて渋々付き従うことにします。
ここからはオリジナルの名場面をツギハギしたような映像のオンパレード。
現地女性を暴行した後、その女性が部族の掟を破ったとして処刑されているショッキングなシーンは、串刺しではなく体を括り付けられているだけになっていて、特殊効果のクオリティは大幅にダウン。
(よく見たら刺さってない…)
かと思えば、カメを解体するシーンの代わりとしてしっかりと本物のトカゲを捌くシーンを用意。そんなところだけはクオリティを維持しようとするのね…
クルーが村に火を放ちやらせがエスカレートしていく場面も再現されていますが、それまで常識人だったボブが突然悪魔のような笑顔をみせて率先して虐殺に加担。
あまりに急激なキャラ変に唖然(笑)。
撮りたいパートがあってその都合に合わせてキャラを動かしているからか、人物描写がブレブレになっています。
撮った映像は逐一本社に送られて週間番組として放送。
この辺りはオリジナルにない新たな要素ですが、番組は大反響で脅威の視聴率96%を叩き出す結果に…(世の中そんなに食人を求めてるのかww)
上層部はより過激な映像を撮るようにグレースたちに指令を下します。
現地に突入したクルーと、その映像を衛星放送で流すテレビ局と…ジャングルと都会を行ったり来たりする構成もオリジナルをトレース。
倫理観ある副社長だけが度を越した番組制作を批判し、過激派の幹部たちと対立しますが、「真の野蛮人はどっちだ」という名台詞まで完コピ(笑)。
しかしどれだけパクっていても映像の迫力は本家とは比べ物にならず、全編チープ。
撮影隊の衣装がシミひとつなく汚れていなかったり、原住民のボディペイントもやたら小綺麗。明らかに南米感ゼロ。
何より皆演技がイマイチで、主人公女性の大袈裟演技が異様で浮いてしまっています。
首チョンパからの脳みそ喰いや、胎児を取り出して食すシーンなど、独自のグロシーンを入れようと健闘したあともチラホラ。
女性クルーが水着姿になって、ガイド役の現地男性にオイルを塗ってもらうシーンの唐突さには困惑させられました(笑)。
ラストはオリジナル同様、撮影隊が返り討ちにあって虐殺されている映像がテレビ局に届けられるという展開になりますが、「撮影隊は無事帰還したことにしよう」と上層部がさらなる揉み消しを示唆したところでジ・エンド。
いまいち引き締まってませんが、観客に何かを投げかけるような厭な感じのエンディングしたかったという思いだけはボンヤリと伝わって来ました。
所々に流れるニュース番組のシーンではフッテージ映像が使用されており、中には「ヘル・オブ〜」で流れてたのと全く同じものが…(おばあちゃんが蛆虫??をほじくってる謎映像)
撮影隊を指揮するボブが「編集で何とかするんだ」と言い、それに対しグレースが「今の視聴者にはそんなもの通用しないのよ」と返す場面がありましたが、様々な映像を駆使し大胆な編集技を見せてきたマッティ自身について言及しているよう。
こんなアホ映画なのにメタフィクション的な深い味わいがあるように思われるのは気のせいでしょうか…
下品でチープ極まってるのになぜだかホッとさせられて、同時に世の時代の変化に対する物寂しい気持ちが伝わってくるような、不思議な魅力の1作⁉でした。