どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

超名作映画「大脱走」を好きなキャラクターと共に振り返る 

「脱走山脈」「パピヨン」「穴」…個人的に今年は脱走系映画が大当たりだったので、ザ・定番なこの作品も久々に鑑賞。

172分と聞くと長いと思ってしまうけど、実際見始めると止まらなくてあっという間。

昔はよくテレビ放映されていたような気がして、自分も初見は子供の頃…休日の真っ昼間にテレビを点けたらたまたまテレビで放送されていて、ちょうどアイブスが射殺されるシーン。 

大脱走やってるやん!!」とマックイーン好きだった親が叫んでそのまま視聴となったのですが、本編中まさに話の転換ポイントと言えるシーンからのいきなりの鑑賞となりました。

みたシーンがここからだったので悲壮感や恐怖感をキャッチしつつも、その後に続くムードは明るくどこか爽やか。

軽快さと人死にの緊迫感が同居している空気感が、本作の大きな魅力ではないかと思います。

 

脱獄ものの定番といえば穴掘りですが、これも本作で初めて見たのですごいインパクト。

狭いトンネルを台車で進んでいく画にドキドキ、小学生が夢見る秘密基地のようなロマンがあって引き込まれまくりでした。
  
マックイーンのほぼ独壇場だった「パピヨン」と比べると本作は群像劇テイスト。各々任された仕事をテキパキとこなす男たちのなんと格好いいこと。

子供の頃にはピンとこなかった登場人物の悲哀が大きくなってから分かるようになったりして、年を重ねてみるたび違った面白さがあるような気がします。

久々の鑑賞になりましたが、「大脱走」といえば魅力あるキャラクターと言っても過言でないくらい出てくる登場人物が皆魅力的。

好きなキャラクターというか、印象に残る各キャラクターを簡単に取り上げつつ、作品を振り返ってみたいと思います。

 

ヒルツ(独房王/スティーブ・マックイーン

18回の脱獄歴を持つアメリカ人大尉。化学工学専門の学生らしいですが、大学生にはとても見えない貫禄(笑)。

当初は大脱走計画には加わらず、アイブスと単独行動で大胆な脱獄を決行。

捕まっても決して折れない強メンタル。

アイブスの死から心境に変化が訪れ、仲間のために周辺地図を調査して戻る危険な役回りを買って出ることに…一匹狼が皆を顧みるようになるこの途中の展開が静かに胸熱。

収容所から出た後はバイクを掻っ払ってスイス国境まで爆走とこれまた大胆。

閉塞感に満ちた前半から、だだっ広い草原をバイクでグワングワン駆け回るのが物凄いカタルシス。本当にあと数十センチだったからめっちゃ惜しい…!!

独房に入るたび1人キャッチボール…エネルギーのあり余ったやんちゃ坊主のようですが、不屈の闘志を感じさせる姿が最高に格好いい。

暗い結末を吹き飛ばすかのような爽やかさが最後に残るのは多分マックイーンのおかげ…ラストシーンは何度みてもシビれます。

 

◆アイブス(モグラ/アンガス・レニー)

スコットランド人中尉。身長160センチの元競馬騎手。

収容所生活3年目、40以上のトンネルを掘ったという脱獄のベテランですが、全身から溢れ出る故郷に帰りたいオーラ。

捕虜生活がいつ終わるか全く分からないの、実際にはめちゃくちゃ堪えそう。

陽気な性格にみえて精神的に限界を迎えており、度重なる失敗とトンネル・トムが発見されたことから取り乱し、血迷って金網をよじ登ったところを銃殺されてしまいます。

初見の死に様に強いインパクトがあって、脱獄がライフワーク!!みたいなヒルツやバートレットのような強靭メンタルと違って普通の神経の持ち主なところに共感。

映画開始してから90分、メンバー初の犠牲者で、「人が死ぬ映画だ」と緊迫感をもたらしてくれる重要キャラではないかと思いました。


◆バートレット(ビッグX/リチャード・アッテンボロー

250名を脱獄させる計画を立案したイギリス空軍少佐。SSにマークされるほどの重要人物で通称ビッグX。

視力を失ったブライスに「お前は残れ」と言い放つなど現実的で合理的な指揮官かと思いきや、2人の脱出順を繰り上げてくれていたようで、なんだかんだ情に厚そう。

トムが見つかったときには他のトンネルに注力すべくプランをすぐに切り替え。こういうときのための3本だったのか…!!とその周到さに唸らされました。

それなのに肝心の脱出時にはトンネル内に長く留まって中々出て行かないのにヤキモキ(笑)。

ハッタリも効くし、有能で仲間想いなのが随所で伝わってきますが、どうにも〝運〟のパロメーターが低い気が…

捕えられての移送中に違和感に中々気付かないあたりは〝勘〟が悪いような気もするのですが、上品でクリーンな本人の性格ゆえでしょうか。

後方撹乱させることに身を捧ぐその姿は軍人の鑑。ゲシュタポに撃たれる最期が無念でした。

 

マクドナルド(情報屋/ゴードン・ジャクソン)

バートレットと行動を共にするイギリス空軍大尉。

語学に堪能で検問の練習を指導。「引っかかるなよ」と部下を嗜めていたところがカッコよかったのに、いざ外に出たら「グッドラック」に「サンキュー」…お前がボロ出すんかい!!と悶絶(笑)。

でもあんなに修羅場続きの逃亡続けてたらほんの一瞬気が緩んでしまうんだろうなあ…

その後に続く移送中のバートレットとの会話からも仲良しでいい奴なのが伝わってきて、実に切ない最期でした。

 

セジウィック(製造屋/ジェームズ・コバーン

大きな体躯と悠々とした身のこなしが印象的なオーストラリア人。

手先が器用なようでトンネルの跳ね蓋やエアポンプなどを製作。

入所初日の脱走騒ぎにも途中からしれっと参加していて抜け目ない(笑)。

1人だけ自転車に乗ってマイペースに逃走する姿が子供の頃鮮烈に残って、1番好きなキャラクターでした。

荷物が1人だけやたらとデカいスーツケースなのも笑ってしまいますが、何でもないような身なりが1番周りに溶け込んでいて凄い。

レジスタンスという言葉もこの映画で初めて知りましたが、立ち寄ったカフェでの一幕…この人は運もいいし勘もいい。

ヒルツのような豪快さはないけれど、焦らず堅実に歩を進める姿に憧れて、コバーンめちゃくちゃカッコよかったです。

 

◆ダニー(トンネル王/チャールズ・ブロンソン

入所初日からロシア兵に混じって堂々外に出ようとする胆力。「アイラブユー」しか単語を知らないのに「ロシア語話せる」と言ってのける太々しさ。

こいつ只者ではない…!!と思わせる男気溢れまくりのチャールズ・ブロンソンですが、脱獄決行日に閉所恐怖症のトラウマを告白して大騒ぎ。17本もトンネル掘っといてなんでだよ(笑)。

でも掘ってる時は気が紛れて大丈夫だけど、じっとしてるのは無理っていうの、なんか分かるような気もする…自分が掘って完成させただけにトンネルというものの怖さを知り尽くしていて余計にすくんでしまうのかも…

男らしい見た目と繊細な一面にギャップ萌え。

停電から脱走発覚までのクライマックスをドキドキで盛り上げまくるキャラクターでした。

 

◆ウイリー(トンネル王/ジョン・レイトン)

ダニーと同じくトンネル王。怖気付いた相棒を決して見捨てなかった親友。

ウイリーが土に埋もれると瞬時に台車で飛んでいくダニー…ダニーがパニックになると必死になだめにかかるウイリー…寄り添い合う姿がもはや友情を超えて濃厚な何かを感じてしまうアツい2人。

ボートに乗っての逃走が功を奏して数少ない脱走成功組に…2人がスウェーデン船まで辿り着くところではホッとさせられ、静かにガッツポーズしたくなります。

 

◆カベンディッシュ(測量屋/ナイジェル・ストック)

髭面の空軍大尉。

合奏隊を指揮したり、板の抜かれた3段ベッドに飛び乗って盛大にドボンしたり…ユーモラスな登場シーンが多いですが、肝心の測量間違えてたのかよ…!!

森の中に抜け出せるはずがトンネルが6メートル足らなかったためフェンスのすぐ傍が脱出口に…

トンネルから出た際には蹴つまずいて物音を出してしまったり、やらかしは一度ならず二度も。

この人が距離を間違えていなかったらその後の逃走もスムーズに行ってもう少し違った結果になっていたのだろうか…ついついタラレバを考えてしまいますが、本人もその後ゲシュタポに捕えられバートレットたちと共に射殺、哀しい結末に…

捕まった時に「スパイ活動とか特に目的はないけどとにかく出たかった」とあっけらかんと語るのが人間的で、何だか憎めないキャラクターでした。

 

◆グリフィス(仕立て屋/ロバート・レズモンド)

脱走後の250名分の私服の準備を担当。

基本は軍服を再利用。毛布やベッドカバーを上着に変えたりベストに変えたり、インクで染めて色もチェンジ。

このシーンは有能オブ有能なのが伝わってきて実にカッコよかったのですが、脱走の順番待ちの際アクシデントで合図がないのに痺れを切らして飛び出してしまい、計画が露見することに…このやらかしは大変残念!!
 


◆アシュレー(分散屋/デヴィッド・マッカラム

掘った後の土をどうするかが意外に最大の難題。

ズボンを改造し衣服の中から外に土を捨てるという画期的アイデアを発案、チームに大きく貢献したのがこの金髪の若い少佐。

大いなる幻影」「ショーシャンクの空に」などでも同じようなことをやっていたと思いますが、畑に撒いたり行進中にしれっとばら撒くなどやり口が大胆でユーモラス(笑)。

脱走後は列車で逃走するも、近くにいたバートレットを庇おうとゲシュタポに飛びかかったところを撃たれて死亡。

その後バートレットも捕まって報われなかったことを考えると余計に切ないもんが込み上げます。

 

◆ゴフ(ジャド・テイラー)

ニット帽を被ったアメリカ空軍中尉。

ヒルツ、ヘンドリーと3人でジャガイモを集めて焼酎(ウォッカ?)を作成、独立記念日にお祝いするシーンが文化祭みたいで楽しい。

「植民地からの贈り物だ」「くたばれイギリス」…掛け合いも粋でユーモラス。

脱出の際にはもうちょっとで順番が来そうだったのにアクシデントで撤退。

戻ってくるヒルツに毎度キャッチボールセットを渡す姿が印象に残ります。

 

◆ヘンドリー(調達屋/ジェームズ・ガーナー

アメリカ人だけど所属は英国空軍で大尉。

スリのようなテクニックを持っていたり、交渉ごとに長けた話術を持っていたり…「そんなんどうやって用意すんの!?」となる仲間の無理難題に全て応えていてとにかく凄い。

同室のブライスと友情が芽生え、視力を失った友を見捨てず「俺が連れていく」とバートレットの制止を振り切り2人で脱走に参加。

列車から飛び降りたり、ドイツ軍の練習機を掻っ払ったりして、スイス国境近くまで行くも機体の故障で不時着。

人気投票したらおそらくこの人がNo. 1じゃないでしょうか…大活躍の前半から障がいを負った仲間を見捨てない高潔な人間性をみせる後半まで、ひたすらずっとカッコいいです。

 

ブライス(偽造屋/ドナルド・プレザンス

バードウォッチングと絵描きが趣味のおじさんかと思いきや、航空写真の分析を担当していた大尉。

20回も茶葉を再利用、「ミルクなしのお茶は野蛮」と語る紅茶好きイギリス人紳士の一面も。

収容所生活では身分証など書類偽造を担当。意外にかなり過酷な仕事のようで、進行性近視を患ってしまうことに…

「こんなことになってすまん」「いいんだよ、ありがとう、出してくれて」…最後までお互いを思い遣る2人の言葉に号泣。 

結果論でいえばやっぱりブライスは残った方がよかったのかもしれないけど、抑えられない自由への渇望。合理的判断を下すはずの軍人があえて感情的行動に突き進む…その矛盾と抵抗、希望を託さずにいられない姿が人間らしく、最もドラマを感じる2人。

飛行機が飛び立ったときの2人の顔の輝かしいこと…人生ってままならないこともあるけど、その過程にはこんな美しい瞬間もあるのね…

昔は無念でひたすら悔しい結末だと思っていましたが、大人になってみると決してそれだけではない何かも胸に迫ってきます。

ドナルド・プレザンスをみたのは多分この映画が初めてでしたが、その後ホラー映画出まくりおじさんだったことを知ってびっくり(笑)。

 

◆ウェルナー看守(白イタチ/ロバート・グラフ)

何人かいる看守役の中でも1番出番が多くて印象に残る人物。

調達屋・ヘンドリーは一体どうやって物を用意しているのか…その巧みな駆け引きが窺い知れる一幕。 

心の隙を突かれてついつい愚痴を溢してしまったり抜け作ではあるのですが、「俺たちは文句を言ったらロシア戦線行きだ」…報われない仕事にうんざりしているドイツ軍下っ端の辛苦が伝わってきてどこか憎めないキャラクター。

でもこの人のコーヒーを溢すヘマでトンネル・トムが発見されてしまったのは何とも妙な巡り合わせ。

 

◆ルーゲル所長(ハンネス・メッセマー)

ぎこちない〝ハイルヒトラー〟の敬礼、「脱走は軍人の本分」と語る大佐の言葉に理解を示すところなど、残酷非道な悪役ではなく、人間味あるキャラクターとして描かれているドイツ軍人。

本作が爽やかなのは所長がスポーツマンシップあるキャラクターだからというのも大きいのかも。

「ベルリン行きは君が先になりそうだな」のラストのセリフがロシア戦線行きを匂わせていて何とも切ない。

看守や所長など〝ごく普通の人〟であるドイツ軍人側の苦悩も所々で描かれていて、戦争の厭さをより一層強く感じさせます。

 

◆ラムゼイ大佐(ジェームズ・ドナルド)

捕虜代表として所長と交渉する立場にあるイギリス空軍将校。同時に脱獄を裏で指揮するトップ的存在。

勇足のバートレットと比べてもより冷静で落ち着いた印象を受けます。

そんな大佐が脱走の結果を聞いたときに浮かべる無念と憤りの表情がこれまた切ない…

 

大きな犠牲を伴ったけれど本当にやる価値があったのか…とても渋いラストですが、なんとも現実的。

徒労感の割に報われないと思うことって人生あるある…むしろそんなことの方が多いかも…

無情感漂う結末にどこか親しみを覚えつつ、それでもまたやるぞ!!というラストのマックイーンには奮い立たされるような気持ちになり、明日を生きる活力が湧いてくるエンディング。

  

みんなの顔が映し出されていくエンドロールも群像劇的というか団体競技戦をみたような爽やかさ。

好きなキャラを1人だけ選ぶとしたらファーストインプレッションでやっぱりコバーンのセジウィックかな…(次点はヘンドリー&ブライスコンビ)

脱獄ものの面白さがふんだんに詰め込まれていて、且つこれだけの大人数、キャラクター1人ひとりが煌めいているのが素晴らしい、いつみても色褪せない名作でした。