どうながの映画読書ブログ

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「大脱走2」…シリアス後日譚、原作リスペクトなテレビ映画

大脱走って2あったんか…

The Great Escape II: The Untold Storyというタイトルで1988年にテレビ映画が制作されていたらしく、初鑑賞。

主演はクリストファー・リーヴ、前半「脱出編」後半「復讐編」の2部構成で計186分。

あの「大脱走」とは比べようもなく全体的な出来は決して良くありませんが、〝脱走捕虜を不当に殺したゲシュタポの行方を追う〟という、原作の最後にあった部分に焦点を当てた作品。

後編の監督を担ったのは「大脱走」でマックイーンたちと密造酒を作っていたアメリカ兵・ゴフ役のジャド・テイラー。

ドナルド・プレザンスゲシュタポの博士役として登場するのも見どころ。

キャラクターの魅力に乏しくメリハリがないのが残念でしたが、制作サイドの真面目な姿勢が伝わってきて意外と好印象の作品でありました。

 

◇◇◇

前半「脱出編」は「大脱走」を軽く焼き直したような内容。

英国陸軍少佐のジョニー・ドッジは捕虜収容所を1人抜け出し周辺偵察へ…最寄りの駅に辿り着くと時刻表を暗記して仲間に報告。

独房に入れられると、同じくクーラー行きとなっていたアメリカ人大尉マイク・コレリーと知り合います。

折しも第三空軍捕虜収容所では、ビッグXと呼ばれるロジャー・ブッシェルが指揮を取り、トンネルが掘り進められ大規模な脱走計画が練られていました。

測量ミス、トンネルの崩落、停電などのトラブルに見舞われつつも、約70名が脱走。

しかし仲間は次々に捕えられ、ロジャーとドッジ少佐もハルトハイム監獄に送られてしまいます。

仲間のうちロジャーだけが引き離され、〝S〟と書かれた扉の別部屋に監禁。

ヒトラーから〝脱走兵はゲシュタポに引き渡すこと〟という命令が下されていたため、要注意人物であったロジャーは選別され秘密裏に処刑されてしまいます。

 

脱走パートは本家とは比べものにならないくらい薄味。

各キャラクターの個性や人間ドラマが描かれないままいきなり大脱走に突入するので、盛り上がりに大きく欠けています。

けれど、点呼をやり過ごすのにヒヤヒヤするところ、人数分のコンパスを用意するところなど、1で描かれていなかった原作パートを拾っているところは好印象。

実在の登場人物名を使わず架空のキャラをつくりあげた「大脱走」と異なり、本作はメインキャラの何名かを実名で登場させています。

クリストファー・リーヴ演じるドッジ少佐も〈陽気で怖いもの知らずのイギリス系アメリカ人・ドジャー〉という小説に出てきた実在の人物。

また「大脱走」でリチャード・アッテンボローが演じたバートレットのモデルであるロジャー・ブッシェルも、本名そのままで登場。

機関銃で複数人まとめて殺されたのではなく実際は1人ずつ殺されていった…というところも、本作の方がより事実に近しいかたちで再現されているようでした。

 

新しい監獄に入れられたドジャーたちがまたしても穴を掘りはじめ再び脱獄に挑むエピソードも原作にあったものですが、ここは胸熱の展開。

前半〈脱出編〉は捕まった瞬間からスタートさせて1と重ならない内容に振り切った方がよかったのでは…オリジナル脱獄シーンをもっと見てみたかったように思われました。

 

そんな中ドッジ少佐だけが突然ドイツ将校に連れ去られ別場所に移動。

実はチャーチルの親類だった少佐は、ヒトラーの提案する和解案をイギリスに持っていくように依頼され、スイス経由でイギリスに送還されることとなります。

こちらも原作で紹介されていたエピソードですが、波瀾万丈の人物。ドッジ少佐を主人公にしたかった製作者側の考えはよく分かります。


チャーチルの他、ヒトラーヒムラーゲーリングらもドラマに登場しますが、ヒトラーまでペラペラと英語を喋るのが大変残念(笑)。

人格者だった所長や善良なドイツ人看守も登場しますが、見るからに悪そうなゲシュタポのキャラクターが続々と登場。

その1人がドナルド・プレザンス演じるアブスラム博士。

出番は少なめですが、善人役をやっても悪人役をやっても存在感たっぷり…!!

もう1人ブルクハルトという非情なゲシュタポも登場。

鞭を使った拷問を好んでいたという処刑人で、原作でも僅かながら同様の人物に関する言及がありました。

 

後半〈復讐編〉は生き残ったドッジ少佐とマイクがナチの処刑人を追跡するドラマに…

チャーチルの助力を得て、捜査に長けた元ニューヨーク警察のマッケンジー大尉もチームに参加。

同じくナチスを敵視していたチェコ警察の協力を得て、処刑に関わっていたとされる元ゲシュタポ接触し、情報を引き出していきます。

ポール・ブリックヒルの原作では、ドッジ少佐は捜査には加わっておらず、指揮をとっていたのは調査のためだけに召集された全く別の中佐。

ここもかなり脚色されていますが、やっぱり実在の人物名を使わず架空のキャラにした上で味付けした方がよかったのでは…

復讐心をむき出しにして憎しみと暴力に駆られる少佐の葛藤など、描きたいものが伝わってきただけに中途半端に感じられて残念でした。

 

モスクワに送られていたドナルド・プレザンス演じるアブスラム博士にも接触しますが、完全にソ連の協力者として囲われていて結局手を下せないまま。

西側諸国とソ連とで元ナチスの優秀な人材を奪い合ったり、イギリス側も対ソ戦線に利用するため情報と引き換えに元ナチと取引していたなど、暗い部分が描かれていたのはとてもよかったです。

 

また1にも原作にもない完全オリジナルエピソードとして、アメリカ人・マイクとレジスタンス女性の恋愛ドラマが挿入。

自らゲシュタポに身体を売ることで旅券や身分証明書を用意、戦争捕虜を秘密裏に助けていた女性が、戦争が終わるやいなや村人から差別され石を投げられるはめに…

髪を坊主に刈られたと語る場面がショッキング。

マレーナ」のモニカ・ベルッチを思い出してしまいましたが、意外とドラマに上手く組み込まれていて見応えがありました。

 

全体的に緊迫感に乏しく、主人公含めキャラクターに奥行きが感じられないのが残念。なにより男の友情成分が圧倒的に不足…!!

テーマ曲が1のパチモンのような安い音楽で、流れる度に脱力してしまいました(笑)。

 

フィクションと割り切ってもっと盛大に脚色してもよかったのでは…と思いましたが、「大脱走」で描き切れなかった原作エピソードを拾っているという点では意義深く、見どころのある作品。

大脱走2」といわれるとハードルが上がりまくってしまいますが、テレビドラマとしては上出来で、とても真面目な作品でした。