どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「異端者の家」…めっちゃ嫌なヒュー・グラント、好対照ヒロインが魅力的な王道現代ホラー

A24のホラー、不気味そうなヒュー・グラントに惹かれて見に行ってきました。

阿佐ヶ谷姉妹の〝玄関開けたらいる人〟…じゃないけど、モルモン教の宗教勧誘している若いシスター2人がお宅訪問したらそいつがトンデモないサイコパスおじさんだった…!!

前半は信者の2人をやり込める宗教問答が続き、後半は脱出サスペンスに…

びっくりホラー屋敷みたいなのを期待してたら肩透かしで、全体的に大人しめ&真面目なトーン。

でも主演3人のキャラクターが大変魅力的…!!

宗教の知識がなくてもしっかり楽しめて、人間が何かを選択するときそれは本当に自分で選んでいると言えるのか…今の時代は昔を焼き直しているだけで価値がどんどんなくなっているのではないか…など親しみを抱く人生の問いかけみたいなものが描かれていて、とても面白かったです。

クワイエット・プレイス」の脚本家さんが監督らしいのですが、あっちはハマらなかったけど今回は刺さった。

後半突飛に感じるところはありつつ、ラストが大変好みで、いい映画を見たという余韻がしっかり残る1本でした。

 

(以下ネタバレあり)

教会本部からの指令であちこちお宅訪問している若いシスターの2人。

自転車に乗って田舎町を移動、何人改宗させたかの実績を気にしている様子で、過酷な営業マンのよう…

純潔のルールがあるというモルモン教ですが、2人とも年頃の娘らしく性的なトピックにはそれなりに関心があるらしく、ごく普通の子たちだというのが分かる冒頭の会話が何だか切ない…

 

シスター・パクストンは8人兄弟に生まれて、親が宗教やってたからそのまま信者になった宗教2世。

「わたしが死んだら蝶になって愛する人の手に留まりたいわ」…なんてお花畑トークをする純朴娘。

誰に対しても礼儀正しく接さずにいられない気弱な性格、そのため他人の意見に左右されてしまうような一面も。

 

対してシスター・バーンズはクールなしっかり者。

お父さんを難病で亡くしたらしく、どことなく苦労人オーラが漂っています。

モルモン教を信仰しつつも独自の考えを持っているようで、反骨精神と知性を感じさせる女性。


信仰を押し付けようとドカドカよそ様のお宅に土足で上がり込んでいく…不愉快で〝痛い目にあっても残当〟なキャラクターかと思ったら、色々背景があって信者になったんだろうなーというのが窺い知れて、意外なほどに好印象な2人。

こちらの偏見を大きく裏切る人物像に序盤から大いに惹きつけられました。

 

そんな2人が、モルモン教のパンフ取り寄せを希望していたミスター・リードのお宅を訪問することに…

甘いフェイスに英国紳士な佇まいのヒュー・グラントだからこそついつい警戒心を緩めてしまう…説得力のあるナイスキャスティング。

けれど丁寧なようでネチネチした物言い、整頓されてるようで暗くて嫌な感じのインテリアなどが、緩やかに緊迫感を加速させていきます。

 

レクター博士のように若い2人を質問攻めにするリード氏ですが、一夫多妻制についてどう思うか質問。

モルモン教創始者・ジョセフが数多くの妻を娶っていたことを指摘、自らの性欲を解消するため教典を利用したのでは…と2人を責め立てます(笑)。

この辺り「宗教やってる人ってこういう矛盾をどう消化してるのかしら…」と興味深く、「やっぱりカルトは碌なもんじゃない!!」とどこか痛快さも感じながらみてしまいました。

 

さらに「キリスト教は所詮それ以前の宗教をトレースだけのパクリ、モルモン教はさらにそれの劣化コピー!!」とボロクソに糾弾。

〝反復〟という言葉をしきりに繰り返していましたが、「この映画の元ネタは○○でこれが最初だから…!!」としたり顔で語る年配オタクのような鬱陶しさ(笑)。

リード氏の語る学問の蘊蓄が若い2人に伝わらず、ポップカルチャーの言葉だと誤ってキャッチされるやり取りもよく練られていて感心。

時代とともに形を変えて上書きされていくことは、宗教に限らず人間の営みの中で必然のことなのかも…

何かいいもの・人の心に訴えかける根源的なものは形をかえながらも次の世代に継承されている…と捉えれば決して悪いことではなく、それをあーだこーだいうのは老人の愚かな独りよがりなのかも…とヒュー・グラントのイタい姿がどこか身につまされるようでもありました(笑)。

 

総じてリード氏のいう〝理屈〟はとてもよく分かるのだけれど、それだけで割り切れない何かが人を救うこともあるというのもきっと真実。

「自分がそう感じるから信じる」というシスター・パクストンの言葉にどこか潔さも感じてしまいました。

 

前半のピリピリ問答を経て、後半は一気に動的な展開へ…

「なんかヤバいおっさんだった」…ようやく危機を察知した2人はそっと家を抜け出そうとしますが、どうやっても玄関のドアが開かず当惑。

相手が殺人鬼に変貌してすぐさま襲いかかってくるとかそんな展開でないのがまた面白く、「裏口から出るように」と丁寧に別室に案内される2人。

そこには「信仰」「不信仰」と文字の書かれた2つの扉があり、そのどちらかを選ぶようにと迫られます。

殺人トラップなどびっくりお化け屋敷みたいなのを予想していた身としてはやや肩透かしでしたが、どっちのドアを選んでも地下の監禁部屋行きだった…というオチが秀逸。

自分で選択したと思わせておいてひたすら追い込んでいく宗教の嫌なところがあの家に凝縮されているようでした。

 

さらにここから急展開で、リード氏が地下に何人も女性を飼っていて、意志を剥奪した奴隷の支配者として君臨していたことが明かされます。

宗教を突き詰めるうちにアンチ宗教になって〝支配〟こそ唯一絶対のものだという考えに至ったようなのですが、行動が飛躍しすぎな気も…

あれだけ宗教と向き合ったということはリード氏自身も切実に救いを求めていた人だったのかなと思いましたが、「この家は妻が建てた」という思わせぶりな発言も伏線として結局回収されないまま…もう少し背景を知りたかったように思われてここだけ残念でした。

 

奴隷の女性に毒入りパイを食べさせ「奇跡の復活をみせる」と語ったリード氏でしたが、「これは単なる臨死体験だ」とシスター・バーンズに言い返されてむっつり。

知識マウントにも逐一食ってかかるなど懐柔できる女性ではないと判断されたのか、シスター・バーンズはリード氏にナイフで切りつけられてしまいます。

1人残った純朴ガールのシスター・パクストンは頼りなくてあっさりやり込められてしまいそう…と思いきや、ここから急に大活躍。

「女性は2人いてマジックのように甦ったとみせかけただけだ」と意外な洞察力をみせてリード氏を論破。

さらに地下の扉を発見し逃亡、大反撃に出ますが、腹部を刺されて転倒。

そんな目にあっても「あなたのためにも祈るわ」「祈りは役に立たないって知ってるけど美しいものよ」…と返すシスター・パクストン。

あれだけ宗教をコケにしていたリード氏が信仰を目の当たりにして死んでいくのがえらい皮肉。

論破できなくなったら暴力、ヒロインに泣き縋っているようにもみえる姿など、情けない厄介男のヒュー・グラントが最期まで壮絶でした。

 

「信仰もあってよし!!」と宗教アゲしたかと思いきや、ラストが安直なグッドエンドでないのがまたいい塩梅。

最後に現れる蝶は「胡蝶の夢」の話からも明らかに主人公の死を想起させますが、でももしかしたらシスター・バーンズが蝶になって友達のところに来てくれたのかも…なーんて…

死んだと思われていたシスター・バーンズが息を吹き返してリード氏を制裁するところといい、あまりにも話がよく出来すぎていてもうあそこから全部シスター・パクストンのみた幻だったのでは…と思ってしまいましたが、でもそれを全くの嘘だと一蹴できない人の想いもあるよなーとなりました。

都合よく自分のみたいものをみているだけかもしれないけど、物語の中に奇跡を見出したくなるような美しいエンディング。

自ら選択しその過程と結果に納得したかにみえる主人公には救いと清々しさを感じて、不思議な解放感を感じるラストでした。


リード氏がシスター・バーンズの中に埋め込まれていたマイクロチップを抜き出すシーンは、避妊用インプラントだったと後から分かり、こんなものがあるのか…!!と知らなかったのでびっくり。

パンフ解説によると月経困難症にも効果があるらしく、シスター・バーンズが実は性に奔放だったのか…それとも自分の身体の事情で付けていたのか…はっきりしませんが、人には思わぬ一面があるのかも、というところもとても良かったです。

インスタ女子に揶揄われては涙、勧誘の仕方もめちゃくちゃ下手な頼りないシスター・パクストンが急に覚醒するのにはびっくりでしたが、人それぞれその人の中で考えていること、みているものがあって、この人にはこの人の強さがあった…というのに胸のすく思いがしました。

シスター・パクストン、事なきを得ようと角の立たない言い方でお茶を濁しながら堂々〝不信仰〟の扉を選んでいたあたり、案外強かな人だったのかもしれません(笑)。

ヒロイン2人が好対照で、どちらも大変魅力的でした。

 

パンフレットは1300円と高かったですが、作品が気に入ったので購入。A24のビニール袋!?が付いていました。

表紙はブルーベリーパイ推し…!!

あのアロマキャンドルのくだりはカメラワーク含めゾクっとさせられてとても良かったです。

 

個人的に全体的な恐怖度は控えめでしたが、嫌ーなおじさんのヒュー・グラントが名悪役。

知識だけがあっても虚ろ…ネットに浸る現代人あるある。

立ち止まって考えることも自分の感覚も大事にしたいというのは「教皇選挙」もこんな話だった気がするなーと思いつつ、今の時代に共感させられるものが多いドラマなのかな、と思いました。

 

無害そうで厄介な監禁男は「コレクター」、殺人鬼男と若い女性の問答は「羊たちの沈黙」、大人しそうなファイナルガールが懐古主義男と対峙するのは「デビルズゾーン」…
過去を掘り起こせば似たような作品がたくさんありそうに思いますが、変わらない王道に現代らしさが上手く加味された作品に仕上がっていて、反復もいいね!!とニッコリさせてくれるいいホラーでした。