どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「悪魔の沼」…変な奴集合!!とっ散らかってるけどどん詰まり狂気感が最高

悪魔のいけにえ」のトビー・フーパー監督による77年のホラー。

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  • ネヴィル・ブランド
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とっ散らかっていてお世辞にも出来がいいとは言い難いですが、主演のネヴィル・ブランドの怪演もあって「いけにえ」とは違った濃密な狂気が充満。

人喰いワニ、赤い照明など「Ⅹエックス」「Pearl パール」は本作をかなり意識していそう。

内に激しい怒りを抱えた主人公の姿にも重なるものがあって、ベースはこれだったといっても過言ではない!?のかも…

全体的に小汚く決して美しい映画ではありませんが、エポックメイキングな「いけにえ」よりなぜかこららの方が好き。

変な人ばかり集まるモーテルに、不思議な心地よさと悲哀を感じてしまいました。

 

◇◇◇

アメリカのどこかの田舎町。

売春宿で働こうとしていたクララは乱暴そうな客から要求されたプレイを呑めず、雇い主から追い出されてしまいます。

”My name is Buck and I'm here to Fuck”は「キル・ビル」で昏睡中のユマ・サーマンを襲っていた男が口にしていた台詞で、本作を明白にオマージュ。

バック役ロバート・イングランドが若い!!

独特の顔がどん詰まり売春宿の客にピッタリすぎて開始1分からめっちゃホラー(笑)。

 

そしてゴネる新人を情け容赦なく叩き出す経営者・ハットンさんを演じるのは「肉の蝋人形」「ボディ・スナッチャー/恐怖の街 」のキャロリン・ジョーンズ

猫背にサンバイザー、揉める男に「好きな子を2人選んでいいわよ」とその場を丸く納める手腕、客が帰った後に「バカどもが」と悪態をつく姿など、食えないやり手ババアの姿がリアル(笑)。

 

追い出された新人クララは心優しい黒人の従業員になけなしの金をもらい、近くにあるというスターライトホテルに身を寄せることに…

時折赤い光が照らされる異様な雰囲気のモーテル。

義足を引きずったジャッドという男がモーテルの主のようですが、部屋を案内している途中に「お前も売春宿から来たのか!!」と突然激昂し彼女に襲いかかります。

そして逃げようとするクララを鍬で串刺しにしてワニのいる池へ死体をポイ。(パールと完全に一致)

 

まともに会話できるのかと思いきや、突如独り言を呟き出したり、激昂したり明らかにヤバそうな男ジャッド。

キャラクターの背景は全く描かれていませんが、「馬鹿にしくされよって」などと突然キレ散らかすあたり、社会適応しづらい人で町の人からずっと爪弾きにされてきた日陰者だったのかなー…と何となく事情が察せられます。

あんなジメジメした暗いアパートにずっと1人でいたら気が狂いそう…1人自室にいる際、突然歌を歌い始めるジャッド。

♫あっちこっちでつまづいて雨の中ぼんやり立っている 切符もない荷物もない それでも電車を待っている

何の歌か知らんけどめっちゃ悲しいやん…しかも2回繰り返して歌うのがさらにどん詰まり感を底上げ。

でも一人暮らしのとき自分もこんな感じだったかも…1人でビデオ見てニタニタ笑ってブツブツ呟いてて完全に一致。なんだったら今でも独り言いってるときこんなんやわーと親近感(笑)。

人寂しいけど人が来たら煩わしい…そんなジャッドさんの複雑な気持ちも分かるような気がしてしまいます。

 

そんな中またしても珍客が来訪。

トイレを借りようとした3人家族がモーテルを訪れますが、愛犬スヌーピーがワニに喰われて阿鼻叫喚の地獄絵図に…

パニックを起こした一人娘・アンジーを介抱しようと夫妻は部屋を借りることにします。

しかしここで夫婦喧嘩が勃発。

「悪かった、何もかも僕のせいなんだろう」…卑屈になってネチネチ文句を言い始める夫。そんな夫に冷たい目線を投げかける妻。

夫・ウィリアム・フィンレイがどうみてもヤバい奴ですが、奥さん・マリリン・バーンズの方も薬依存っぽくてどうにも変な夫婦。

「タバコを僕の目に突っ込め。ごめんなさい、灰皿と思ったわって」さらにエスカレートして狂気じみたことを言い始める夫、主人公より濃い奴を出すなや(笑)。

ジャッドと異常な対決を見せてくれるのかと思いきや、男はいらんとばかりに夫はワニに喰われてあっさりと退場。

そしてジャッドはバスルームにいた妻・フェイに襲い掛かり彼女を監禁してしまいます。

逃げた一人娘のアンジーは縁の下に逃げ込みますが、ジャッドはフェンスの鍵を閉めて彼女も監禁。子供にも情け容赦ないジャッド。

なんだかんだ女性に激しく飢えているようで、「サイコ」のように分裂した欲望の意識があるようです。

 

そしてさらなる来客が登場。

冒頭殺された娼婦・クララの父親と姉リビーが、彼女の行方を尋ねにモーテルにやって来ます。

何の見せ場もなく鎌を首にブッ刺されて殺されてしまうメル・ファーラー(笑)。

一方姉は地元のダイナーへ保安官とディナーに出かけます。

明らかに姉リビーに下心ありありの保安官…この町の男こんなんばっかり(笑)。

同じくダイナーではバックがガールフレンドを引き連れて偉ぶっていましたが、客とトラブルを起こして彼女とモーテルに行くことに…

バックの彼女の足を舐め回すようにみる謎の客も出番僅かながら異様な雰囲気で、本当に変な人しかでてきません。

続いて姉リビーも姿を消した妹と父の行方を追って再びモーテルを訪れます。

 

部屋を借りて彼女とイチャつきはじめるバックでしたが、新人娼婦には高圧的だったのに本命彼女は丁寧に愛撫…男の嫌な一面を垣間見たような気持ちに(笑)。

しかし別部屋に監禁されていたフェイが縛り付けられていたベッドで大暴れ。その物音に集中できず外へ出ると、縁の下に閉じ込められていた少女・アンジーを発見。

驚いたのも束の間、バックはワニに喰われてしまいます。

イチャイチャするカップルとベッドで大暴れするマリリン・バーンズ、そこにラジオのカントリーソングが流れてきて、床下では子供が這いまわっている…この一連のシーンがカオス。

 

同じく部屋を借りたリビーも不審な物音をききつけて異変を察知。

どうでもいいけど、大人しそうな姉のリビーさんがワンピース脱いだらパンティ一丁なのにびっくり。

「このアバズレが!!」というパール婆ちゃんの声が聞こえてきそうです(笑)。


監禁されていたフェイを発見したリビーは彼女の拘束を解きますが、娘を助けようと外に飛び出すおっかさん。ママの絶叫も娘の絶叫も凄まじい。

情け容赦なく女性たちに大鎌で襲い掛かり、少女のアンジーにワニをけしかけるジャッドでしたが、最期は池に転落し自らワニに喰われて死亡。

浮かび上がってくる義足がちょっぴり切ない余韻。

 

ベトナム戦争帰りかと思いきや、バックによると足はワニに喰われたとのこと。

でも「俺の軍服を持って来い」と独り言をいっていたあたり、やっぱり退役軍人だったんじゃないのかな…

本作の元ネタといわれる実在の人物・ジョー・ボールも一次大戦帰りだったそうで、「パール」のハワードともなんだか重なるバックグラウンド。

お国のために戦ったはずなのに誰からも認められず馬鹿にされる日々。

夜ごと狂気に苛まれる中、そんなことはつゆ知らず性に奔放で勝手極まる町の連中にドス黒い怒りの感情が湧いたのかも…

ヤバい奴オーラダダ漏れのジャッドですが、どこか悲哀も感じさせました。

 

ワニがしょぼいと不評だったようですが、正直アニマルパニックものの魅力は全くなく、都合よく死体を片付けるだけの装置。

ジャッドの抑圧された意識のような存在なのかなーと思いました。

むしろ知らぬ間に檻で衰弱死している猿の方が不気味すぎる(笑)。

 

「いけにえ」のような張り詰めた緊張感はなく、間延びした雰囲気。映像に美しさはなくピコピコ音の電子音楽もひたすら安っぽい。

「Ⅹエックス」「Pearl パール」と比べると新しい映画の方はえらい優等生な感じがしますが、ワニと赤い照明、激昂して鍬でブッ刺す姿、殺人鬼がすっ転んだりあまり強くないところなど、特に「X エックス」は本作への強いリスペクトを感じさせました。

 

1級の作品ではないかもしれないけど、思うようにいかなかった人生を憂う気持ちや、怒りや嫉妬の感情など、ジャッドの悲哀と狂気はホンモノ感に満ちていて胸に迫ってくる。

最後の義足の画は〝失われたアメリカ〜〟みたいなほろ苦さも感じさせて、妙な余韻が残る。

混沌としているけれど心惹きつけられる作品でした。