昨年購入したルチオ・フルチ本。
紹介されている作品の中で未見のものを出来るだけ年代順に沿ってみるぞ…!!と思ったのですが、ソフト化されていないものも多く、海外版DVDも〝イタリア語音声のみ/字幕なし〟の仕様だったり、値段が張ったり、なかなか追いかけるのが厳しい現状。
「ヘルクラッシュ!地獄の霊柩車」は国内でDVDがリリースされていたらしく、中古で入手。
遺作は最後にとっておこうと思っていたのですが、もう見れるものから見ていこうということで今回初鑑賞。
製作はジョー・ダマト。
91年制作でフルチの遺作ということですが、晩年の作品は軒並み低評価なのであまり期待せず鑑賞に臨みました。
◇◇◇
ニューオリンズ、仕事を終え家路へ急ぐビジネスマン・デベローの前に一台の霊柩車が現れる。
追い越ししようとすると、相手は執拗にそれを阻みあわや事故寸前。
ルートを変えても霊柩車は行く先々で現れ、車内の棺を覗くとそこには何と自分の名前が…
恐怖に駆られたデベローは謎を追ってさらに車を追跡するが…
あらすじだけみると、「激突!」+「世にも奇妙な物語」といった感じで面白そうなのですが、チンタラしていてとにかく話がスローペース。
主人公が棺の名前をみるのが、開始52分といくらなんでも引っ張りすぎ(笑)。
短編のようなお話を無理やり90分に引き延ばしていて、せめて70分位にまで刈り込んだ方がよかった気がします。
オチは早々に予想がついてしまいますが、主人公は既に死んでいたというお話。
冒頭では、やけに朗らかなジャズテイストの音楽を奏でながら進む葬式の列が登場。妻と思しき女性が悲嘆に暮れている一方、主人公は墓前で亡くなった父親との記憶を思い出しています。
一体誰のお葬式なのか…ミスリードっぽい感じを漂わせつつ、何やら異様な雰囲気。
主人公の周りの時計が同じ時刻を指して止まっていたり、行く先々の町がやけに閑散としていたり…
ロケーションやセット作りが上手いのがフルチの魅力の1つだと思いますが、どこか物寂しい、この世とあの世の狭間のような雰囲気を醸し出す映像には相変わらず光るものがありました。
序盤に登場する長い橋の景色は「ビヨンド」を彷彿。
非日常感があって思わず見入ってまいます。
カーチェイスはびっくりする位スピード感がなくて残念(笑)。
けれど雨上がりのジトジトした田舎の道路の景色には親近感が湧いて、一緒にドライブしているような気分に…
立ち寄る町は裏寂しくまるで死者の町ですが、途中にはブリキのエプロンをつけた謎の男性が登場。
凹凸のあるエプロンを棒で叩きながら音を奏でているのが輪をかけて謎すぎる(笑)。
不思議な佇まいにこの世ではないどこかに足を踏み入れた心地がして、胸に残るヘンテコ名シーンでした。
屋内のセットもチープながら意外とよくできていて、棺の並べられた葬儀屋の部屋、占い師の家などもホラーのムードたっぷり。
緊迫感はないけれど、覇気のない低予算映画ムードが却って死の匂いを充満させている!?
平坦な映画なのにぼんやりと沼に浸かっているような、不思議な魅力があるのも確かでした。
主人公(ジョン・サベージ)の背景はこれといって語られず、夫婦で不動産経営をしていたらしいことだけが察せられます。
無闇矢鱈に車線変更しまくって道路を進んだり、停止線をはみ出て信号待ちしていたり、とてもいいドライバーには見えない主人公。
通行止めの看板を無視して進もうとしたり、トラブルがあるとすぐにお金で解決しようとするなど、あまり好ましい人物に映りません。
妻がいるのに女性に言い寄られるとちゃっかり誘いに乗ってしまう一面も…
けれど葬儀屋の謎めいた女性には「今はまだよ」と結局袖にされしまい、若いヒッチハイカーの女性には「年寄りは早く消えろ、インポ野郎!」と罵られてしまう始末。
男の自信喪失や潜在意識での罪悪感を描きたかったのか、度々挟まれる女性とのシーンがミステリアス。
またスピルバーグの「激突!」とは異なり、霊柩車を運転するドライバーがハッキリと姿を現して登場。
おじいちゃんドライバーが立ち寄った飲み屋で古めかしい女性のダンスをギラギラした目で見つめているシーンも謎すぎる(笑)。
車が木製の橋で立ち往生する場面は「恐怖の報酬」(1953)を思い起こさせ、「クロック」のラストといい、フルチのお気に入り映画だったのかなーと思いました。
霊柩車を追っているうち、最後にはトラックに正面衝突して即死する主人公。
逃れられない死の運命に呑み込まれるフルチらしいバッドエンド。
集大成のような遺作ではないかもしれないけれど、物悲しい無情感が漂い〝らしさ〟が感じられました。
けれどエンドロールではまた明るいジャズ音楽が流れてきて、妙にカラっとした後味に(笑)。
「未来帝国ローマ」の特典映像でフルチの娘さんが、「父のキャリアが終わったときに再評価が始まった」「父が死んだ数年後にネット検索したら100万のサイトが出てきて驚いた、ネットのある時代に父が生きていたら…」と話していてめちゃくちゃ切なくなりましたが、もう少し元気でいられたら色んなチャンスがあったのかな…
恵まれなかった晩年。本作も明らかにパワー不足ですが、ゴア描写をあえてなのか封印し、アイデア1本でここまで勝負できるのは凄い。
何ともいえない閉塞感が漂うまったりドライブ。立ち込める死の匂いに魅せられる1本でした。